不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

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吸血鬼サイドの詳細が分からないあれこれを全力で捏造しています。
合わねぇ!という方は退避を、明らかにそこ間違ってるぞ!という方は教えて頂けたら嬉しいです。


特性と実演/覚悟と受容

 どこかそれなりに広さのある場所と的は無いかと尋ねた結果、案内された訓練場。的として出されたのは半実態のバケモノ?で、技術力の高さを実感する。

 

「凄いわね」

「全くだ。…さて」

 

 牙装を纏い使い慣れた武器を担いで高い場所にあるその窓を見上げる。仲間達と、そしてあちら側の面々が揃っている事を確認して、まずは言っておかなければならない事を言っておくことにする。

 

「あーっと、まずは一つ謝らせて欲しい」

「そうね。あの時……というか暫く、私達はこの服装のままだったと思うのだけど」

 

 突然なんだと疑問に思っているだろう相手への説明は仲間達に任せる事にして、隣へと目配せを行い同時に牙装を展開する。慣れた感覚と共に顔周りに圧迫感が生じ、肩口から展開した双頭の顎が牙を鳴らす。……つうか、よく見ると目の前のバケモノは何となくハウンド型の吸血牙装に似てる事に気付く。何か関係あるんだろうか、なんて思う思考の端で小さく聞こえた、息を呑む音に苦笑が漏れた。

 

「吸血牙装っつってな。まあ防具でもあるんだが見ての通り俺達の牙でもある。…武器を手放しても、丸腰じゃ無かったって訳だ」

「あなた達を害するつもりが無かった事は誓えるわ。けど、あまり気分の良いものでもないでしょう?だから、ごめんなさい」

 

 展開したまま止まっとくのも間抜けって事で、そのまま言葉を待つこと無く吸血動作を開始。双頭の獣に似たそれがバケモノの身体に食らいつき、持ち上げたその中心を槍にも似たそれが貫くのに合わせて左右に引きちぎる。……堕鬼のそれとは違う感覚への違和感を無視して、そのまま次の的へと向かう。

 2本足の小型のバケモノに対して大剣を一閃。ずしりと腕にかかる重みに一撃では足りないと判断して後退。入れ替わるようにして撃ち込まれた弾丸の合間、振るわれた尾を避けてもう一撃。……それでやっと倒れた相手に、これは大変そうだと息をつく。――一番よく見かける雑魚堕鬼に比べて、硬い。

 

「後は錬血ね。もう一体お願い」

 

 間をおかずに現れた一体。今度はすぐには攻撃せず、自分の血へ意識を向ける。慣れ親しんだ感覚と共に薄く展開する血の障壁。その上で敢えて武器ではなく身体でその尾を受け止める。抜けた衝撃の大きさから、障壁なしでも幾らかは耐えられるレベルだと判断。勿論、より大型の相手であれば分からないが、少なくとも全くの無意味では無い。

 次いで撃ち込まれるのは、ミアが展開した錬血が放つ氷の弾丸。やはり一回では倒せず、二度目を撃ち込んで漸く霧散したバケモノ。錬血特化の者達ならば一撃で倒せるかどうか、という所か。

 

「硬いわね。…このサイズでこれなら、ミドウが見せてきたあいつとか、深層にいた3体と同じサイズだと一体相手でも時間がかかりそう」

「だな。さて、これで一応は攻め手の方は見せたと思うんだが…なんか騒がしいな?」

 

 ひとまずざっくりと手段を開示して謝罪して。取り敢えずはあちらの出方や対応を見て、それでOKが出れば残りの能力を開示しようと思っていたのだが。どうも上の方がざわついている様子だった。

 

 

 ―――――――――

 

 

 それは、中々に驚くべき光景だった。

 多少物々しくはあっても確かに服に見えていた筈のそれが、質量を無視してまるで生物の様に伸び上がり形を形成していく。

 肩口から伸びる獣……ガルム神属の頭部に似た双頭と、カムラン種の尾に似た長い槍のような刃。神機の捕食形態に似てはいるけれど、あれよりも更に硬質で明確な形をもったもの。そのまま、まるで意思があるかの様に自在に動いて食らいつき貫くその動きは、中々に自由度が高そうに見える。何より、その両手足は常にフリーの状態だ。

 更に。攻撃が終わり、訓練用が消滅すると同時に形を崩してそれぞれが再び服の一部へと戻った光景も衝撃的だ。

 ――双頭の獣ははためく両袖に。尾の様な槍はコートの後ろ裾に。ばらりと解けて消えたかと思えば、何事も無かったかの様に前の形を取り戻して鎮座する。……あぁそう言えば、彼等の外套には一定の型があった。

