やや吸血鬼達の戦闘力が上がっています。
「備えあれば、ってな」
「…………」
【【穢血の護り】】
楽しげにさえ聞こえる言葉と共に展開される紅の障壁。それに重ねる様にして更にもう一枚。二重の壁となったそれを纏うのは4人。神機使いよりコウタとアリサ。そして、吸血鬼よりヤクモとレイ。更に離れた場所では、他の仲間達が状況を見守っている筈だった。
本日の任務は、エイジスにてディアウス・ピターとハンニバルの討伐作戦。支部での模擬戦や支部周囲での低位アラガミ相手(低位なだけで大型含む)の訓練と実戦を重ね、ある程度の相互能力理解が進んだ事もあり遂に本格的な実戦での共闘を始めた中での一戦だ。――尚、戦闘訓練で気軽に相手にする様なアラガミでは無いと指摘出来る者は、残念ながらここには居なかった。
「よし、これで一撃だけだが攻撃を無効化出来る筈だ。一旦かけとけば時間が経っても俺らから離れても消えないんだが、重ねがけは出来ねぇから張り直しが必要な時は言ってくれ。後、俺かこいつのだけだとあくまで半減だから気をつけてくれよ?」
「……接敵したら、相手に合わせて武器への属性付与と耐属性の障壁を張る。ただ、これは時間経過で消えるから注意して欲しい」
彼等が展開したそれは、冥血を原材として血色の障壁を展開する錬血。二重に展開されたそれは、ただの一度きりでこそあるものの、如何なる攻撃であろうともその一切を相殺する盾と成る。同時に、非物質的なそれはその防御性能に反して、被術者へ一切の負担や抵抗を感じさせる事が無い。
それだけならば、リンクサポートデバイスが齎す恩恵の一種とほぼ同じ。機械的な技術で人を選ばないそれと違い吸血鬼個人に依存するそれは、特定の使い手を必要とする大きな欠点がある。――反面、その利点も大きい。
「いや、十分だって。リンクサポートデバイスのやつだと、回数とか時間制限付きだからさー」
「技術でこれを再現できるって方が、俺達としちゃ驚きだけどな」
それは、使い手たる吸血鬼が健在であり、かつ冥血が足りる限りにおいて、数秒程度の間隔で何度でも再展開が可能であるという点。そして、効果を発揮し終えるか遣い手達が解除しない限り、時間経過では衰えないという点。
本来ならば、使い手の希少さ故に半減が限度であった筈のそれ。例え半減でも、幾度も展開出来るそれは有用であった事は間違い無い。……だというのに、特異な存在を迎えた事で完全防御として成り立ったそれは、最早反則に近い。
「いや、でも本当に助かるって! 俺なんかは特に、避けきれなかったら絶対怪我するからさ」
自身の周囲を舞い散る様に囲う赤い光。それを興味深げに眺めながら楽しげに語るのは、本日の部隊で最も遠距離を担うコウタだ。シールドを持たない第1世代の銃型神機使いである彼にしてみれば、"もしも"の保険があると言うのは大きかった。それも、使い手である2人に依存するとは言え何度でも頼れるというのだから、尚更だ。ただ一撃のみの無効化であっても、その一撃が致命傷となり得る可能性が高い戦場がここなのだから。
「感覚としては、リンクサポートデバイスよりもブラッド隊の力に似ていますね」
「コストが掛かるっちゃあ掛かるし範囲も狭いんで、あいつら程じゃないとは思うけどな」
「そのコストも戦闘で回収出来るなら、余り変わらないと思いますけど……」
個人に依存し、制限らしい制限も無く、特別な機材や技術も必要としない。それは確かに、血の力として定着しつつある力に良く似ていた。
決して、ブラッド達の様に広範かつ瞬時に展開出来る訳ではない。しかし、その分細やかな調整が可能であり、また効果も多彩な上コストの回収も容易い力。どちらの方が良いという訳でもなく、あればある程便利で心強い力だ。――異能の力をそう言い切れる精神性こそが中々稀有なものであり、それがあるからこそ受けられる恩恵だとは、当人達には自覚の無い事であった。
〈ハンニバル、作戦エリアへの侵入を確認しました。ディアウス・ピターの侵入予測時刻は10分後です。……御武運を〉
そして遂に、標的であり脅威であるアラガミが作戦エリアに現れる。嘗てエイジスと呼ばれたその場所は、互いに逃げ場の無い袋小路だ。遮蔽物も退避場所も存在しないその場所は、当然全てが同じ空間を駆け巡る。それなりの広さがあるとは言え、大型種2体を同時に相手取るのはリスクが高い。ならば、どうするのか?
