プボあじ!~カノープス風味~   作:秋乃落葉

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第四話

「はぁぁ〜、なんだか大変な一日だったよぉ〜」

 

 

 夕食の山盛りの白米を頬張りながら、コントレイルが言った。ディープボンドが寮に戻ってからもしばらく姿が見えなかったコントレイルだが、夕食の時間が近づく頃になってようやく解放されたようだ。

 無理矢理に拉致されていった割に、戻ってきた彼女の表情は明るかった。ディープボンドも不思議に思う。

 

 

「コンちゃん、どこに行ってたプボ?心配したプボ〜」

「ごめんね、ゴールドシップさん達にチーム・スピカの部室まで連れてかれて・・・。」

「スピカ?」

「うん、ゴールドシップさん達のチームなんだけどね」

 

 

 チーム・スピカは、トレセン学園きっての強豪チームだ。トップチームのリギルと並びたち、そうそうたるメンバー構成で、コントレイルを連れ去った張本人のゴールドシップ、ウオッカ、ダイワスカーレットに、メジロマックイーン、トウカイテイオー、『異次元の逃亡者』の二つ名でも知られる伝説的逃げウマ娘のサイレンススズカ、そしてスペシャルウィークという陣容。話題性には事欠かないチームだ。

 

 

「実はね、私、スピカにスカウトされて、入ることにしたの!ちょっとゴールドシップさんはめちゃくちゃな人だけど・・・。皆優しいし、面白いチームだなって思ったから、スピカのみんなと一緒に頑張りたいなって思ったの!」

「プボ~。コンちゃんがそう思ったなら、私もそれでいいと思うよ~。頑張ってね~」

「えへへ、ありがと、プボちゃん!」

 

 

 わいわいと話しながら食事をする二人に、近づくウマ娘が一人。

 

 

「スピカに入ったんですか。残念です。貴女はリギルに入るものと思っていましたので」

 

 

 背後から話しかけられたコントレイルが振り向くと、黒髪に、茶髪のメッシュが入った癖のないロングヘアのウマ娘が、食事の終わった食器を片付ける道すがら話しかけてきたようだ。その様子をはたから見ている食堂内のウマ娘達が、少しざわつき始める。

 

 

「あ、貴女は、デアリングタクトさん?」

「ええ。貴女のような有名人に名前を憶えていただいて、光栄です。・・・皮肉ではありませんよ」

 

 

 デアリングタクト。模擬レースでコントレイルに負けず劣らずのパフォーマンスを見せて、既に新入生の中でトップクラスの評価を受けており、コントレイルとどちらが上なのかという議論が起こるウマ娘。

 鋭い眼光を見せる切れ長の目に、端正な顔立ちは、柔和な雰囲気のコントレイルと対比になるように凛とした存在感を演出している。

 

 

「貴女がリギルに入ったならば、共に三冠ウマ娘を目指すものとして、志を同じくして切磋琢磨できるかと考えていましたが。貴女が違う道を選択したのならば仕方がありませんね」

「リギル・・・ってことは、デアリングタクトさんはリギルに入ったの?」

「いえいえ、まだ希望しているだけです。リギルには加入試験がありますので。ですが、必ずリギルに加入します。三冠を取るには、この程度簡単にパスしなくてはなりません」

 

 

 その声には、言葉だけではない自信と、自らの使命に対する責任感のようなものすら感じさせる。

 

 

「そっか。デアリングタクトさんも三冠ウマ娘が目標なんだね。でも私も同じだから、絶対に譲れないよ。クラシック三冠は、絶対に私がとるんだから!」

「・・・?いえ、三冠レースでコントレイルさんと戦うことはありませんよ」

「え?」

 

 

 しばらくお互いに疑問符を浮かべた顔をしていたが、やがて、ああ、と合点のいったデアリングタクトが声を上げて、説明を付け加えた。

 

 

