人とは何ぞや   作:オオタ キム

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40. 妖怪

 ハーデスの小宇宙と瞬のそれが入れ替わったのをマンション近くで待機していた氷河達が認識する。

 数分後、沙織から状況が伝えられる。

 「昼からはフナテレビか…」

 オークションに出るメンバーは全員有名人でもあるので、あくまで裏方に徹する。

 瞬は大学のある平日の昼には仕事を入れないと芸能方面には明言しているので、自宅でリモート授業を受けつつ同様の対応に徹することにした。

 よって星矢と氷河、それと海闘士・冥闘士の一部が付近を警邏する取り決めとなった。

 念のため、峯岡の葬儀場付近にも海闘士が一部向かうようにと、瞬が追加で依頼をしてきた。

 

 氷河が家に戻る頃には25時を回っていた。

 同棲中の絵梨衣は児童養護施設の宿直で、朝食後まで戻ってこない。

 最近は時間のすれ違いで直接会話をしてないのもここの所不機嫌な理由だったのかもしれない。

 朝、彼女が家に戻ってから研究室に向かっても良いかと、シャワーを浴びながら考える。

 任務の事もあり、コアタイムがないの研究室を選んだのは正解である。

 しかし研究が滞っているのも確かなので、日本が主戦場から離れるであろう土曜はそこに籠もりっきりになる覚悟もするのだった。

 

 翌朝、氷河はスマホの関係者専用アプリにて、記事収集ツールによる口コミ一覧を確認する。

 ざっくりとした世の流れを把握するには不適だが、特定の事項をダイレクトに閲覧するには最適であった。

 これを提供しているのは、暗黒聖闘士のペガサス以下デジタル部隊。

 頭領たる一輝の提言により正式に暗黒聖闘士が正規聖闘士と同列に扱われるようになって以降、聖闘少女(セインティア)同様、諜報活動に加わるようになった。

 ただ、ホーリークィーン社内で行っているような情報操作に関しては、卑劣な行為を非とするアテナ沙織の意向により「聖闘士」として行うのを禁止されていた。

 必要な情報として提案された内容は、通夜の騒動、一部地域での停電、その地域内での警察車両の目撃。

 呟かれたり、時限記事のストーリーズだったり、果てはダークウェブ内までと、出所は様々だ。

 朝食のパンをほおばりながら読み進める。

 精強で豪胆なメンバーを揃えた、少数精鋭の世界警察的な何かと認識されている聖闘士の関与を推察するものは当然あるだろうと考えていたが、「神」や「超常現象」について言及しているものも確認できる。

 しかしどれもほぼ見当違いの意見だらけで、現実に神が存在するなどと思ってないが故の推論だらけだった。

 通夜の騒動に関しては、谷山の乱心した原因が、ファンとしての暴走したと片付けられる事だろう。

 今朝の情報番組において瞬がそれに則って、しかし、谷山のキャリアを傷つけないようフォローをしつつコメントを出ようにすると、朝方連絡があった。

 

 食事が終わり食器を洗い終わった丁度その時、ドアが開く音がした。

 早い時には8時には大学に行っているのを知っている絵梨衣が、少し嬉しそうに尋ねる。

 「氷河、今日は遅くて大丈夫なの?」

 子供を学校や付属幼稚園に送り出した後、引継ぎ等々をすると退園するのは9時を回るので、研究室がお互い時間を合わせないとすれ違ったり、寝顔しか見られなかったりが多い。

 「絵梨衣の声がなかなか聞けなかったからな」

 そう言いながら軽く口づけを交わす。

 昔、争いの女神(エリス)に憑依され、解決後暫くはグラード財団の庇護下に置かれたが、聖戦が終わった時、監視の名目で同居を願い出たのだ。

 「今日も任務があるから夜遅くなるかもしれないが、明後日の日曜は一日開けられるから。

 そっちも休みだろ?」

 「ええ、それじゃあ久しぶりにアウトレットモールでも行きましょうか」

 半分施設の買い出しだなと、苦笑しながらも了承するのだった。

 

 自転車に乗り、所属する熱物理研につくと挨拶もそこそこに、早速実験機材をセッティングする。

 「最近白鳥サボりすぎだぞ。

 早くデータを出さないと、報告会に間に合わないぞ」

 指導してくれているM1の松林にどやされる。

 「明日は一日中籠りますんで、今日は午前中で帰ります」

 「言ったぞ、絶対明日中に出せよな」

 教授には聖闘士である旨を伝えているので理解してもらっているが、むやみやたらと正体を明かせないので研究室メンバーからしたら、B4の自分はただの下っ端でしかない。

 それでも締切までにはきっちり仕上げているので、文句を言われる事はなかった。

 冷却実験装置からはじき出されるデータがPCのモニタに表示される。

 前回別資材を使用した時との比較をしつつ、手早く考察メモを入力する。

 そうこうしているうちに、12時のチャイムが聞こえてきた。

 「すみません、昼から抜けますが、装置とPCは動かしておきます。

 夕方、止める為に少しだけ顔を出しますので、よろしくお願いします。

 ではまた」

 手早く帰る準備を済ませて研究室を後にする。

 大学の最寄り駅に自転車を置くと、そこからフナテレビ近くに瞬間移動した。

 