「ありがとな、シエル。んじゃ、やりますか!」
「ハンニバルの属性は火、弱点は雷もしくは氷……で良かったか?」
「はい。そして、ピターは攻撃属性が雷、弱点は神属性です」
「神属性ってのは、俺達の手持ちには無いな」
「ニュクス・アルヴァとかと違って普通に攻撃効くから、がんがんやってくれれば良いって!」
同時出現では無く、時間差のある襲来であれば……その対策は酷く単純だ。即ち――逃げも隠れも出来ない地形を利用し、合流前に片方の討伐を完了する。
仮にも接触禁忌種を相手に、超短期決戦で削り切る事を前提とした戦術。……他の支部では可能不可能以前に、まず案としてさえ挙がらないだろう力技。それでも、極東支部の精鋭達にすればごく当たり前の対処法であり……そしてそれはそのまま、極東支部以外を知らない吸血鬼達の基準ともなりつつあった。
「分かった。……耐火、そして雷もしくは氷か」
【ファイアウォール】【アイスウェポン】【ストライクライザー】
対岸から上陸するのは、人竜じみた姿のアラガミ。段差から飛び降り咆哮するその威容へ向かう3人の背へ、複数の錬血を重ね掛ける。
豪炎を和らげる障壁に、武器へ纏い付く真白い冷気。そして、物理的な攻撃力を引き上げ火力を高める錬血。穢血の護りと異なり効果時間に限りがあるため、直前に連続展開したそれらによって冥血の蓄えが大きく低下する。冥血回復薬を服用し数秒遅れて3人の背を追いながら、問題無く錬血が機能している事を確認していく。
直接的に身体へ作用する錬血が神機使い達にも有効であったのは少し前の出撃で発覚し、検証を終えた事案だ。身体の組成や武器どの繋がりが異なる為、始めはその影響が懸念されもした。…が、結局は特に問題無く、そして悪影響がなく恩恵だけがあると知れれば、使用を躊躇う理由は無かった。
そして、遂に前衛の二人が接敵する。
吐き出される火球を左右へ飛び退く事で避け、振るわれる豪腕を掻い潜りその懐へ。人の身丈を超える刃が2つ振り抜かれ、その前腕と後肢へそれぞれ傷を残す。腕に伝わる確かな手応え。だが、驚異の生命力を誇るアラガミ【バケモノ】にとっては微々たる傷だろう。
勿論、そんな事は元より承知の上だ。追撃に固執する事なく左右後方へと抜けた2人に、瞬間ハンニバルの敵意が分散する。――それは、後衛にして後詰の2人から見れば格好の的だ。
【リフレクトアイス】
【ブラッドバレット 三叉型氷弾】
剣山の如き氷塊が意思あるかの様に空中から迫り、三軸に分かれた氷属性の弾丸が真正面から撃ち込まれる。振るわれる前腕や尾の届かない距離に位置取る2人へ向け反撃にと吐かれた火球は、誰も居ない空間を焼いて飛び去っていく。
その隙に、今度は三度刃が重ねられる。銃撃に適した距離を保つコウタを置いて、更に踏み込んだレイが近接戦闘へと参戦。駆け抜けた後に反転し、後方から刃を振るうアリサとヤクモへと注意が向くよりも早く、真正面へ切り込んだレイへとハンニバルの意識が固定される。いっそ無防備なほどの踏み込みを迎え撃つべく振るわれた豪腕を、赤く色を変えた双眼で見据えたその身体が僅かに半身を引いて力を込めた。
直後、じゃぎん、と音を立てて地面から突き立つ無数の刃。小さな物でもショートブレード程の、大きなものはロングブレードの刀身にも近い刃。それがまるで、予め地面へ埋められていた槍衾かなにかの様に起き上がり壁と成って立ち塞がった。
その元となっているのは、ひらひらと背で揺れていた筈の布地。質量保存他、明らかに諸々の法則や理やらを無視したそれが、如何なる強度かその刹那剛力と拮抗してハンニバルの腕を弾き上げていた。
―― ガアアアァァアッ!!!!
