廬山五老峰にある一軒家を、男女が訊ねる。
ラフな格好に着替えた一輝とパンドラだ。
何もなければ直接瞬間移動で来るのだが、中国へは「社長」としての訪問なので、上海で一旦入国手続きをし、さらに瞬間移動で五老峰までやってきたのだ。
「一輝さん、パンドラさん、お久しぶりです」
岩の上で人差し指一本で逆立ちしていた梓豪が二人に気付き、ギリシャ語で挨拶する。
「久しぶりだな、梓豪。
紫龍を呼んで欲しいんだが。
あとこれは土産だ。
皆で食べて欲しい」
一輝が伝えると梓豪は立ち上がり、土産の果物が沢山入った籠を受け取った。
「はい、それでは
そう言うと、籠を持って二人を家へと誘った。
居間に通された二人の前に、春麗がお茶を運んできた。
翔龍も一緒に先ほどの果物を皿に乗せて運んでくる。
「一輝さん、パンドラさん、こんにちは!」
「お二人共、遠いところわざわざありがとございます」
「いや、私達が来た方が安全だったのもありますし、気にしないで下さい。
それより体調は大丈夫ですか?
悪阻が酷いとは伺ってましたが」
パンドラが訊ねる。
「ふふ、その日次第ですね。
でもその分、私の中の新しい命を感じられて嬉しいんですよ」
そういいながらおなかをさする春麗を、パンドラは少し羨ましそうに見つめた。
「俺ももうすぐ兄貴になるんだから、早く守れるほど強くなりたいんだ!」
一輝とパンドラは二人とも兄姉なので、その気持ちを理解出来るようだ。
「少し待っててくれ、今、老師が遺した本を探している所だ」
書庫代わりの部屋から紫龍の声が聞こえた。
「紫龍、あまりお客さんを待たせないようにね」
部屋から紫龍が出てくる。
「待たせたな、それではこっちに来てくれ」
一輝を書斎へ招き入れた。
「まずはこれが王虎から預かったUSBメモリだ。
行方不明者と、警察がマークしている宗教団体の詳細データだそうだ」
そう言いながら、一輝に黒い棒状の物を渡す。
「了解した、すぐに確認させよう」
そう言うと、一輝の手元からメモリカードを瞬間移動で送った。
紫龍は席に座り直し、続ける。
「確かに道教系は最近盛況で、俺も都市部に出る度に祈祷してるのを見かけるな。
大半は占いだと思うが、反魂も教義的にあり得なくもない。
宗派はほぼ無限にあるから特定までは俺も出来ないかったがな。
そこでだ、老師が遺して下さった本から特に生死に重きを置いていると思われる宗派をピックアップしておいた。
この中に該当するものがあれば良いんだが」
そう良いながら、さらに一輝に附箋が数カ所ずつ付けられた数冊の線装本を手渡す。
「すまんな。
それではこの本も借してもらおう。
なに、すぐ返すようにする」
「あと動く死体みたいな奴だが、同居人は違和感に気付かないようだ。
風邪が長引いて声が枯れてるぐらいの感覚らしい。
もっとも何らかの圧力でそう答えてる可能性もあるがな」
一輝はふむと考え、彼らの住所を教えて貰った。
待っている間、パンドラは梓豪に軽く稽古をつけることにした。
といってもパンドラは徒手空拳を出来ない。
普段紫龍がやらないであろう、対超能力の攻撃の回避を経験させるのも悪くないであろうと考えたのだ。
パンドラの放つ電撃を次々と梓豪がかわす。
「どうした、こんなものか?
もっとスピードを上げるぞ」
梓豪が直前にいた場所に穴が空いていく。
「パンドラさん、これ以上は難しいですって!」
「喋ってる暇があるなら敵の攻撃に集中しろ」
その様子を少し離れて見ていた翔龍が
「パンドラさん、かっこいい」と呟いた。
紫龍と一輝が部屋から出ると、屋外の三人を呼び寄せる。
「はぁはぁ、パンドラさん、ありがとございます」
梓豪が息を切らせながらお辞儀をする。
それを派手にやったなと紫龍が見ているのをパンドラが気付く。
「心配するな、今戻す」
片手をかざすと、地面の穴が元通りに戻っていった。
「梓豪の事、ありがとございました。
それで、晩ご飯は食べていかれますか?」
春麗が訊ねる。
「お誘いありがとございます。
しかし、夜はマカオで用事がありますので、これで失礼しようかと思います」
パンドラは丁寧にお辞儀する。
「それでは春麗さんもお身体にお気をつけて」
「一輝、沙織さん達の事を頼んだぞ」
「紫龍も引き続き調査を続けてくれ」
「また稽古を宜しくお願いします」
四人が見送る中、二人は瞬間移動で消えていった。