次に俺が目が覚めた時はもう昼前だった。
マンションの向いにあるコンビニで買った弁当を喰いながらテレビを付ける。
就職までは動画ばっかだったが入社後、毎日ニュースを見て世界情勢に敏感になれとカノンさんに言われたからだ。
この時間帯は情報番組か。
隣国の大統領選やら大臣の発言等に対し、コメンテーターが色々考察をしている。
俺はバカだから、そうなんだぐらいの感想しか湧かないが。
「特集です。
東南アジアを中心にIR事業を展開する若き日本人経営者、ホーリークィーン社の天宮一輝さんのご登場です。
今までいかに東南アジアの格差問題と向き合い、そこから日本の貧困問題について語っていただきます」
紹介された男が丁寧に挨拶する。
社長という割にはかなり体を鍛えてるな。
スーツの上からも、肉体がかなり仕上がってるのがわかる。
そんでもって顔が暴力団っぽい。
額の傷のせいで余計そう見えるのか。
同じ天宮という苗字でも、昨日あった天宮さんと全然違う。
しかし内容は優しい世界についてだった。
物腰も柔らかいように感じる。
人は見た目によらないという事か。
ハインシュタイン社の日本支社が入っているオフィスビルにある、一階の喫茶店に18時集合との連絡が来た。
名目上はソロ海運の社員として打ち合わせなので、久しぶりにスーツ(リクルート用だが)を引っ張り出して着る。
筋肉が付いたからか、全体的にきつく感じる。
次の給料が出たら、安いスーツ一式を買うか。
「待たせたな」
同じくスーツ姿のバイアンさん・アイザックさん(片目の傷が目立つので地上では眼帯を付けるとの事)、そしてスーツ姿にターバン(髪型を隠す意味もありそうだが、インドでは一般的らしい)のクリシュナさんが連れ立って集合場所へやってきた。
一般海闘士まで来ると大所帯になるという事で、幹部以上のみ参加である。
バイアンさんがサンドイッチを食べながら俺にレクチャーしてくれた。
「ハインシュタイン社について先に説明しておくぞ。
中世・ハインシュタイン公爵領の鉱山を由来とする、ソロ海運と同じく歴史ある会社だ。
ドイツはもとより、ヨーロッパの鉱工業の一翼を担う大企業であると同時に、最近は土地開発のノウハウを生かした不動産業にも進出している。
我が社とも当然取引がある。
しかし向こうの一般社員は海闘士や冥闘士について当然知らない。
よって会議室で結界が張られるまではただの訪問客として振る舞うように」
19時になったので、ビルの総合受付で会社へと取り次いでもらう。
エレベーターから降りてきたのは、昨日も会ったスーツ姿のラダマンティスさん。
「皆様、ようこそお越しで。
それではこちらへどうぞ」
英語で出迎えてくれる。
昨日とは打って変わって、きちんとしたビジネスマンだ。
何か睨まれた気もするが、気にしないでおこう。
エレベーター横の案内板を見た所、29・30階のテナントが目的地か。
来たエレベーターに全員乗り込むと、ラダマンティスさんは30階のボタンを押す。
「ここでの俺は本名のハロルド・ドランだからな。
間違っても結界が張られるまでは、冥闘士名のラダマンティスで呼ぶな」
「了解です、ドランさん」
確か七将軍でも本名なのは、(ジュリアン様同様、英語風に言い換えてる)アイザックさんとクリシュナさんぐらいだよな。
カノンさんがリュサンドロス・ディアマンデス。
で、この場にいる人の名前はっと。
バイアンさんがブライアン・マーフィー。
クリシュナさんがクリシュナ・プラサード。
アイザックさんがイーサッキ・アールト。
よし、覚えてた。
エレベーターが30階に着く。
廊下では今から帰ると思われる人々に会釈されたので、こちらも返しながらドランさんについて行く。
会議室1と書かれたプレートの部屋まで案内されると何名かの先客が会話をしていた。
その内で昨日見かけたのは沙織さんだけか。
「パンドラ様、お連れしました」
ドランさんが声をかけると、全員がこちらを見て立ち上がった。
「城戸様、初めまして。
東海洋と申します。
宜しくお願いします」
一度だけ日本支部で練習した日本式名刺交換を実践。
「こちらこそ宜しく。
城戸グループ代表の城戸沙織です」
貰った名刺から良い香りが漂う。
香り付きってやつか?