振るった腕を弾かれ、バランスを崩した体躯へ三振りの刃が沈む。振り払おうと暴れるその巨躯を、今度は各々至近で回避。更に攻撃して離れる間際、ぴたりと押し当てられた左掌が纏った冥血の赤が、直後に零下の氷銀へと転じた。
【アイスパイル】
【フリーズロアー】
甲高く澄んだ音と共に速射された氷弾が、至近距離からその身を打ち据える。断続的に打ち込まれるバレットが的確に頭部を捉えて気を散らす中、更には駄目押しとばかりに巨大な氷塊が撃ち込まれ、遂にバランスを崩したハンニバルが倒れ込んだ。
「よっしゃチャンス!!」
蓄積したダメージによる一時的な機能停止。それ程の隙を逃す者がいる筈も無く、情け容赦の無い追撃が突き刺さる。篭手、頭部、そして逆鱗が相次いで結合崩壊。ダウンから起き上がったハンニバルの背に、光輪を思わせる焔が開く。苛烈さを増す攻撃に、それでも今更怯える者は此処に居ない。
戦い慣れた極東支部の2人は勿論の事、残る2人もまた、これが〝始めて〟のハンニバル戦とは思えない程の果断さで攻勢へと加わっていた。
「遠距離の多彩さは〝劫火の騎士王〟より上だな」
「ああ。……それでもまだ、どうにか出来る」
それは紛れもなく彼等の実力でもあるが、何より近似種との戦闘経験が活かせた為だった。
――劫火の騎士王。
それは、ヴェインの深層に遺されていた三柱の一つ。焔を操り格闘戦を主としたバケモノに、ハンニバルと言う名のこの相手は良く似ているのだ。恐らくは、あちらを原種として進化した種族がハンニバルなのだろうというのが、アウロラ達の見解だった。
「……試してみる」
「気を付けろよ?」
ならば気に掛かるのは、〝どこまで〟その経験が通じるのか、という事。
外のアラガミと異なり、あのバケモノ達は何度も何度も同じ個体がそのまま再生する。堕鬼の特性を取り込んだバケモノと一人の継承者が遺した棺によって、吸血鬼達はその3体に限り、何度でも繰り返し戦う事が出来た。
何度も、何度も。……何十度も。ソレ等しかいないバケモノを相手に、外を目指した彼等は戦闘を重ね続けた。相手の多様性が無いのならば、挑む側の条件を変え目標を変え試行を重ね、そうして数年を過ごし続けた。そしてその中には、武装や能力を縛って戦う等という……本来生死をかけてまで実践するような物ではない条件まで含まれていた。――故に。ごく一部の種族に限り、その経験値は神機使い達にも匹敵していた。
「あ、おい!危ないって!!」
後足で立ち上がり、両腕に炎を灯したハンニバルの懐深くへとレイが1人跳躍する。その予備動作から続く攻撃を悟ったコウタの警告も遠く、炎剣の乱舞が開始される。――その攻撃も、よく知っている。危険は高速で振るわれる炎剣だけでなく、躍動するその巨体そのものだという事も。……そしてその全てを躱せるのであれば、体格の差によってその懐こそが安全地帯となる事も。
「…………」
右に左に、前に後ろに。青白い火の粉にも似た粒子をひきながら、軽やかなステップが刻まれる。それは、さながらペアダンスの様にも見える死の舞踏。僅かな狂いも停滞も許されないそれは、しかし傍から見る分にはいっそ美しくさえある演舞。
攻撃と攻撃の合間に見える僅かな隙。防御では無く、絶対の回避で以て至近にあるが故に届く間隙。立ち上がった事で丁度良く晒された腹部へ鋭く研がれた刃が振るわれ、間隙に差し込むようにして錬血が放たれる。
【アイスパイル】 【シフティングホロウ】
避けては切り裂き、飛び退いては氷塊を。そしてただの跳躍では避けきれないと見れば、瞬間的に姿を散らし結んでその爪牙に空を掴ませる。シールドを持たず守るには心許ない片手剣は攻撃用と割り切って、自身のスタミナと冥血を対価に、死線の上で優雅にさえ思える舞踏を披露する。
