それは、誰よりも激動の中に在り続けた当人だからこそ気付けた違和感だった。
「……ん?」
ぱらぱらと資料を読み進めていた手と視線が不意に止まる。何、とは言い切れないものの、確かに思考を掠めた違和感と予感に、その前後数枚の資料を読み返す。
それは、数日前にヴェイン側から提供された資料の数々。その中でも特に、吸血鬼の根幹たるBOR寄生体についての研究及び運用についての、変遷と詳細なデータを纏めたものだ。古いものは2050年前後……つまりは二十年以上前のものであり、役に立つかは置いておいても興味深い資料であるのは確かだった。
そこに記載されているのは、各計画やその実行時期と期間、仮説と検証、そして成果と失敗。それらを数度読み直し確認し照らし合わせて導き出した一つの仮説。
「まさか……!」
がっしゃん、とけたたましい音を立てて倒れる椅子もその眼中には無い。眼鏡の奥の糸目が驚愕に見開き映すのは、初期に考案されそして実行されていたとある一つの研究についての項目だった。
―― QUEEN計画。
対バケモノを目的としたレヴナント計画の第2段階。吸血鬼に残された最後にして最大の欲求たる人の血への渇望を抑え、克服する事を目指した計画。一人の少女に託し、結果失敗に終わったその計画の、骨子となっていたもの。
〝あらゆる生命体の血をBOR寄生体に取り込ませ、乾きを分散し同族への執着を抑制する〟
あらゆる血。――人や動物だけでなく、吸血鬼等も含めたそれを注ぎ込まれた新型のBOR寄生体への適合。……ならばそこに、バケモノの因子が混入していた可能性はないだろうか。思い付いたその仮説は、否定する根拠に乏しく裏付ける根拠に富んでいた。
当時、突貫ではあれど第1世代と呼ばれる彼等は、確かに戦果を上げていたという。僅か数年の間だけだったとは言え、都市の周囲からバケモノを掃討出来ていたのだと。ならば、バケモノの……アラガミの血ないし因子を、フェンリルよりも早く手に入れていても可笑しくは無い。
凄まじい苦痛の果てに暴走し、彷徨う女王と成り果てたという少女。何故か逃げる事も無く吸血鬼へと挑みかかり続けたという、絶望の化身にして最大の脅威。その身体は概ね人のそれを保ちながら、人とも吸血鬼とも一線を画す力を宿し……何度でも再生し続けたとある。
そして、女王の一端を継いだ吸血鬼達の存在。消す事の叶わなかった骸を分割して取り込み、その身を以て封印と成した人柱。それを可能とするのは、己以外の血【因子】を受け入れ、宿し、抑える適性と強い意志。そして、あらゆるソレを受け入れる器を持ち安定化に成功した、一人の王。――それらが、連想させるのは。
「ブラッドや……あの子……シオの前……」
思い浮かぶのは、人に似たカタチと成り言葉を操った真白い少女。そして、ブラッドと呼ばれる彼等と、そこに課されていた本来の役目。
「多種多様な因子への適合性と受容性。……特定因子への適合と、拒絶反応。逃走や自己保存ではなく、より強者の集う側へ向かう行動……」
オラクル細胞の変種と言って良いBOR寄生体は、各吸血鬼毎に僅かずつ……それでいて明確に異なっている。適性の無い者が他者のそれを多量に取り込めば、それこそ毒としかならない程に違うそれは、神機使いにとっての適合可能な神機と同じ……或いはそれ以上に絶対の適性だ。
一時的なオラクルバレットやバースト状態と異なり、その会得は永続であり消える事は無い。……それはつまり、複数のコードに適合出来るという事は、複数の偏食因子に適合している……適合可能だという事に等しい。――それが、示すのは。
「特異点。……コアに、なり得たもの」
終末捕食の……ノヴァのコアと成った者達との共通点。すなわち、特異点たり得る素質。
「あり得ない事じゃ無い。寧ろ、その方が自然だ」
アラガミという存在が確認されたのは凡そ2050年の事だ。対して、1つ目の終末捕食が2071年に起きた事を皮切りに、未遂も含めれば2074年迄に都合4度。……フェンリル側が感知した初めの特異点はシオであったが、それは本当に〝1つ目〟であったのか?