「氷河・レベジェフです。
大学生ですが、城戸グループでアルバイトさせて頂いております」
ただの大学生がこんな所にくるはずないし、多分聖闘士だな。
「初めまして、ハインシュタイン社オーナー、パンドラ・ハインシュタインです」
また沙織さん同様、ものすごい美人た。
沙織さんが春の暖かさのような美しさだとしたら、パンドラさんは夜の月の凛とした美しさ。
我ながら詩的表現が上手くできた。
「私はホーリークィーン社社長、天宮一輝です」
名刺を出される。
ん? 昼にテレビに出てた人?
「失礼ですがお昼頃、テレビに出演されていましたか?」
「ああ、ご覧にならるたんですか。
なかなかテレビは慣れませんがね」
テレビで見た通り、顔と似合わす丁寧な対応だ。
そのやり取りを他の人達は胡散臭そうな顔で見てた気がするが。
「同じくホーリークィーン社のゼラ・オハヨンです」
天宮一輝さんの隣に控えてた人からも挨拶があった。
「全員揃ったし、会社員ごっこはもう良いだろ」
天宮一輝さんの態度が急に変わる。
やっぱ見た目通り、本来はワイルド系か。
「そうだな、それではこの場を閉じる」
パンドラさんから強大な小宇宙が発せられる。
神々しさこそないが、昨日のハーデス様と似たような雰囲気の小宇宙。
この人もただ者ではなさそうだ。
「具体的にだが、地道に一人一人見ていくしかないのか?」
アイザックさんが訊ねる。
「いや、瞬が閻魔帳から死に方が怪しい人間をピックアップを続けている。
昨日は流石に寝かせたから作業してないが、それでも奴は時間が出来たら逐次洗い出しを進めてる状況だ」
ラダマンティスさんが答える。
「なら、そのリストを元にが生前行ってたような場所を重点的に調べた方がよさそうだな」
とアイザックさん。
「既に百人を越えてるから、私たちだけでは追いきれない。
かといって資料として渡せば漏洩の危険がある。
よって、今から記憶をお前たちに植えつける。
一輝も手伝え」
パンドラさんが言うと、天宮一輝さんの小宇宙も膨れ上がる。
これが超攻撃的小宇宙というやつか。
肌がヒリヒリする感覚だ。
パンドラさんの小宇宙が天宮一輝さんに流れる。
そして天宮一輝さんが一人ずつ脳の方へ指差しし、小宇宙を流し込む。
俺の番だ。
頭に電流が流れたような痛みと共に、知らなかった記憶が、詳細に知っている記憶に追加された感覚。
「これで全員にだな」
天宮一輝さんが周りを見て確認する。
「一輝、ところで日本はあと四日で離れる予定でしたよね?
引き続き日本にいるよう延長はできませんか?」
沙織さんが天宮一輝さんに訊ねる。
「韓国での予定が既に埋まってて無理ですな。
でも何かあればすぐこちらに行くのでご安心を」
俺も小宇宙を使った瞬間移動が出来るようになったとはいえ、海底以外の遠距離だと30分はかかる。
そうでないのだとしたら、見た目によらず超能力特化のか?
植え付けられた記憶を元に話し合う。
自分たちと似たような立場の人間を追うのがベターではないかという結果になった。
会社の重役や政府高官、芸能人まで交じっていたのだ。
高い地位の周りには流石に俺みたいな10代は不自然だしな。
アイザックさんと喋っていた氷河さんがこちらに来る。
この人がアイザックか言ってた日本人の友達だな。
「改めて。
オレは
君の事は新人の海闘士として期待してるとアイザックが言ってたぞ。
お互い有名人の周りをうろつけるような立場ではないしだろうし探索先が被るだろうから、良ければ密に連絡を取り合っていきたい」
氷河さんが握手を求めてきたので握り返した。