それは、吸血鬼の中でも回避と連撃に長けた者だけが可能とする無被弾での近接戦闘術。牙装さえも守りではなく錬血強化の補助具と割り切ったその構成は、被弾時のリスクと引き換えに火力と機動力を約束する。
そして、演舞の終わり……大きく左右へ切り払う動きと共に開いたその胴体へ、わずかに力の込められた右掌が押し当てられた。
【オルドマンウィンター】
放たれたのは、自身を核として逆巻く冷気の暴風。至近に仲間たちが居ない事を良い事に、ハンニバルの巨体さえ呑み込む程の極寒が荒れ狂う。距離を問わず、近接戦闘に併せてありとあらゆる錬血を自在に使い分ける唯一無二の特異な戦術。吸血鬼の中でも更に異質なその動きが生む立て続けの常識外に、それでも彼等の戦い慣れた感覚と身体は反応した。
「全く。随分と心臓に悪いです、ね!」
「悪いな、慣れてくれ!」
【ブラッドアーツ/ソニックキャリバー】
【トーメントブラスト】
再び倒れ込んだハンニバルへ、駆け込んで来たアリサとヤクモの戦技が直撃する。振り抜かれる軌跡にそって放たれる斬撃と、膂力と遠心力を載せて叩きつけられる大剣。その合間を縫う様にして、コウタの弾丸が的確に弱点へ撃ち込まれていく。その最中、前衛の2人に場所を譲って僅かに離れたレイの牙装が再び蠢く。……今度は、はっきりと視認できた。
首周りから背中へと垂れ下がるマフラーにも似た布地が弾ける様にして消滅し、その根本、僅かに残った黒いベルト状の機構が露出する。直後、そのベルトが蛇の鎌首の如くに上方へと伸び上がりながら、鈍い黒鋼色の翼を展開。……それは、鱗にも似た無数のナイフで形成された歪な翼であり吸血鬼が備える牙の一つ。無数に枝分かれしたそれらが、見た目に反した柔軟さで下方へ再反転。それはまるで豆腐に箸でも突き刺す様な容易さで地面へと潜り込み、そして……
「うわぁ……」
じゃぎん、とつい先程も耳にした音が、先の数倍の大きさで鼓膜を叩く。伏したハンニバルの真下、地中を進み到達した黒翼の端が見えた直後に生じた光景に、距離を離していたからこそはっきりと目撃してしまったコウタは、思わず口角が引き攣ったのを自覚した。
ばらりと解けた黒翼の中から突出したのは、巨大な刃の群れ。地中から真上に展開したそれらは、当然の摂理としてその直上に在ったハンニバルの身体へと殺到する。肉を引裂き骨を砕くそれらの中心、最も巨大な刃が遂にその胴体を貫通して突き抜ける。バスターブレードさえも上回るそれによって、大型アラガミの巨躯が地面から浮き上がった。――直後、その身体が内側から引き裂かれて赤に染まった。
「エグいですね」
原因は、巨刃から更に展開した無数の刃。呑み込んだ爆弾が胃で破裂すればこうなるだろうかという惨状。刃が唯の布へと戻り消えた事でべちゃりと落ちたハンニバルは、誰がどう見ても既に活動を停止していた。
「そういやアイヴィの吸血動作、しっかり見せて無かったな」
「………」
納得した様に頷くヤクモの言葉を、同じ様に頷いて肯定する。建物であれ地面であれ、目的地点への潜航が必要な上に展開範囲の広いアイヴィは、拠点で試行するには些か不便だった。勿論実戦では使っていたのだが、基本的に堕鬼よりも動きの早いアラガミ相手ではチャンスも減る。その為、イオやエヴァと共闘した神機使い達ならば既に知っている可能性がある程度だ。……不意にこの2人はまだだったと気付いた為に、実演してみせたという事らしい。
「えーっと、牙装?の一つだったよな?」
「だな」