神機使いという戦力が無ければ、当時の小型種でさえ人間の手には余っていた。世界に広がり、喰らい、情報を集積するまで……神機使いという邪魔の無い当時ならば数年と掛からなかった筈だ。……そんな世界で本当に、20年以上もの間、唯の一度も特異点やそれに類するモノが存在しなかったのか。
これまでは、止める手立ての無かった時期にそんなモノが存在していたのなら、打つ手なく終末捕食が行われていた筈だという説を逆に取り、それが行われていないのだから存在していなかったのだと結論付けられていた。……だが。
「50年代にクイーンが。そして60年代に彼が、条件を満たしていたのなら」
50年代前半には、既に大型種さえ存在していた。世界を喰らったアラガミは、神機使いが誕生する前に世界に満ちていた。地下道に遺る残骸が示すように、巨大と呼べるアラガミとて比較的早くに現れていたのは確かなのだ。人に抗う術の無かったその時期に終末捕食が起動していれば、何も出来はしなかっただろう。
それでも尚、世界は今日まで続いている。その、理由は。
◆ ◆ ◆
吸血鬼の中でも特異なる者達。女王と継承者、そして今代の王。彼女とそれに続いた者達は、特異点と呼ばれるモノ……もしくはその候補であった可能性がある。
そんなほぼほぼ暴論としか思えないような仮説の提唱を、しかし彼等の大半は至って冷静に受け止めていた。
「驚かないのかい?」
「これでも驚いてるわ。けれど、それ以上に納得出来てしまった部分が多いのよ。……こちら側の不足分に、その仮説は当て嵌まる部分が多い」
渡された資料……本来ならば、重い閲覧制限が掛けられているというデータベースに目を通し終えて、正直な感想を1つ。納得?と問い返すサカキに、緩いため息を吐いたアウロラは、ぐるりと視線を巡らせた。
見遣るのは、元々同じ作業に取り組んでいたカレン、ルイの姉弟。そして、ヴェイン側の状況報告に訪れていたシルヴァ。……奇しくも、何らかの方針を決定し、そして説明するに不足の少ない顔触れだった。
巡らせた視線で問いかけたのは、全てを話すか、話さないかというその2択。――ヴェイン側が抱える最後の機密であり、真の要。それを明かすのか否か。そして、その問いかけに対し迷う素振りを見せたのはルイだけで、残る2人は即決と言う程に迷い無く頷きを返してきた。
「彼等の許可は貰っているわ。……それに、殆どが終わってしまった事だけれど、はっきりと解明出来た事は少ない。知れるなら、知っておきたいでしょう?」
自分達自身の事ならば兎も角、最悪仲間達に危険が及びかねない事を案じるルイの気持ちも分かる。けれど同時に、カレンの言う通りなのだ。
終わってしまった事を見返す余裕と手段が無かったから放っておくしか無かっただけで、分からない事は無数に残っている。……どうしようも無いのなら諦めも付くが、今ここにはヴェイン外における最高の科学者とデータがある。――その上で、こちら側の当人達は情報の扱いを既に委任してくれていた。
それに、あちら側は既に手札を切っている。……まず間違いなく機密であろうそれを明かしてくれたのならば、此方も相応の信頼を返すべきだろう。それに、〝殆どが終わってしまった事〟であるのも事実だ。今更突かれたところで、今尚役目を継ぐ当人達の安全以外にはさして気にかける事も無い。
「……分かった。それに、彼等が了承しているのなら俺から言う事は無い」
「決まりね。……どこから話そうかしら」
それは、〝ヴェイン〟と〝フェンリル極東支部〟が、本当の意味での運命共同体となる、最後の垣根が解かれた日の事だった。
◇ ◇ ◇
「まずは……そうね、結論からいきましょうか。アナグラのデータと、此方の情報を合わせて考えれば……貴方の仮説はほぼ間違いなく合っていると考えるわ」
「その根拠を聞いても?」
「勿論」
あまりにもはっきりとした断言に、仮説を出した身とは言え流石に驚きが顔を出す。彼女達が特異点やノヴァ、終末捕食、聖域等の言葉そのものを聞いたのは、今日この時が初めての筈だ。……ならば鍵となるのは、直接関わっていたというその過去にあるのか。
