不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

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もう一つの舞台

【知】

 

 

「……ぐっ、少し休むか」

 

 引き伸ばした背筋から、ばきごきぐきりと中々に凄まじい音がして自然と眉が寄った。流石にこれは、いくら死人に近いとは言え人型の身体から出てはいけない音だろう。数度体を動かせば軽減したとはいえ、吸血鬼の体が強張るというのは中々に異常事態だ。

 これはやり過ぎたかと視線を上げて時間を確認すれば、深夜を遥かに回り既に夜更けさえ近い。……どうやらまた、研究に没頭し過ぎて時間を忘れていたようだった。

 

「お疲れ様、ルイ。…気持ちは分かるけれど、程々にね?」

「分かってるよ、姉さん」

 

 かけられた声に答えて、丁度良く差し出された飲み物を手に取ることで一度完全に机上から意識を離す。実際に喉の乾きを覚えている訳では無くても、温かな水分が流れ込む感覚にほっと力が抜けた。……どうやら、自覚している以上に根を詰めてしまっていたらしい。

 日付を確認すれば、凡そ五日程は此処に詰めていたのだと分かる。……その間、纏まった休憩は元より食事や睡眠の殆どをした記憶が無い。人間の頃ならば、確実に体調を崩していただろう無茶だ。吸血鬼の身体に人と同じだけの休息は必要無いとはいえ、その内にある精神も同じだけ頑強な訳では無い。……身近に例外が何人も居る上、なんなら自分もそれなり以上に変わってきている自覚はあるが、好んで人から外れる必要も無いだろう。

 

 何より、余り無理をしてはここの住人達に要らぬ心配をかけてしまう。――彼らは力こそ人並み外れてはいても、その性質は吸血鬼よりも余程人に近いのだから。

 

 

「今日の午後にはアウロラが資料を持ってきてくれる予定よ。此処の支部長さん達も参加すると言っていたから、それまで少し休んだら?」

「そうするよ。流石に、風呂にも入らないと」

 

 不変さを特徴とする吸血鬼は、代謝からして人のそれとは大きく違う。流した血でさえ何も処理〝しなければ〟時間と共に霧散する為、それこそ激しい戦闘後の戦塵による汚れはあってもそれ以上が無い。なんならそれさえもヤドリギの移動や霧散からの再生で消える不思議体質だった。

 そのせいか体臭そのものも極めて薄く、ついでに言えば渇きさえ無ければ延々と探索が可能だ。更に言えば、ヴェインには清涼な水というものが殆ど存在しない(海さえも大部分が干上がったあの地では仕方が無いが)。辺境を拠点とする野良の吸血鬼や奴隷とされていた者達等は更に、だ。自分達は拠点裏の温泉があったからこそ比較的頻繁に利用していたが、これは例外に近い。

 つまり何が言いたいかと言うと、入浴は嗜好的な面が強く習慣という意識が人よりも薄い者が多い。だからと言って忘れていいものではないし、自分自身としても気にはなる。……何より、実害が無いとは言っても流石にその状態で人と会うのは人として駄目だろう。ヴェインの吸血鬼達をこちらに呼ぶ際には、そのあたりも気がけた方が良いだろうか。いや、彼等も元は人なのだから、態々言わずともそれが可能な環境になれば……

 

 

「……。風呂はヴェインに行くとして……姉さんは何か用でも?」

 

 若干呆けた思考が、妙な方向へと舵を切ろうとするのを頭を振って押し留める。今考えるべきはこの後すぐの予定と行動であって、吸血鬼の体質や衛生観念についてでは無い。

 どうにも鈍い思考に、これは思った以上に疲れているなと自覚する。極東のシャワーを借りて済ませようかと考えていた入浴の予定を変更し、ヴェインの拠点へ一度戻る事を前提に予定を組み直す。温かな湯に思い切り浸かれば、少しは頭もすっきりするだろう。

 

 そうして完全に手を止めたルイに満足そうに頷きながら、カレンはその机上に置かれた資料へと簡単に目を通していた。纏められているのは、吸血鬼と神機使いと呼ばれる者達についてのデータと、アラガミと呼ばれるバケモノを相手とした検証の結果。そして双方の技術者達からの実証結果と提言について等。

