人とは何ぞや   作:オオタ キム

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12. 家族

 中華人民共和国、江西省北部に位置する廬山風景区。

 国内外からの観光客が数多く訪れる別荘群を抜け、五老峰を繋ぐ石階段で出来た遊歩道途中から山中に分け入るは、美麗な長髪を緩く束ね、大きな籠を背負った若き偉丈夫。

 観光客がそちらは危険だとその男に声をかけるが、道沿いの露天商が観光客に対し、彼は大丈夫だと引き留める。

 

 その男が小刀で草木を凪払いながら道を作る。

 先に広がるは、雄大なる大瀑布と一軒家がある秘境だ。

 「父亲(とうさん)お帰り」

 「老師(せんせい)お帰りなさい」

 畑仕事をしていた六歳ぐらいの少年が作業を止め、駆け寄ってくる。

 隣で同じ仕事をしていた十歳ぐらいの少年も挨拶した。

 「ただ今、翔龍(しょうりゅう)。母さんでも食べられると思う食材を仕入れてきたぞ。

 梓豪(しごう)も待たせたな」

 父と呼ばれた二十代前半の男、紫龍(しりゅう)は、悪阻(つわり)で苦しんでいる妻、春麗(しゅんれい)の為に麓の村まで買い出しに行っていたのだ。

 「さて、母さんの所へ戻ろう」

 

 家に入り、台所に籠を下ろす。

 「初めて見る野菜や干物もあるや!」

 翔龍が目を輝かせる。

 梓豪は慣れた手つきで籠から食材を並べていった。

 「紫龍、お帰りなさい。動けなくてごめんなさい」

 妻であり母である春麗が寝室からゆっくりと出てきた。

 「今すぐ梓豪と夕飯を作り始めるから待っていろ、春麗。翔龍は農具を片づけてくるんだ」

 少年達は頷くと各々作業にとりかかった。

 

 紫龍達が作った料理は食べやすかったらしく、春麗の食も進んだ。

 「今秋からお前も小学校だが、本当に俺が毎日村まで送迎しなくても良いのか?」

 「そうよ、お父さんと一緒なら一瞬で村まで行けるのよ」

 「俺は徒歩でもそれほど時間がかかりませんが、翔龍はそうはいきませんしね」

 最近の話題はもっぱら翔龍の通学問題だ。

 一番近い小学校までは、麓の村から校車(スクールバス)に乗る必要がある。

 一般人がここから村まで歩いていくには、片道二時間は見越さないといけない。

 内弟子の梓豪は訓練の一環として最近は一時間を切るようになったが、聖闘士の訓練をまだしていない翔龍には厳しい道のりだ。

 それに一人でも村へ行けるよう今日も道を整えて来たが、二週間もすれば植物で覆われてしまう。

 「その為に今から梓豪さんと一緒に体力作りしてるんだ。でも秋になっても無理そうならお願いするかな」

 

 翔龍や梓豪が眠った後は、紫龍の師・童虎が遺した書を読みふけるのが最近の日課だ。

 聖戦が終わり、親友が還った直後から、遺言じゃよと様々な内容を書き溜め始めた。

 生薬の見分け方、前聖戦の記録、弟子の育て方、等々。

 紫龍自身、色々な事が手探り状態なのは否めない。

 特に童虎が亡くなって一人で行うようになってからは不安も先行する。

 本人は才能がなく正規の聖闘士になれなくとも、世の中の役にたてるのならばと言うが、受け持つからには育て上げたい。

 

 早朝訓練と朝食の後に梓豪を見送ると、山へ一人薬草を採りに分け入る。

 籠一杯になるまで野草を摘み終わると、新鮮な内に南昌市近郊にある製薬会社の工場へ納入する。

 基本的に自給自足出来ているが、服飾や学費等、どうしても現金は必要となる。

 資材部の人からは

 「(りん)家のものは物凄く高品質で鮮度が良いから助かっているんだよ。また明日口座に振り込んでおくから」と伝えられ、その場を後にした。

 

 都市部では情報収集もする。

 情報統制で外国メディアが伝えられない事も、中国へ帰化した紫龍には知ることが出来る。

 聖域に現地の情勢を伝えるのも、各地に散っている者の役目である。

 そこで、時々訪れる軽食屋の店主から妙な話を聞かされたのだ。

 

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