住宅街にスポーツカー特有の豪快なエンジン音が響く。
回転数を落として走行しているのでその車にしては静かに走っているのだが、それでもマフラーから漏れる音は一般車より煩いであろう。
「夜だと近所迷惑だよねーこの車」
隣に座る心愛が友人の家までナビしながら運転手の氷河に話しかける。
後部座席にはりぼんはスマホを弄りながら、真夢はうとうとしながら座っている。
「あ、ここがりぼんの家だよ」
言われた家の付近に車を停めると、氷河は一旦降りて運転席を倒し、降りられるようしてやる。
「氷河先生、ありがとう。
私にも家庭教師になってもらいたいけど金持ちではないから、時々心愛の家で待ち伏せしとくわ。
授業前に見るのはタダだでしょ」
「俺の家ではないから、心愛さんに聞いてくれ」
「ということで心愛、家庭教師の日時今度教えてよ」
「うん、不定期に頼んでるからまた決まったら連絡入れるねー」
手を振りながら玄関に入っていった。
心愛の家の方面へ向かう。
「真夢の家、あの公園の横なんだよね。
翌日とか記者に聞かれまくって大変だったとか言ってたよ」
「了解、なら公園方面に向かうぞ」
やはりあの公園には何かあるのだろう。
まずは二人を無事届けてから公園へ戻ろうと考えつつ車を走らせる。
公園に到着し、エンジンを止める。
「せんせー、あそこの『
って、ちょっと真夢、大丈夫?!」
後部座席を見た心愛が声を荒げる。
いつの間にか起きていた真夢が、公園の立入禁止テープで巻かれた滑り台の方を見ながらがたがたと震えていた。
氷河は心愛に真夢の家族を呼んでくるように指示し、氷河は真夢を後部座席から抱き上げた。
体がとても冷たい。
「私、怖い…」
氷河の首に腕を回して抱きついた。
心愛が真夢の父親とおぼしき男性とこちらへ戻ってくる。
「おじさん、真夢が大変なのよ?!」
小走りになって公園に近づく心愛。
「真夢、失敗したのか?
駄目じゃないか」
後ろからついてきた男は虚ろな瞳で娘に話しかける。
そして発せられる小宇宙は公園で死体を発見した時と同じものだ。
真夢は氷河の腕の中で父親を見て震えている。
「貴方は、いや、お前は何者だ?!」
氷河が真夢を抱えたまま、小宇宙を高める。
真夢の体温が氷河の小宇宙によって温められ、少し安心したような表情に変わっていく。
「聖闘士だろうとは思っていたが、まさか黄金とは。
気づかれたはずだ」
言葉では驚いた風だが、男の表情は全く変わらない。
「おじさん、どうしたんだよ。
氷河せんせーもセイントって何?」
「心愛さん、真夢さんを頼む」
そういいながら真夢を心愛の横にそっと降ろした。
心愛は真夢に抱きついて落ち着かせようとする。
それを確認した氷河は、氷の
「今から起こるを事をくれぐれも他言しないで欲しい」
二人に言いくるめると、氷河の上に水瓶を捧げた女性の様な黄金色のオブジェが現れる。
それが分解し、氷河の体に鎧のようなものが装着される。
心愛は驚きつつも目を輝かせ、思わず「かっこいい」と呟いた。
「水瓶座の黄金聖闘士、当代の水と氷の魔術師、か」
「貴様の魂はともかく、肉体は真夢さんの父親のものだ。
傷つけるわけにはいかないから手早く済ませるぞ」
男に向けて指さす。
「カリツォー」
そう氷河が命ずると、複数の氷の輪のようなものが男の周りにまとわりつき、動きを拘束する。
男は芋虫のように地面でのたうち回りながら氷河を睨みつけた。
氷河は男の動きを確認しつつ、滑り台にアテナの護符を近づける。
すると階段のあたりの地面が崩れ落ち、桐箱のようなものが現れた。
それを氷河は拾い上げ、男に近くで箱の蓋を開ける。
「な、うぉぉぉぉ…!」
男から魂のものが浮かび上がり、箱にみるみる吸い込まれる。
それが終わるとひとりでに桐箱の蓋が閉じ、急いで先ほどのアテナの護符を蓋を跨ぐように張り付けた。
氷河が真夢の父親のカリツォーを解く。
同時に氷河も聖衣を解除し、先ほどの服装に戻った。
父親は先ほどと一変して、どこにでもいる中年男性という風体である。
「氷河先生、お父さんを戻してくれたんですね。
ありがとうございます」
すっかり元気になった真夢は、うっすらと涙をためながら氷河の手を取る。
「別に俺はやるべきことをやっただけだ。
しかし、君と父親に何があったのかは教えて欲しい。
人死にを増やさない為にもな」
公園を元に戻した後、母親が出張中で駐車場が空いているというので、真夢の家に自動車を停める。
話を聞きたいという氷河の為に、真夢は二人を家へ招いた。
氷河は父親をソファに横たえると、リビングの椅子に座る。
真夢と心愛は一緒にお茶屋やお菓子を用意して持ってきた。
お菓子を並べながら「さっきの綺麗な鎧姿、カメラに撮っとけばよかった」と心愛。
「他言するなとさっきいったばかりだろ」
氷河は相変わらずだという表情を浮かべる。
向かいに二人が座ると、真夢は顛末を語り始めた。
「で、お父さんと私の事でしたよね。
お父さんは小説家なんですけど、取材以外では夜の散歩ぐらいしか基本家から出ないんですよ。
で、朝のニュースで見た時だし、死体が出た翌日だったかな。
