プボあじ!~カノープス風味~   作:秋乃落葉

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第三話

「ただいま〜!!みんな、連れてきたぞ〜!コントレイル!!」

 

 

 思い切り部室の扉を開け放って、青い髪を揺らしながらその小さなウマ娘──ツインターボが叫んだ。

 

 

「え〜!?ほんとに連れてきたの?やるじゃんターボ!!」

「えへへ、言ったじゃんネイチャ。ターボ人探し得意だもん!」

 

 

 濃い鹿毛をツインテールに束ねたウマ娘、ナイスネイチャが椅子から立ち上がってツインターボを迎えた。

 

 

「ターボ凄いね~。あんな強そうな子、スカウトいっぱいいたんじゃない?うちみたいなこれからのチームを見に来てもらえるなんて、嬉しいですねぇ〜」

 

 

 ふわふわとしたボリューミーな髪に、帽子を穴あきにして耳に被せる特徴的な被り方をしたウマ娘、マチカネタンホイザは感心して、ぱちぱちと手を鳴らしている。

 

 

「いっぱいメンバー増やして、カノープスをおっきくするから!まずはコントレイルだ〜!」

 

 

 ぴょんぴょん跳ねながら、右手を突き上げて意気込みを語ったターボは、部室の外に駆け出していって、入っていいぞ、と声をかけた。ターボに連れられて、コントレイル・・・と勘違いされたディープボンドが入ってくる。

 

 

「お邪魔しますプボ〜」

「お〜!いらっしゃ〜い!チーム・カノープスの部室へようこそ!ささ、座って座って!」

「小柄な子だって聞いてたけど、背おっきいんですね~!今お茶とお菓子出してもらうから待っててね!」

 

 

 タンホイザが部室の奥に小走りで走っていき、お茶出したげて〜、と給湯室に声をかける。少しすると、お盆にお茶とお茶菓子を乗せて、大きな眼鏡をしたウマ娘が出てきた。

 

 

「お待たせしました。ようこそ、コントレ・・・」

「イクノ?どうしたの?」

 

 

 イクノディクタスは片手で眼鏡のつるを持ち、少し持ち上げて来訪者の顔をよく見る。

 

 

「ターボ、この方はコントレイルさんじゃありませんよ」

「ええっ!違うの!?でもイクノに教えてもらった見た目のやつだぞ!」

「確かに特徴は似ていますが・・・。身長はタンホイザより小さいくらいと伝えたでしょう?彼女、私と同じくらいあるじゃないですか」

「・・・そうだっけ?」

 

 

 はあ、と一つため息をついて、イクノはお茶をディープボンドに出した。

 

 

「うちのターボが大変失礼しました。私はチーム・カノープスのイクノディクタスと申します。貴女は新入生のディープボンドさんですね?」

「そうだプボ。コンちゃんなら、白くてヤバそうなウマ娘に連れ去られたプボ・・・」

「白くてヤバ・・・、ゴールドシップさんですか。スピカに先を越されましたね」

 

 

 あの人はめちゃくちゃですから、と続けるイクノ。そんなことだろうと思った、と両手を上げるネイチャ。ターボはむむむ、と不服そうな表情だ。

 

 

「ほらターボ、ごめんなさいして。間違えてごめんなさいって」

「むーっ!ターボ間違えてないもん!別にカノープスに入るのコントレイルじゃなくてもいいし!」

「いや〜、それはそうだけど、人違いは本当だし・・・」

 

 

 バタバタと地団駄を踏むターボをネイチャとタンホイザがたしなめる。顎に手を当てて何やら思案していたイクノだが、何か思いついたというように、その手の人差し指を立てて言った。

 

 

「ターボの言うことも、あながち間違っていないかもしれません」

「ほら!イクノも言ってるぞ!ターボ人違いなんてしてないでしょ!」

「いや、そうではなくて。今はどのチームもコントレイルさんに目が眩んで勧誘に躍起になっていますが、こちらのディープボンドさんも優秀な方です。模擬レースではニ着、その他測定項目も知り得た限りでは標準以上と言って良い。他のチームから声がかかるのも時間の問題でしょう。ですから、今のうちにカノープスで受け入れてしまうのはどうでしょう?」

「いやいや、それは最もだけど。でもディープボンドがうちに入りたいって限らないし、ね?」

 

 

 ネイチャがちらっとディープボンドの方を見る。ここまでの話の流れを理解しているのかいないのか、いつの間にかお茶菓子を平らげて、お茶を啜っている。

 

 

「どうですか、ディープボンドさん。よろしければ、チーム・カノープスに加入していただけませんか?」

「チームに入れてくれるプボ?なら入るプボ!」

「早っ!そんな即決していいの!?」

「うん。せっかくなら誘ってくれたチームに入りたいプボ」

「決まりですね。加入届など用意しますので、少しお待ちを」

「やったー!新しい子だ!」

「ほらね!ターボが連れてきたんだもん!凄いでしょ!」

 