「QUEEN計画の末期、後にクイーンとなるクルスという少女は様々な症状を訴えていた。主には苦痛だったけれど、中には幻視や幻聴……と思われていた物もあったわ。――自分の中に、暴虐的な別の自分が居る、というタイプの…ね」
「それは……っ」
呻く様な声は、助手としてサカキに同席していたソーマの物。まさか、という様に見開かれた青い双眸にちらりと視線を向けた吸血鬼達だが、制止の意思や負担が無い事を確認し言葉を繋げていった。……これにそれ程強い反応を示されるのはやや予想外だったが、これはあくまで症状の一つに過ぎないから、と一言だけいい添えて。
「実験の負荷に耐え兼ね、クルスはクイーンへと変貌した。……ただ、それはクルスの意思じゃ無い。彼女はクイーンと成る前に、自分の死を願っていた」
苦痛に狂い果て、自らの憎悪や復讐の為に敵対したとは思えなかったのだとルイは語る。……まるで、何かに乗っ取られたかの様に豹変したのだと。
「……恨まれていなかった、とは思わないわ。それだけの事をしていたから。けれど……」
「研究所と職員、そして鎮圧部隊を壊滅させてクイーンは逃走した。今此処に居る俺達4人は、その時に殺されて吸血鬼になったんだが……それはまあ良い。問題は、研究所も研究者も元凶も殺して壊し尽くした筈のあいつが、再度そこに侵攻してきた事だ」
ただその時その場に居て巻き込まれただけの犠牲者であったルイは兎も角、ミドウと共に研究の指揮を取っていたカレンやアウロラ、親でありながら人を守る為に娘への実験を容認したシルヴァは、クイーンとなった彼女から恨まれていても可笑しくは無かった。だが、仮に復讐の為だとしても、それは一度完遂されている。カレンとアウロラはその場で研究所諸共棘に貫かれ、鎮圧部隊を率いたシルヴァもまた、人の身で敵う筈も無く力尽きた。
彼女は確かに、その手で復讐と報復を成し終えている。……なのに何故か、再び彼女は研究所へと侵攻を続けたのだと。
「それでもまだ、そこまでは理解出来るの。けれど、その後の彼女の行動は不可解な事ばかりで……」
「殺したと思った相手が吸血鬼になって蘇ったのを知ったから、今度は灰にする為に戻ってきたのか、なんて当時は思っていたのだけど。……討伐戦の終わり、彼女はシルヴァを無視したらしいのよ」
既に終わった事だからと、何の気負いもなく自身の死を語る吸血鬼達。壮絶極まるその死と実験の失敗は、三賢者と呼ばれた自分達が嘗て舐めた辛酸にも似て。けれど違うのは、その死は終わりでは無く始まりでもあったという事だろう。――その時人として死んだからこそ、今こうして話す事が出来ているのだから。
「あいつら2人が前衛張ってたってのもあるが、だとしてもまあ…ほぼ完全に無視されてたな。障壁もあったが……そもそも俺は攻撃を向けられさえしなかった」
吸血鬼計画、そしてQUEEN計画を推し進めた中核人物の1人にして、同意があったとは言え自身を一種の駒として扱ったシルヴァに、しかしクイーンの反応は乏しかった。復讐の為と言うには、その矛先は全く別の方向へと向いていた。
最も強くそれが向けられたのは、ある意味では彼女と同じ、実験体染みた経歴を持つ第1世代の吸血鬼だったのだ。
「それを聞いて、分からなくなったの。クイーンは、骸になっても尚復活を望む程に生への意思が強い個体よ。なのに度重なる交戦で消耗しても尚、彼女は研究所へ向かってきた。……当時は赤い霧なんて無かったから、逃げようと思えば世界の何処にだって行けた筈なのに、ね」
「なる程。自己保存の本能を無視してまで特定の場所へ向かい続けた存在が、執着を見せたモノ……か。確かに、不可思議ではあるね」
「研究所の跡地に何かが残っていた可能性、もしくその2人? に何らかの関係があった訳じゃ無いのか?」
復讐という、ある意味人らしい感情によるものでは無く。だと言うのに、自己の存続さえも危ぶめながら進み続けたと言う〝クイーン〟。BOR寄生体とほぼ完全に同化した存在は、アラガミに近しいモノとなる。ならばエイジスに大型のアラガミが引き寄せられた様に、その場所そのものに何か理由があったのでは無いかと考えたのだが。
「いいえ。あそこは確かに対クイーンの為の拠点ではあったけれど、絶対の要では無かった。時間がかかるとしても他で代用出来るものしか無かったと、その場所を管理していた1人として断言出来るわ」