「言葉足らずでしたね。私が狙うのはティアラ路線・・・。トリプルクラウンではなく、トリプルティアラです。貴女がお母様に憧れるように、私にも憧れがありますので」

「なるほど、そういうことだね。じゃあ、私たちが戦うことになるのは、それぞれの三冠が終わった後かな?」

「ええ、そうなるでしょうね。ですから、コントレイルさん。必ずクラシック三冠ウマ娘になってください。私もティアラ三冠ウマ娘になります。そうしたら、お互い最強の名を背負うものとして、戦いましょう。舞台は、三冠の後のジャパンカップ。どうです、受けていただけますか?」

「勿論!絶対に三冠ウマ娘になって、デアリングタクトさんと決着をつけに言って見せる!」

 

 

 コントレイルの反応を見て、デアリングタクトは満足そうに頷く。お互いが三冠ウマ娘になって、ジャパンカップで激突する。それが実現する可能性は、普通のウマ娘達であれば、限りなくないに等しい。だが、それが実現することをデアリングタクトは微塵も疑いを抱いていない。

 

 

「素晴らしい。貴女が約束を違えないことを祈ります。もし、この対決が実現したならば──」

 

 

 ──あの方も、出てくるかもしれませんね。

 そう思うデアリングタクトも、敢えては言葉に出さなかった。この誓いに他意を挟むことは、コントレイルへの不義を働くことのように感じたから。だから、その思いは、彼女の心の中にしまっておいた。その望みは、彼女の憧れへの挑戦だったから。

 

 

「──いえ、失礼しました。では、コントレイルさん。私は、強く、逞しく、美しいウマ娘になって、貴女に挑みます。それまでは負けないでくださいね。私からの宣戦布告です」

「うん!受けるよ、その宣戦布告!私も、速くて、運が良くて、強いウマ娘になって挑戦するから!デアリングタクトさんこそ、私が挑むまで、負けないでね!」

 

 

 デアリングタクトはふっと少し鼻を鳴らして、食器を片付けにその場を立ち去る。その背を見送ったコントレイルは、新たなライバルの登場に瞳を輝かせて、彼女の姿を、意志を脳裏に刻み込んだ。

 

 

「・・・なんか、凄そうな人だプボ」

「・・・そうだね。でも、あんな人とライバルになれるなんて、やっぱりトレセン学園に来てよかったよ、私」

 

 

 コントレイルとデアリングタクトの宣戦布告を目の当たりにしたディープボンド。彼女がそんな絶対に譲ることのできない戦いに挑戦するのは、まだまだ先のことだった。

 

 

「あ、そういえば私もチームに入ったよ~。チーム・カノープスプボ」

「えぇっ!?そうなの!?凄いじゃん!二人とも早速チームに入れるなんて、凄いよ!」

 

 

 いや、チーム・カノープスという仲間に巡り合えたディープボンドには、もっと、新しい道が開けているのかもしれない。いずれにせよ、無限の可能性のうちの一つではあるのだが。

 

 

 

  ◇  ◆  ◇

 

 

 

「こんにちはプボ~」

「お!プボ!来たな!」

「プボちゃ~ん!こんにちは!」

 

 

 カノープスの部室にやってきたディープボンドを、ターボとタンホイザが出迎える。ネイチャとイクノは、ホワイトボードに、マジックで何やら書いている途中のようだ。タンホイザに促されて椅子に座り、しばらくするとホワイトボードも書き終わったようで、ボードの前からどいて、他の三人に見えるように立った。

 

 

「はーい、ではこれから、『祝・プボ加入!目指せジュニア級GI勝利!作戦会議』を始めま~す」

「プボ~?ジュニア級GI勝利?」

 

 

 ホワイトボードにでかでかと書かれた文字をネイチャが読み上げ、それにターボとタンホイザが拍手を送る。ディープボンドも小首をかしげながら、二人に続いて拍手をする。

 

 

