人とは何ぞや   作:オオタ キム

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24. 事件

 瞬がフナテレビのクイズ番組の打ち合わせ後、本番前の軽食をとろうとマネージャーの佐山と食堂に向かうと、以前番組で一緒だったお笑い芸人の栗河に手招きされた。

 ざる蕎麦を乗せたトレイを持って挨拶しながら向かいの席に座る。

 栗河が興奮したように話しかけてきた。

 「よお天宮。

 TSS近くの公園で大量の死体が埋まってたらしいで。

 今、ネットニュースでバズってるわ。

 あんたもこないだ死体見てもーたんやろ?

 もしかせんでも同じ連続猟奇殺人事件かいな」

 こてこての大阪弁だ。

 瞬にも打ち合わせ中に情報が入ってきていたが、空気を読んで驚いたふりをする。

 「関連してるかはわかりませんが。

 でも知ってる場所での大量の遺体は怖いですね」

 瞬も食べながら追加情報がないかスマホで調べる。

 目の前にあるTSSは報道特番編成を組んで放映しているようだ。

 「そいやこないだTSSの控え室階でヤクザが歩いててなあ。

 こー、額にデカい傷があって目つきが鋭いねん。

 そいつがやったんちゃうやろな?」

 瞬が思わずむせる。

 佐山が栗河にフォローを入れる。

 「栗河さん、それ多分、天宮くんのお兄さんですよ」

 「え? マジで?

 元暴力団員のコメンテーターとか?」

 「栗河さん、人の兄貴の事を何なんだと思ってるんですか。

 雰囲気は確かに厳ついかもですが、後ろめたい仕事はしないですよ。

 なかなか日本にいないので、来日のタイミングで報道系番組に出演するだろうなとは思ってましたが」

 「じゃあ何? 戦場ジャーナリストか何か?」

 「いや、ただの会社員ですよ」

 兄弟であることは隠してもいないが大々的に公表もしてない。

 ただ、以前一緒に食事をしていた所を写真に撮られ、『天宮瞬・黒い付き合い』とかいうタイトルで掲載されそうになった時は、事務所と兄の会社が出版社へ抗議を入れたという、笑えないアクシデントがあったのを思い出した。

 

 食事を終わらせた後、スタジオに入る前にラダマンティスへ念話で指示を入れる。

 そしてセットの様子を確認しつつ時間までしばし待つ。

 何処に行っても危険要素がないか確認してしまうのは職業病だろうなと苦笑。

 「天宮くん、聖闘士として動きたいんでしょ?

 でも芸能界での仕事を優先して。

 他人に迷惑もかけるし」

 落ち着かない様子の瞬を見て、聖闘士である事を知る佐山に小声で指摘される。

 「わかってますよ、こういうのは警察の領分ですし」

 実際、自分が動くと目立ちすぎるのを自覚している。

 「気にはなりますが、撮影が終わるまでは仕事に集中しますよ」

 

 収録が始まる。

 インテリ芸能人枠だ。

 本当は全問分かるが、適度に歴史・地理問題をわざと間違えて解答する。

 逆に理系、特に生物系ではさすがに将来の医師としてのイメージダウンしかねないので正答を積み重ねていく。

 クイズ番組は撮影が長時間に及ぶので、都度休憩毎に念話でやり取りをしていた。

 その時、

 「気もそぞろていう感じですね」

 フリーアナウンサーの真野が話しかけてくる。

 「僕も報道の人間として、A公園大量殺人事件が気になりますよ」

 勝手に真野が命名してるけど、実際似たような名前で翌日から報道番組で騒がれるだろう。

 

 「それではありがとうございましたー」

 ADの一言でその日の撮影は締めくくられた。

 「ねえ瞬くん、これからみんなで遅めのご飯兼飲みに行くんだけど、どう?」

 人気アイドルグループに所属し、女優としても活躍する峰岡梨佳だ。

 「そうですね」

 マネージャーの方をちらりと見る。

 行ってきても良いとジェスチャーを返してきた。

 「明日もあるので、一軒だけなら」

 交友を深め、情報収集するのも瞬に与えられた通常任務である。

 

 再度念話のやりとりをした後、控え室を片づけ、荷物を持つと通用口から足早に出る。

 歩いて三分ほどにある隠れ家的居酒屋に着くと、先ほどまで一緒だった男女が先客で来ていた。

 「遅かったな、天宮」と最高学府出身コンビ・唯我独尊の桂田と若本。

 「今日も二軒目は先に断られちゃったけどね」先ほどの峯岡もいた。

 

 「お前、もっと文系問題を勉強しろよー」

 アルコールが入った若本が絡んでくる。

 「そうは言っても僕も忙しくて手が回らないんですよ」

 瞬も何杯か酎ハイを空けているが、いつも最後まで素面である。

 次を注文しようとした時、神クラスの鮮烈な小宇宙が近くに顕れたのを感じた。

 瞬の顔に緊張が走る。

 すぐに小宇宙を感じなくなる。

 と同時に、峯岡のスマホに通知音が鳴る。

 彼女が画面を確認すると、酔って赤くなっていたその顔がみるみる青ざめる。

 そしてそのまま机に突っ伏して動かなくなった。

 

 「店員さん、救急車を呼んで!」

 一気に醒めた桂田が店員に指示する。

 瞬は脈と呼吸を確認すると、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。

 その様子を見た若本も慌てる。

 「えっ、何? 梨佳ちゃん死んだの?」

 「静かに」と瞬が伝える。

 呼吸や心音を確認する名目だがその実、冥蝶達へ次々と指示を出していた。

 数分後、救急車が到着し、引き渡す。

 しかし既に手遅れなのは瞬は確信していた。

 なぜなら彼女の体はスマホを見て亡くなった後、急激に時が進んだかのように死体の状態が悪くなったいったからだ。

 冥精へ峯岡梨佳の魂に忘却の(レテ)の川の水を飲ませないように指示を出す。

 直ぐに忘れさせてあげたい気持ちもあるが、最期の事だけでも聞く事を優先せねばならない。

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