不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

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うっすらモブ神機使いが犠牲になっています。


距離と時間の無関係

―― たん、たん、たたん、………、たん。

 

 まるで、ダンスでも踊っているかの様に軽やかでリズミカルな足音が響く。時折不自然な休符を挟みながら、しかし周りに響く轟音に埋もれ果てて途絶える事も無い。

 凍てついたダムの上、融解と氷結を繰り返して凍り付いた足場を物ともせず、いっそ楽しげにさえ舞う様は一瞬その場所の現状を忘れそうになる。……そう、複数の大型アラガミと中型アラガミが入り乱れて牙を剥く只中だという、地獄の様な現状を。

 

「……はぁ。しつこい」

 

 前後左右に何なら上下まで、何処を見ても殺意に満ち溢れたアラガミと眼が合い、げんなりとした息が洩れる。自分が選び飛び込んだ死地ではあったが、それはそれとして愚痴の一つ程度は溢したくなる状況だった。

 

 

 

 

 

事態の始まりは、数十分前の事だ。

 

 

「―――――っ――!!」

 

 僅かに十と数m先で荒れ狂う暴虐と死を前に、彼等は必死で息を殺して蹲っていた。

 積み上がり崩れかけた廃材の隙間に見出した逃げ場。そこは、少しの衝撃でも崩れてしまうだろう程に不安定で頼りなかったけれど。それでも、目の前に迫り牙を剥くアラガミに喰い殺される位なら、いっそ圧死した方がましだと思った。

 突然の襲撃と、敵の規模に対する戦力の不足。ただの輸送任務だった筈のそれが、討伐任務の中でも更に高難度のものへと変貌する。……極東ではそれなりの頻度で起こる悲劇が、彼等に降り掛かった不幸の正体だった。

 極東への救援要請は発出済み。けれど、大型アラガミの被害が複数同時に確認されているとかで、早くても2〜3時間は掛かるとの知らせ。それも、ここでは珍しい事じゃない。寧ろ、大型種の群れを相手にしながらその短時間で片付けて救援に来る予定なのは、流石の極東クオリティだろう。――彼等がそうならざるを得なかった理由。大型アラガミが群生し闊歩する極東の異常さが今まさに牙を剝いていなければ、素直に感心出来たというのに。

 

「ぅぅ……ひっ、ぐ、……」

 

 ガチガチと鳴る歯を噛み締めて、零れそうになる嗚咽を押さえ付ける。瓦礫の隙間から見える無数のアラガミに、ほんの僅かでも気取られない様に。ぼたぼたと地を濡らす赤と噎せ返るような臭気を隠しようがないと分かった上で、それでも、足掻く。万に一つ、億に一つの可能性だとしても、耐え抜けば勝機は決してゼロでは無い。

 

 

(早く、早く、早く――!)

 

 

 願うのは救いの手。求めるのは圧倒的な力。

 極東支部が誇る討伐部隊、独立支援部隊、防衛班、ブラッド隊。危険度10を超える死地を、当然の如くに踏破し生還する、破壊と救いの象徴たる力の具現。彼らさえ間に合えば、この地獄の様な有様さえひっくり返せると知っている。

 

「兎に角、動いちゃ駄目。っ少しでも、時間を稼がないと」

 

 外のアラガミ達は周囲を彷徨くだけで、まだ襲っては来ない。……その理由が、此処へ逃げ込むまでに犠牲となった仲間にあるのだと、分かっている。今だって、出来る事なら目と耳を塞いで蹲ってしまいたかった。けれど、喪ってしまった仲間がいるからこそ。

 

「毒と…リークは、抜けた。回復錠は使い切っけど、バイタルも安定値に……戻せた」

「じ、神機に不具合はありません……っ!まだ、た、たたかえます!」

「まだ、だ。動くのは、アラガミが完全にこっちを向いた時か……味方が来た時だ」

 

 万が一の時にはせめてもの足掻きをと覚悟を決める。並の精神であれば心を折られ、最期まで動けなくても可笑しくは無い極限状態。それでも尚諦めない彼らは、確かに極東で生きる神機使い達だった。

 

 

 もしも幸運の女神なんてものがこの世界居るのなら、きっとそのしぶとさを気に入ったのだろう。

 

 

「……無事だな」

 

 

 ただその幸運は、彼らが期待したものとは少しだけ違うカタチをしていた。

 

 

――――――――――

 

 

――同じく数十分前。極東支部エントランスにて。

 

 

