パンドラ達が大蜘蛛を倒したのを星矢達は感知する。
「こちらはフェイクか。
いや、同時多発的に行われる場合もあるいは…」
氷河は色々と考えを巡らす。
フナテレビ付近で警戒を続ける三人。
何かあれば瞬間移動で突入する事も辞さないが、極力騒ぎは起こしたくない。
「ラダマンティス達に向かってもらったのは正解だったか」
星矢達に念話で話しかけてきたのは唯一入館証を持つ親友の声。
ドイツ・ハインシュタイン城の一室、結界を張った冥界へ続く扉が備わった部屋から彼らに語りかけていた。
「瞬、一応リモート授業中だろ?」
「まあね。
ドイツから家のPCをさらにリモートだから、完全に録画状態だけどさ」
一旦他の現場の様子も確認するからと、念話を打ち切る。
数分後、再び瞬は星矢たちに連絡をしてきた。
「バレンタイン、朝からの様子からして妖異みたいなのはいないと思うけど、冥蝶に何か動きはあった?」
念話と続けている最中、冥蝶のうち一匹がテレビ局内からバレンタインの傍に報告の為近寄ってきた。
「…?
霊に敏感な誰かがいるのか…?
蝶の様子に気づいた東洋人風の老婆がいるようだ」
伝えてきた内容を星矢達に伝える。
「お婆さんとざっくりいっても、そんな芸能人いっぱいいるしなあ」
星矢が腕を組んで考え込む。
「スピリチュアル系芸能人で冥蝶を感知できるのなら、そこそこの数が舞っていると気になるのは当たり前だしな。
ただ、平時ならともかく、今は警戒は続行した方が良いか。
容姿はどのような感じなんだ?」
氷河が尋ねると、イメージが冥蝶から流れてきた。
バレンタインは当然として、星矢や氷河も知らない顔だった。
「有名芸能人とは違うな。
もっとも異能系名乗ってる有名人なんてそう多くないが」
そのやり取りを聞いていた瞬は、遙か遠く日本にいる冥蝶の感覚を共有する。
容姿を見た所、知っている芸能人でも裏方スタッフないと瞬は悟る。
さらに深く、魂を視る。
「特別番組か何かで呼ばれたリ・ジョンスンさんという韓国人みたいだ。
敵意は全く感じないから、この場は放っておいても良いかな」
「なら俺は少し研究室に行かせて貰ってもかまわないか?
実験結果を纏めないといけないんでな」
「わかった氷河、今日はご苦労さま」
瞬はこの後を引き継ぐとバレンタイン達に伝える。
その場にいた面々は私用を片付けに行ったり、別任務に向かったりと、解散にすることとした。
瞬はもう少し相手の本質を探ろうとする。
だがリ・ジョンスンからの逆探を感じ、それを避ける為に意識を外す。
そして冥蝶に建物外に出てきたときは伝えるよう命じた。
ひと息つくと、結界の貼られた部屋からパンドラが瞬の為に用意した個室へと移動し、ノートPCの前に座る。
日本の自宅PCへリモート接続しているアプリを最小化すると、ブラウザを立ち上げてリ・ジョンスンについて韓国語で検索をかけた。
現地SNSにおいて「霊視おばあさん」として人気のブロガーであり、最近は韓国のバラエティ番組にも出ている人物だった。
なら、日本の特番のゲストとして呼ばれたのも納得だと瞬は思う。
本人のブログや他のSNSを読み進める。
廃墟や事故物件の霊的干渉、美術品や工芸品に憑いた動物霊といったものから、今日のご飯のレシピといったものまで、雑多な内容が並んでいる。
霊感系カテゴリーを絞り込んで読み進める。
当然ながらアクセスが上がりやすい刺激的な内容のものが多い。
二か月ほど前に投稿された一つの記事に目が留まる。
表題は「今は全て行方不明になっているので、探しています」。
色々な骨董品の写真が並んでいる
驚くことにそれらは瞬が先ほど冥界で封印した品々だった。
