「護衛ご苦労さん。
沙織さんに行けって言われてさ」
通夜会場近くにいるゴードンの所に星矢が合流する。
「今、瞬はハーデスの魂と離れているんだよな?」
と星矢。
「ああ、すぐ戻れるよう繋がれたままではおられるがな。
冥界で活動なされる分にはハーデス様は肉体を必要としない。
瞬が通夜で見つけたとかいう数珠と、アイアコス様がアイザックから受け取ったノートをお調べになるとの事だ」
そこにブラックフォーマルから、帽子を被りカジュアルな格好へ着かえた瞬が合流する。
「ゴードン今日はありがとう。
星矢も来てくれたんだ。
クィーンは追いかけてくれている最中なんだよな?
万が一があるといけないから、シルフィードにも同行するよう伝えるよ」
そう言うと、瞬は念話でシルフィードに要請した。
念話している最中、人影が近づいてくる。
読経時の正装から略装に着替えてはいるが、僧侶の野中だ。
念話時と同じ穏やかな声で星矢達に話しかけてきた。
「天宮くんとは先ほど念話で話しましたね。
他の方々はどうも初めまして。
先ほどの通夜で読経させていただいた野中隆寛です。
法力のような、ああ貴方がたの表現では小宇宙でしたか、そういう力を感じるのですが、やはり皆様聖闘士ですか?」
「一人ちが…うぐぐ」
星矢が冥闘士の事を伝えようとしたのであわてて瞬が口を押さえる。
「はい、みんな聖闘士です」と瞬が答えた。
「隠さなくてもいいですよ。
少なくともそこの彼は冥闘士でしょうし」
扇子でゴードンの方を指し示す。
緊張した顔で瞬が「…お話を伺いましょう」と続けた。
「何、単純な事です。
私は宗派本部の中でも以前、冥闘士とやり取りする部門にいただけです。
ラダマンティスさんは私の名前を把握しておられると思いますよ」
直接の上司の名前を聞いたゴードンは納得する。
「しかし天宮くんが当代の乙女座なのは驚きました。
歴代乙女座は仏教と密接に関係ありますから。
ああ、天宮くん自身はキリスト教徒でしたね」
「知識と技能は引き継ぎましたが、改宗まではさすがに。
教会で育てられた経緯がありますから」
瞬が言う。
「でも安心しました。
当初、ハーデスが人間に道具をばらまいたのかと私どもは考えたものですよ。
でも聖闘士と冥闘士が共同で調査してるのならその線はないですね」
野中は安心した様子だった。
「りんりん姉さまを殺した奴、みつけたわ」
瞬の首が急に掴まれる。
にたりと笑う谷山だ。
仮にも黄金聖闘士が瞬間移動で間合いに入られるとは不覚。
いや、何らかの神が憑依しているのなら納得がいく。
普通の人間ならありえない力でどんどん締め付けてくる。
「くっ…!」
外そうと星雲鎖で谷山を攻撃するが、電撃のようなものではじかれる。
野中も法力が応戦しようとするも、跳ね返されて吹き飛ばされた。
「俺がやる、瞬!」
星矢が谷山に向かって流星拳を放つ。
谷山が慌てて攻撃をよけ、瞬の首から手を離した。
「お前、ただの人間ではないな?
さては『神殺し』?!」
星矢はアテナの守護者にして当代の神殺しの聖闘士である。
「神殺し」の渾名がついているが、本当に神を滅する力がある訳ではない。
しかし人間としてはありえない能力、即ち神に直接傷を与える、アテナ最強の守護者なのだ。
「だとしたらどうした!
お前こそ何の神だ?!」
「お前ごとき人間に名乗らないわよ」
星矢が対峙して時間を稼いでる間に、ゴードンがグランドアクスクラッシャーの要領でハーデスの護符を谷山の背中へ投げつける。
「な、何故冥王の護符が」
「相手が悪かったと思う事だな」
谷山の体から魂のようなものが抜け出るのが見え、彼女はその場に倒れた。
「ひとまずこの女から離れて次の機会に… 何?!」
いつの間にか瞬の手元にあった小箱のようなものにその魂が吸い込まれていく。
「ハーデスが本気になる前に何とかしないと、僕では抑えきれなくなる」
碧い目をした瞬は手元の小箱を見つめて呟いた。