 

 丸腰で挨拶をした筈の相手が、実は兇器を手にしたままだったのだという事や向けられた謝罪よりも何よりも、まずその特性に興味が向いた。勿論何も思わなかった訳では無いけれど、これがあっても皆なら何とか出来ただろうと信じているからでもある。……知的好奇心が強いというのも、否定はしないけれど。

 

「……もしかして、あれは服と形状が連動しているのかな?」

 

 今は、下の2人を除いて外されている外套。おそらくはより武装を介助した姿なのだろうと分かった彼等の、数日前までの姿を思い出す。確かその頃には、凡そ4つの型があった筈だ。

 

「鋭いな。その通り、牙装には大きく4つの型がある。――オウガ、ハウンド、スティンガー、アイヴィ。あの2つはハウンズとスティンガーだな」

「それは興味深い!是非他の2つも見せて貰いたいものだね!っと、まだ終わっていなかったね」

 

 視線を戻せば刃によって倒される模擬アラガミが丁度視界に入る。神機では無い、と聞いているけど、一定以上の効果はあるみたいだ。シールドや砲身が無いとはいえ、バスターに近い大剣を振り回せる膂力に、不思議な外套。何より、所詮はダミーとはいっても姿も動きも再現したそれは初見であれば中々に恐ろしい筈なのだけど、全く臆した様子が無い。そして……。

 

「あれは…!」

「そちらには無いのか。俺達は錬血と呼んでいる。冥血を消費し、各々のブラッドコードに由来した力を発現させる。種類は……様々だな」

 

 薄く広がった血色の障壁が、小型とはいえアラガミの攻撃を確かに受け止めて減衰させる。そして、中空に突如出現し本人とは独立して射出される氷弾。明らかに物理的なそれではないのに機能する盾と、オラクルバレットのそれとは違う本物の氷塊。……効果だけならば、似たようなものは存在している。してはいるけれど、気になる事は別にある。

 

「ブラッドコード?…もしかして、使える力には個人差があるという事かな?」

「その通りよ。ブラッドコードは、基本的に一人に一つ。生まれ持ったそれによって、使える錬血はもとより能力的な傾向もある程度固定される」

 

 それの特徴は、何よりもその独立性だろうか。基本的にはその大半が神機に依存する神機使いと違い、彼等のそれは武器に牙装に錬血とそれぞれが独立して存在している。此方側で似ているのは、ブラッド隊の"血の力"だろうか。……名まで似ているのは、何かの偶然か、それとも必然かな?

 

「……武器を預けても落ち着いていた訳か」

「牙装に関しては単純にタイミングを逃したというのもあるのだけれど…それを訂正しなかった事は認めるわ。だから、ごめんなさい」

「あなた方がそうだと決めつけたくは無かった。だが、俺達にとっては二十数年ぶりの外であり、例え仲間達と共に拠点に在っても銃を手放さないような環境だったんだ。……だからと言って、許されるものでも無いだろうが」

 

 警戒を強める神機使い達を、彼等は受け入れている。それはきっと想定の範囲内で、それでも隠し通さず開示してくれるというのは、協力体制を敷く上での彼等なりの誠意なんだろう。隠し通していた方が、彼等にとっては有益だった筈なのだから。

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 更に翌日。外、ヤドリギ近くにて

 

 

 

 【サンドエッジ】 【インドラコイル】

 【モータルストール】 【竜公の杭】

 

 砂塵を巻き上げて突き進む不可視の刃が的を跳ね飛ばし、的の直上から撃ち落とされる雷撃が打ち据える。そうして間髪入れずに、今度は刃を内包した砂嵐が的を切り刻み、赤黒い巨大な杭の様なそれが的を貫通した。

 小型アラガミを想定した的をそれぞれ粉砕するその威力は中々のものだ。何より彼女達のそれは武器に由来するものでは無く、持ち替えや変形を必要としない上に片方に至っては無手だ。身一つで身の丈を越える砂刃や中空からの電撃を操る様は、神機使いの亜種というよりは御伽噺に出てくる魔法使いか何かを思わせた。

 

「俺達は、各ブラッドコードの傾向によって適性が大きく左右される。それにより、同じ錬血を使ってもブラッドコードや牙装の補正により威力は上下する。…あの二人は陰錬血……遠距離攻撃用の錬血に長けたブラッドコードが特徴だ」