「その2人……まあ、ジャックとレイの2人なのだけれど、特別クイーンと関係があった訳じゃないのよ。それこそ個人的な関係としてはルイの方が余程強いし、実験を抜いても私達3人の方が関わりがあった位よ」
「ジャックの方はクイーンよりも幾らか古い吸血鬼だから、暴走する前の彼女と面識のある吸血鬼とは言えると思うけれど……それも今と違って、当時なら珍しくは無い特徴ね。レイの方は、そもそも討伐戦の時が初顔合わせだったと聞いているから、完全に無関係よ」
はっきりとした口調で否定するのはカレンとアウロラ両名だ。研究所、そして討伐拠点双方に深く関わっていたという彼女達の言葉は、恐らく間違いの無い事実なのだろう。……吸血鬼達の世代や施術順が地味に気になる所ではあるけれど、今は横に置いておく。
あちらの話は、まだ終わっていない。
「一番妙だったのは、戦闘中とその直後だな。クイーンはあいつ等を……いや、あいつだけを見ていた。俺を完全に無視して、ジャックに対しても払い除けるみてぇな動きばかりだったってのに、あいつには……マスクを破壊し瘴気を吸わせ、いつもなら棘で一撃して終わるトコを態々ゆっくり歩み寄った。その上牙装ぶっ刺されても無抵抗のまま、何か話しかける素振りまでしてやがった。……で、その内容が」
「――皆を、救って。そう頼まれたと、以前教えてくれた。優しい、少女の声だった…と」
「んんん?」
「最後に、意識が戻った…?いや、ブラッド達も似たような事を話してはいた、か?」
何かが可笑しい。いや、内容はしっかりと理解出来るのだが、言い難い違和感が付き纏って消えてくれない。
特定の相手のみを狙う、もしくは最期に人の言葉を残すそれの、どちらか一方ならばまだ分かる。実際、アラガミ化した神機使いにも、似たような事例は報告されている。しかしそれを双方同時に……しかも、それまで関わりの無かった相手を対象に行う等、珍事と騒動と例外のバーゲンセールたる極東でも該当するモノが無い。その上、直接的な攻撃ではなく絶妙な〝手加減〟さえしていたのだとすれば、それはアラガミに近い存在の行動として非常に興味深い………
――違う。今考えるべきはそこでは無い。
流されかけた思考を引き戻し、そもそもの仮説と結論を思い出す。
クイーンが特異点だという仮定。そして、吸血鬼の力や情報を司る〝血〟。吸血鬼とその武具にのみ作用する瘴気や血に、それを取り込む事による負荷と暴走。喰われる事を良しとするかのような先代と、その血を奪い取り込んだ次代。個人の感情や関係性では無くただ特定の力を持つ相手へと向けられた執着と、確かに継がれた力と素質。
より高位のアラガミを選んで捕食していたシオ。
赤い雨に含まれた因子により発病する黒蛛病と、非適合者の末路。
アラガミの意思に導かれた女性が見出した、適格者の1人目と2人目。
終末捕食のコア足り得る者達の、その体質。そして、オラクル細胞に備わる偏食という特性。
連鎖的に思い起こしたそれらが、一部分ずつ繋がり絡んで一つの形を導き出す。――ああまさか。だとすればそれは。
「コアの継承を目的とした因子の拡散と選別…?」
「今回、そちらの情報を見てやっと気が付いた事だけどね。……彼女の目的が復讐やそれに準じた個人目的では無く、吸血鬼全体の中から何かを探していたのだとしたら…辻褄が合ってしまうのよ」
渇きの抑制に成功した筈のクイーンが、渇きを齎す瘴気と血を宿し、それを撒き散らしながら、吸血鬼の本隊が居る場所を目指す。……BOR寄生体は本来、宿主の意思や記憶までもを奪うものだったと資料にはあった。そこに制限をかけて生前の意思を残したものが、現在吸血鬼達の心臓に埋め込まれたものなのだと。
ならば逆説的に、制限を掛けているからこそ吸血鬼で在れるだけで、BOR寄生体の本質的にはアラガミにより近い堕鬼の方がある意味正しいのだとすれば。人の血への執着が、ある種の偏食によるものだったとしたら。その渇きが、一種の食欲なのだとするならば。……他を捕食していない原初のそれに近いオラクル細胞が、人一人だけを食らって再現したカタチが吸血鬼ならば。
