人とは何ぞや   作:オオタ キム

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36. 想定

 僧侶の野中は箱を抱えて瞬間移動で消えた瞬を見送った後、星矢に尋ねる。

 「天宮君は聖闘士なんですよね?」

 「そうだぜ、瞬は乙女座の聖闘士だ」

 「しかし、あの小宇宙は確かに大神、それもハーデスと口走ってたような気がするんですが」

 野中が問い詰めるような表情で星矢を見据える。

 星矢は少し悩むと沙織にどうするか念話を送り、確認する。

 そして星矢は野中に告げた。

 「これからの事は、誰にも言わない約束できるか?

 あんたの家族はもとより、教主とかも駄目だぞ」

 野中は星矢の圧に尋常でない事を感じ、口外しないことを確約した。

 「今から女神(アテナ)の所へ案内する。

 タクシーでいいか?」

 星矢は超能力が苦手であり、瞬間移動に第三者を乗せる力がない。

 ゴードンにどうするか尋ねると、仲間との合流後別行動をするとの返答だったので、一旦ここで別れる事となった。

 

 星矢が流しのタクシーを呼び止めると、住所を運転手に伝える。

 二人の間に微妙に緊張した空気が流れる。

 そうこうしているうちに、大豪邸の前で停車した。

 「本当にこのお屋敷なんだよね?」

 野中が東京都内にある豪邸に驚いた。

 星矢が支払いを済ませながら「こっちだぜ」と促した。

 星矢は門衛に軽く挨拶すると、慣れた様子で敷地内に進んでいった。

 本邸前の邪武が「星矢達か、お嬢様がお待ちだ」と、邸宅内へ案内した。

 

 広い邸宅内を野中がきょろきょろしながら、星矢は慣れた様子で進んでいく。

 「沙織お嬢様、二人をお連れしました」

 そう言いながら、部屋の扉に手をかけた。

 「邪武、ご苦労様でした」

 中から女の声が聞こえる。

 城戸沙織が立ち上がって二人を出迎える。

 「沙織さん、戻ったぜ。

 こっちがさっき言ってた僧侶の野中さんだ」

 星矢が野中の方を向き

 「あそこにいるのが俺たちの女神さ」

 野中が深々と頭を下げながら

 「法天宗の僧、野中隆寛と申します。

 お初にお目にかかります」

 「初めまして、野中さん。

 城戸沙織です。

 星矢達に協力していただいて、ありがとうございます」

 凛とした声が響く。

 慈愛に満ちた高貴な小宇宙をあたりを包む。

 顔を上げた野中は、テレビ等で見覚えのある名前と顔で驚いた。

 「まさかあなた様がアテナ様でしたとは。

 王の地位ではないとはいえ、大神が身近におられるとは思いもしませんでした」

 沙織は微笑みながら

 「とはいっても、普段は人間・城戸沙織として過ごすことが殆どですから、それほど緊張しないでください」

 「心遣い感謝いたします。

 ところで、本題に入ってもよろしいですか?

 あなた方がどこまで知っているのでしょうか。

 あと、ハーデス様はどういう方なのですか」

 野中が険しい顔で沙織を見返した。

 

 沙織は客人に着席を促し、メイドに茶を用意させた。

 「…そうですね、この事件に関して現状一番把握してるのはそのハーデスです。

 もう少しすると報告がくるとと思いますので、お待ちいただけますか?」

 橋渡し的に動いている一輝こちらに来るとの連絡が星矢達の到着前、沙織に連絡が入っていたのだ。

 「それとハーデスですが、あなたのご想像通り、瞬が内包するもう一つの魂です。

 通常、地上においてハーデスが前面に出る事はまずありません。

 ただ、先ほどは瞬自身に危害が及びそうだったので、緊急的に表に出たのでしょう。

 ハーデスは瞬の肉体と魂を大切にしてますから」

 「なら、アテナの聖闘士というのは?」

 「瞬の人間としての本来の魂はアテナの聖闘士です。

 とても重要な戦力ですよ。

 なので、聖闘士でありハーデスという認識で間違いありませんよ」

 「アテナの聖闘士を依代に選ぶとは…」

 野中が顎を撫でながらも納得いかなそうだった。

 「さあ、真意はハーデス自身にしか理由がわかりませんが…。

 現世のハーデスも含め、神の存在に関しては最高機密事項ですので、ご留意を」

 

 用意された茶を一服しながら、星矢たちとも情報交換する。

 「死体が動く事案から、生きた人間の乗っ取りですか。

 もしかしてですが、よくある『人間を生贄にしたら』的な考えだったけど、無駄だと気づいたんじゃいんではないでしょうか?」

 直接関わってないが故に客観的に事情を把握している邪武が意見する。

 「もしそうならこれ以上犠牲は増えないとは思いますが、それでもハーデスとしたら魂の上塗りですから看過できない事象でしょうね。

 何より自分の意思と違う行動をさせられるわけですし」

 沙織はまだ犯人像が絞りきれていない様子だった。

 

 突如、強大な小宇宙が部屋で感じる。

 星矢たちにとっては馴染みのあるものだが、野中は威圧感で思わず椅子から立ち上がった。

 ラフな格好に着替えた一輝だ。

 一輝があたりを見回すと、袈裟を纏った新しい顔が増えている事に気が付いた。

 「遅くなりました。

 沙織さん、あの男は?」

 「先ほどまで星矢達と共闘してくれていた、野中隆寛さんです」

 「初めまして、天宮一輝、さんですよね?