「瞬様、どうぞこちらを」
ハインシュタイン家の使用人が軽食とコーヒーを出してくれた。
日本とは時差があるので、ドイツではまだ朝である。
使用人達は、瞬の事をパンドラのパートナーの弟で同じく大切な家族として扱うように、また特殊能力を持っているので急な来訪でも驚かないようにも言いくるめられていた。
「ありがとうございます」
瞬がドイツ語でそう伝えると、使用人は部屋から退出する。
出されたドリップコーヒーに口に含みつつ、やはり本人と会うべきかと思案する。
それと同時に兄が今晩にも韓国入りするのを思い出す。
ただ仕事中であろう兄に直接念話するのは憚られたので、ホーリークィーンのグループウェアのメッセンジャーに連絡を入れる。
少しして企業情報部門へリ・ジョンスンに関する事を調べよと兄が投稿したのが確認できた。
使用人が空になった皿を片付けに来たので、食事のお礼と日本に帰る旨を伝える。
リモート先の授業が終了したのもあり、丁度きりが良かったのだ。
PCをシャットダウンさせるとそれを鞄に入れると、日本に瞬間移動した。
フナテレビ付近で人目につかない所につくと、まだその場に留まっていた星矢の所に歩いて移動する。
「瞬か、あちこち飛び回って大変だったな」
「星矢こそ昼からずっとありがとう。
今日はもう用事ないの?」
瞬は聖闘士として任務遂行中か報道陣に囲まれたくない場合を除き、基本的にそのままで出歩くようにしている。
常に変装していると逆に探されやすくなる事も知っていたからだ。
ネットで知りえた範囲の情報を星矢に伝える。
「日本に来たのは偶然か微妙だよな。
で、そのばあさんに会って物品について問いただすのか?」
「逆探知されかけて重要な部分まで見えなかったけど、彼女にどのような経緯でそれらの品々と関わったのか正直に聞いた方が良いだろうな。
とりあえずはブログで興味を持ったという体裁で行こうとは思うけど…」
そう言って一旦会話を中断する。
冥蝶がもうすぐ、リ・ジョンスンが建物外に出てくる事を伝えてきたのだ。
「タクシーに乗り込むだろうから、ホテルなり駅なりについたら彼女に接触しよう」
「おう」
番組収録を終え、タクシーでホテルに向かう途中のリ・ジョンスンは車内にて今日の撮影について早速SNSに呟いていた。
「冥蝶ってことは、私は冥闘士に恨まれる事でもしたんだろうか。
それにあの坊やたち、聖闘士かね。
ちょっと霊能力があるだけの婆さんがこんなにモテるとはねえ」
ふふっとにやつくと、流れる東京の車窓に目をやった。
降車後、ホテルの玄関でキョロキョロと周りを見渡す。
「用事があるのは君たちかい?」
英語で星矢達に話しかけてきた。
「さすがだな婆さん、俺たちに気づくとは」
「ちょっと星矢、失礼だろ。
初めましてリ・ジョンスンさん。
僕たちは…」
「ああ、皆まで言わなくても分かるよ。
聖闘士だろ、あんたら。
まあ聖闘士だけでは食っていけないだろうから大抵は副業してるだろうとは考えた事もあるけど、まさか芸能活動している人間がいるとはねえ」
「そのことは大々的には公表してないんで、どうか内密に…」
「そりゃわかってるさ。
超人的な力を持ってる人間と分かれば、テレビ局に利用されるだろうしさ」
そう言うと、ホテルの喫茶コーナーで続きを聞こうじゃないかと若者二人を誘った。
三人は席に着く。
芸能人はやはり目立ち、様々な客がこちらを見てくる。
会話を聞かれてはまずいと思い、口では日本についての感想を聞いたりとたわいのない会話と挟みつつも、頭には別の話題をもちかける。
「直接会話すると聞かれそうですので、念話で失礼します。