進化の果てに1つの袋小路としてヒトの形となったシオとは真逆の、進化の前段階にヒトを据えたのだとすれば。
彼等吸血鬼がヘイズという他者の残滓を取り込み強化されるその性質は、オラクル細胞の捕食と進化に近いのではないか。……吸血鬼とは、人を再現しながらも人に対して強い偏食傾向を示した人型アラガミに近いのではないか。――思考の中で不意に浮上した、決して外には出せないその仮説は、それでも消えてなくなる事はなかった。
「共食いの果てに残った個体が特異点となるってんなら、あの頃のヴェインは正にそれだ。態々吸血鬼の部隊相手に大立ち回りしやがったのも、血の吸収と選定目的なら可笑しくは無い」
「目的のものが既にそこに在ったから離れる事をしなかった、ということだね」
彼等の回想と解説に紐付けて、沈みかける意識を引きずり上げる。人型アラガミもアラガミからの復帰勢も、何なら蘇生した者や再誕した者達まで居るのが極東だ。例え彼等が何であれ味方であるならば手を取ると決めたのだから、今更蒸し返すものでもない。……何より単純に、ずるずると深みに引き込まれるような古くて新しい情報に惹きつけられていた。
「死にたく無いなら、吸血鬼なんて無視して人だけを襲えば良かった筈なのよ。彼女が本気で逃走していれば、当時の私達には追う手段も力も無かったんだから」
不意の遭遇戦で勝利出来る様な存在では無かったのだから、個人という身軽さを利用して逃げ回られていれば追い切れなかったと断言される。対応出来たのは、最初期の種であったとは言えアラガミを掃討できる程の戦力があった事。何より、クイーンの側から態々侵攻してきてくれたからに過ぎないのだと。
当時、もしヴェインの外へと逃げられてしまっていれば、神機使いも吸血鬼も居ない世界に対抗する手段は存在していなかった。終末補食の起動も自らの保全も、余程安全かつ確実に成せただろう。……それをしなかったのは、自らが不完全であると自覚していた為ではないか。より適性の高い存在が近くに居ると……本能的に察していたから留まっていたのではないか。
バケモノ以上の脅威となれば、当然主力の多くは対クイーンの戦線に投入される。直接的に戦えば素質の見極めが出来、そうでなくてもクイーン自身や傍を固める堕鬼の瘴気や血により篩にかける事が出来ただろう。――無視し得ない脅威となることで、吸血鬼達を一所に集めて選定を行う。そして見出した相手の前に敵として現れ、核となる血を譲り渡す。
事実、それなりに拠点に近いその場所で、クイーンと直接まみえたのは僅かに3人。そして彼等は、事実として継承者として最上位の適合率を誇る吸血鬼だ。
更に言えば……偶然にも他隊から引き抜かれていた新入りの青年が、王たる器を持っていたのだと。――呑まれ堕ちて、最後に死を願った少女の意思も、あるいは含まれていたのかもしれない。それでも、偶然や気紛れで片付けるには余りにも出来過ぎている。
「ま、此処までが討伐戦時点での違和感と仮説のすり合わせだな。だが……断言するにはまだ足りねぇと思わないか?」
「既に大分固まっていると思うけれど、まだ何かあるのかな?」
にやり、と試す様に口角を上げるシルヴァに、疲労感さえ感じながらも問い返す。正直既に詰みレベルの情報が出ている気がするのだが、それさえもまだ序の口だったらしい。――秘匿されていた……否、詳細不明だった情報は、ヴェイン側の方が遥かに多かった様だ。
「決定打の1つは、終末捕食の母体……ええと、ノヴァ? の記述ね。特異点とは別枠で、ただ只管に捕食を繰り返して肥大化したオラクル細胞の塊。……当時のバケモノはやっと大型種が出てきたかどうかという時期だったから、その条件を満たす個体は存在していなかった筈よね」
「確かに……な。そんな個体が2050年代に存在していたのなら、終末捕食抜きにもっと早い段階で人は完全に駆逐されていた筈だ」
極東で発生した終末捕食でも、ノヴァと特異点は別個体として存在していた。……と言うよりは、自然発生したノヴァたり得る個体は発見されないままなのだ。
エイジスに注ぎ込まれた資材。フライアそのものと神機兵と、呼び寄せられたアラガミ群。共通する因子と意思を束ねた偏食場を喚起し変換したモノ。そして、二重の螺旋を構成し樹と成っていた終末捕食そのもの。
