人とは何ぞや   作:オオタ キム

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30. 通夜

 「故 峰岡梨佳 儀 葬儀式場」

 そう書かれた看板が掲げられた葬儀場に続々と弔問客が入っていく。

 そして遠巻きに記者やカメラマンがその様子を取材している。

 

 受付として立っているのは、峯岡が所属していた芸能プロダクションの職員である。

 「心よりお悔み申し上げます」

 ブラックフォーマル姿の瞬は受付に挨拶し、袱紗から出した香典を手渡してから、芳名帳へ記帳した。

 「本日はお忙しい中、ありがとうごございます。

 最後の瞬間まで峰岡の事を…」 

 受付が落涙しそうなのを堪えてお辞儀するのを見て、瞬もつられそうになる。

 しかし今日この場に来たのは、故人を悼む為だけではないのだ。

 唯我独尊の二人はまだ来てなかった事に少し安堵し、受付の近くで来るのを待つ。

 「よう、昨日ぶりだな」

 桂田が伏し目がちに瞬へ挨拶する。

 「良ければ、一緒に行きましょう」

 二人は頷いて、隣同士の席に座る。

 終わった後に記者に同じ囲まれるのなら、人数が多い方が良いと唯我独尊の二人は考えたのだろうが、瞬の思惑は違う。

 自分に関わった人間が狙われる可能性を憂慮し、出来るだけ近くにいたかったのだ。

 

 着席後周りを見回すと、峰岡と同じグループメンバーが前方で泣きじゃくっていた。

 その他は彼女らのプロデューサーやプロダクション関係者、テレビ局各局の関係者、同じ芸能界仲間など見知った顔が殆どである。

 「天宮さん、隣失礼します」

 座ったのは、去年読モからタレントになった谷山ひかり。

 以前から峰岡のファンだと公言してた子だったかなと思いながら会釈する。

 

 暫くすると読経の声と共に、僧侶が入ってきた。

 瞬は前任の乙女座であるシャカから貰った本格的な数珠を左手に持ち、静かに瞳を閉じて祈る。

 いや、祈っているふりをして魂を視ているというのが正解か。

 冥王の小宇宙をその場に広げる。

 『この場に神が降臨された』『どのお方でしょう』

 複数の小宇宙が沸き上がると同時に、そんな意思が瞬に流れこむ。

 その中には明らかに神のものと思われるものも交じっていた。

 これ以上続けると自分がハーデスであることが露見する危険性が出ると直感し、打ち切らざるをえなかった。

 

 読経は続く。

 今度は聖闘士として、己の小宇宙の見えざる鎖で探りを入れる。

 鎖が反応するも、どこから発せられているか掴みきれない様子で蠢いていた。

 そんな時、氷河から憑依された女の情報が入ったのだ。

 恐らく一つは彼女のものだろう。

 この場で誰かというのは特定出来なかったが、複数人いたという事実だけでも収穫とせねばならないか。

 

 会場近くにはゴードンとクィーンが同じくブラックフォーマルで警戒に当たっていた。

 入場するまで一緒にいたのを見ていた記者が話しかけてくる。

 「あなたはホーリークィーン社から依頼された、天宮さんのボディガードか何かですか」

 日本語だったのもあり二人は無視する。

 そして葬儀場近くの道路にはファンと思われる若者が多数集まっているのを確認した。

 その中にな一部「りんりんは唯我独尊や天宮に殺されたんだ!」と叫ぶ男もいた。

 会場内の瞬が探りを始めたようだと、感づく。

 と同時に、若者の一団の中からも小宇宙が沸き上がった。

 これは何かあるとクィーンはゴードンに目配せし、一団の中へと入っていく。

 「なんだ、外人のにーちゃんもりんりんファンか?」

 りんりん愛してるよ、と書かれたプラカードを掲げた一人が話しかけてきた。

 肯定の意味で首を縦に振る。

 「なら、一緒に追悼集会だな」

 とクィーンは肩を組まれて引き込まれた。

 

