人とは何ぞや   作:オオタ キム

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33. 賭場

 ホーリークィーン・マカオにあるカジノバーを模したVIP室。

 上品なイブニングドレスを着こなす美女が、タキシードの男にエスコートされ入室する。

 「一輝様、ようこそお越しになられました」

 盲目の兄エリクと、その弟ヘンリクのマズル兄弟が出迎える。

 「天宮社長が直々にお越しになるとは」

 「隣におられるのは、もしかしてハインシュタイン女伯?」

 二人の姿に気づき、次々と挨拶にくる高額プレイヤー(ハイローラー)の面々。

 ひとしきり挨拶の波が収まると、二人は隅にあるバーカウンターに座り、パンドラはサイドカーで、一輝はマミーテイラーで乾杯し、カジノに興ずる面々を眺めていた。

 二人とも読心術を駆使して誰に接触すべきか探索していたのだ。

 

 グラスが空になると、パンドラが意を決したように立ち上がる。

 「それでは楽しんでくるわ」

 とルーレットがあるフロア中央部へと消えていった。

 それを追加注文したウォッカ・アイスバーグを飲みながら一輝が見送る。

 「一輝様、こちらを」

 直後、ヘンリクは封筒を渡すとすぐに傍を離れた。

 それをクラッチバッグにそれを入れるそぶりをして瞬間移動させる。

 内容はここ数か月出入りした新興富裕客と彼らに接触したコンサル・啓蒙家等のリスト。

 エリクはその間、あたりを警戒する。

 盲目故にその場の意思が見えるのだ。

 

 「隣よろしくて?」

 一輝の隣に大胆なスリットが入ったドレスの女が少し酔った様子で座る。

 父親が不動産投資で財を成したという()欣妍(きんけん)だ。

 ルーレットテーブルの方から歓声が聞こえてきた。

 翡翠の透かし彫りのネックレスを触りながら

 「パンドラさん、相変わらず豪快な掛け方ですよね。

 それでは儲からないのに、まるで分かってらっしゃらない」

 コロネーションを口に運びながら、一輝に話しかける。

 「天宮社長、あんな女より同じアジア人同士仲良くしましょうよ。

 何なら父亲(ちち)に頼んで、ハインシュタイン社以上の株式を買ってもらおうかしら」

 一輝に艶っぽくしなだれかかる。

 「ご提案ありがとうございます。

 しかしこれ以上、株式発行しませんがね」

 拒否を示すかのように少し距離を取る。

 「あら残念。

 でも私はもっと貴方を知りたいの。

 泊っている部屋にいらしてくださる?」

 さらに近づき、手を握ってくる。

 「それは遠慮願います。

 ここで一緒に飲む分には付き合いますが」

 そっとその手をふりほどく。

 今日の欣妍はどこか様子がおかしい。

 普段の彼女は派手な服装をせず、勘が鈍るアルコールも飲まずに黙々と一人勝ちを目指すような客だったはずだ。

 そんな彼女が、パンドラを批判したり一輝を誘惑してきたりしてくる事に違和感を感じた。

 

 ルーレットテーブルには人だかりが出来ている。

 その中心にいるのはパンドラその人だ。

 ディーラーが番号を宣言すると、パンドラの前へうず高く積み重なったチップが押し出される。

 彼女はすぐにそのチップをベットする。

 その美しい西洋人の所作は皆の注目を集めた。

 「あの額を躊躇なくベットするとは」

 「こういう掛けが出来るなんてさすが」

 地元の名士達がざわついた。

 

 一方、一輝たちが入室した時の喧騒に気づかず、小柄でふくよかな男、()雲嵐(うんらん)がバカラテーブルの席で延々とプレイしていた。

 場に配られたカードを慣れた手つきで(スクィーズす)る。

 バンカーの勝ちである。

 プレイヤーに掛けた男のチップが回収される。

 「くそっ」

 苛つきながら席を立った。

 その時ようやくルーレットテーブルの歓声に気付く。

 「あそこの美女を知っているか?」

 人だかりの中心にいる女について、隣に座っていた友人に尋ねる。

 「見覚えがあるんだが、誰だったかな」

 雲嵐はなめ回すようにパンドラを観察する。

 「しかし見れば見るほど綺麗な顔といい、大きなバストといい、妖艶な美女だ。

 見た感じ、まだ20代前半というところか。

 僕の愛人にしてやっても良いな」

 そう友人に言いながらパンドラの近づいていった。

 

 パンドラが溜まったチップの両替(カラーアップ)をし、休憩しようと席を立つ。

 移動を阻むように自分より背の低い男が立ちふさがる。

 「失礼、私は休憩したいのでどいてくださいます?」

 「いや、僕は君に用事があるんでね。

 単刀直入に言う、君と愛人契約をしたい」

 そういいながら金色の財布から500HKDの札束をちらつかせた。

 パンドラは蔑むような目つきでその男を見返す。

 そのやりとりを見た客が雲嵐の肩を叩いて

 「お前バカだな。こんな端金で落とせるとでも思ってるのか?」

 「100万HKDだぞ、大金ではないか」

 「本当に彼女の事を知らないんだな。

 ハインシュタイン社のオーナー様だぞ」

 ひっと雲嵐がのけぞる。

 その気になれば、自分の会社を潰されるのではいかという恐怖を覚えた。

 パンドラがその男を見下しながら

 「愛人契約の話は聞かなかった事にしてあげましょう。

 ただし、条件があります。

 明後日行われるという『商談』に私も友人と参加したいのですが、席を用意してくれませんか?」

 「ひぃぃ、わかりましたわかりました。ご用意しますよ」

 記憶改竄も辞さないつもりでいたが、その手間が省けるというものだ。

 

 欣妍は一輝の隣でカウンターに突っ伏していた。

 周りからは酔って寝たように見えるが、実際には超能力を使って眠らせたのである。

 ブランケットを掛けてやりやり、医療班へ連絡を入れる。

 そして待っている間に彼女の記憶を覗く。

 父親があちこちの啓蒙団体と関わっている事。

 そしてやたら触っていたネックレスは一昨日、父親から誕生日プレゼントとして身につけるよう言われていた事。

 そしてそれ以降性格が前向きになった事。

 

 パンドラがバーカウンターへ戻ってきた。

 「こちらはオークションの参加権を4人分確保した。

 って彼女は?」

 一輝が事情を説明する。

 「なるほど、それが疑惑のネックレスか」

 パンドラが彼女の方を見やり、ハーデスの護符を近づける。

 透かし彫り部分にひびが入る。

 「恐らく彼女の性格は戻るだろう。

 だが…」

 ネックレスに力を付与したのは父親の関係者だろうか。

 

 瞬間、日本で戦闘が行わてる小宇宙を感知する。

 「瞬?!」

 弟がやられそうになるのを感じ、顔が一瞬険しくなる。

 パンドラは大丈夫だと言うも、ハーデスが地上の、それも結界外にて顕現したことに驚いた。

 「明朝までここにいるつもりだったが、あまり悠長にはしてられないか。

 私は一旦日本に戻った後、冥界に降りる。

 ハーデス様のサポートに入る必要ありそうだからな」

 「了解した。

 瞬の事を頼むぞ」

 依代として完全にハーデスへ肉体を委ねるであろう弟の事を託した。

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