人とは何ぞや   作:オオタ キム

28 / 43
27. 虚言

 朝の6時頃、一輝は隣で寝ているパンドラを起こさないようそっとベッドから抜け出す。

 シャワーを浴びシャツ一枚着た後、PCでメールやニュースを確認していると

 「一輝、もう起きてたのか。

 起こしてくれたら良かったのに」

 ベッドから気だるげに起き上がったパンドラが話しかける。

 「まだモーニングまで時間があるからお前はまだゆっくりしていたらいいぞ」

 「いや、こちらも冥闘士からの報告を精査したいしな。

 私もシャワーを浴びてくる」

 ベビードール姿でシャワー室に向かうパンドラを一瞥すると、PCに目を戻した。

 

 やはりネットニュースは大量死体遺棄事件と、峯岡の死去でもちきりだった。

 一緒に呑んでいた三人が峯岡を急性アルコール中毒にして殺したなどという過激な書き込みもある。

 瞬の兄としてインタビューをしようとする輩に対し、ノーコメントを徹底するよう社員のグループウェアへ投函する。

 新興宗教に関しては、ゼラと会ってからになるであろう。

 それと、パンドラが言ってた裏オークション。

 昔と違い今でこそカジノはクリーンだが、それでもVIP会員室等では富裕層の裏の顔が見え隠れする。

 そこの会員は当然、美術品蒐集家も多い。

 普段は彼らの相手をドラゴンこと、エリク、ヘンリク・マズル兄弟に任せているが、参加権の融通となると、参加者予定者当人と直接交渉する必要になるだろう。

 今日の夕方プライベートジェットでマカオ行きし、明日の昼頃に日本に戻ると追加投稿した。

 

 一輝は、シャワーを終えて服装を整えたパンドラに話しかける。

 「今日夕方、マカオのカジノに行く予定だが、そっちの予定はどうだ?」

 闇オークションの件だと気付いたパンドラは

 「元々日本での用事は冥界がらみで来ているから、基本的に時間が空いてる。

 それにミニマリストなお前が急に美術品オークションに興味を持ったとなると、警戒されるだけだぞ」

 一輝は常に世界中を飛び回っているので(ハインシュタイン城の一室を間借りしているとはいえ)定まった住居がなく、都度ホテルに宿泊するような生活をしている為、所有物は最低限しかない。

 それに対し、パンドラは伯爵家当主というのもあり、代々蒐集家としての一面もある。

 オークションの参加に興味を持つのも当然と思われるであろう。

 

 モーニングを取った後、一旦部屋に戻ってからスーツに着替え、ロビーで待ち合わせていたゼラと合流する。

 一輝達がホテルから出ようとすると、普段会うインタビュアーと全く毛色の違う、ゴシップ記者のような男達が待ちかまえていた。

 「天宮瞬さんのお兄さんの天宮一輝さんですよね?

 急性アルコール中毒にした峯岡さんへの保護責任者遺棄致死事件について何かコメントはございませんか?」

 カメラを向けてくる男に対し、一輝が睨む。

 「私の弟は無茶な呑み方をしませんし、強要もしませんよ。

 それに弟は医学生として蘇生も試みたはずですよね。

 それなのに何故事件などとおっしゃるのですか」

 一輝の迫力に記者がたじろく。

 その隙に二人は待たせていたタクシーに乗り込んだ。

 

 上層階の窓からその様子を見ていたパンドラは、兄弟が暫く面倒くさい連中に追い回されるであろう事に溜息をついた。

 そして部下を念話で呼ぶ。

 「ラダマンティス、その後何か動きは?」

 「は、あれから怪しい小宇宙も感じませんし、何事もなかったかのように平穏です。

 念のため、冥蝶は死体安置所に飛ばしてますが」

 「では、今から城戸邸に向かう」

 ホテルのフロントに明朝のモーニングのキャンセルを伝え、タクシーに乗った。

 