「錬血を使うのに必要な冥血の保有可能な量もブラッドコードによって違うから、本当に得意不得意がはっきりしている。だから、本人がどうであってもブラッドコードを無視しての戦い方は出来ないの。ニコラなんて、ブラッドコード的には重装近接型だから」

「だな。俺なんかは自分のブラッドコードだけだと陰錬血は全く使えない。後天的に使えるようになっちゃいるが、威力は出せねぇし回数も制限かかるから本当に陽動レベルだな」

「ま、例外もあるんだけどね! さ、よろしく!」

 

 入れ替わる様に進み出たのは一人の青年。どこかぼんやりとして、存在感が薄く感じていたその雰囲気が一変する。鋭く、重く。相対する事そのものを許さない様な、凄まじい圧力。

 荒野に点在するように置かれた的を色素の薄いその瞳が捉え、そして。

 

「!!?!!」

「"粛清の棘"。王と呼ばれる存在に受け継がれる質量攻撃。…並の防壁や岸壁程度であれば、易易と貫通し破壊する事が出来る」

 

 その背後の空中に次々と出現していくのは真白い巨大な棘。それまでの、言わば属性を具現化していた物とは明確に違う、圧倒的な質量と存在感。アラガミにだって、何にもない空中にいきなりこんな物理攻撃を出現させるものは居ない。

 そんな、直径1メートル以上、長さに至っては数メートルりそうな"棘"が空を切って的へと打ち放たれる。神機使いの視力を持ってすればこそ視認が可能だが、唯人ならば逃げる間もなく貫かれるような速度で飛来する鋭利な形状の巨大な物体。それは、その見た目に恥じない威力でもって的を貫通し破砕し大地へと突き立っていく。

 更に追い打つ様に上空から飛来するのは赤熱した岩石の群れ。既に大分悲惨な事になっていたそこへ着弾したそれらが炸裂し、盛大な土煙と地響きを巻き起こす。ついでに駄目押しとばかりに人一人は軽く呑み込めそうな紫電の撃球が打ち込まれた。

 煙が晴れて見えたのは、抉れた地面に白い棘が無数に突き立つなんとも終末感溢れる光景。――的は、跡形もなく消し飛んでいた。

 

 多分、中型どころか低位の大型相手でも十分に通用するだろう威力だ。

 

 

 

 

「彼は現状でただ一人だけ、ブラッドコードの縛りなく力を使えるわ。幾人もの血を取り込んで融和した果てに宿ったブラッドコードは、凡そあらゆる力へ適性を示す」

「簡単にいうなら、あの威力の錬血を使いながら近接戦闘もこなせるって訳だ。…言っとくが、あいつだけだからな?」

 

 神機の性能の他は、本人の経験やセンスに左右される神機使いと違い、そもそもの適性がばらついているという吸血鬼達。それは、神機使い側であれば使用できる神機のパーツを規定されているのに等しいのではないかと思う。

そしてそんな中ただ一人、枷を解かれた者とその強さ。……個人差が激しいにも程がある。

 

「ま、こんな感じでバラつきがあるって事!だから吸血鬼ならこう、ってのは殆ど無いんだよね」

「共通するのは、なにがしらのブラッドコードを持っている事、吸血牙装を扱える事、維持に血が必要である事。…そして、今から見せる霧散と再生の特性だ」

 

 またしても飛び出した新たな用語に、もう驚く余力もない。自分達だって大概が吃驚箱の様な存在で、大抵の事では驚かないと思っていた考えが音を立てて崩れていく。それでもまだついていけるのは、色々な事が起きまくっているこの極東で揉まれたからだろうか。…余り嬉しくは無いけれど。

 だから、もう何でも来いという気持ちでもって彼等へとそれを促す。見て、経験出来る事は出来る内にやっておかなければという共通の認識。"今"が平和でも少し先には何が起こるか分からないのだと、嫌というほど知っている。――それでも尚、新たな情報は驚くべきものではあったのだけれど。

 

 

 

 まるで自らの心臓に突き立てるかの様にして打込まれる細い木の杭。何を、と思う間もなくざらりとその身体が形を失い霧散する。それは、コアを失ったアラガミが霧散する時のそれに似て。ぎしり、と反射的に身体を強張らせたこちらに苦笑するようにして彼等が指差した先にあったのは。

 