夜の散歩から帰ってきた時、その箱を持ち帰ってきたんです。
これ何って聞いたら『幸せになる箱をファンから貰った』とか言ってた。
たまにファンから良くわからないものを送り付けられてくるから、今回もそうかなと私は気にしなかったんです。
はじめは蓋の開け方が分からないとか言ってたんだけど、天宮君グッズ買いに行く直前にはお父さん、蓋を開けてたかな。
そのあとから様子おかしかったかも。
普段なら『早く帰れ』とか小言を言ってくるのに、その時は『するべきことを成すように』とか言ってたんですよ」
「なるほど、それで君自身はどうだったんだ?」
「私はテレビ局のショップででノートを手に取ったところまでは覚えてるんだけど。
そのあとはごはん屋さんの所まで記憶飛んでるなぁ」
瞬が何かしらの神の依代である事は、神の魂に見破られた可能性がある。
そして憑く先に選んだのが、箱の発見者との関係者。
桐箱の魂とテレビ局近くの魂はきっと何らかの繋がらりがあり、手に取った瞬間にそのその呪術的な紙が張り付いたとみて間違いなさそうだ。
そして目的は神の霊血か。
魂のみの神は、肉体を持つ神と比べると劣るので、神力が含まれる霊血を欲したのかもしれない。
氷河はそう考察した。
「うう、俺はなんでこんな所に寝てるんだ?」
ソファで倒れていた真夢の父親が少し頭痛をするという風にして目を覚ます。
「あ、お父さん大丈夫? 倒れてたんだよ?」
「おじさん、お邪魔してまーす」
「ああ、心愛ちゃん、こんばんは。
って真夢、男を連れ込むとは何事だ! それも外国人なんて。
顔がいくら良くたって本人の性格が良いとは限らんだろう。
現に真夢が追っかけてる天宮とかいうのも、よくネット炎上してるじゃないか」
氷河の方を見て一気に目が覚めたのか、こちらへ近寄ってくる。
「天宮くんの事を悪く言わないで!
あれは完璧すぎるが故の、やっかみのガセ情報ばっかよ!」
真夢が言い返す。
炎上しても関係ない人が傷つかない限り否定しない瞬も悪いと氷河は思ったが、何も言わずに聞き流す。
氷河は父親を落ち着かせようとして、ゆっくり挨拶をする。
「初めまして。氷河レベジェフと申します。
私は平田さんの家庭教師をしいる者です。
偶然近くを通りかかったので、お二人を車で送り届けさせて頂いた次第です」
深々と頭を下げる。
丁寧な物腰と流暢な日本語で面食らったのか、少し落ち着きを取り戻し
「ああ、そういうことでしたか。
こちらこそお見苦しいところをお見せし、すみません。
私は真夢の父の盛岡剛です。
ペンネームの盛岡岩梅の方が通りが良いかもしれませんが」
確か歴史小説家だったか。
氷河は興味がないから本屋で見かける程度だが、一輝ならきっと全冊読んでてもおかしくないだろうなと思う。
「盛岡さん、もう大丈夫ですか?
床で倒れられていたようなので、ソファの方に移動させていただきましたが」
「そうだったんですか。桐箱と格闘してた所までは覚えているのですが」
「で、その桐箱なのですが、すみませんが預かる事は可能でしょうか?
化学者のはしくれとして、何らかの毒物の可能性を感じまして」
口を閉めた透明なビニル袋に入っている桐箱を見せる。
「ああ、桐箱の中に毒物を仕組まれた可能性もあるのですか。
そうですね、まずは警察に連絡をって、あれ、誰から貰ったのか顔が分からない」
「ああ、無理せず大丈夫ですよ。
私が連絡を入れておきますから、今日はお休みになった方が宜しいかと思いますよ」
そう言いながら、警察へと電話を入れる。
当然後で、口裏合わせはしてもらうのを前提としているが。
少ししてパトカーが家の前に止まる。
警官が氷河の顔を見やると
「また君かい」
前回と同じ警官だ。
「今回もすみませんが…」
氷河が耳打ちすると、ため息をつきながら桐箱を預かるふりをしてくれた。
盛岡岩梅への聞き取りが終わると、警察は帰っていく。
氷河も遅くなると心愛の母親が心配するだろうと促す。
「それでは私もお暇させていただきます。
お邪魔しました」
氷河が挨拶する。
「じゃあ真夢もまた明日ねー」
「バイバイ、心愛、また明日」
「まぁ氷河君もなんだ、また遊びに来てくれたまえ」
岩梅は氷河の事を好青年と受け取ったようだ。
「ありがとうございます。
家庭教師のご用命ならいつでも。
院に行く予定ですので、まだ学生しておりますし」
氷河は軽く営業をかけると、家を後にした。
二人は車に乗ると、心愛の家に向かって出発した。
「おじさん、絶対真夢の彼氏候補だとか思ってそうだよね。
真夢もあの時抱き着いてたし、せんせー的にどーなのよー?
絶対胸当たってたしさー」
「あれは単純に恐怖から抱き着いてきただけだろ」
面倒そうに氷河は答える。
「というか、せんせーに彼女いてたり?
女性への扱い上手だし。
まぁりぼんが妄想してるみたいに彼氏はいないだろうけどさー」
「何故そこで『彼氏』発言が出る」
「で、彼女いるの、いないの?」
「ノーコメントだ」
そうこうしているうちに平田家に到着し家に入るのを見届けると、一旦自宅マンションの駐車場へ戻しに行った。