 「なあ、このにーちゃんもお仲間だって」

 「本当か? 英語なら通じるかなあ」

 などとその集団内で会話される。

 「りんりんのどういう所が好きなんだ?」

 一人が英語で話しかけてきた。

 直前に峯岡梨花がどういう人物だったかは動画で確認していたので

 「歌とダンスが上手な所とか」とクィーンが答える。

 「うーん、それだけじゃ真のファンとは言えないな。

 バラエティー番組での切れ味鋭いコメントとか。

 ってもう二度と聴けないんだよな…」

 死去した事実を改めて気付いたらしく、嗚咽し始める。

 本当に大好きだったんだろう。

 その男からそっと離れ、小宇宙が感じたあたりに向かう。

 そこには瞬や二人組の男の写真にナイフを何度も突き立てる男達がいた。

 「あ? 何見てるんだよ?

 こいつらは呪い殺さないと気が済まないんだ」

 一人がこちらを睨みなが、スラング混じりの拙い英語でつぶやく。

 もう一人は小宇宙を燃やしながら「六毒大神(りくどくたいじん)様、こやつらに災いを」と言いながら、漢字のようなものが書かれた小さな紙切れのようなものを二人の男が映っている写真の上に置いた。

 

 バチッと大きな電撃のような音が唯我独尊の二人の頭上から聞こえた。

 二人は驚いて椅子を蹴倒して尻餅をつく。

 今まで静寂だった会場が一気に騒めいた。

 その実、瞬の鎖が反応して何らかの襲撃を防いだ音だ。

 瞬は音が聞こえた方を睨みつける。

 今まで読経していた僧侶もまた立ち上がり、唯我独尊の頭上を見上げていた。

 「君が彼らを守ったのかね?」

 穏やかな声が念話で話しかけてきた。

 瞬が身構えると

 「ああ、自己紹介が先だったね。

 今、君の前で読経している野中隆寛(かんえい)です。

 私は法力を少々持ってましてね。

 君はどこかの神の闘士かな?」

 「その通りです。

 僕はアテナの聖闘士です。

 貴方もこの事件を追っているのですか?」

 現状、敵味方が分からないので、そこで会話を打ち切った。

 

 その時、葬儀社の職員がマイクで皆に伝える。

 「皆様おちついて席にお座り下さい。

 式を続けさせていただきます」

 僧侶も席に戻り、読経を続ける。

 隣の男二人は落ち着いた表情に戻って席についたようだ。

 反対の席の谷山は「くそっ」と呟いたのを瞬は聞き逃さなかった。

 ほんの少し、神力を使って魂を視る。

 漢字らしき文字が書かれた紙切れと自分たちが映っている写真を持つ男の映像が流れ込んできた。

 

 焼香の順番が回ってきたので席を立つと、幾人かは睨んできたが、仕方ないと思って焼香台に向かう。

 隣で谷山が抹香の代わりに不思議な光を放つ数珠を香炉にくべようとする。

 瞬が何かに気づき、慌てて彼女から数珠を取り上げた。

 そして小さく、しかし力強く咎める。

 「何をしようとしてるんですか!」

 「あんたらが殺したりんりん姉さまを生き返らせようとしただけよ!

 何故邪魔をするのよ!」

 大声で谷山が叫ぶ。

 焼香台前で揉めている様子にまたざわつき始める。

 瞬がスタッフに目配せしすると、葬儀場スタッフがやってきた。

 抱えられて谷山が連れ出される時、すれ違いざまに瞬は

 「これは預かっておきます。

 後で話をさせてください」と伝えた。

 谷山の数珠を瞬が確保したまま席に戻ると、親指を少し噛み、血を滲ませる。

 その数珠に塗ると、赤い血が霊血の青へと変色する。

 やはり神に連なる道具であった。

 詳しくは冥界に持ち帰り、ハーデスに直接視てもらう必要性を感じた。

 

 様々な混乱があった通夜がようやく終わる。

 やはり記者に取り囲まれるが、騒ぎの事もあったのかすぐに彼らから離れていった。

 クィーンは紙と写真を持つ男の後を追っていると、ゴードンが伝えてきた。

 僧侶の野中と連絡を取り合うかどうかも含め、この後沙織達と相談する事に決めた。

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