本日のメンバーでは、唯一捕食による回収が可能なアリサに回収を任せつつ会話を続ける。やや無防備にも思えるが、先の討伐時間は5分弱と余裕があり、見晴らしの良いエイジスの中心付近にいれば、不意打ちを食らう事も無いからこその行動。何より、気になった事は早めに聞いておかなければ、吸血鬼達は説明を忘れがちなのだ。
「んー……やっぱり布、だよなー?」
神機の捕食形態は、多少の差異こそあれその呼び名の通り捕食に適した形状を基本としている。それに対し吸血牙装は、それぞれの型により全く異なる形状が特徴であり、そして普段はその鋭さを感じさせる事が無い。……それ自体は知っていたのだが、アイヴィ型と呼ばれる牙装のそれは他の牙装に比べても尚独特だった。
「これさ、何か触られてる感じとかすんの?」
「……いや。展開中なら少しは分かるが、この状態だと服と変わらない」
触らせて欲しいというコウタに許可を出せば、、ひら、と背中でゆれるその2つの布地を鷲掴み、引っ張ったりわしゃわしゃと丸めてみたりと遠慮無く弄り回している。少し厚みのある生地で作られたそれは、それなりに丈夫ではあっても唯の布地だ。
その根本付近のベルトや気持ち程度の金属部分を触っても、やはりつい先程見たあの形とは結び付かない様で、しきりに首を傾げている。その上、神機の様に身体の一部に近い訳でも無いのに動かせているのだから、確かによく分からないモノだ。……そもそも、布地が変わるどころか、展開時には布地部分が消し飛ぶのがアイヴィ型だ。自分で使っていて何だが、根本の僅かなベルト部分が本体だと言うのなら、この布地の意味は何なのだろうか。
折角だからと隣にいたヤクモにも許可を取り、その上着を触りだしたコウタを何とはなしに眺めておく。肩に羽織ったジャケットと言った風情のハウンド型は、これまた服の袖としか思えない。気前良く触らせてくれる事に楽しくなったのか、一言許可を取ってから袖に手を突っ込んでいるがやはり唯の袖でしかない。
「何やってるんですか……」
「いやー、これどうなってるのかなってさ!」
「勇気あるな。一応ハウンズの展開状態見せた事あったろ?」
呆れた様子のアリサに向けて、気負いなく答えるコウタに思わず笑う。許可を出したのはヤクモ自身だったが、ここまで躊躇いなく触ってくるのは少し予想外だった。
ハウンズ型は、上着の両袖が獣の双頭となって展開する。そしてその形状は、吸血牙装4種の中で最も神機の捕食形態に類似する。……つまりその袖口に手を突っ込むという事は、獣の口に手を入れる様なもの。
攻撃するつもりなどは確かに一切無いのだが、出来ない事と出来るけれどしない事は大違いだ。……本当に肝が座っているというべきか、怖いもの知らずというべきか悩む所だ。
まあ、それを言い始めてしまうと牙装全てに突っ込みどころしか無いし、人から見れば神機も大して変わりは無いだろうけれど。
「なんて言うかさ、吸血ってよりもう捕食攻撃だよな。吸血鬼って直接噛み付いて吸うイメージだったんだけど……」
わしわしと、再びアイヴィのマフラー(?)部分をコウタに摑まれながら周囲を警戒する。その最中に、アリサによる捕食が終わり崩れ始めたハンニバルが視界に映った。……大分ずたずたにしてしまったので、有用な素材が無事に取れただろうかという密かな心配を、取り敢えずそっと流しておこうとした横からの言葉に思わず苦笑する。――気にするのはそこで良いのだろうかと思わなくも無いが、旧世代のサブカルチャーを知る身としては理解も出来た。