 ヴェインから転移した先、閑散としたアナグラを疑問に思う間も無く鳴り響いた警報に視線を巡らせる。悲鳴の様な救援要請と、困り果て騒然とした様子のオペレーター達。どうかしたのかと声を掛けた彼らへ告げられたのは、数人の神機使い達の窮状だった。

 

「一番早く駆け付けられる部隊でも後三十分は必要で……それまでは、とても」

「此処に残っている者達はどうした」

「討伐部隊やベテラン勢が出払っちゃってますし、作戦領域自体ここから少し遠いんですよ。相手もそこそこやばいですし……正直、周りの手が空くのを待った方が確実なレベルです」

 

 ヒバリ、そしてテルオミの言葉、そして表示されている作戦エリアの地図。……その名前に、思わず視線を交わし合う。考えた事は、恐らく同じ。――いけるか、やれるかと。僅かな時間と今ある手札を照らし合わせ、そして一つの結論を導き出した。

 

「……俺達で時間を稼ごう。通信機の予備はあるか?」

「えっ?!」

 

 さらり、と何ということの無いように告げたジャックに、頷きだけで同意しながら装備を整えていく。乱戦の只中で速度を重視するのならば、片手剣に小回りのきくオウガか錬血への補正が強く軽量なアイヴィ、そして補助の陽錬血と出の早い陰錬血が鉄板だろうか。アラガミ相手なら瘴気対策は必要無いが、マスクは漂うタイプの毒にも一定の効果がある。……ああけれど、極東の通信機を借りるならマスクは邪魔になるだろうか。

 そんな事を考えるともなしに考えながら、あれこれと準備を進める中感じた視線。なんだろうかと意識を戻せば、何とも言えない空気で固まっていたオペレーター達に首を傾げる。――そういう流れだと思ったのだが、何か間違えただろうか。

 

「…何か、問題が?」

「っいえ!とても、有り難いです。えっと、すぐ移動用のヘリを手配しますね!」

「うーん、こっちとしては助かるんですが、本当に良かったんですか?」

 

 感じ取れるのは心配と困惑と逡巡。そして続いたその言葉に、漸くその空気と表情の理由を理解した。

 今から出撃しても、ヘリを使用しての移動であれば他部隊の到着と然程変わらない。そしてその他部隊には、確実に状況を打破出来る戦力があると確定している。――そんな状況で、火力的に劣る上所属の違う吸血鬼を使う理由は薄いのだと。そう説明したばかりなのに何を言っているのか、という疑問。そして、話を聞いていなかったのだろうかと、自らの実力を過信しているのではないかという、苛立ち。

 成程、確かにそれは正論であり、正当な感情であり、何より正しい判断だ。……唯の、戦力としてならば。

 

「〝俺達に〟ヘリは必要無い。……要救助者の回収へ回せ。それに、結局は討伐部隊の力も借りねばならん」

「はい?」

「俺達が囮になってアラガミを引きつける間に、彼等の脱出と救助を。……アラガミの群れの討伐は、頼まないといけないけど」

 

 ぽい、と投げられた通信機を耳元に取り付けながら説明をする。今一上手く伝わっていない気がしたものの、あまり時間を掛けてはいられない。最悪自分達は怒られれば良いとして、せめて助けを待つ神機使い達の救助だけはとヘリを頼む。……後は、極東と呼ばれるこの地を回すオペレーター達に任せる【丸投げする】事にした。

 

「行くぞ」

「ああ」

 

 説明を切り上げ、呼ばれたその傍へ。僅かに色を変えた左眼が見えた直後には、自分達以外の全てが切り替わっていた。

 

 

――氷雪が反射する日光に刹那眼が眩む。一つ首を振って見渡せば、見えたのは凍てついたダム湖とそれを堰き止めていたコンクリートの壁。蒼氷の渓谷と呼ばれるエリアのその一角に、彼らは立っていた。……最速でも三十分以上かかると言われたその時間と距離を、僅かな刹那で踏み越えて。

再生と同時に通信が繋がり、確かに2つの反応が移動した事に気付いたオペレーター達が啞然とするまで、あと少し。

 

 

 

 

 その時救援を待っていた神機使い達にとっての幸運は、大きく分けて4つあった。

 

 

「やはり一度、主要な作戦エリアだけでも周っておいた方が良いか」

「……他の皆の事も考えるなら、主要地点だけでもヤドリギを生やす、か?ヘリは、余り使えない訳だし」

 