 どうしてもヴェイン側を気に掛けなければいけないカレンやアウロラ達と違って、最近のルイは大半を此方で過ごしていた。その彼が目下の目標としているのは、"吸血鬼の成長"…というよりは"強化"についてだ。――だから言葉では止めても、どうしたって会話はそういった内容へと進む。

 

「やっぱり、武器の強化が最優先?」

「最優先、というよりは一番確実で早い手段って所かな。吸血鬼そのものの強化は簡単じゃないし、そもそも個性が強すぎて一律の方法が無い。その点武器の強化は、ある程度画一化出来る筈だ」 

「必要なのはバケモノ……アラガミに適した素材。ああ、だから最近〝彼〟が討伐部隊に参加していたのね」

 

 名前を出さなくても、脳裏に浮かんだ姿は姉弟共に同じ相手。現在ほぼ二〜三日おきレベルでヴェインとアナグラを行き来している彼の特性は、あらゆる血とそこに宿る力への受容性にこそある。――そしてその特異な性質は、吸血鬼だけでは無くアラガミにさえも作用した。

 深層のバケモノを討ち倒したその日に新たな力を得たように、度重なる戦闘とそこで集積されたアラガミの欠片はその身体を変換器として血へと変じ、そうする事で吸血鬼にも扱える力となる。かのバケモノとは何かしら変化しているのか、未だ明確な錬血やブラッドコードを得られてはいないが、それでも基礎部分の引き上げには1つの道筋が見えていた。

 

「偏食因子。……多種多様なアラガミの、ブラッドコードに似た固有の特性。その力を取り込んで自分のものとした彼の血を使って新たな素材を作る、かぁ」

「……倫理的に反しているのは自覚しているさ。それでも今は、これ以上思いつかない」

 

 仲間を、瀘過器か変電施設か何かの様に扱う事を、何も思わない訳では無かった。本人は気にしていない上、神骸の統合が進んだ為か負担も大きく減ったとは言っている。その心身が暴走の兆候さえ無い事も事実だ。……それでも、その血を抜き取る際に感じる罪悪感は、薄れる事こそあれ消える事は無かった。

 そもそも、クイーンが居ない時点で武器の製造や強化に使われるクインの名を冠する鉱石の増産は不可能となった。堕鬼となった者達の武器の多くは瘴気に冒されていて、流用は出来ても元の素材と同じ効果は期待できない。故に、新しい試みや失敗さえも前提とした検証は、長らく行えていなかった。

 余った青涙を代替物とする事には成功したが、意図的にクイーンに寄せられたそれは二十年前のそれと然程変わらない。……勿論、末端の吸血鬼達にまで高練度の武装を行き渡らせる事が出来た事は大きな成果だ。だがそれも、吸血鬼そのものの数が減少した今では決定打とはならなかった。

 

 青涙そのものの変質と変容は、血涙そのものの変性リスクや、干渉が消えたと言えど暴走のリスクを孕む為に見送られている。加えて、一般的な吸血鬼の血はそれぞれの特性を持った素材の核とはなっても大量生産や安定性には向か無い。何より、能力的な適性のある吸血鬼以外には余り意味が無い。……だから必要なのは、基礎的な部分を押し上げる汎用的な素材。それも出来れば、クイン系統よりも更に対バケモノに特化した特性である方が望ましい。

 今の所その条件を満たせるのは、クイーンから血を継ぎ、更に多くの血を受け入れられる一人だけだ。――他に手段があるというのなら、自分達の方こそ教えて欲しいと心から思う。

 

 

「神機使いにも世代がある。そしてそれは俺達吸血鬼とは違って、純粋な技術の進歩と戦力の変化、そしてアラガミの進化状況に由来している。アラガミを倒し、その素材を使って強化と拡張を続けているからこそ、アラガミの進化と共に彼等の技術や力も高まっていった」

 

 一先ずざっくりと室内を片付け、必要な書類やデータを準備しながら、改めて言葉にする事で吸血鬼の状況と課題を整理していく。

 フェンリル極東支部と呼ばれるこの地に蓄えられた知識と技術。そして、継承されてきた情報と歴史。その量と多彩さに目が眩む。小型のナイフや拳銃程度から始まった神機は、時と技術の進展と共に世代を重ねて強化され続けていった。特に、近接か遠距離のどちらかのみであった第1世代から、変形機構を持ち遠近両方に対応出来る様になった第2世代の差異は顕著だ。頓挫してしまったとは言え、第3世代の雛形たるブラッド達もまた変化が大きいと言えるだろう。