吸血牙装と呼ばれる装備は、最も小型のオウガでさえ人へ向けるには過ぎるモノだ。……それを使うに慣れた吸血鬼達自身でさえそう思うのだから、慣れない彼らにすれば当然だろう。嘗て幻想と思われていた吸血鬼【ヴァンパイア】の伝承を知るほど、吸血鬼【レヴナント】のそれは異質とうつる筈だ。
そもそも、吸血鬼【レヴナント】の呼び名も霧散と再生、血を必要とする特性から付けられただけで物語の吸血鬼を模して作られたという訳でも無い。
ただそれでも、似通う部分も確かにあった。
「あー……まぁ、自分の牙で噛み付く事も出来なくは無いんだけどな」
「え、牙あんの?!」
「まあな。……ほら、これで見えるか?」
「?!?」
指と言葉で示されて自然と向いた視線の先。いっ、とヤクモが剥き出して見せた犬歯が、ずるりと伸びてその鋭さを増す。……上下に2本ずつのそれらで噛み付けば、想像通りの噛み跡を残せるだろうと思える牙。それは確かに吸血鬼と言うに相応しい姿で、けれども今この時までそれを見せた事は無かった。
「本当に牙、あるんですね」
「ま、一応な。使う機会も必要も殆どねーから、俺達も普段は意識してないんだが」
「使わないんだ?」
「ヴェインでは、瘴気の影響でほぼ常に浄化マスクを着けていた。……それに、戦闘で使うにはこの牙は小さ過ぎるだろう?」
「あー……うん、確かに」
その理由はごく単純で、浄化マスクという口元を覆い隠すそれが必要だった事と、そもそもその牙が役立つ場面が無かったというだけの事だと説明すれば、2人とも納得した様子だ。
人の首筋程度ならば容易く噛み千切れるだろう牙も、急所が無いに等しい上にその大半が巨体を誇る堕鬼やアラガミ相手では、蚊の一刺しにさえ劣る。それに、もし仮にダメージが通ったとしても、極度の接近戦はリスクが高過ぎて定着はしなかっただろう。それに加えて錬血の行使にはそれなり以上の量が必要で、牙であけた傷程度では到底足りる筈が無い。
血涙や輸血パック等があり人体からの吸血に頼る必要もない以上、使う必要が無かったのだと説明。……それに、だ。もし火力として十分だったとしても、戦闘中にアラガミに組み付いてその身体に齧り付かなければならないのだから、結局使うことは無かっただろうと思う。
「血が必要でも、最悪ナイフか何かで傷作って貰えば良いしな。それに、瘴気溜りでも無い場所で俺らが飢えて渇く状況だと、大体は人の方がヤバいと思うぜ?」
「……俺達だけなら、最悪拠点やヴェインに緊急退避して補給も出来る」
「そー言えばそっか。移動が楽なのはやっぱ羨ましいなー」
自我を保つ為に定期的な血や血涙の摂取を必要とする吸血鬼だが、その量や頻度は決して多いものでは無い。マスクでの浄化が追い付かない程に瘴気が濃ければまた別だが、ヴェインの外であれば現状数日に1度の摂取でも十分な程だ。
ヴェインの状況が改善した今、〝生き延びる〟事に限定すれば吸血鬼達は誰よりも適性が高い。一切の出入りを禁じる霧に囲われた牢獄は、見方を変えれば絶対防御の要塞でもある。何より、帰還だけであれば距離も時間もゼロとするその特質により、僅かな好機さえあれば例えアラガミの群れの只中からであろうと脱出と生還が可能だ。……帰還の為に足が必要で、場合によってはアラガミを連れて帰らない為に戦場で果てる事さえ求められる神機使い達に比べれば、確かに便利だろう。
〈ディアウス・ピター、加速。このままならば予想時刻よりも早くエイジスへ到達します。同時に、想定外のアラガミも接近中……大型種と思われます。ディアウス・ピター及び不明種の到達予想時刻まで、後30秒!〉
「何か増えてねぇか?」
「まあ、何時もの事ですね」