ある程度の質量があれば後は捕食と増殖により嵩を増せるとは言え、初動の為に必要なオラクル細胞量は支部1つ分近くはある。――そんなサイズのアラガミは、しかし現在に至るまでなり損ねた残骸程度しか観測されていないのだ。
ならば、特異点たり得る王が早くに居たとしても、終末捕食が起動する事は無かったのだろうか?……否。そんな不完全な環境下で、ソレが生まれる筈が無い。例え人の手によるものであれ、特異点たる存在の側にはノヴァたり得るモノが揃っていた。――ならばヴェインにも、それに準じた何かが存在してたと考えるのが自然だろう。
「ヴェインには、ノヴァが眠っていた…という事かな」
そうして組み立てられた仮説と見解。それは、研究所には特に何もなかったという先の説明とは矛盾していて……それでも、あり得る事だとは考えられた。
それは、しかし無情な程はっきりと否定された。
「いいえ、違うわ。……ヴェインに在るのは昔も今も〝材料〟だけ。ある意味ではノヴァになり得るモノではあるでしょうけれど、それをノヴァへ変えるのは王自身の役目」
「どういう…?」
「【神骸の継承者】と呼ばれる吸血鬼は、終末の棘……活動を休止したオラクル細胞の塊に干渉し、その形状と用途を作り替える事が出来る。そしてその定義は、神骸……分割されたクイーンの肉体そのものに適合しその心身を以て封じ込めていた、ある種の人柱だ」
「継承者全員に共通する力……権能と呼んだほうが良いかしら。前みたいな力はもう無いけれど……これで信じられかしら」
「「?!」」
不意にアウロラが取り出したのは、無加工のオラクル細胞塊と青い液体を湛えた小さな血涙。左手に乗せた塊に青を一滴落とし、軽く握り締められた左手から僅かに光が漏れ……やがて開かれたそこには、精巧なオウガテイルのミニチュアが鎮座していた。
「借り物の力だけれど、見ての通りよ。正式な継承者なら、これをもっと大規模に、そして短期間で行えるわ。材料は必要だけど、元手があれば多少は増殖させる事も出来たわね」
「神骸にもよるが、自身をコピーして素体にすればある程度有機的な動きや自立思考を持たせる事も出来ていた。……単純な命令を実行する巨大なモノ位は、恐らく簡単だろうと考えられる」
それこそが決め手の一つであり、そしてヴェイン側が秘匿していた最後の機密。〝材料〟さえあれば、複雑極まる大聖堂を峡谷に造る事も、都市レベルの土地を持ち上げ聳える砦を造る事も可能な力とその保持者達の存在。
詳細は後で資料を渡すからとざっくりとした説明で終わったそれは、けれど十分以上にその異質さを教えてくれた。
――それは嘗て、封印の檻を作る力として認識され、使用されていたモノ。各種様々な権能を持つ骸の、その全てに共通して備わっていた特性。――驚異的な再生力や特異な権能では無く。周囲の棘に干渉し棺や聖堂や砦を生み出したその〝副産物〟こそが……本来は最も危険視すべきモノだったのでは無いか。あらゆる神骸に宿るそれは、すなわちクイーンの権能としては最も根幹にあったのでは無いか、と。
「ヴェインを覆う赤い霧も、嘗てシルヴァが生み出したモノであり、今は彼が維持しているモノ。そしてこの写真に写っているモノもまた、造り手はそれぞれ違うけれど、継承者と呼ばれた吸血鬼が生み出したモノよ。……神骸と呼ばれるクイーンの骸には、それを可能とする権能が標準で備わっているわ」
ばらり、と卓上へ広げられた写真に写るのは、とても人が成し得るとは思えない天変地異や超常の建造物。オラクル技術が発展し、ある一定面あれば嘗てよりも遥かに進んだ建築が可能となった今でさえ、人力でどうにかなるとは到底思えないそれら。
そして、大地を引き裂き街を貫き、天に聳える黒灰色の巨大な棘。それは、外でも似た物を見かける事はあるものの、とある事情から此処まで巨大で密集している事はまずあり得ないモノ。――それは、外ではアラガミというカタチを取って拡散したが故に姿を消した、始まりの時期に世界を貫いて現れた原初のオラクル細胞の塊だった。
「これだけの棘が、まだ残っている場所が……」