 一つは、一時的に戦力の不足していた極東へその時偶然にも吸血鬼達が訪れた事。一つは、その中の一人がヤドリギを必要とせず長距離を移動可能なジャックであった事。一つは、つい数日前の訪問時に、彼がこのエリアでの作戦に参加していた事。

 

「初めて来たけど、凄い場所だ。……救難信号とレーダーを見る限り、あの辺り、かな」

「その様だ。……もう一度、跳ぶぞ」

 

 極東支部が誇る詳細な地形データと、未だ発され続けている信号を照らし合わせて位置を絞る。どうやら、出撃地点だという此処のほぼ正反対、岸壁近くの片隅らしいと判断。駆ければまた幾らかの時間を取られるだろう距離を、眼骸の力を借りて一息に詰める。……流石に遠距離は無理だとしても、視認可能な範囲程度は自分で跳べれば良いのにと刹那の思考。それも次の瞬間、切り替わった視界と状況に押し流されて埋没した。

 

「場所が悪い。……エリアから逃がせるか試してみるが、最悪防衛戦だな」

「了解。……暫くは保たせるから、よろしく」

「油断はするなよ」

 

 転移したその先。念の為にと発動しておいた【夜霧の衣】で姿を晦ませながら、ある意味では堂々と瓦礫の山頂で最後の打ち合わせを行う。後方を断崖に阻まれ、開けた側にアラガミが陣取る光景に状況の悪さを再確認。ただ、神機使い達の身体能力なら瓦礫の上から崖上までの退避自体は恐らく可能。……自分がアラガミを上手く引き付けられれば、確率は上がるだろうか。

 神機使い達の安否確認と誘導の可不可をジャックへ任せ、十と数m先の位置へと意識を集中させた。

 

【シフティングホロウ】

 霧散し、移動するその短距離転移は慣れたもの。僅かのブレもなく移動したその場所は、アラガミの群れのど真ん中だった。

 

「……さて、やるか」

 

 劈く咆哮に微か眉を寄せたその直後、その周囲に無数の光が瞬いた。

 

 

 

 最後の一つは、同行していたのがヴェインにおける最大戦力であった事。

 

 

 

「…………」

【氷華の光芒】【迅雷の鉄槌】【牡丹灯影】【薔薇火焔】

 

 群れの只中に躍り込み、兎に角効果範囲の広い錬血を複数展開。基本消費が重い上に使用間隔も広いそれらは、出来れば余り使いたくは無かったがこの際仕方ない。

 属性の相性も当りどころも気にせずばら撒いた錬血。それなりには錬血に適した装備で来たとは言え、最適を選べないままのそれに斃れたのは僅かに小型が数体。ただ、威力としてはその程度であっても、重なる爆発や雷光による衝撃と刺激はその注意を存分に引き付けた。

 

「…………」

 

 小型まで含めれば三十にも届きそうなアラガミの全てから向けられた敵意が、物理的な圧力さえ伴って押し寄せる。思い起こすのは血の試練と呼ばれていた堕鬼の波状出現。……倒す必要は無いという条件なだけマシかと、ズレた思考を置いて死の舞踏は始まった。

 

 

――――――――

 

 

 その頃、身を潜めていた神機使い達は混乱の只中にあった。

 

「は、え?なん、何が??」

 

 どれ程早くとも、後三十分はかかると告げられていた筈の増援。実際、アナグラのオペレーター達からその旨の連絡は未だ無い。ならばアナグラ以外の戦力かとも考えたが、それこそ事前に連絡なりがあるだろう。……そもそもの話、他支部の戦力が近くに来ていたとして、この状況で役に立つとは思えない。

 だというのに、瓦礫の隙間から見える一人の人影。武器を片手にアラガミに対峙し、少しでもこちらから引き離そうとするその姿は、明らかに自分達を守ろうとしていた。なのに、通信機はやはり沈黙したままだった。

 

「神機…じゃ無い?え?人があんなに動ける筈無いしけど腕輪無いし銃身じゃ無いのに遠距離攻撃??」

 

 加えて、それをさて置いてもこの増援は変だった。まず何処からどうやって現れたのかも謎であり、更には瞬間移動か何かの様な謎の動き。加えて、神機と言うには不自然にシンプルな、それでも確かに近接型だと分かる武器ながら変形を経ずに連射される遠距離攻撃。属性が入り乱れているのは良いとして、ドーム状に展開する雷撃の様なバレット等あっただろうか。