 対して吸血鬼の世代は、単純に目覚めた時期の差でしか無い。

 大崩壊のバケモノへ対する戦力として生み出された第1世代。クイーン暴走後に、クイーン討伐の為生み出され目覚めた第2世代。討伐戦の後に目覚めた第3世代と、ヴェインが安定化した後に吸血鬼化した第4世代。そして、外との交流が始まった後に吸血鬼化した第5世代。

 例外たるクイーンを除き、その基礎能力に世代毎の差は無い。寧ろ、明確に戦闘員を求められ選ばれて生み出され、そして実戦を経た第1や第2世代の方が、戦闘技術や経験、知識という点では優る程。……事実、バケモノと戦って結果を出したのもクイーン討伐の中核となったのも、最も古い第1世代とそれに続いた第2世代の吸血鬼達だったのだ。

 

 

 初手でそれなり以上の成果を出せてしまったからこそ、吸血鬼は長く変わらなかった。

 

 

「アラガミを構成するオラクル細胞への最も有効な対抗手段は、同じオラクル細胞による攻撃だ。BOR寄生体そのものが近いから、錬血は通るしクルス…クイーンの血を練り込まれた金属で作られた武器も全くの無力じゃ無かった」

「けど、十分では無い。……私達の対バケモノ技術と想定は、大崩壊とその後数年間で止まっている」

 

 大崩壊からクイーンの討伐にかけての数年間。明確な敵と目的を以て進められた研究と研鑽は、確かに吸血鬼の力を押し上げた。それこそ、その一時期の戦力や技術力は、フェンリルのそれさえ大きく上回っていただろう。――だが、そこまでだ。クイーンが討たれ、継承者達が誕生し赤い霧がヴェインを覆ったその日から、吸血鬼達の目的は停滞し変質した。

 敵を討ち果たし人や吸血鬼を護る為の力は、護るべき相手であった筈の存在へと向けられて。絶望を覆し進む為では無く、緩慢な終わりの中ただ己が生き残る為だけに振るわれるようになった。

 更には、限られた資源や設備、そして中核となる研究者や指導者を欠いた事が追い打ちをかけた。吸血鬼達自身の停滞のみならず、技術的な面でさえその進みは年月の割に緩やかなもの。……シルヴァやアウロラ、カレン達上層部は皆継承者としての役目に殉じ、ミドウが道を違え、残った研究者達も、枯渇しかけた資源ではどうしても失敗の可能性が高くなる新技術の開発や検証には踏み切れ無かった。

 

 

「当時量産された対クイーン用の討伐武器でさえ、十分以上に現役として使えている。……逆に言えば、基礎部分については当時からあまり進んでいない」

 

 勿論、幾らかの改良はされている。だがそれでも、最初期の数年間における劇的な開発や進歩に比べればあまりにも遅い。

 討伐戦の時期に開発された武装は、今でも現役だ。その造りこそ最低限の機構のみでデザインだの精緻さだのとは無縁だが、危急の中実用性と量産性に特化して造られた物であるが故に、癖が少なく多くの吸血鬼が使い得る汎用性を誇っている。

 そして何より、十分な整備をした上で強化を施したそれは、最新のそれと遜色無い威力を誇る。……幾ら吸血鬼の力はその血や経験に由来する部分が大きいとは言え、だ。あまりにも外付けの技術や武装の占める割合が低い。

 

「新しい武器や牙装の開発と検証を進める案は、技術・開発班とも話している。その為にも、アラガミの討伐と素材確保は必要だ」

「ええ、分かっているわ。けど、気を付けてね」

「わかってるよ」

 

 だが、漸く光明は見えた。

 フェンリル極東支部との技術交流は勿論、外の資源とアラガミと言う新素材は、停滞したヴェインに大きな漣を立てた。堕鬼と違い素材として取得出来るアラガミは、吸血鬼から見れば新素材の塊だった。神機の様にアラガミの素材を吸血鬼がそのまま使うことは現状難しくても、極東の人々が使い得る技術だけでも大き過ぎる変化だ。