「いや、待て。それも問題だが、今も維持している…って事は、まさか」
驚愕と動揺を滲ませたソーマの言葉に返されたのは、迷いの無い肯定。――それは、今も尚それだけの事が可能な吸血鬼が存在しているという証明だ。そしてそれが誰なのかも、少し考えれば分かる事だった。
「今、継承者としての力と特性を持つのは3人。眼骸の継承者であるジャック。喉骸の継承者であるエヴァ。そして、元は血骸の継承者であり、今は先の2つ以外全ての神骸を継承したレイ。……10年くらい前までは、姉さんやシルヴァ達も継承者の1人だった」
特異点、若しくはその候補では無いかと目されていた人物の名前が上がる。継承者であれば誰であっても同じ力を持つと言うのはやや意外だったが、良く考えれば同一存在から分かたれたコアに紐付く能力ならば可笑しくも無い。
特異点でありながら、非活性のオラクル細胞に干渉し組み換え従える存在。……それが、恐らくは最も古い特異点であったと思われる、クイーンという少女の正体。そして、そのコアと力を継いで残す吸血鬼達。
山脈や峡谷を含む領域を囲む程の力と、そこに眠る膨大な棘というカタチのリソース。地脈と呼ばれる流れで繋がれたそれらは、統括するコア無きまま、休眠状態で沈黙し続けている。そしてコアたり得る存在は、その意思でもって人の側に立つと定め……何という事もない顔をして交流を続けている。――あぁ、それはなんという幸運であり脅威だろうか。
もしも、当時クイーンと呼ばれた少女が討たれていなければ。もしも、当時から今に至るまで彼等が様々な歪みと犠牲を払いながら封印を続けていなかったら。……もしも、外を知った彼等が世界や人を見限っていたならば。
海と陸の果ての地で、不意に終わりが顕現する可能性があったのだと。そう、知らぬ間に現れては消えていた危機を、今更ながらに思い知る。
「2つ目は、貴方が仮説の根拠にした通りクルスや彼の体質だ。ブラッドコードに限らず、バケモノの因子にも難なく適合出来る特異体質。資料を見る限り、ブラッドのジュリウスとほぼ同じと考えていいと思う」
「そして、取り込んだそれを別の適格者や元の持ち主へ還元する事が出来る……というのが追加ね」
「記憶の返還と、それに伴う限定的な〝他者への干渉〟。……言い換えれば、情報の蓄積とそれを元にした再構築能力、とも言えるかしら」
「それは…始めて、聞くね」
「これに関しちゃ、別に隠してた訳でもねぇんだがな」
――他の吸血鬼に対する、記憶と力の返還能力。
それは、血英という形で物理的に記憶を〝落とす〟吸血鬼以外には何の関係も無い力……と思っていたのだと、彼等は語る。
「そもそも吸血鬼にとって、分解や吸収、排出や再構築は基本なのよ。コードに関しては、取り込める体質では無いだけでね」
確かに、吸血鬼達にはそもそも明らかに自己体積を超えた物量をその身に取り込み、そして取り出す特性がある。……こちら側にも神機により似た現象が起こせる為軽く流していたが、よく考え無くても神機はアラガミそのものだ。
心臓にコアを持ち、そこに根差した情報を元に霧散や再生を繰り返す吸血鬼達。あくまでも脳が根幹となる神機使いと違い、彼等は心臓と血にその多くを依存する。……彼等やクイーンに用いられた寄生体は、古い古い原初のオラクル細胞に近いモノだ。アラガミ本来の目的が際限の無い進化では無く、終末捕食による破壊と再生であるのなら。彼等の特性は、確かにソレに沿っていると言って良い。
「アラガミを取り込めるなら…情報の補完は後天的に幾らでも出来る。……自分から動き回っていたシオとは逆に、母体となり得るリソースの元で、世界を喰らって情報を集めたアラガミを待つ筈だった……という事か?」
「さあ? 当事者じゃないんだから、そこまで詳しい事は分からないわよ。確実なのは、あの場所の周りに強いバケモノが多かった事。赤い霧がその全てを退けていた事。そして、霧が消えた途端に攻め入られかけた、という事位ね」
「当時、他でどんなバケモノが出ていたか詳しくは知らないけど……ヴェインの近くに居たのは、このあたりね」
「これは……ハンニバル、ガルム、ディアウス・ピター……の近縁種かい?」