 「社長、朝からお疲れ様です」

 一輝が事務所に着くと、一斉に挨拶がなされた。

 「それにしても、あの天宮瞬くんが弟さんとは、全然想像がつかなったですよ」

 藤田が素直に驚く。

 「そもそも大っぴらに宣伝したら、お互い変な枕詞が付けられる可能性が高いしな」

 ゼラが他の事務員にも分かるよう英語で

 「というか瞬のやつ、相変わらず事件やら事故やらに巻き込まれすぎですよね、一輝様。

 どんだけ不運の持ち主なんだか」

 「ゼラさん、どういう事です?」と藤田。

 「ゲームで例えたら、一般人の『運のよさ』を50ぐらいだとすると、瞬は多分1あるかどうかぐらいかと」

 ゼラが笑いながら言う。

 「…まあ否定はしないが」と一輝。

 聞いていた事務員全員がくすくす笑った。

 

 「では今日も午前中の国会での公聴会に藤田さん、同行を頼む」

 一輝は結果ありきで開かれる公聴会に意味があるのかと思いつつも、知名度と発言力を上げる為と割り切って事に望んだ。

 

 国会内はさすがに追いかけて来ないが、それでもタクシーを追尾する車もあり、外で昼食をとれる雰囲気ではなかった。

 同乗している藤田は

 仕方なく事務所に戻り、買ってきてもらったコンビニ弁当を食べる。

 「すまんが少しテレビを付けるぞ」

 普段はプロジェクターとして使われているそれに、報道番組が映った。

 ゲストの芸能人達は瞬が無理な呑み方をさせるような人ではないと証言し、呼ばれた医療専門家も瞬達の初動は完璧だったと褒めていた。

 やはり社長は弟の事を気にかけているんだと、皆が感じた。

 

 その最中、瞬から一輝に念話が入る。

 大学に迷惑がかかるから暫く授業をリモート参加にすると頼み、了承を得たとの事だった。

 「一応ネットの火消しはさせるが、数日はかかるぞ」

 「ありがとう兄さん

 それと新興宗教の事だけど、似たようなのは芸能界でもあると思う。

 実際周りに改宗したとかいう噂も聞いた事あるかな」

 「宗教の名称は分かるか?」

 「僕の所には勧誘来てないからな。

 デビュー半年から一年の、自分の立ち位置に迷いがある人の所に来てたみたいだ。

 ただ峯岡さんは僕とほぼ同期で、アイドルとして自信も持ってたから、宗教勧誘はされてなかったはず。

 今晩は通夜に参列するつもりだから、参列する人たちを視てみるよ。

 本当は他人のプライバシーを覗くのは嫌なんだけど」

 「それは立場上仕方ないだろう。

 ゼラにも調べさせてるから、後で情報のすり合わせをしておくんだな」

 「了解、兄さん。

 あと、アイアコスから報告あった『神殺しの武器』についても動いてくれてるんでしょ?

 多分パンドラさんでは武器の強さまでは見分けられないだろうから、出来れば沙織さんとジュリアンの分も確保してくれるかな」

 「元よりそのつもりだ。

 競り合った場合の事もあるからな」

 

 報道番組が終わったので一輝はテレビを消す。

 「それでは俺は今からマカオに向かう準備をする。

 戻るのは明日の昼頃になると思うのでそのつもりで」

 そう伝えるとホテルに戻っていった。

 

 一方、城戸邸についたパンドラとラダマンティスは、沙織と念話でジュリアンとのやり取りをしていた。

 「分かった、そのオークションの日時が分かり次第教えてくれ。

 それでは引き続き、バイアン達と連携を頼む」

 ギリシャは深夜なので、ジュリアンとのやり取りを手短に済ませた。

 パンドラはラダマンティスに指示をする。

 「今日瞬は通夜とかいう葬儀前の儀式に参列するらしい。

 なので、余計な連中が近づかぬようガードしておくように」

 「はっ」

 「あと、瞬の前で峯岡梨佳が死んだのは恐らく偶然ではなく、何者かの意図が働いていたはずだ。

 不振な動きがあった場合も能動的に判断せよ」

 そう命じると、各々瞬間移動で次の場所へと向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。