人とは何ぞや   作:オオタ キム

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37. 顕現

 「…僕のほうは大丈夫。

 それじゃあ、ジュネも怪我には気を付けて」

 ジュデッカにある寝室の豪奢なベッドで目を覚ました瞬は、姉弟子であり、恋人でもあるジュネと念話していた。

 無性に会って抱きたいと思うのも、精神的に参っているんだろうなと枕を抱える。

 青銅聖闘士であるジュネは、危険な実戦任務につく頻度が高い。

 そんなジュネ達が現在任務にあたっているのは中東で起こった少女集団誘拐事件の解決。

 以前のように青銅のままだったら横に立てたのだろうなと考えたくもなるが、既に地位も己の肉体も自分だけのものでない。

 ただ冥界では自由に使えるハーデスの能力を使って少女達の居場所を伝える程度は冥王も黙認してくれていた。

 

 少し心が落ち着くと、抱えた枕を脇に押しやる。

 そしてサイドテーブルに乗った豊穣(アマルテイア)の角から溢れ出る果物をベッドに腰掛けたまま、ゆっくりと食べる。

 普通の人間にとってはただの滋養の高い果物である。

 しかしゼウスを育てたというその果物は、神が食せば神力を蘇らせる力を持っている代物なのだ。

 食べ進めるにつれ、失われた霊血が身体に戻っていくのを感じると同時に、瞬の瞳も碧く変わる。

 自分の意識が保てるギリギリの所で、食べるのを止めた。

 そしてパンドラが閻魔帳を調べているのを感じるとベッドから降り、マントを羽織って瞬は姉の近くへと移動した。

 

 「もう動けるのか?」

 瞬に気付いたパンドラが手を止める。

 「ええ、もう動けます。

 パンドラさんはもうお休みになって下さい。

 ここからは僕が」

 慌ててパンドラが傍に控える。

 瞬の瞳に碧く光が宿る。

 全てを受け入れような強大な小宇宙が場を満たす。

 パンドラは神の加護を受け、疲労がみるみる回復していく。

 と同時に、瞬とパンドラの情報を双方向的に共有される。

 目的となる情報が抜き出され、宙に浮いた文字がいつの間にか現れた冊子の上に定着する。

 瞬が険しい顔でそれを手に取ると、一ページずつ確認する。

 「これを冥闘士に共有してください」

 「はっ」

 確認し終わると、パンドラに手渡した。

 「ずっとPCを触っているという死人を見に行ってきます。

 動きがないのが逆に気になりますから」

 

 小宇宙を完全に隠し、帽子で一般人風に身をやつした瞬は、戻ってきたクィーンやゴードンらと合流する。

 「みんなありがとうございます」

 「お前の方こそ大変だったろうに」

 瞬は大丈夫だとジェスチャーをすると、クィーンが改めて報告すると伝えてきた。

 「私が追いかけた呪符を持つ男だが、なんと氷河が見つけたマンションに入って行った。

 続いて入ろうとするも、何らかの結界でマンションに入れなくてな」

 「やはりあの男はキーになりそうですね。

 冥蝶はベランダ側から見張っているから、結界の影響がないのか…」

 瞬はしばし考えると、

 「地上で大きな神力を使うのは避けたかったですが、ここは結界を壊して直接視ます。

 恐らくオークションの後、一気に事態が動くだろうから、せめて日本での懸案事項はそれまでに無くしておきたい」

 瞬がハーデスとして動く決意を見た三人は、配下の闘士として跪く。

 そしてこの件に関わっている闘士全員に、地上でも顕現する旨を宣言した。

 

 ウェビング図の置いてある部屋を封印しようとしていた沙織は驚く。

 「瞬、どうしたのです?

 地上での顕現をあれほど避けようとしていたのに。

 それとも急がないといけない事情でも発生したのですか?」

 「アテナ、心配かけてすみません。

 やはり本丸は中国由来とみて間違いないです。

 なので、日本での懸案事項を上海で行われるオークションまでに無くしておきたくて。

 あと、ITに詳しい人材をこちらに寄越して下さい。

 ポセイドンの方も遠隔サポート宜しくお願いします」

 

 マンションが見える場所まで瞬は冥闘士三人を伴い、移動する。

 ラダマンティスもそこに合流した。

 「ハーデス様、このマンションなんですか」

 ラダマンティスが瞬に話しかけると、瞬は頷く。

 全員で監視カメラの位置を確認する。

 準備が出来次第、一時的に機能停止にする為だ。

 マンションに目を向けた瞬は、どの部屋に誰が住んでるのか把握していく。

 「一般人もそこそこ住んでるみたいだ。

 結界の破壊時、衝撃は最小限に留めるよう努力するけど、出入りがない瞬間を狙わなければ。

 あと、再構築型とかだと厄介か」

 色々な可能性を考えて呟く。

 

 「結界の破壊なら私も手伝いましょう」

 後ろからの声に全員が振り向く。

 アテナ沙織だ。

 普段の高級プレタポルテではなく、ファッション誌のカジュアル特集そのまま真似した服装だ。

 後ろには一輝とゼラも控えていた。

 「一機様、人使い荒いですよ」

 「この件が終わったら二週間休暇をくれてやるから、それまで我慢しろ」

 久しぶりに直接会う兄に少し嬉しそうな顔をするも、すぐに真剣な眼差しに戻る。

 「兄さん、ゼラが操作してくれるんですよね?

 ゼラも宜しく。

 多分君には加護を付与させてもらうけど」

 ゼラはぞくりと嫌な予感がした。

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