 躊躇いなくアラガミの只中へと飛び込む行動は、それが可能なだけの実力を誇る極東上位陣を思わせる。だが、その姿に見覚えは無い。何より、人が使うには大き過ぎる刃を持つその右腕に、あるべき赤が……百歩譲って黒が無いのが決定的だ。

 つまりは神機使いでは無く、だというのにアラガミの群れに突貫して戦い得ている見知らぬ相手。

 

 

 ―――なんだこいつ―――

 

 

 その思いで、彼等の心が一致する。

 あまりにも突っ込みどころしかない存在の出現に、沈みかけていた気持ちが緊張から解かれる。いっそ不釣り合いな程弛緩しかけた空気を引き戻したのは、小さく鳴った電子音だった。

 

 

〈こちら極東支部オペレーター、ヒバリです。デルタチーム、応答を!〉

〈こちら同じくオペレーター、テルオミ。彼等は……増援は本当に到着していますか?!〉

 

 反射的に繋いだ通信から聞こえてきた2つの声。慣れ親しんだ相手の声に、全力で飛びついた彼らを責められはしないだろう。何故増援到着の有無をあちらが気にするのかは分からないが、兎に角今は説明と情報が欲しかった。

 

「こちらデルタα。っ状況は、変わらず。増援については、こっちが聞きたい。アレは、本当に味方なのか……?」

 

 瓦礫の隙間から見える戦闘は、相変わらず謎の人物とアラガミ達の大乱闘だ。……〝アレ〟が味方だと言うのならば、増援が来ていると言って良いだろう。何もない場所から炎弾や雷撃を繰り出し、片腕を異形化させるような存在が、本当に人へ味方するというのならば、だが。……ああ、うん。右手がアラガミ化したように見えたけれど、次の瞬間には戻っているし良いんだろう。

 その身のこなしの割に不自然な程〝火力が低い〟様子が気にはなるが、見ている限りまだ1発の被弾もしていないあたりそれなり以上の実力がある相手の筈だ。……何処かの精鋭部隊が移動中に、偶々救援にでも来てくれたのだろうか。

 

 

〈本当に間に合ってるし……。あー……神機使いじゃ無いけど、彼等は味方で間違いないですよ。吸血鬼って聞いた事ありません?まあその人?達が、つい先程アナグラから出撃されたので〉

「?? いや、それに彼〝等〟とは…?」

 

 そう呆れ混じりに告げるテルオミの言葉に首を捻る。

 吸血鬼という存在の名前だけは知っている。これまで直接関わった事こそ無いが、そんな名前の何者かが極東に出入りしている事は知らされていた。だから、そうと言われればそうなのかとしか返しようが無い。……それよりも、だ。〝先程アナグラを出撃した〟人員が今此処にいるという、時間と距離の可笑しさは勿論として、複数形での扱いに疑問が募る。見落としたかと再度目を凝らしたものの、見えるのはやはり一人だけだ。

 

〈え?け、けれど、レーダーだと確かにもう一人……〉

〈待って下さい。今確認を………〉

 

 それを伝え、それでも尚困惑と焦燥の中、オペレーター達がその安否と所在を確認しようとした、その直後だった。

 

「必要無い」

「「「ッ―――――?!?!!」」」

 

 誰も居る筈の無い場所から聞こえた声と、滲み出すように現れた姿。……人間、驚き過ぎると声さえ出なくなるのだと、その日身を持って思い知った。

 

 

 

 

 

 ちらりと意識を向けた先、薄く霞む気配とその先にある空間。そして、そこに匿われれていた幾つかの気配が動き始める事を感じ取り安堵の息を吐く。その直後、斜め後ろから飛び掛かって来たヴァジュラの爪が片腕を裂いて通り過ぎた。……流石に、気を逸してどうにかなるような状況では無いと自戒。集中を切らさない為に、後方の彼等から意識を切り離す。後は、信じるしかない。

 

「………」

【浄化の光】

 

 予め掛けておいた、反応回復型の錬血が傷を癒やしていく。今の所再生力を使うレベルの負傷は無く、ヴェインでしっかりと血涙を摂取した身体に渇きは無い。相手の数が多い上に火力不足なせいで中々削り切る事が出来ていないが、戦闘の継続そのものは問題無かった。……ただそれは、死なずに戦い続けられると言うだけであり、忸怩たる思いが無い訳では決して無い。

 

(回収班との合流地点まで、十分。そこから安全な距離まで離れるのに、更に十分位、か?……いや、極東の討伐部隊の到着を待つ方が確実か)

 