 

 かくして、ディープボンドはカノープスに加入することとなった。この裏では、拉致されたコントレイルの所属チームが決まっていたりもするのだが・・・そのことは今は知る由もない。

 

 

 

  ◇  ◆  ◇

 

 

 

「え〜、それでは!新しくカノープスに加入してくれるディープボンドちゃんで〜す!よろしくね〜!」

 

 

 タンホイザの掛け声に続いて、拍手の音が響く。チームへの加入手続きを終えたディープボンドは、そのまま新人歓迎会へと移った。といっても、部室でお菓子や飲み物を出した程度のものだが。

 

 

「よろしくプボ〜。プボって呼んで欲しいプボ」

「プボちゃん!かわいい名前ですね〜!私はマチカネタンホイザ!タンホイザとか、マチタンって呼ばれてま〜す!」

「マチタン先輩、よろしくお願いしますプボ」

「おぉぉ!先輩!いい響きだねぇ〜!」

 

 

 タンホイザが目をキラキラさせて感動していると、ターボが椅子から立ち上がり、ぴょんぴょん跳ねて主張する。

 

 

「ターボも先輩って呼ばれたい!ターボはね、ツインターボ!ライバルはトウカイテイオー!よろしく!」

「ターボ・・・タボ先輩。よろしくお願いします」

「むー、ちょっと違うけど・・・。まあいっか!ターボも先輩!」

 

 

 よかったね、とタンホイザに言われてご満悦の様子のターボ。それを見守るネイチャも微笑ましい。

 

 

「じゃ、次あたしね。ナイスネイチャでーす。三着が定位置の地味なウマ娘だけど、よろしくねー」

「ネイチャ先輩。よろしくお願いします」

「若い子に負けないように頑張りま〜す」

 

 

 年寄りぶるネイチャも、内心では新人の登場に少なからず刺激を受けているようで、表には出さないがやる気を漲らせてきているようにイクノには見えた。

 

 

「では最後に。イクノディクタスです。体調管理には一家言あります。これから一緒に頑張りましょう」

「プボ。イクノ先輩、よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします。ではメンバー全員の紹介が終わったところで、私達のトレーナーを紹介したいところなのですが・・・」

「プボ?」

「カノープスのトレーナーで、南坂トレーナーって人がいるんだけどね。実は今出張中なの」

 

 

 ネイチャの言うとおり、チーム・カノープスには、チームを支える優男、だが意外と思い切りよく、大胆なことをやってのける南坂トレーナーという男がいる。しかし折り悪く、出張のために数週間不在となっており、顔を合わせることができなかった。

 

 

「で、今代打のトレーナーさんが来てくれてるんだけど・・・」

「もうそろそろ来ますかね」

 

 

 時計を見ながら少し待つと、部室の扉が開き、茶髪の男が入ってくる。

 

 

「皆、お疲れ。おっ、なんか見たことない顔があるね」

「和田トレーナー、お疲れさまです。彼女は新しくカノープスに加入してくれることになったディープボンドさんです」

「ほう!新入生ね、よろしく。南坂君の不在を任せてもらっている和田です。力不足かもしれないけど、彼が帰ってくるまでの間は面倒見させてもらうよ」

 

 

 和田トレーナー。年の頃は三十半ばに差し掛かる頃で、南坂トレーナーより一回り上になる。端正な顔立ちに良く鍛えられた身体の、伊達男である。

 

 

「謙遜なさってますが、和田トレーナーはあのテイエムオペラオーさんの専属トレーナーをされていた経験もある凄腕トレーナーさんなんです。頼れる方ですので、心配なさらないでくださいね」

「ほぇ〜、凄いプボ」

「いやいや、当時は本当に技術も未熟だったし、俺がオペラオーに勝たせてもらってただけだよ。オペラオーの担当を離れてからは担当にGIを勝たせてあげられてないし、まだまだあの子に顔向けできないな」

 

 

 彼が自ら言うとおり、テイエムオペラオーの担当をしていた当時は、未熟な無名のトレーナーに等しかった。だが、テイエムオペラオーとの出会いが一躍彼をトップトレーナーに押し上げる。

 皐月賞でのGI初制覇から始まり、年間無敗のグランドスラムという前人未到の大記録。それだけの結果を残していながら、彼の評価は余りにも低い。負けたレースにおいて、惜敗が多かった故に、トレーナーの調整能力が疑問視され、「和田でなければもっと勝てた」と言われることも多い。それは真実だったかもしれない。だが、テイエムオペラオーが走れたのは何故なのか?それを語る上で、彼の存在を除くことは、出来ない。

 

 

「何にせよ、短い間でも全力を尽くさせてもらうよ。ボンド、よろしく」

「・・・」

「プボちゃん?」

「──プボ!頑張るプボ〜!」

 

 

 ディープボンドと和田トレーナーの出会い。この出会いが、思いの外長い二人の物語の始まりとなると知っていたのは、三女神だけだ。

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