「すごい」

「霧散と再生。全ての吸血鬼が共通してもつ特性であり、生命線の一つ。ヤドリギからヤドリギへの双方向、もしくはこちらからヤドリギへの一方通行。後は同じエリアに居る場合に限るが、特定の仲間の下へ物理的な距離や障害を無視して移動する事が出来る」

「自ら霧散した場合は近くのヤドリギへ。そして、ヤドリギ同士であればその根がつながる限り。…私達が移動用の車両を持っていないのは、製造技術や拠点の遺失もあるけれど、それが無くても移動出来る手段があったから」

 

 それは、彼等がここへ訪れた時と同じ光景。ほんの数秒で形を失ったその身体は火の粉にも似た粒子となり、ヤドリギと呼ばれるその側でより集まり凝結し人の形へと戻る。

 不思議な事に、身体だけではなく武器や服にまでその効力は及んでおり、再生後も特に問題は無いように見える。……だとすれば。方向や場所の縛りはあるとしても、安全かつ長距離の移動が可能だというのは、アラガミによって寸断されたこの世界で大きな力となるだろう。

 次々と明かされていく吸血鬼達の、その手札の多さに感嘆する。武装解除をしたつもりで半分も奪えていなかったのだという事への不信が無いでもないが、それは神機使い基準で判断したこちらの不手際も含んでいる。なにより、彼等は徹底して敵対の意思は見せず、ただ生きて帰る事こそを意識しているのだと分かっている。……正直、人を警戒したくなる気持ちもわからなくは無いのだから。

 

「……ここまでは、そっちの判断で外部に伝えてくれて構わねぇ情報だ。で、こっから先は、出来る限りあんたらの支部…もしくは信用出来る相手までで留めて欲しい話になる。勿論、面倒事は御免だってんならそれでも良い」

 

 そうして素直に感心している最中に告げられた言葉。……これ以上、一体何があるんだという思いと、これまでとは違う雰囲気に数秒固まり、それでも答えは決まっていた。

 

「そちらに問題が無ければ、是非開示して欲しい。勿論、可能な限り情報の扱いには注意すると約束するよ。…何、元々この極東支部は秘密が多いからね。今更新しい秘密の十や二十も変わりはしないだろう。それよりも、無知による停滞こそが恐ろしいね」

 

 支部長の言葉に反論する者は居ない。…他の支部であればまだしも、この極東支部が抱える秘密は最早笑えてくるレベルで山となっている。完全な秘匿は難しいとしても、詳細を隠す程度ならばどうにかなるだろう。

 そんなこちらの意思を確認したのか、あちら側の表情が変わる。張り詰めていたものの幾らかが和らいで、軽く苦笑して。…そして。

 

「そうか。……お前達の覚悟、確かに受け取った!」

 

 高らかな宣言と共に引き抜かれた刃がその喉に突き立てられる。ごぼり、と零れる鮮血と独特の臭気。あまりの事に言葉を失い硬直したこちらの目の前で、その巨躯がざらりと"霧散"した。それは、つい先程みた光景に酷似していて。

 

 ――ならば、まさか。

 

「霧散と再生の発生には、あと1つ方法がある。…死に戻りと仮称されるその通りに、心臓の損壊を除く生命活動の停止により強制的に引き起こされ、直近のヤドリギで再生する。…意図的なものに比べ幾らかのデメリットはあるが、それでも、終わりを回避出来る可能性は高くなる」

「不完全ではあるけれど、この不死性とも言える特性こそが吸血鬼最大の特徴とも言えるわ。不老なのは、恐らくこの特性の副産物ね」

 

 彼等がヤドリギと呼ぶその傍らに、つい先程失われた筈の姿が再び現れていた。多少ふらついた様子で大剣を突き立て、けれども確かに致命傷だった筈の傷跡や溢れた鮮血は何処にも残っていない。こちらへ手を掲げ、ゆっくりと歩み寄ってくるその姿は何処からどう見ても生きている人だ。

 

 ――死の否定。何度も…何度でも。相手を討ち果すまで戦い続ける者。

 

 心臓【コア】によって統制され、再生する。…それはある種、神機使いよりも尚外れている。だって、それは最早ヒトの意思を持つアラガミとも言えるのでは無いか。

 

 

「吸血鬼は、そもそも人としては一度死んだ存在よ。……比喩や誇張では無く、文字通りに、ね。死体の心臓にBOR寄生体と呼ばれるモノを埋め込む事で、組織の再生と維持を行い目覚めた死人。……この姿はだから、人としての最後の姿よ」