 思考と並列に、戦闘は滞り無く。

 ざくりと刃を突き立て、雷球を打ち込み、更に牙装で抉り取って止めとしたコンゴウを捨て置き反転。その翼手で挟み込む様に迫っていたシユウの後方へ霧散し移動。その背に零距離から錬血を叩き込んで吹き飛ばせば、回転突撃を開始していたもう一体のコンゴウと正面衝突し、2体がもんどり打ってダウンする。それでも、活動停止には至らない。

 

(生き残る事は出来る。……逃げる事も)

 

 マータの氷結攻撃を爆炎の錬血で相殺し、ヤクシャとラーヴァナの砲撃を引き付けた後に回避。……霧散からの再生直後、ぐいと右腕を引かれる感覚と痛みに、視線を向けるより早く牙装を展開。オウガ型の特徴たる鬼腕を強引に引き出してみれば、口腔内から無惨に裂けて崩れるオウガテイルが一体。どうやら腕に喰い付かれていたらしいと思考の端で処理して、1度目の再生を行う。――骨が見えていようと筋が断絶していようと、食い千切られるに至らない程度ならば1度の再生で十分だ。……その再生力にもまだ余裕はある。

 

(……勝てない、事も無い)

 

 神機使い達の避難が終われば、ジャックも合流する。それに、このまま自分一人でも、やってやれない事は無いと冷静に判断する。大きく時間はかかるだろうが、ヴェインの敵性存在に比べて再生や再構築に時間のかかるアラガミなら、戦い続けていればその内数は減るだろう。――避けて、抉って、切り裂いて。錬血を操り戦い続ければ、いつかは勝てる。

 しかし同時に、自分達が無理に殲滅を試みるよりも、三十分を耐えて極東の実力者達に委ねた方が早く確実だとも解っている。恐らく自分達では、この数を片付けるにはどう頑張っても一時間はかかるのだから。

 多数相手の乱戦は、基礎的な身体能力と火力で神機使い達に劣る吸血鬼にとって最大の鬼門だ。囮としての適性なら比肩できても、討伐となれば途端に離される現状。……自分がかの女王を真似たとて、此処までの乱戦となれば幾らかの戦果と引き換えに死に戻る可能性の方が高い。

 

 

 吸血鬼【レヴナント】の最高戦力だと自他ともに理解しているからこそ、彼は未だ届かぬ差を確かに理解していた。――ただその目標が、世界最高峰の更に頂点に在る者達なのだと、気付かぬままに。

 

 

―――――――――

 

 

 その後は、何が何だか分からなかった。

 瓦礫の直上から穴をあけて(?!)現れた見知らぬ男に誘導されて抜け出した先は崖上で。不自然な程にぐらつかない瓦礫で作られた通り道を疑問に思う暇もなく、オペレーター達の誘導に従って戦場を離れた。謎の男は途中、〝この辺りで良いだろう〟と呟いたと思ったら何時の間にか消えていて。拾い上げられたヘリの中で、アラガミ相手に立ち回る〝2人〟の様子を全く回らない頭で断片的に聞き取っていた。……アラガミの活動停止の少なさの割に少ない彼等自身の被弾を疑問に思ったのは、もう少し落ち着いた後の話だ。

 そして。極東が近付いてきた辺りで、討伐部隊やブラッド隊が現場に到着したと聞いた。極東が誇る、力の象徴。……ああそれならばきっと、彼等も助かったのだろうと安堵した事で、漸く思考が回り始めた。

 

 

「何だったんだろうなー、あいつ等」

「さあな。だが、助けられたのは事実だ」

 

 ヘリの爆音の中、仲間達と言葉を交わす。最期を覚悟した自分達を救ってくれた恩人達。吸血鬼という存在が、協力者や同盟者としてだけでなく、こんな救援対応までしているというのは初耳だった。

 ただ、その辺りのあれこれに関しては正直どうでも良い。気になるなら、オペレーター達は知っている様だっから、確認すれば済む事だと思考を流す。……それより何より思考を占めたのは、彼らへ礼の一つも言っていなかったという現実的な問題だった。

 いくら見知らぬ相手で、更に謎の怪しさがあったとしても。間に合わない筈だった救援に駆け付けてくれた事、そしてあの数のアラガミを相手に囮となって逃してくれた事は事実だ。どれ程に実力があったとしても、絶対等あり得ないのが戦場だと知っている。……なのに一言の礼も無いというのは、流石に人として駄目だろう、と。

 

「お酒とか、食事を奢るのはどうでしょう…?」

「それが無難だよなぁ」

 

