人とは何ぞや   作:オオタ キム

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20. 交信

 その黒い鏡のような所に、オリエッタさんの顔が映し出される。

 カノンさん以外の七将軍含め、海闘士達はざわめいた。

 俺はこの鏡にオリエッタさんが映る意味がよく分からない。

 ただの液晶ディスプレイか何かでリモート出演してるんじゃないのか?

 それを芸能人の天宮さんがファンタジーみたいに仰々しく演出してるだけで。

 「ありがとう、瞬く…、いや、ハーデス様。

 このような機会を設けていただき感謝いたします」

 オリエッタさんが画面越しに天宮さんへ挨拶する。

 ハーデスって確かゲームとかでは死神だったよな。

 「彼女の魂が冥府に堕ちてきたのは一昨日です。

 そして彼女の死体は今、冥闘士に探してもらっています」

 

 天宮さんが今までどんな事件が起こったかを説明してくれた。

 世界中で死体が勝手に動く事案が発生している事。

 動く死体は素人では生きてる人間と区別がつきにくい事。

 そして他神が絡んでいるであろうが、そんな事をする具体的な目的が分からない事。

 「天宮さん、さっきオリエッタさんの死体がどうこう言ってましたよね?

 オリエッタさんが死んだのなら、そこに映ってるオリエッタさんは何なんですか?」

 理解が追い付かない俺は、思わず声を出して質問する。

 天宮さんが俺の方を見ながら、念話が続く。

 「さっき僕の事をハーデスと彼女が呼んでたと思うますが、名前の通り生死に関わる力を持ってます。

 ポセイドンが地球上の気象関係全般を自由に操れる力を持ってるのと同様にね。

 それこそ、死者を生き返らせる事だって可能だし、実際に以前、戦後処理としてした事もあります。

 もっとも今現在はそんな事したら世の(ことわり)を崩す事になるから、やってはいけませんが」

 今、しれっと生き返らせるとか言ってなかったか?

 続けて

 「今の彼女は死者の魂として存在しています。

 冥王の権限で、特別に生者の世界と冥府を交信できるようにしました。

 死の苦しみを忘れられるよう、本来はすぐに忘却の(レテ)川の水を魂に飲むのだけど、オリエッタさんはそれでも伝えたい事があるという事で、飲まずにいてくれる事に感謝します」

 「そんな事よりも自分の身に何が起きたかを伝える事の方が重要ですし、気にしないで下さいな。

 それではまず、さらわれた時の事についてから」

 オリエッタさんが語り始めた。

 

 「殺される二日前の仕事が終わって家に着いた頃、母が中国旅行中に怪我したから現地で入院すると旅行代理店を名乗る男から、たどたどしいイタリア語で電話が掛かってきたんです。

 でも詳しい事を聞こうとしても相手はイタリア語も英語も出来ないみたいで、かといって私も中国語がわからない。

 母の携帯も中国だからか繋がらないし。

 それで母が入院してると言ってた病院名から住所を調べ、まずは会いに行こうと二日だけ休みの連絡をしたんです。

 で、入院日数によっては休みを伸ばそうと考えてました。

 ここまではポセイドン様も知ってるかと思いますが」

 「そうだな、私はもっとゆっくりしといでとも伝えたが、母は頑丈だからとかで、とりあえず二日にしたのだった」とジュリアン様。

 「で、乗り継ぎの為、北京の国際空港でコーヒーを飲みながら時間待ちしてたら、いつの間にか眠ってしまってて。

 次に気が付いた時はベッドの上で、拘束具で裸で横向きで縛られてました。

 触れてないから分からないけど、頭には脳波の測定器みたいなのを付けられてた気がします」

 っつ、とオリエッタさんが頭を抑える。

 「辛い記憶ですよね、無理しないで」

 包み込むような小宇宙と共に、天宮さんが念話する。

 「大丈夫です、続けられます。

 起きたのがバレたらマズいかな、と思って薄目で確認したらそこは病院風の所で、知らない何人もの老人が『もう記憶はコピー出来たな』とか『体は使えるようにしておくか』とか言ってた気がします。

 その後、後頭部の生え際より上に強い痛みがあった所で記憶が終わってます」

 オリエッタさんの表情が少し満足げになった。

 

 ふっとオリエッタさんの後ろに黒いフードを被った、顔が見えない人影が映った。

 「もう貴様は言うことはないな? それでは…」

 「待ってください、冥精様。

 せめてこの事件が終わるまで見届けさせて下さい」

 オリエッタさんが懇願している、この気味の悪い奴は誰だ?

 「分かりました。

 教えて頂いた礼として、もう少し猶予する事とします」

 天宮さんが伝えると、気味の悪い奴は頭を下げた。

 「みんな、事件終わったらさよならしなきゃだけど、今しばらくは残れる事になったわ。

 瞬くんは忙しいだろうから頼るの止めてあげて欲しいけど、カノンさんと星矢くんは生きたまま地獄に行けるから、伝言ある場合はその二人にお願いね」

 急に話を振られたカノンさんと星矢と呼ばれた人は、びっくりしていた。

 

 俺の周りでは大声で泣いてる人、涙を堪えてオリエッタさんの方を見ている人、覚悟を決めた顔の人、様々いる。

 俺は周りの反応を見て本当に死んだんだという実感が出てきて、涙が溢れてきた。

 会って数ヶ月だけど、お世話になった事を様々思い出す。

 ただもう少し時間があるというので、本当の別れの時は気持ちよく送り出してあげたいと思う。

 

 「では、交信を一旦閉じます」と天宮さん。

 オリエッタさんが手を振ると、俺を含めみんなも手を振りながら、さようならと言った。

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