 戦闘経験の蓄積や極東支部への協力は勿論として、自分達の為にも討伐戦への参加は不可欠だった。

 

「進まなければ、置いていかれる」

「ええ。……この世界で役に立つ為には、もっと力が必要ね」

 

 片付けと準備を終えた辺りで、会話に一区切りを付けて締めくくる。

 継承者達の負担が減りヴェインが安定した今、戦わずにヴェインで引き篭もっている事も出来なくは無い。吸血鬼に寿命は無く、今代の継承者達はきっと永く保つ。彼等が健在である限り、今のヴェインは世界有数の安全地帯だ。――赤い霧の向こうで目を閉じて耳を塞ぎ。自由でも裕福でも無いながら、血涙によって維持され死の危険も無いあの揺り籠で、何時までも。

 それでも、外を望み進むと決めたのは自分達だ。――ならば、それに相応しい在り方と力を求め進むのは当然だった。

 

 

 

「じゃあ、また後で」

「ええ。またね」

 

 

 

【技】

 

 

「んー??もう一回お願いして良い?」

「わかった」

 

 首肯したミアの意思に従って、ざわりと蠢いたソレが瞬時に形を変える。ずらららら……と、極大の鎖を砂利の上で引き摺ったかの様な音と共に現れたのは、蠍の尾にも似た機構。纏った装束の一部が崩壊して出現したベルトによって構成されたそれは、先端部分だけでも人の身丈を超えている。刃で傷付かない様に気を付けながら触れてみれば、見た目の通りの硬質さがあり。だというのにその根本は布地でしかなく……やはり、何度見ても不思議な光景だった。

 

「やっぱり、何回見ても原理が分からないなぁ。神機みたいに身体と物理的に繋がっている訳でも無いし……」

 

 ゆらゆらと、獲物を狙う蛇の鎌首にも似た動きで宙を泳いだかと思えば、ぴたりと微動もせずに構えられ前方へ刃を向けた槍と化す。真上から串刺しにしたり周囲を薙ぎ払う様な動きも可能であったりと、その柄の部分は見た目以上に自由度が高く多彩に動いた。

 形に差異こそあれど、その基本は武器では無く身体に纏う装束の一種である吸血牙装。一部に金属や特殊素材のベルトが使われているものの、その大部分は布製だ。展開時にこそ頸部から口元までを覆う機構が出現するものの、基本はただの服と同じ筈のそれは、しかし使い手の意思に従いかなり自由に稼働する謎の装備だった。

 その上で神機の様に物理的な接続をしている訳ではないのだから、原理が分からないというリッカの言葉も無理は無かった。

 

 ヴェインとフェンリルが保持している技術・知識・装備を擦り合わせ、より完成された装備の開発を目標とした技術班達の交流。それぞれの整備や開発を主に担っているリッカとムラサメを始めとして、ギルバートやシエルらに手の空いた吸血鬼達を交えた何度目かの検証会。その中でも頻度が高くなるのは、吸血鬼達自身でさえ説明がし辛い武装の説明や実演だった。

 

 吸血鬼達が持つ武装の内、近接武器の方は比較的容易に分析し理解する事が出来ていた。吸血及びその伝達機構があり捕食機能が無い以外は、ほぼ近接型第一世代神機と同等のモノ。銃剣は神機にない形とは言え、形状の簡易さや過去の文献から分析は十分に可能だった。またその強化に関しても、癖と個性の強いアラガミ素材では無くほぼ固定された素材によるものである為、神機に使われる技術の応用は寧ろ神機よりも容易だろうと結論が出ていた。……十年近く後に生まれた古い神機と遜色無い質であったその技術の高さは、驚嘆に値したけれど。

 

 問題は、吸血牙装と呼ばれるもう一つの装備だ。

 

「一応、作った後にそれぞれの血を練り込んでいるから、それで自分の一部扱いになってるんじゃ無いかって話だけど……正直良くわかんないんだよねー。分かんなくても使えちゃうし、武器に比べて整備も殆ど必要無いから弄らないし」