「BOR寄生体は宿主の状態を記憶して、影響下にある細胞を再構成する事が出来る。だから、腕あたりであれば断ち落とされてもその場で再生が可能だ。ヤドリギは、霧散した肉体が無秩序に拡散してしまわないように留める頸木のようなものだ」

「唯一、BOR寄生体…つまり心臓が致命的な損壊をうけた場合に限り、霧散では無く灰化が起きる。そうなれば再生は出来ないから、それが私達吸血鬼の死という事になるわ」

 

 それは、彼等にとって明かすべきか悩んだ情報だろう。神機使いにとっても心臓は急所ではあるけれど、それ以上に頭部を潰す事が有効とされているのだから、知らなければ迷った筈だ。

 それでも開示に踏み切ったのは、恐らく本当にこちらとの共闘を考えているから。確かに、ぶっつけ本番で頭ふっとばされる光景を見せられていたら、かなりの騒動になっていただろう。――灰化ではなく霧散であれば、最悪は免れているのだと、示す為に。それでも、流石に予想外だった。

 

 

 

 

 

「もう死んでる……って事なのか…?」

「ああ。……騙した様な形になってすまない。その、ヴェインでは吸血鬼が死人であるというのは、人間も皆知っている事だったんだ」

 

 唖然、と言う表現がこれ以上無くしっくりくるリンドウの問に、ルイが苦笑と謝罪交じりに答えている。生存を絶望視していた身内と再会出来たと思っていたら、実際はとうの昔に一度命を落としていた、という話なのだから無理も無いだろう。――神機使いは、多少のズレこそあれ人と同じ様に成長し歳を取り、そしてやがては命を落とす。神機というアラガミを"外付け"で扱うからこそ、その本質としてはあくまで人の範疇だ。……それこそソーマでさえ、その成長速度や姿は人のそれとほぼ同じなのだから。

 だが、彼等は。

 

「20歳ちょい足した歳……つったろ? 俺等みてぇな第1世代から第3世代位の……あー、古い世代の吸血鬼は、その大半が大崩壊の前後で死んだ旧世代の人間が元だ。BOR寄生体に読み込ませた当時の情報を元に、この身体は再生……"再生成"され続けてる訳だ」

「人の心を残しているという自負はあるけれど、それも結局は"残している"だけ、なのよ。正直、もう人とは呼べないでしょうね。……あの頃、吸血鬼が外に知られる前に引き籠もれたのは、幸運だったと思っているわ」

 

 ヴェインの、吸血鬼と共に生きている人々にとって常識だという非常識。アラガミと戦うために生み出された兵士という共通点を持ちながら、あまりに早く断絶したが故に分岐した存在は、ある意味ではそのお陰で、世界へ拡散される事なく秘匿されていた。……彼等の実年齢と外見年齢から目覚めた時期を逆算すれば、それは神機使いよりも尚早く。その前段階たるマーナガルム計画よりも、更に古い時代にあたる。

 アラガミの出現により、百億近い人口が数年で一億前後にまで減った時期。……世界が遺体で溢れかえっていたその時期に、吸血鬼の施術法が広がっていれば、どうだったか。――もしもそんな前例があったなら、果たして神機使いは誕生していただろうか。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が、場に落ちる。静かに……それこそ、その姿ではなく実年齢に見合った、ある種の達観と静謐を以て応えを待つ吸血鬼達と、言葉を失った様子の極東支部の面々の間に、乾いた風が吹き抜けていく。

 相手を、信用に足ると認めたからこその開示。隠し通す事を考えないでも無かったが、交流を進めればいずれ何処かで露見する不義だ。最悪自分達だけで済めば良いが、ヴェインの吸血鬼達との交流が進んだ後の破局は悲劇の引鉄となりかねない。

 吸血鬼は、自身の異質さを自覚していると同時に、その心が人のものであるとも自負している。……そしてその多くは人が人とのみ争っていた旧世代に生きた人間であり、ヴェインに幽閉された後も互いやその成れの果てを相手に生き足掻いてきた者達だ。人を相手に箍が外れてしまえば、その残虐さや非道さは、恐らく想像を絶するだろう。

 だから、それが齎すであろう不信や拒絶さえも当然として、それでも手を組む事が出来るか否かをここで問いかけた。――人ならざる存在へと成り果てかけたその寸前で、辛うじて留まっている様な存在を、味方と見れるのか、否か。

 

「……一つ、聞いていいか?」

「幾らでも」

 

