火力に優れたブラストの炸裂弾が、女性を模した顔面を打ち据え焼き焦がす。ぐらりと蹌踉めいたそのアラガミへ、中空に留まっていた氷弾と銃剣から放たれた弾丸が着弾。浮力を失って地に落ちたサリエルを待ち構えるのは、もう一人に比べて身軽で素早く接敵出来たルイだ。……しかし、その手に呼び名の由来ともなった武器は無い。まるで拳を以て殴りかからんとするかの様な姿は、しかし無策では無くもう一つの牙を展開する為の物だ。
僅かに込められた力に反応し、牙装が展開を始める。右腕を覆っていたガントレットとその固定具が黒いベルトへと変じ、巻き付き捻じれてその腕を鬼形へと変異させる。形成されたのは、細身の青年には不釣り合いな程の巨大さと短剣にも似た五爪を備える異形の片腕。――それは、オウガ型吸血牙装の展開形態。牙装4種の中で唯一、使い手自身の肉体を核として展開するそれは、射程や範囲、自由度にこそ劣るものの、使用者の動きに連動するが故に操作の簡単さと即応性は随一だった。
ざぐん、と、軟体と鋼体が入り混じった物を強引に貫く音と感触。落下するサリエルの直下、下から打ち上げる様に抉った鬼腕がその腹部に突き刺さる。その素性から鎧を纏う者も多い堕鬼にも通ずるその爪は、人によく似たその青白い腹部を予想以上の容易さで突き破った。
〈――――――!!!!〉
冥血代わりのオラクルを吸収。暗赤色の瞳を鮮烈な赤へと染め上げながら右腕を引き抜いたルイにより、奇怪な叫び声と共にサリエルが今度こそ地に落ちる。……直後、その後頭部に鈍い金色の大剣が叩き込まれ衝撃が襲った。その重量と使い手の膂力を存分に乗せて上から下へと向かう力に、下敷きになる前にと牙装を解除して即座に撤退。にっと楽しげに笑った明るい緑と一瞬視線が交わった先に、苦笑を返して武器を再具現。
一歩間違えれば巻き込まれたか引き摺り倒されただろうタイミングでの攻撃も、それが彼等の普通であり、かつきりぎりを見極めた信頼と分かれば文句を言うつもりもない。……ただ、それでも流石に、驚くものは驚くもので。
「射線上に立たないでって、私言いましたよね?」
「っ?!?」
「だっ?!――っおい、カノン!!少しは狙う努力をしろって!!」
「何ていうか……凄いわね」
後方から飛来したブラストバレットに、危うく巻き込まれかけて心臓が跳ね上がった。……敵味方の血を識別する錬血と違い、識別機能を持たないそれの直撃を受けて吹っ飛ばされた記憶が蘇る。思わず更に飛び退いたルイと違い、若干余波に炙られかけながらも攻勢を止めない男性……ハルオミに、いっそ感心しながら再接敵。慣れと若干の諦めの下、その武装の関係もあって果敢に前衛を担う彼を主軸に立ち回る。
大型武器を軽快に振り回すその動きは、どことなくヤクモのそれを思わせて。何となくそれに似た感覚で立ち回れば、やがてハルオミへ合わせた調整も馴染んでいく。うっかりすると巻き込まれる後方から飛来する大火力にも、数をこなせばやがては慣れた。
ミアと共に互いの死角と不足を補う様に立ち位置を変え、火力に優れる神機使い達が十全に実力を発揮出来る様にと場を整える。物理攻撃にも陰錬血にも特化した能力では無いから、斬撃も錬血も致命傷には程遠い。が、数を重ねて降り注ぐ斬撃や巨大な炎弾や氷塊による物理的な衝撃は、意識を逸して邪魔するには十分だ。
滑る様に向かい来るサリエルを飛び退いて避ける。その先で、がぁん、と唯一人真っ向からシールドで受け止めたハルオミにより生じた停滞の間に、錬血と銃弾が叩き込まれてアラガミの背を削っていった。……若干彼を巻き込んでいる気がしなくも無いが、タワーシールドを展開した状態ならば遠慮する必要は無いと言われた言葉を信じて動く。
ありったけのそれらを撃ち込んだ後は、そのまま間合いを詰めての近接戦へ。全く同時の併用こそ困難なものの、武器と牙装、そして複数の錬血を切り替え無く行使する吸血鬼達の動きは滑らかだ。
――神機使いと吸血鬼では、多少意外な事に吸血鬼達の方が攻撃に偏重した能力と装備をしている。特に、閉所や足場の悪い空間での戦闘は、神機使いよりも適性が高い。
共闘を繰り返す中で発覚した事柄。刀身・銃身・盾を全て一つの神機で賄う神機使いは、その切り替えや変更に僅かながら時間がかかる。対して吸血鬼は、武器・牙装・錬血は独立していて慣れと経験さえあれば併用も可能だった。
そしてそれは、武器自体の火力や身体能力そのものは神機使い達の方が上のまま、彼等の横で吸血鬼達が戦えている理由でもある。……しかしそれが可能であるのは、経験を積んだ吸血鬼のみ。つまりは、吸血鬼の中でほぼ最上位たる者達で辛うじて同等、でしかない。
――外を目指すのならば、より高みを。
ヴェインに残る吸血鬼の底上げは勿論、自分達もまたその先へ。アラガミへの対抗力が付けば、世界を巡る事も可能になるだろう。だからこそ。
(ここで立ち止まる訳にはいかないな)
サリエルが堕ちて活動を停止したのは、それから大凡数分後の事だった。
「やはり、捕食が出来ないというのは大きなデメリットだな」
「そうね。私達はともかく、あっちに役立つ資材の一つ位、持って帰れたら良いのに」
「ハウンズやオウガなら、まだ可能かもしれないが……」