実は貴方がブログで呼びかけていた、探している品々についてです」
若者とのデートを楽しもうとしていたジョンスンの表情が一瞬変わる。
「あんた、それらの行方を知ってるのかい?」
「実はある事件と関わってまして…」
星矢たちは今までの経緯を話す。
「で、婆さんはあのブツとどういう関係で?」
「本業は骨董屋で美術鑑定士なんだけどさ、それらのブツはとある新興宗教団体から数か月前に鑑定してくれって大量に持ち込まれたやつなんだ。
どうやらそれらを金持ちにでも売りつけようとしてたんだろうな。
で、見たら『全てに』霊的な繋がりがあるから驚いた。
そんなのに出くわすのは年に数回あるかどうかだったし、あったとしても痕跡程度でほぼ力は残ってないものが普通だからね。
念のためにそれらの由来を聞いたら、ある信者から寄進だって言うじゃないか。
このまま売るのは危険だしプロの霊媒師に除霊してもらう事を許可してもらった翌日、自宅から盗まれたんだ。
団体に伝えたら骨董品そのものは問題ないけど、他の案件で踏み込まれる口実になるから警察を絡めるなってさ。
そうは言われても霊的にヤバそうなのを放置したくないし自力で探してたんだけど一人の力じゃ無理だし、許可を得て公開記事にしたわけさ」
ジョンスンはアイスティーを飲みながら、星矢達に念話でまくしたてる。
「その宗教団体、分かるならその信者の名前は教えてくれるか?
もしかして俺たちがマークしている奴らかもしれないしさ」
星矢もオレンジジュースを飲みながら念話する。
「ずけずけという坊やだね。
こちらも依頼者の守秘義務があるんだ」
「人の生命がかかっています。
教えていただけませんか?」
瞬がそう語り掛けると、ジョンスンが何かに気づいたような顔になる。
「もしや冥蝶に意識を乗せてたのはあんたか?
冥闘士と兼任してるのか?」
「知り合いは多いですけど、兼任はしてませんよ」
納得いかない顔をしているが、これ以上問うても何も言わないであろう事を悟ったのか
「わかった。
その代わり、用事が終わったらブツをこっちに渡してくれるかい?
早急に除霊しておきたい」
「それなら僕ができますから、任せて下さい」
そう言うと、瞬は数珠を取り出して見せる。
「もしや、乙女座様だったとは。
冥蝶に無理やり意識を重ねるのも出来そうな雰囲気だねぇ」
前任・当代とも霊と関わりの深いイメージがあったのが幸いした。
「さすがに私も寄進した信者の名前は聞いてないよ。
宗教団体名なら…」
星矢がその名前に飛びつく。
「昨日、野中のおっさんが言ってた名前にあったぞ」
「でも除霊可と伝えてきたあたり、本部ではなく寄進した人をマークすべきだろうな。
怪しまれる事なく寄進出来た人だし、信徒でなくとも関係者には間違いないか」
「リ・ジョンスンさん、色々ありがとうございます」
一通り情報交換が終わったので席を立とうとする星矢。
「ちょい待ちな、まだこっちの用事はまだあるんだよ」
「…!」
瞬の腕が掴まれる。
「ここまで時間をとってやったんだ。
SNS用のツーショット写真ぐらい撮らせな」
「…別に構いませんが、ネットに掲げるのは一週間後にしてもらえますか?」
ジョンスンの勢いにたじろぎながら伝える。
「リアルタイムが良かったんだが、それは仕方ないか。
おいそこの星矢くん、このスマホで二人のツーショットとってくれ」
ジョンスンが星矢を押しのけて瞬の隣に座ると、腕を絡めてくる。
嬉しそうにだきつく老婆と、営業スマイルをする美形タレント。
星矢がにやにやしながら渡されたスマホでその様子を写真に収めるのだった。