 緊張か隔意か固い表情で、それでも嫌悪や拒絶の色なく問いかけたリンドウへ、先の流れから繋いでルイが応じる。その言葉に偽りは無く、秘匿すると決めた一線手前までは情報を開示する用意はあった。……久方振りに再会出来た、年下で年上になってしまった従兄弟との関係がこの日でまた壊れてしまうのも、覚悟の上だった。

 けれどその予想は、良い意味で裏切られる事になる。

 

「ずっと前に死んでる……つっても、記憶とか意識はそのままなんだよな?」

「……?」

「あー……だから、その。俺達の事を知っていたんじゃなくて、ちゃんと昔から覚えてたって事で良いのか……っていうかだな……」

 

 どこか暈された様な曖昧さのある質問は、それを抜きにしても予想外で、ルイだけでなく吸血鬼達全体が困惑を顕にする。答えてやりたいとは思うのだが、果たして何と答えれば望むそれを返せるのか。

 

「ふむ。リンドウ君が言いたいのはつまり、君達という人の記憶を元にそれらしく振る舞っている何かであるのか、身体の組成や特徴が変わっただけの君達本人であるのか、という事だね。アラガミ……オラクル細胞は、取り込んだ物の特性や習性を引き継ぐ事が多い。……実に興味深いね。そこの所はどうだい?」

 

 にっこりと何時も通り……いや、普段よりも尚笑みを深めたサカキに些か気圧されつつ、フォローと知的好奇心が半々程度の補足に対して返答を考える。……オラクル細胞への理解がまだ不十分な為はっきりとは言い切れないが、恐らくこれだろうと思えた答えを素直に返した。

 

「記憶や意識に関しては、俺達自身の物と考えて良い……と、思う。記憶の保持や忘却の仕組みは人とは変わってしまっているが、この自我は生前……人の頃と断絶してはいないし、堕鬼化は通称自我喪失と呼ばれている。……リンドウ達との記憶も、記録では無くちゃんと覚えている」

 

 人として死を迎えている事は事実で、それを模倣したバケモノがそう振る舞っているだけなのではないか。……彼等のその疑念は最もで、実際それを明確に否定出来る要素は無い。生前の脳細胞を寄生体が忠実に再現すれば記憶や知識はそのまま残る上、吸血鬼と化せば脳では無く血に記憶が蓄えられるという体質へと変わる。なるほど、人の姿と記憶を持っただけのバケモノだと、そう言われれば否定はしきれない。

 それでも、吸血鬼達は自身の心を人のそれだと認識し、人としての記憶や意識を元にして此処に在ると言い切る。……曖昧で頼りなくても、それが吸血鬼達にとっての事実だった。

 

 

 それに対する彼等の返答は、思い掛けない物で返された。

 

 

「そっか。……なら、何も問題はねぇな! 変な質問して悪かった」

「あ、ああ。それは、構わないが……」

 

 あっさりと。それはもう拍子抜けする程にからりとして、表情を和らげたリンドウと、それに同意する様に頷く神機使い達と、さらににこやかな表情となったサカキに、驚愕を通り越して混乱気味の吸血鬼達が相対する。確かに、多少の隔意こそ生じても協力体制は敷けるだろうと見込んでの情報開示だったが、ここまであっけらかんと受け入れられ流されるのは流石に想定外だった。

 

 

「人の心を持ち、人の味方であれるのなら。こちらかが手を取らない理由は無いよ。……そうだね。秘密を教えて貰ったお返しに、今度こちらの機密も伝えようか」

 

 人型アラガミに、生まれながらにオラクル細胞を宿す青年、アラガミ化から立ち直った神機使いに一足早い再誕を経た血族達という異端の存在。そしてアラガミ動物園と揶揄される程に過酷で危険な地域と、そこで必要とされた生存戦略。それらは、異端への寛容さとある種非情なまでの実力主義を生み出し根付かせていた。

 

 

 互いを知り、受け入れて。この日を堺として、吸血鬼と神機使い……否、ヴェインと極東支部支部は、正式かつ強固な協力体制を築いていく事になる。

 

 

 

 

 

――更に数日後。

 

 

 形容し難い声を最後に活動を停止したアラガミに息をつく。周りを見回して、自分達の他に動くものが無い事を確認して漸く肩の力が抜けた。……約一名左腕が肩から無くなっているが、再生力は十分に残っていたようで、視線を向けたその数秒後には何事も無かったかの様に戻っていた。

 