「ハウンズはわかるけど…オウガ?」
「抉り取る、というよりは引き千切った後、霧散する前に収納してしまえばどうかという案が出ている。スティンガーやアイヴィは、液体位はと思うんだが……」
「私みたいな第1世代の神機使いも、初めはやっぱり大変だったみたいですよ! 一応、専用の箱?を使えば少しなら回収出来るんですけど、大型種には使えないですし」
「回収用の箱か。今でも残っているのなら、幾つか分けて貰いたい所だが……」
吸血鬼と神機使いの共闘時、活動を停止したアラガミを喰らって回収するのは、現状近接形態を取れる神機使い達の役目だ。
吸血鬼達の戦闘スタイルそのものは、使用可能な錬血や適性の差はあれども第1世代近接型、もしくは第2世代と呼ばれる神機使い達のそれに近い。が、その回収・確保能力という点に置いては、第一世代の遠距離神機と同レベル……下手をすればそれ以下だった。
それはヴェインの吸血鬼が、バケモノの素材では無く吸血鬼自身の血を以って素材と成してきた事。そして、活動の停止と共に霧散しては再生する堕鬼が主な相手であった事に起因している。第1世代、バケモノを相手としていたその時期でさえ、クイーンの血に由来した鉱石での製造と強化を主軸としていた位だ。……そもそも相手から何かを奪って素材とする経験や技術が無いのだから、備わりようが無かったのだ。
その為、牙装には神機の様な捕食・格納機能が存在していない。ヴェインではそれで十分だったのだが、アラガミ由来のオラクル細胞を活用するという、フェンリル式の技術を扱うのであれば話は変わってくる。吸血鬼かそもそもアラガミと戦えないと言うのであれば割り切って神機使い達に頼むのだが、戦えるというのに回収出来ないというのは些か問題だ。現状では神機使い達の同行が必要不可欠となってしまっている上、作戦中に大きくバラけて動くというやり方にも制限がかかってしまっている。だからそれをどうにかしたいと思うのは、当然の流れではあった。
牙装は、タイプによっては捕食形態にも類似している。しかし、あれはあくまで外付けの武装であり、引きちぎる事は出来てもそれそのものに取り込みや吐き出しの機能は無い。……だが、格納と取り出しという能力は吸血鬼自身が備えているものでもある。それを応用して捕食代わりに出来ないかというのは、研究・技術班の課題の一つだった。
「まーた物騒な話をしてるなぁ」
「終わった?」
「おう。しっかしまぁ、お前さんギルやソーマと気が合うんじゃないか?」
「そう、か?」
「何となく分かる」
回収を終えたハルオミが合流し、帰投を待つ間に何という事も無い緩やかな会話が続いていく。始めましてのあの日から凡そ1ヶ月。それぞれの名前と姿、そして役職や適性を漏れなく把握できる程度には近付いた距離と、馴染んだ連携。この面子の中での最年長が実はハルオミでは無く吸血鬼の2人の方だという不自然も、そういうものなのだと受け入れてしまえばそれで済んだ。
「にしても、だ。話聞いてる限りだと、切り離した素材はそのままあんた達が保管する事になるんじゃないか?」
「? ああ、そうだな。核から切り離した〝素材〟なら、俺達の武器や牙装とそう変わらないだろう? 瘴気に侵された堕鬼の武器でも特に問題は無いから、恐らく大丈夫だ」
「あー……いや、気にならないんならそれで良いけどなぁ」
「?」
それでもやはり、埋め難い溝は未だに残る。
〝アラガミの一部〟を切り取り、同化させるようにして保管し、必要に応じて取り出し利用する。……それは、神機使い達がその〝神機〟で行っている事だ。――近付くにつれて明かされるその力と特性に、【神機】……【人工制御されたアラガミ】に似ていると感じてしまった事は、今回が始めてでは無い。
人としての生を一度終えているのだとしても、人の心を持ち人と共に在れる彼等をそう捉えてしまう事に自己嫌悪をして。そして、神機使いを人として扱う思慮を持ちながら、自分達の異質を当然とするその在り方に困惑し続けている。……本人達に悲壮感が無いからこそ、勝手に抱いてしまう違和感と罪悪感の行き場が無かった。
「さて、んじゃ帰りますか!」
そんな思いを軽く振った首と共に振り払い、がしゃりと神機を肩に担ぎ上げて声を張る。何にせよ、本人達が気にしていないものに他人が気を揉んでも仕方が無い。今は同じ敵を相手にする頼れる新しい仲間だと、それさえ分かっていればそれで良い。
「……ああ、そうか。気を使わせてしまってすまない。――ありがとう」
……ただ、時折。年若い姿をしていながら、ふとした拍子に年上である事を思い出させてくるのは、何とも言い難い気持ちになれるのでやめて欲しいと思う。
無印〜2系まで、味方の誤射と味方への誤射に怯えつつ謝りつつ戦っていた思い出。3で誤射らなくなった時は、ほっとしたような残念な様な気持ちになりました。
ただ、錬血もフレーバーテキスト的に冥血を識別して云々あるんですが、雷撃とか液体系は良いして棘とか氷弾火山弾的なあれこれはどうやって誤射らない様になっているのか気になる所です。
オラクルバレットは、あくまでその属性のエネルギーをぶつけていると考えれば、まあまだ分かるんですが。