人とは何ぞや   作:オオタ キム

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21. 指令

 天宮さんが鏡のようなものを出していた手を下ろし、ジュリアン様の鉾からも手を離す。

 そしてその場に崩れ落ちるそうになると、ラダマンティスさんが駆け寄り、体を支える。

 服装は漆黒のローブのままだが、瞳と小宇宙は天宮さんのものに戻っている。

 「瞬、魂ごとハーデス様に委ねれば良かったものを。

 あれだけの事を自分の意志を保ったままやるには、精神力がギリギリだったろう」とラダマンティスさん。

「でもハーデスは良くも悪くも王として高圧的になりすぎますし、一悶着しかねないじゃないですか」

 息を切らせながら天宮さんが反論する。

 そこへ

 「瞬、ご苦労様でした」と美女が近づく。

 「沙織も力を上手く逸らしてしてくれて助かった。

 瞬が私の聖域を外界から隠すと言った時、正気かと思ったんだがな」とジュリアン様。

 「こちらこそ皆さんの協力に感謝致します」

 息を整えながら天宮さんが二人に頭を下げた。

 

 「では、紫龍からの報告の事も合致しますし、目下の任務は日本から中国にかけての極東地域を重点的に隠された、もしくは動く死体の探索で良さそうですね」

 沙織さんと呼ばれた美女が提案する。

 「昨日は聖闘士に依頼したのですが、海闘士も協力願えますか?」天宮さんがジュリアン様に訊ねる。

 「当然だ、こちらも部下がやられているのだからな。

 それにオリエッタが聞いたという、記憶云々という台詞からして、小宇宙を使えない一般職員が此処に出入り出来る門が見つかった可能性も高いだろう。

 丁度、裏切者をカノン達が追い出したタイミングでもあるので、門の変更を行う」

 ジュリアン様の持つ鉾から光が海に伸び、ぶつかった箇所が一瞬激しく光った。

 その光が収まった後、次は鉾から別方向へ光が伸びる。

 そちらの海には一瞬穴が空き、直ぐに閉じた。

 

 天宮さんの服が来た当初のものに戻る。

 「それでは今日は流石にこれ以上動けないので帰ります。

 ラダマンティスも明日仕事だから早く寝て下さいね」

 「その台詞、そのまま返してやる。

 お前もまた一日中授業して、その後撮影とかだろ?」

 天宮さんは、見透かされたかみたいな顔してる。

 「じゃあな瞬、また明後日な」と星矢さんと呼ばれていた人が言う。

 「うん、お休み」

 そう言うと、天宮さんとラダマンティスさんは瞬間移動で消えていった。

 「それでは星矢、私達も帰りましょうか」

 「はい、沙織さん。

 バイアン達もまたな!」

 

 「バイアンさん、今日は何もしてないはずなのにどっと疲れました」

 上司のバイアンさんに話しかける。

 「当然だ。三神、それも二神が王の地位だ。

 アテナが二王神の強大な神力を人間に直接当てられないよう逃がしてくれていたから、多少精神的ダメージは弱められてたはずだがな」

 それもあるが、オリエッタさんの死、動く死体。

 それに神とは最強クラスの小宇宙の持ち主なだけではなく、人間が不可能としていた事が出来る存在。

 色々な情報が一気に入り込みすぎた。

 というか、俺、もしかしてヤバい事約束した?

 「どうしましょう俺、ハーデス様に殺されかねない約束してしまったんでしょうか?」

 「大丈夫だ、瞬は基本的に他人を傷つけるのを嫌がる甘い性格だから、教練をした所で大怪我する事はまず有り得ないだろう。

 怪我をしたとしても、すぐ治癒してくれるはずだしな」

 「もう一つ天宮さんについて疑問なんですが、ラダマンティスさんって多分部下ですよね?

 なんであんな偉そうなんですか?」

 「まず瞬自身、極力ハーデスとして振るまう事を避けてるから、誰に対しても冥王とて扱って欲しくないと言い続けてるのが一つ。

 もう一つは、ラダマンティス自身が物腰の低い瞬に苛ついてるのだろう」

 確かに俺も、最初はめっちゃ弱いと勘違いしたしな。

 実際はともかく、第一印象は舐められそうか。

 

 ハーデス様とアテナ様の関係者が帰った後、ジュリアン様が俺たちに話があるとの事で、再び集まる。

 「先ほどの通り、我々はハーデス配下の冥闘士やアテナ配下の聖闘士と協力する事となった。

 先ほどまでいたラダマンティスを長とするカイーナ軍と、アイアコスという男を長とするアンテノーラ軍が主な協力先だ。

 なお、カノン達一部の海闘士には海の守護を今まで通り頼む。

 では…」

 ジュリアン様が振り分けを発表をされる。

 バイアンさん・アイザックさん・クリシュナさんの所がラダマンティスさんの所へ、残りの三人の所はアイアコスさんという人の手伝いとなった。

 当然バイアンさんの部下の俺はラダマンティスさんの所だ。

 怖そうな雰囲気の人だけど、大丈夫かな?

 「実際に動くのは、明日の日本時間19時からだ。

 ラダマンティスは日中、ハインシュタイン社の社員として動いてる。

 だから奴の仕事が終わるまでは自宅待機しておくように。

 明後日以降は各自動く事になるだろうしな」

 各々七将軍は自分の部下に指示を出すと、解散していった。

 俺も解散と言うことで帰る準備をする。

 スマホの電源を起動し時間を確認すると、日本は既に26時だ。

 皆に別れの挨拶をすると、瞬間で自宅近くのコンビニに行き着く。

 部屋に着くと軽くシャワーをし、気疲れがどっと出たのか、そのままベッドで力尽きてしまった。


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