人とは何ぞや   作:オオタ キム

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38. 遠方

 ギリシャ・東アッティカ県、首都アテネから自動車で一時間半ほどした場所に、ジュリアン・ソロの邸宅がある。

 営業時間が終わり、アテネの本社から自宅に戻ったジュリアンは、書斎で日本に派遣しているカノン以外の七将軍と念話でやりとりしていた。

 「東洋の多神教か。

 こういうのは沙織達の方が詳しいだろう。

 何? アイザックは憑依された人間と直接会ったのか?」

 海皇の本分は「自然現象」なので、魂のやりとりに関する今回関与できる事といえば人員供与ぐらいだ。

 しかしながら何らか要請があればすぐにでも手助けできるよう、常に最新の情報を仕入れるようにはしていた。

 

 並行して本来の仕事であるCEOとしての業務もこなす。

 リゾートハイシーズンにむけて、追い込みの時期でもあるのだ。

 同じ部屋の別テーブルにて、テティスがPCで資料を纏めている。

 マウスをクリックし、クラウドに上げる。

 「ジュリアン様、こちらは終わりました。

 バイアン様たちは何と?」

 ノートPCの蓋を閉め、主に尋ねた。

 今まで把握した内容を手短にテティスに伝える。

 「手伝える事は明後日のオークションぐらいですね」

 闇オークションの方は資金が必要というので、ジュリアンも参加する。

 それに神として『曰くつき』かどうかを見極めるの目的もある。

 

 「私の方もきりが付いた。

 それでは夕食にしようか」

 ジュリアンもPCの電源を落とす。

 テティスは専属シェフに電話し今から食事をとる旨を伝えると、すぐに用意出来ると返ってきた。

 普段より数時間早いが、これも事前に伝えてある。

 上海まで乗り継ぎを含め16時間以上掛かるので、明日の午前中には出発しなければならないからだ。

 台所に向かう為に書斎の鍵をテティスが閉めた時、瞬からの念話が入る。

 二人の顔に緊張が走る。

 「カーサ、お前がハーデスの所に向かえるか?

 ブラックペガサスの支援を頼む」

 ジュリアンが指示すると、承知する旨の返事がカーサから返ってきた。

 

 続いて冥界に留まっているパンドラにも連絡を入れる。

 「パンドラ、今大丈夫か?」

 「丁度良かった。こちらから連絡を入れようとしていた所だ。

 明後日の件だが、事前に渡しておきたい資料があってな」

 ジュリアンとパンドラはイギリスの大学時代に同じセミナーもいくつか一緒に受けた学友でもあり、普段はお互いため口である。

 「なら、私たちは今から夕食をとる所だが、一緒にどうだ?」

 「申し出ありがとう。気持ちだけ有難く受け取っておく。

 今はこちらを離れるわけにはいかないのでな。

 まずは今から送るものを受け取ってくれ」

 そうすると、ジュリアンの手元にオークションのパンフレットと紹介状、それとハーデスが先ほど作成した冊子の複製が現れた。

 「オークション関係書類はともかく、この冊子は…」

 冥王の霊血の気配を纏ったそれの中身を、二人は検める。

 「死んだ人間が生前、信仰していたと思われる神の一覧だ。

 ハーデス様が作成なされたものだ。

 出品の中でも特に、これらに関係するものを落して欲しい。

 さすがに私の力では、『何か宿っている』程度にしかわかりかねるのでな」

 一神教の国に生まれ育った彼らにとって、そこに書かれた名は知らないものばかりだ。

 しかし、霊血の効果ではっきりとした映像(ビジョン)が頭に流れ込んでくる。

 「了解した。

 競る対象物に関しては、私から君にも提示しよう。

 ところで日本でアテナとハーデスが動くが、本当に大丈夫なのか?

 特にハーデスの能力は人間、いや他の神々にとっても渇望するものであろう。

 それ故に集られないよう使用を控えてたはずだが」

 ポセイドンは兄神に対する疑問を冥姉へ尋ねる。

 パンドラはジュリアンが神として話しかけてきたことに気づき、言葉遣いを変えた。

 「ポセイドン様、今回はアテナ様も動かれるのが幸いしました。

 ハーデス様は場のコントロールに集中なされる事でしょう。

 『隠す力』がどうしても欲しい新しい神はまずいないでしょうし」

 「なら、せめて私はアテナ達がいる一体を曇りにし、月明かりすら照らさぬようにしておこう」

 アテナ達に念話し、東京付近の天候を操作する。

 「ありがとうございます。

 それでは明後日宜しくお願いします」

 パンドラが感謝の意を述べると、念話が打ち切られた。

 

 夕食を取りながらも、ジュリアンは日本へと意識を飛ばしていた。

 広い視野で妙な動きをしているものがいないか監視し、見守るのだった。

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