「知っての通り、我々カノープスは重賞では戦えているものの、GIでは好走に止まっており・・・。あと一歩届かない状況が続いています。GIタイトルは是が非でも獲得したい目標です。そのためにも、ディープボンドさんが最初に目指すことになるGI、ジュニア級GIを短期目標に据えて、作戦会議を行いたいと思います」

「ま~そもそも出走できるかってところからだけどね~。出れるの?」

 

 

 ネイチャの問いかけに、イクノが手元の書類をパラパラとめくりながら頷いた。

 

 

「あくまで現段階で得られた情報からの推察でしかありませんが、ディープボンドさんの能力と他の有力ウマ娘の情報から考えて、十分に可能性はあります。まずはメイクデビューを勝利し、ジュニア級重賞での好走を目指しましょう」

「路線はどうするの?クラシック路線かティアラ路線かにもよるよね」

「今年はどちらの路線にも凄まじい相手がいますからね・・・。クラシックにはコントレイルさん、ティアラにはデアリングタクトさん。どちらを選んでも相手は強すぎるほどに強い」

 

 

 どうする、と問うように皆がディープボンドを見る。しばらく悩んでいる様子のディープボンド。するとターボが勢いよく立ち上がり、机に手をついて言った。

 

 

「やっぱり戦うならコントレイルだろー!強いやつと戦って勝つのが一番楽しいもん!」

「プボ〜。確かにそうかも。コンちゃんと走りたいプボ」

「そうですね・・・。ディープボンドさんの距離適性も、身体測定のデータを見るに中長距離のようですし、距離の長いところで戦えるクラシックの方がいいかも知れませんね」

 

 

 

 イクノの言うように、クラシック三冠は中長距離での戦いになる上、菊花賞では3000mの長丁場になる。一方のティアラ路線は、最長レースでもオークスの2400m、更に一冠目の桜花賞ではマイル戦もこなさなくてはならない。器用さが重要なティアラ路線よりも、速さやスタミナの絶対値が必要になるクラシック路線のほうがディープボンドには向いているだろう。

 

 

「じゃあ、ジュニア級の目標は朝日杯FSか、ホープフルステークスか。どっちにする?」

「んー、やっぱり皐月賞と同じ条件のホープフルステークスがいいんじゃない?プボちゃんも、マイルより中距離の方が得意そうだし!」

「プボ~・・・。マイルは忙しいプボ~・・・」

「よ~し!決まりだな!そうと決まったら早速トレーニングだ~!大逃げのコツを教えてやるぞ!プボ、ターボについてこい!!」

「いや、普通のトレーニングをしましょうよ・・・」

 

 

 制止も聞かずに飛び出したターボだが、部室の扉を開けて駆けだした瞬間、ちょうど入れ替わりで入ってこようとした人の胸に思いきり飛び込んでしまう。

 

 

「ふぶぇっ!?」

「おわっと!どうした、ターボ?そんなに急いで?」

 

 

 ターボを受け止めたのは、部室にやってきた和田トレーナー。

 

 

「あ、トレーナー!これからプボと大逃げのトレーニングをしてくるぞ!」

「大逃げ?いやいや、ボンドはまだまだ基礎ができてないんだから、基礎トレーニングからだぞ。実践的なトレーニングはもっと本番が近くなってからな」

「えぇ~!そんな~・・・。どうしてもだめなのか?」

「だめだめ。基礎が固まらないうちに無理して怪我したらどうすんの」

 

 

 不満げなターボも、新人に無理をさせてはいけないという理性は働いたのか、意外と素直に言うことを聞いてくれたようだ。

 

 

「むむ・・・。じゃあターボだけで行ってくる!プボはまた今度!」

「待て待て、ターボも基礎トレーニングだからな」

「え~!?なんで!?」

「ターボもスタミナが足りなくていつもバテてるだろ。南坂君が戻るまでにちょっとは体力増やそうな」

「やだ~!!気合でなんとかするもん!やだ~!!」

 

 

 抵抗むなしく、駄々をこねるターボは和田トレーナーやイクノ達に引きずられ、トレーニング場へ連行されるのであった。

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