「血を練り込む、か。……やったら頑丈なのはそのせいか?」

「うん。それに整備が余り必要じゃ無いのも、身体の一部だとBOR寄生体が誤認しているから、身体の再生に伴って牙装の損傷も修復されるからだろう、って聞いてるよ」

「実際、死に戻る様な傷を負ってもヤドリギで素っ裸にはならないしな」

「ヤドリギの度に脱衣していたら、ただの変態集団ね」

「まあ……牙装に限らず衣服の損傷は再生されるし帽子等の付属品も伴うから、装備していると認識していれば適応範囲なんだろう」

 

 やや大筋から外れながらも、会話と検証は止まらない。霧散と再生で当然の様に装備品込で移動する吸血鬼だが、良く考えればもしそうで無かったなら大惨事だ。ヤドリギ脱衣は勿論だが、資源も設備も乏しいヴェインでは衣服の調達さえ難しいのだから、そう遠くない内に浮浪者の集団が出来上がっていた筈だ。何せ、死に戻りするような傷だったという事はつまり、その上にあった服もついでに襤褸切れになっていたという事なのだから。

 

 その光景を実際に想像しかけ……寸前で話題を切り替えて振り払う。1つ言えるとすれば……色んな意味で、そうならなくて良かったと思っておくべきだろう。

 

「普段使っているマスクと、牙装展開時のそれが異なるのは何か理由があるのでしょうか?」

「あー、それに関してはね……普段の対瘴気用のマスクが後付で、牙装の展開時にはそれぞれでマスクを格納しているだけなんだ。だから、元々は無いのが正解かな」

「こっちでも癖で付けちゃってるだけで、本当は無くても大丈夫。牙装展開時のは、吸血した血を運ぶ為の物だから必要……というか勝手に出てくるんだけど」

「く、癖?」

「うん、癖。ヴェインだと一部の場所以外着けっぱなしだったから、中々抜けなくてさ。牙装展開時のマスク? 送血機構? は牙装の一部だから、牙装を展開したら出るし消したり外したりしたら消えるんだけど」

 

 浄化マスクと通称されているそれは、対瘴気被甲という本来の名が示す通り、ヴェインに蔓延する瘴気対策として開発され使用されていたものだ。一応サリエル種等の空気中に散布される毒等の防護には多少役立つものの、瘴気の無い極東では本来着用の必要は無い。それでも戦闘中に多くの吸血鬼達がそれを着用しているのは……単純に拠点外ではマスクを付けるという習慣によるものだった。

  

 

「うーん…難しいなあ。展開していない時ってほぼ布なのに鉱石で強化出来るのが謎だし、展開していない時に展開後の強化が出来るのも謎だし、ほぼ捕食機構なのに神機みたいな制御機構が無いのも謎!!」

「制御機構は、もう吸血鬼そのものだな」

「神機使いの腕輪みたいに身体に癒着してる訳でもない、脱着自在な物でそれなのが不思議なんだって」

「大体、ほぼ全部オラクル細胞で出来てるアラガミモドキの神機と違って、大部分はちゃんとした素材の筈なのに此処まで法則を無視出来るってのが変だろ」

 

 神機とその捕食形態も大概質量保存の法則やらなんやらを無視しているが、吸血鬼牙装はある部分では更にその上を行く。身体を核にするオウガ型ならまだ辛うじてわからなくも無いが、布地部分が明確に形を取って独立した動きをするハウンドやスティンガー、そして布地部分さえ飾りでしかないアイヴィ等は最早何がなんだか分からない物体Xだ。

 

「変って言われても」

「基礎の開発に関わっていたミドウって研究者がもう居ないから……作り方や動かし方は分かっても、何故それを思いついて実行したのかが、もう分からないみたい。……そもそも、吸血鬼自体突貫工事の半分実験体そのままだし」

 

 交流の中、比較的に進んでいるのは実はヴェイン側だった。

 確かに、改善すべき点や劣る点の数は出遅れたヴェイン側の方が多い。だがそれは伸び代が大きいと言うことであもあり、そしてそれは単純な技術の遅れと何より資材の乏しさが大きく影響している。……つまりは必要な要素の多くが既存の強化であり、新しく全く別の何かを取り入れるという部分が、実は少なかった。