「お疲れさん。やっぱ硬いな」

「確か、"ヴァジュラ"だったっけ。深層のバケモノの3体目に似た感じ」

「4人がかりで1体を倒すのに10分程度、か。……複数に囲まれると厳しいだろうな」

「動きが激しいのが厄介だよな。後は作戦エリアってのも広くて面倒だ」

 

 近場にいた二人……ヤクモとミアに合流して先までの戦闘を振り返る。幸い死に戻りする事なく無事に1体を片付けたが、やはり堕鬼よりも随分と手こずる事になった。神機使い、という彼等はすっかりと慣れた様子で二人一組や何なら一人で1体を相手取っていたから、恐らくはそこまで強大な個体では無いのだろう。

 そうだとすれば、やはり自分達もより先を目指さなければいけないだろう。

 

 

「……中々霧散しませんが、これで大丈夫なのでしょうか」」

「……そういやそうだな。でも動く感じもしねーし、休眠状態の堕鬼に近い感じか?」

「いや、確かコアを破壊すれば霧散する…と聞いているが……」

 

 地面に倒れた巨体を前に4人で首を傾げる様は些か滑稽だろうが、生憎と本人達は真剣だ。先程までの様に敵意剥き出しで襲い掛かってくることも、立ち上がる事も無いから恐らくは倒せているとは思うのだが。堕鬼や吸血鬼はすぐに霧散するが、そういえばこのバケモノ…アラガミがどうだったかを聞いていなかった事を思い出す。取り敢えず、周囲を警戒しつつ霧散を確認するまでここに居るかと意見が一致した。

 

「おーい!どうかしたかー?」

「あ、倒せたんですね。此方も終わりましたよ」

 

 それ程待つ必要もなく、近場を担当していたらしいリンドウとアリサと名乗った女性の2人が近付いてきたので状況を説明する。その内容に何か思い至ったのか、少し苦笑してヴァジュラの傍らに立ったその手の武器が突然変形。根本付近を構成している黒い繊維のような部分が肥大化して、まるで牙の並んだ口の様に展開した。

 

「!!」

「活動停止した時点でコアも機能を失っちゃいるから、放っておいてももうすぐ霧散する。ただ、この時に捕食すると素材が手に入る」

「コアを捕食して持ち帰る事が出来れば新しい神機のコアにもなりますし、防壁の素材等で常に必要なので幾らあっても良い、という感じです」

 

 ばぐん、とアラガミに食らいつく牙。明らかに元々の体積を超えて巨大化したそれは、展開時の牙装よりも不定形でありながらはっきりとした質量を持っているように見える。その動きに合わせて刃や盾の部分がズレている為、どうやら同時使用は出来ない様だ。

 そうして見守る先、暫くもごもごとしていたそれがぎゅるりと武器の下へ戻る。何か物質的な物が手に入った様には見えないが、手元を見て頷いている様子から何かしらの物は手に入ったのだろう。

 

「素材を相手から取れるというのは便利だな」

「むしろそっちは取れねぇのか?勿体ねぇなあ」

「牙装は、基本的に攻撃と冥血を獲得する為の手段だからな」

「そもそも形状的にハウンズは兎も角、他は抉るとか突き刺すだし」

 

 基本的に死体が残らない、というよりは残っては困る(例:神骸)のが吸血鬼や堕鬼だ。……いや、継承者達の力を受けた終末の棘は何かしらの特性を持っていたというから、その方向であれば使えるだろうか?

 何にせよ、既に継承者は3人しかおらず、更には棺を持っていない為どうしようも無いのだが。

 

「…しかしそれは、どうやって取り出すんだ?」

「えっと、同じオラクル細胞なので、同化するようにして取り込んでいるのを、神機に吐き出させる感じですね。それなりの量を運べますよ」

「あー…俺達が粒子化して取り込んで運ぶのと似た感じか。便利だな」

「……そちらの方が便利だと思いますけど。っていうか、なんですか?その粒子化って」

「見せた事無かった?こうして…こう」

「ははっ、そろそろ驚かなくなってきたと思ったがまだあったか! それ、どの位まで持ってけるんだ?」

 

 ミアが牙装と銃剣を粒子化して収納し、また取り出して見せている。思い返せば説明していなかったが、霧散と再生の際に一緒に装備諸共移動していたのは見せていたと思うが……と意識が逸れる。説明の不足は、その都度伝えるという事で同意したのが数日前だ。

 

「詳しくは分かっていないが、恐らくは俺達が"自分の物"だと認識できる範囲、では無いかと考えられている。一度に粒子化出来るのは一人で運搬出来るレベルに限られるが、保管そのものはかなりの量が可能だ」