 腹一杯の食事や、珍しいお菓子、配給ビールより少し上等なアルコール類。神機使いに共通の嗜好品といえば、やはりその辺りだろう。一部には熱狂的なバガラリー信者等も居るが当然相手がそうであるとは限らないし、そもそも自分達には手持ちが無い。

 ぼんやりと思い起こす相手は、どちらも成人していた筈だ。ならば、ラウンジで上等な酒の一杯でも奢ろうか。そのついでに改めて礼を言って、そのまま少し話でも出来れば最良だ。きっと、吸血鬼という名前だけ知っていた相手をもう少し知る良い機会になるだろう。……あの時は妙な違和感で警戒してしまったけれど、落ち着いて良く考えれば〝変な奴〟なんて極東上位陣には珍しくも何とも無い。寧ろ存在の珍奇さを除けば、言動だけなら落ち着いている部類だったとも思う。

 

「討伐部隊とブラッドが合流したなら、殲滅にもそう時間はかからない筈だ。……移動含め、早ければ後三十分少々という所か」

 

 ならばそれまでに、報告と準備を済ませておこうと話は纏まって。その10分後には、予想通りアラガミの殲滅が完了したという通信が入っていた。やはり上の者達は桁が違うなと仲間達と苦く笑って、〝彼等〟が無事であるという報告にほっと息を吐いた。……よくよく考えなくても、ここまで死なずにアラガミを引き付け続けられているというのは、大分凄い事なのではないだろうか。

 そんな事を話す内に極東へ到着していたヘリから飛び降り、漸く訪れた生還と仲間の喪失の実感に震え始めた足でゲートへと向かった。

 

 

 

「あ、おかえりなさい!」

「お疲れ様です。大丈夫そうで何よりです」

「無事戻れたか」

「さっきの?……良かった」

「「「………………はい????」」」

 

 ……まさかそのゲートを潜ったその先で、帰りを待つ予定だった相手に出迎えられるなんて、誰が想像出来ただろうか。

 




補足の様なもの

◆継承者sの能力について
主人公→任意地点へのヤドリギの生成。
ジャック→目標物(人、物、場所問わず。ただし事前に視た事があるものに限る)の下へヤドリギを介さず移動が可能。
エヴァ→歌による暴走状態の抑制。ロミオの【対話】に近いが、活性や暴走状態以外のオラクルや神機使い達には影響がない。また、歌い続けている必要があるため地味に疲れる。
※主人公は心骸の応用。ジャックはミドウの背後に現れたりヤドリギが枯れているはずのヴェインで監視者とした動きまわっていた点から、なにがしらの移動手段があるのでは?という点から。極東訪問もこの応用。エヴァは本編のそれをそのまま強化した能力。
尚、ブラッド達と異なり戦闘中には使用出来ない。



デルタチーム
極東支部所属の一般GE達。吸血鬼達の事は話でしか知らなかった上、駆けつけた2人が吸血鬼の中でも異質&言葉が足りない組だった為、感謝と混乱と若干の恐怖に襲われる事となった不運な人達。良くも悪くも普通に善良な面々。
極東基準で一人前レベルの、男女2人ずつの4人チームだった。

吸血鬼s
CV主&ジャックという、継承者組かつ即応力のある2名。速攻で救援に駆け付けたし間に合ったしちゃんと生き残ったが、言葉が色々と足りていなかったので無駄な混乱や騒動も招いた。ついでに極東支部に出没する怪異っぽい噂もつきかけた。
アラガミの群れを相手に30分近く持ち堪えるという何気にヤバい事を達成している。が、その後駆け付けた面々の掃討力を見たので自分達の実力は否定的。まあ実際に、高機動の回避型なので殲滅を考えない持久戦は比較的得意。

ざっくり概要
CV主が囮になっている間に、ジャックが神骸の力で瓦礫内のオラクル部分に一部干渉して成形&固定化。神機使い達を逃した後、友誼の血針で合流し戦闘継続。極東上位陣が到着し、ブラッド隊が居た為誘引にて誘導後上空からブラスト系ブラッドバレットを掃射する作戦を立案。ギリギリまで引き付けた後、リターナーやヤドリギの根で各々極東支部のヤドリギへと撤退。ゲート前でヒバリ達へ報告していた所に神機使い達が帰還、という流れ(分かりにくい)。
個々のアラガミ自体は危険度6以下程度だったが、数の多さにより任務危険度は9か10程。極東上位陣にとっては多少面倒でも問題の無いレベルだが、普通なら中々絶望的な案件だった。
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