 対して、数こそ少ないながらも苦戦しているのが極東側だった。霧散や再生、不老、欠損再生等の特質を抜きにしても、ヴェイン側の技術は吸血鬼という存在に余りにも特化して進化し、調整されている。そして吸血鬼という存在にしても、本人達自身でさえ不明点が多いと言うのだからお手上げだった。

 ……そもそも、原理も機構も良く分かっていないモノを突然作り上げて実戦配備し、ほぼそのままで二十年以上も運用し続けられている事自体が異常なのだが。

 

 

 

「うーん……やっぱり、そっちの装備を強化する事から取り組むしか無いかぁ。やっていればその内慣れて使える様になる……かもしれないしね!」

「助かるよー。勿論、こっちも全力で手伝うからね!」

「アラガミ素材を主体にした装備を、あんた等が使えるのかも確認しないとな」

「こっちも、旧式とか強化してないやつで良ければ検証用に提供出来るから言ってね」

 

 それでも、一つの方針が決まれば動きは早い。妬みや見栄の為に進化を停滞させる事は、自分と仲間達、ひいては人類全体の損害となりかねないのだから。

 ……まあそれはそれとして、新しい技術に触れて扱う事そのものを楽しんでいる事も否定はしない。否が応も無く最大の危険と最新の技術と最奥の情報を手に出来る場所に在るからこそ、〝知らない〟事への興味と欲求は高い。

 それこそ、子供が新たな玩具を与えられて喜ぶかの様に、彼等はれっきとした兵器の開発と改良に着手し始めていた。

 

 

「研究班が幾つか仮説を立てたみたいだし、〝彼〟の素材も数が揃ってきた。細かい調整とか検証も、今なら十分にできるよ!」

「比較的任意に特性を変化させられる鉱石、でしたね。……素材としてなら、神機にも応用出来るかもしれません」

「って、丁度良い所に!……おーい!!少し時間貰えるかな?」

「……俺?」

「?」

「何をしている……」

「あらあら」

 

 支部の奥、ヤドリギの設置された場所に繋がる扉にから現れた相手に声をかける。何とも図ったかのようなタイミングに、誰ともなく笑いが漏れたせいで相手は若干困惑顔だが、それさえもまた笑いを誘った。

 来て早々呼び出されて笑われた本人に、特に怒りなどの表情が無いのが救いだろう。……同行していた3人の内一人が同じように首を傾げる横で、もう一人には盛大に呆れられ、もう一人には笑われてしまったけれど。

 

 

 かつて、イギリスのスコットランド地方と呼ばれた場所の片隅にあるヴェインと、日本の関東地方と呼ばれた場所にあるフェンリル極東支部。海と周りに集うアラガミと一切を遮断する赤い霧により絶対不可侵を保ったヴェインと、海と距離と異常な程に集うアラガミによりフェンリル支部の中でも異端として独自色の強い極東支部。フェンリル本部の管制から外れ、独自に発展し維持されてきた西と東の果てと果て。

 

 

 

 数ある拠点の中でもほぼ地球の裏側にあるような二つが結びつき、異種と異端は加速して暴走を始めていた。

 

 

 




クインチタンとかの強化素材、クイーンが討伐された後って減るばっかりだよな?強化頭打ちになりそう→血骸持ちがいるし代用と言うか新設しようぜ!になりつつあるヴェイン組。
元々クイーンの扱いがそんなだったので、上層部組は暴走しない事を前提に推奨、ルイを始めとする拠点の仲間達は複雑ながらもどうしようも無いと言うことで了承、本人としては別に何か問題があるわけでも無いのでどうぞと言った感じ。

そして、よくよく考えなくてもごく当然の様にバケモノのコードを受け入れられる主人公はヤバいと思う今日この頃。
どんなバケモノ(アラガミ)の因子でもいけるとしたら、それはつまりジュリウスの体質に近いのでは?
神機にオラクルを食わせて活性化させた恩恵を神機伝いに得る神機使いと違って、アラガミむしゃってたシオに近いのでは無いだろうか。
吸血鬼達も、普通は牙装で濾過した物を冥血として取り込んでる訳で。そうでないと堕鬼への吸血で暴走しかねないし、そもそも嘗てからバケモノ戦は出来ていたあたりクイーンのそれを除けば牙装越しなら大丈夫な筈。
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