「ついでにいや、手にした武器は共に移動できるが、霧散した際に手放していた武器や装備は再生時に反映されない。だから、認識に左右されてるんじゃねぇかと言われてるな」

「その武器を持てるんなら、手荷物つってもかなりだな。今度、よかったらオラクル関係の素材を持っていけるか試してくれるか?…出来るなら、大分変わりそうだ」

 

 何の事だろうかと暫く考え、思い至る。彼等と同じ存在が暮らす拠点は世界中にあるのだと言う。だが、陸海空の全てにバケモノが蔓延るなら、人員・物資を問わず輸送は非常に危険なものだろう。だから、吸血鬼のヤドリギを初めとする距離を無視した移動に、彼等の物資を伴っていけるのならば、という事だ。

 相手側にヤドリギを生成するなり、何か目印となるものを設置してもらう必要がある事。信頼のおける相手でなければ、移動直後に攻撃されかねない事など問題はあるが、その有用性は理解出来る。

 戦闘面ですぐに貢献する事は難しくても、それ以外でも有用性を示せるのならば、比較的早期から対等の関係を築けるだろう。――挑戦するに値する内容だ、と言って良い。

 

 

「ま、取り敢えずアナグラに帰還しようぜ。こんな場所で長話ってのもなんだろ?」

「ですね。他の班も無事討伐出来たみたいです」

 

 呼びかけに、沈みかけていた思考が引き上げられる。回収ポイントについて話している内容に、ああ彼等には"帰り"の手段が必要だったかと再認識する。

 ――吸血鬼にとって、拠点への帰還は一瞬だ。

 一方通行で良いというこの特性もまた、上手く活かせば自分達の強みとなるだろう。

 

 

(人間を護る事。…そして、吸血鬼の未来の為に)

 

 それは、吸血鬼として目覚めたその時から変わらない誓いであり果たすべき事。

 外において吸血鬼は新参者だ。その成り立ちや特質を含め、人から見て異質である事はどうしようも無い。……ならば、異質であろうとも受け入れられる様になれば良いだけだ。

 




三千字ちょい加筆していたら遅くなりました。
吸血鬼とは人とは神機使いとは??とぐるぐるしながら、本作での設定を煮詰めてみました。
脳細胞の壊死や損傷では無く血英という物理的な何かで記憶を落っことした上条件付きとはいえ戻せる吸血鬼達の記憶と自我は、果たして何処に宿っているのか。


【この時点での吸血鬼達の強さについて】
・極東基準だと一人前と認められるかどうか程度(ヴァジュラをチームで死者なく討伐できる)。ただし、霧散と再生により接触禁忌種への囮や逃走に関しては、極東基準のベテラン並。
・火力不足なので長期化しやすく、短期決戦や大群の相手は現状では困難。赤い霧や棺の間を使えば阻害・隔離は可能だが根本的には解決しない上、負担が大きくリスクが高い。
・つまり極東の討伐部隊面子(GEゲームでの仲間達とか主人公)に比べると劣るが、他支部なら普通に戦力になるレベル(ピターは極東なら兎も角、普通の支部は壊滅レベルの相手)。
極東→新人2人でコンゴウ、ヴァジュラ倒して一人前、接触禁忌種と接触して死なないのがベテラン、接触禁忌種を狩るのが上位組、接触禁忌種を複数ソロで狩るのがエース。
他支部→オウガテイル狩れば一人前、コンゴウはチームで何とか、ヴァジュラは死者覚悟、接触禁忌種は支部壊滅の危機。

【吸血鬼達の武装と対アラガミ性能】
大崩壊時=初期のアラガミは深層の3体を除き掃討出来ている事から、クイーン討伐戦前後でも最低限の火力はあったと仮定。また、CV本編時であれば深層の3体(大型種)を(腕さえあれば)討伐出来る為、攻撃は通ると推測される。その為、即死しないだけの腕がある事を前提に時間を掛ければ戦闘可能。問題としては、主人公達は吸血鬼の中でも最上位に位置しており、それで漸く大型種というレベルのため現状吸血鬼の平均戦力は神機使いに劣っている(特性差もだが、純粋に装備開発の遅れが痛い)。 
吸血牙装はアラガミ相手でも使用可能で、中型種までは打ち上げ可能。ただし捕食による素材獲得が出来ない為、倒したら倒しっぱなしになりGE側から見ると勿体ない。


尚、吸血鬼達が神機使い側の基準として認識しているのは、"極東支部の上位陣"である。
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