 氷河同様に午前中の授業を終わらてから来る星矢を待つ。

 少しすると、星矢は観光客のふりをするためかどうか知らないが、テレビ局ショップから袋を持って出てきた。

 「待ったか、氷河。

 ついでに新発売のお菓子が欲しくてな。

 ああ、何もない可能性もあるけどとは沙織さん言ってたっけ」

 そう言いながら、個別包装の菓子を取り出し、氷河に手渡す。

 「沙織さんにそう言われたからって、気が緩めていい案件ではないだろう」

 その菓子をほおばりながら、氷河は答える。

 

 放映開始時間を逆算し、そろそろ芸能人が局入りする時間が近づいてくる。

 関係者限定の地下駐車場にはひっきりなしに車両が出入りしていた。

 少し遅れてバレンタインが合流すると、星矢達に、赤い勾玉アクセサリーのようなものを渡す。 

 「ハーデス様からの預かりものだ。

 霊血でお作りになられた、霊魂の類を視える力を与えるものとなる」

 手のひらに載せると、無機質なはずなのに、ほのかに温もりを感じる。

 それを握った状態で再度車両を見ると、二人は時々車の中にほのかに小さな光があるのを確認できた。

 「日本の『お守り』とか言ったか。小さく弱い光は恐らくそれだろう。

 それらは無視したらいい。

 しかしもし、力強く輝くものがあればこちらに伝えてほしい。

 昨日の通夜で使われようとした数珠と同じようなものがまだある可能性もある。

 その場合は放送開始前に取り押さえるからな」

 そう言うと、バレンタインは上空を飛んでいる冥蝶達を見上げた。

 局職員等、朝から出社している人々を監視していたが、彼らからも別段変わった力を感じない。

 そして瞬のマネージャーの佐山から貰ったタイムテーブルを元に中継現場を割り出し、そこにも洋やゴートン達、冥蝶を待機させていた。

 

 しばし緊張の時間が流れる。

 生放送の時間になった。

 その数分後、中継先に飛んでいた冥蝶の小宇宙がどんどん消えていくのをフナテレビ付近にいた者達が感じとった。

 

 「氷河さん達、大変です!

 大きな蜘蛛の妖怪が冥蝶を食べていってます!」

 洋が星矢達に報告を入る。

 輪郭がはっきりとしない、蜘蛛のようなものが冥蝶を触覚を使って口のあたりに運んでいく。

 「一般人には視えない、蜘蛛の怨霊というところだな。

 今から俺達が封じる」

 ゴードンが宣言すると右腕を上げ、グランドアクスクラッシャーの体勢に入る。

 同時に街撮り現場となる道路沿いにあるビルの屋上にてクィーンが両手を掲げ、ブラッドフラウアシザーズの構えをとる。

 その時、蜘蛛がクィーンのさらに上までジャンプしてきた。

 「なっ…!」

 クィーンの前に降りたった蜘蛛が鋏角をカチカチと動かして近づいてくる。

 まるで獲物を捉えようとするかのように覆い被さろうと再度ジャンプした刹那、空中で風圧を食らったが如く蜘蛛が屋上に勢いよく叩きつけられた。

 冥闘士にとっては馴染み深い、二人の強大な小宇宙を感じる。

 「お前達、ふがいないぞ」

 クィーンと大蜘蛛の間に、長槍を持つ濡れた墨色の長髪の美女と、翼竜の大きな冥衣を纏った勇猛な長身の金髪の青年が立っていた。

 「パンドラ様、ラダマンティス様、ありがとうございます」

 クィーンが跪く。

 「礼は後だ、一気に叩く」

 パンドラの冥衣の代わりでもある蛇モチーフの腕輪の目が赤く光り、その場を外部から隔離する。

 そして槍を蜘蛛の頭と胴体の間にに突き立てた。

 刺した箇所から魂が煙のように漏れ出る。

 ラダマンティスが冥界から持参した封印箱を開けると、その魂がどんどん吸い込まれていった。

 

 「こいつはとりこんだ奴を栄養として、さらに眷属を増やそうとしているようだ。

 クィーン、お前もやられるところだったぞ。

 実力差を瞬時に見極め、待機してる連中に協力を仰げ」

 直属の上司に注意され、恐縮する部下たち。

 核となったであろう蜘蛛型の根付をパンドラが手の中に納めると、カイーナの長を一瞥する。

 「ラダマンティス、もうよい。

 しかしハーデス様はお前達が傷つくのを見たくないというのもまた事実。

 その為に私たちがいるのだからな」

 

 「これが『聖戦』を乗り越えた人たちの戦い…」

 大蜘蛛に対し恐怖で動けなかった洋は、二人の戦いぶりに圧倒されていた。

 バイアン達との模擬戦闘は何度もあるが、鱗衣を纏った殺し合いに近い戦闘を経験した事はないのだから、仕方のないことだ。

 ラダマンティスが地上にいる洋を見下ろす。

 「カリブディス、何を呆けている。

 貴様も海闘士の端くれなら、臨戦態勢ぐらいとれなくてどうする。

 カノンの奴も部下の育成がなってないな」

 舌打ちしながら好敵手(とも)の名を口にする。

 「それだけ平和になったという証拠だろう。

 それにまだ正式に海闘士となって数か月であろう?

 立て込んでいた別業務が落ち着いたら、本格的に鍛えよ」

 パンドラがそうフォローする。

 屋上に瞬間移動した洋は跪きながら二人に挨拶する。

 「ありがとうございます。

 返す言葉もございません。

 これから精進しますので…」

 目の前の二人は人間の中では恐らく最強の部類の者達だ。

 と同時に、バイアン達が今まで手を抜いてくれていた事に改めて自覚させられる。

 将来的には海事におけるこのような案件もこなす必要がある事にも気づかされたのだった。

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