 野中隆寛と申します。

 数刻前まで弟さんが参加されていた通夜で読経を務めさせていただいたものです」

 さすがに有名人兄弟なので名乗らなくても把握されるらしい。

 「初めまして。

 この度は弟どもに協力していただいたようで」

 一輝も挨拶を交わす。

 「で、一輝、瞬はどんな感じだったよ?」

 星矢はやはり気になっていたようだ。

 「さあな。そっちはパンドラに任せてきたからな」

 そうは言いつつも、一輝が心配はしてなさそうな様子を見て、星矢達も安心した。

 

 「中国の警察が把握している情報と紫龍から預かった童虎の本のコピー、それと俺のカジノに出入りした資産家の情報のリストです。

 ハーデス側のはもう少しお待ちください」

 日本事務所でゼラに分析させ出力したものを含め、カバンから大量の資料を机の上に広げる。

 「まだ全然内容は精査出来てないが、今から手分けしてやるか?」

 「そうですね、早いうちに整理いたしましょう」

 沙織が言うと、一輝と邪武が様々な色の紐でウェビングを作成していく。

 「ほお、こーなってこーなるのか」

 星矢が理解しようと頭をフル回転させる。

 「感心してる暇あったらお前も手伝えよ」

 邪武につつかれるも、絶対絡ませるからと星矢は拒否した。

 

 「日本だけではなく、中国でも大々的に事が動いてるようですよね」

 完成したウェビング図を見ながら沙織が呟く。

 同じ反魂を目指す道教系宗派の人間が絡んでいたり、死体となったものが生前資産家と接触していたり、様々な関係性が見て取れる。

 「俺からしたら中国のが日本にも飛び火した感覚ですがね」

 一輝が肌で感じた感想を述べる。

 今まで見守っていた野中が口をはさむ

 「私が知ってる範囲の知識ですが、いじらせてもらっても?」

 ええ、と沙織が答えると、野中が紐を手繰る。

 「ここの宗派は実質あちらと同じですし…」

 項目がどんどん集約されていく。

 「こんな感じですかね」

 宗教の項目が実質3つに絞られた。

 その時、一輝にパンドラから念話される。

 それと同時に念写も手元に送られてきた。

 「ハーデスが示した神名と一致するな。

 あと、日本・朝鮮半島系もあるか」

 改良された図と念写された紙をスマホで撮影した。

 「沙織さん、念写の原本を預けますよ」

 そういいながら一輝は沙織に送られてきた紙を渡した。

 

 時刻が日を跨ぐ。

 野中が

 「そろそろお暇しようと思いますが、この図を上に報告するのは良いですか?

 聖闘士達が自力で導き出した事にいたしますので」

 「ええ、結構ですわ。

 ただ、最初に申し上げた通り、神々の正体については決して誰にも言わないように」

 「承知しておりますよ。

 明日も葬儀がありますので、何かあればご連絡下さい」

 そういいながら、沙織に名刺を渡す。

 「今日はありがとうございました。

 邪武、野中さんをお送りして」

 「お嬢様、了解致しました」

 「それでは失礼致します」

 二人は部屋を離れた。

 星矢は一輝の目配せに気づき、沙織に伝える。

 「多分勘では、日中は動きないと思うんだな。

 だから明日また夕方にこっち来るぜ」

 「分かりました、それではお疲れ様でした、星矢」

 そう言うと、星矢は瞬間移動で自宅に戻っていった。

 

 「みんな帰ったか」

 一輝が沙織と二人になるのを見計らっていたのだ。

 「で、沙織さん、本当に『闇』の方に直接出る覚悟はあるんだな?

 ジュリアンもパンドラも、当然俺も経営者としては清濁併せ持ってるし、強引な手法も行ってきた。

 だが、あんたは銀河戦争騒動のイメージダウンを払拭するために、クリーンな経営者像を保ち続けていたはずだ。

 何なら代理人を立てて裏から指示というのも…」

 「ご心配ありがとう。

 でも、私が闇オークションに出たなんて喧伝したら、その人も参加したのを証明したことになります。

 それ以上に、私を貶める為に流言蜚語を広めたのではと、誰も信じないでしょう」

 沙織が微笑みながら一輝に答える。

 多額の負債から見事、日本を代表する財閥へと見事復活へと導いただけあり、経営者としての肝の座り方が違う。

 「聞くだけ無駄でしたな。

 なら、こちらを渡しておきます」

 紹介者の所に「パンドラ・フォン・ハインシュタイン」の名が記載されたチケットと、参加に関しての簡易な説明が書かれたパンフレットを沙織に渡す。

 「俺も場にはいますが競りには参加しないので、そのつもりで」

 「その点はこちらも了承しております。

 参加者の動きなどの観察の方はお願いしますね、()()()()

 一輝は沙織に社長呼びされるのを想定してなかったのか、ふっと笑うと瞬間移動でその場から立ち去った。

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