同時刻、業務終了時間直接。
ダークウェブに潜っていたゼラ想定外、いや想定はしていたが半信半疑でいたものを発掘していた。
誰にもディスプレイを見せないようパーティション内で作業していたが、思わず叫んでしまったので、向こう側から心配する声が掛けられた。
「ちょっと驚いただけだから気にしないで」
英語で答える。
そして画面を非表示にし、一輝に今から会えるか念話でやりとりを始めた。
強力な超能力者は他者同士の念話に入り込めると一輝に以前教えられていたからだ。
自分のノートPCを片づけている途中、丁度終了時間となった。
残った職員達にも早く帰るよう促すと、自分も荷物を纏め、足早に退出した。
一輝が泊まっている部屋に移動する。
「パンドラさんもご一緒だったんですね」とゼラ。
「私も話を聞かせてもらおう。
恐らく共通の敵だ」
パンドラがそういうと、小宇宙を高めた。
冥府に連なる者の能力、隠す力だ。
「パンドラが結界で外部と切り離した。
解ったことを伝えろ」
「死体をエンバーミングで姿を留めるのではなく、生きているかのように動かす技術があるらしい、だと?」
パンドラが驚く。
「方法まではさすがになかったんですが」
「なら、瞬達が見た死体は実験途中で破棄されたものか何かか。
氷河が聞いた声も、死体の細胞を動かしたんではと瞬は考察してたしな」と一輝。
さすが医者の卵、と納得するゼラ。
「どちらかというと、あれは神の知識の一端だろう」と一輝。
「小宇宙の正体は多分瞬は気付いたんだろう。
魂のみで強大な小宇宙を発するのだとしたら、神を疑わなければならない。
なら、聖闘士である氷河に接触してきたのも解る。
そして瞬はハーデス様として動く決意を固めた、か」
「神を怯ます事は出来ても、俺達人間では決定的ダメージを与えられないからな。
あいつはまた抱え込もうとしてるのか」
兄として弟の性格を十分理解しているが故の懸念である。
翌日、一輝はゼラには引き続き複数サイトへ潜るよう指示。
一輝自身は午前中、事務所で日本における今後の方針などの会議を行う。
パンドラも午前中は日本支社を視察。
オーナーの急な来社に慌てているだろうが、逆に普段の様子を視られてよいとも思う。
ハロルド・ドラン営業部長こと、ラダマンティスも午前中から合流する。
午後からは一輝と共に城戸物産を訪問。
名目上は新規取引案件だが、城戸沙織に会うのが目的だ。
「いらっしゃいませ、ハインシュタイン様」
受付役の事務員が英語で対応する。
入室してきたパンドラの美しさに他の所員達が色めき立つ。
二人は出資元として各種書類を確認しにきたのだ。
その横で背の高い営業部長が無愛想に控えていた。
二人は所員から資料を受け取り手早く作業する。
「よく纏められているわ、完璧よ」
パンドラが書類を返しながら労いの言葉をかけた。
「では向かうとするか。ゼラも付いてこい」
「はい、一輝様」
出発の用意は既に終わらせている。
「あの、今回私は…」と藤田。
「今日の行き先は知らない所ではないから、そのまま仕事を続けてくれ」
「承知致しました」少し残念そうに返事する。
四人が事務所を離れた後、藤田に同僚が話しかけた。
「好子、何空気読めない事しようとしてたのよ?
パンドラさんは社長のパートナーよ」
「出資者なんだし、当たり前でしょ」
「意味違うって、社長とは恋人以上の関係って事。
あなた、もう少し色んな雑誌読んで情報仕入れなさいって」
全然そういう雰囲気を感じさせなかったので驚く。
ああでもそれで手を出してこなかったんだと納得したのだった。