空いた時間を活かして繋いでいた会話。その最中中齎された通信内容に、顔を見合わせ苦笑する。――切り替えは一種の事。暇潰し代わりの雑談を切り上げ、武器を構え直したその瞬間にはびりりとした戦意が満ちていた。
大型の接触禁忌種との連戦も予定のズレも増援さえも、極東支部ではありふれた事。この狭い空間で複数を相手にする苦労とリスクに比べれば、一体ごとの連戦なら寧ろ有り難い。……多ければ、一度の作戦で片手に余る大型種を狩る事さえある魔境がこの場所だ。だからこそ、力の抜きどころも切り替えの早さも自然と身に付いている。
「穢血の護りは継続している。……その他の錬血を掛けなおしておく」
【ライトニングウォール】【ストライクライザー】【オーバードライブ】【アサルトランカー】
意識を集中させ、錬血を組み替える。
流石と言うべきか、先のハンニバル戦では皆揃って一度の被弾も許さなかった為に赤色の障壁はそのままだ。ならばと、護りの障壁を火から雷へ。今度の相手に有効な属性を展開出来ない分、基礎的な能力の向上をメインとした錬血を展開する。……何れは神属性と呼ばれるそれも、身に宿せればと思う。何か、その属性に特化したアラガミでも狩れば手に入るだろうかと思考が脱線。気付いて引き戻した意識を、集中させ引き絞った。――今は、出来る限りの事を。
〈大型種、作戦エリアへ侵入!来ます!!〉
自分こそが帝王であるとばかりに咆哮し、正面から威圧してくるのは、これまた何処かで見た事がある様な姿のアラガミ。それは赤い霧の切れ間に見たバケモノであり、そして深層の1つに眠る個体の推定進化種。……人の顔にも似たその頭部に、より獣に近かったあの個体から一体何を目指して進化したのだろうかと、研究は専門外ながら少し気になった。
「よし!あともう少し頑張ろうな!」
「全く、何故あなたが仕切っているんですか」
「ははっ!まあ、よろしくな」
「………」
負ける気はしない。
その気になれば、2人でもソレを狩れるという神機使い達への信頼。そして、折れる事の無い意思の証。
その姿の差異から、ハンニバルと騎士王程類似点は多く無いだろうと分かっている。――それならば、また新しい経験と共に覚えて身につけ物にしていけば良いだけだ。
世界喰らう荒ぶる神の一柱。抵抗の意思を見せる不遜なる者へ向け、まるで不敬であるでも言わんばかりに身を揺らした帝王が咆哮する。それに対する返礼は、翳された刃と銃弾で行われた。
ちなみに。この任務は他支部であれば存続を賭けた決死戦ともなる高難度任務である。……が、残念ながらと言うべきか極東上位陣にとっては珍しくも無いものであり、故にそれを指摘する者は誰も居なかった。
その為、吸血鬼達も順調に外の常識を誤認しつつあるのだが、それに気付くのはまだ先の話。
主人公の火力が高く見えるのは、陽錬血補正+有利属性ガンメタを決めているからです。なので無属性錬血無し縛りをしたり、神属性やそれが弱点の敵等となると弱体化します。後は、場所が棺の間に似たエイジスだったのも有利に働きました。
火力は足りなくても、バフデバフ要因としてはCV本編レベルでも中々優秀だと思う吸血鬼達。特に、CVで一度は皆がお世話になっただろう穢血の護り×2は、GE側だと基本はリンクサポートデバイスで作戦中一度のレア能力。カスダメも大ダメも0にする鉄壁さと、消費5という軽さと再展開までの早さには随分と助けられました。
後は、物理的な防御は低めながら牙装と錬血を込みで合わせた時の耐属性性能。
現状だと多数を切り替えて使い分けられるのは主人公のみですが、マスタリー化出来そうな錬血(ブラッドコード固有では無いもの)については、そのうち仲間達にも広がる予定です。