「さてな。ヴェインを閉じる時に討伐しきれなくて封じてたバケモノ共だ。そっちから見て、当時のバケモノとしちゃどうだ?」
「霧で閉じたのが2054年頃か。……当時としては、正真正銘破格の個体だな」
肩を竦めながらの言葉、そして気軽な様子で机上に広げられた資料に、本格的な頭痛を覚え始める。
写っていたのは、どこかで見かけたような既視感を持つ3体のバケモノ。恐らくは【アラガミ】という呼称が一般化する前に現れた、アラガミとしては最古となるだろう個体だ。今でさえ大型種や接触金機種相手は危険度の高い任務であると言うのに、壊滅せず封じ込めに成功していたという事に驚嘆する他ない。……どうやってそれを成したのか非常に気になるが、今はそれどころでは無い。
当時としては間違いなく最強格であっただろう大型種が3体。ヴェインが閉じる寸前であれば、大型種が出現し始めた時期ともギリギリ噛み合う。
アラガミは、その本能に従い終末捕食の起動を目指す。エイジスが極東をアラガミ動物園なんて魔境に変えた様に、ヴェインと呼ばれた地も変貌していた可能性は高いだろう。いや、エイジス……ノヴァはもとより、神機使いさえ存在しなかった時期だ。王と分化前の細胞が大量に存在してたヴェインは、確実に集積地と化していた筈だ。……特異点とノヴァが一所に揃っていたのだかとすれば、その誘引はどれ程のものであっただろうか。そしてその上で、オラクル細胞を自在に組み換えて特定の意思やカタチを与えられる権能があったのならば。棘とアラガミを混ぜ合わせてノヴァト成す事も出来たのてはないか。
世界を喰らい情報を集積したアラガミ達。そのコアを奪って情報を取り込み、その身を溶かして終わりの礎へと作り変える。――それは正に〝王〟の振る舞いだ。
「んで、最後の1つだが……まあ、あれだ。外でも観測されてたみてぇだが、数年前からつい最近まで、あいつ等は外からの強い干渉を受けていた。……時期的に考えりゃ、此処で終末捕食とやらが起きた、その前後だろ」
「ああ……うん、そうだね。フェンリルがあの場所を観測していたのは、元々終末捕食との関わりを疑っていたからだ」
「此処へ来て知ったが、普通の吸血鬼は感応種やブラッドの力にさえ鈍感だ。そんな中で彼等だけが、明らかに干渉を知覚し影響を受けていた。そして…〝元〟継承者達には、特に影響が無かった」
それこそ終末捕食に干渉出来るブラッドの力さえ、録に受付けない吸血鬼達。その中で干渉を受け影響を示した、ある条件を共通して持つ者達。……その条件である神骸が、終末捕食に関連しているのは明らかだった。
「彼が叩き起こされたのは、月が色を変えて間も無い頃。その後は、赤い霧と二重の棺と鎮魂の歌による遮断と緩和で抵抗し続けて、あなた達と会ったその約半年前に解放された。……1つ目がリソースごと月へ行ってしまったのなら、当時のヴェインの貯蓄はさぞ頭抜けていたでしょうね」
再生に繋がる破壊――即ち終末捕食は星の意思であり、その引鉄たる特異点と母体たるノヴァは、膨大なリソースを注ぎ込まれて誕生する。
2071年、一夜にしてシオとエイジスに偽装されていたノヴァという2つを諸共に失った星は、アリウスノーヴァや赤い雨による選別と喚起を並行しながらも、別のコアが存在しノヴァ足り得る棘を内在させたヴェインに目を付けた。……最も手っ取り早く確実な適格者が、そこには居たのだから。
誤算があったとすれば……彼等の抵抗が想定以上に強かった事だろう。何せ、十年以上の歳月を耐え抜いているのだ。
「良く持ち堪えられたな……」
「分割されていた事で干渉がバラけていた事。継承からそれなりに時間が経っていて、力が馴染んでいた事。年単位でも不眠不休無補給で活動出来る吸血鬼であった事。後はほら、低燃費な特性の寄生体が核だったから、食欲が殆ど存在しなかった…とか? 気になるなら、本人達に聞いてみて。多分、〝分からない〟か感覚的な説明で終わってしまう気がするけれど、答えてはくれると思うから」
「………」
最早何と言えば良いのか。最後の要因についてはもう、そうかとしか言い様が無かった。
超巨大アラガミの巣だと思われていた霧の領域。それが実は個人に依存するモノだったと明かされた衝撃も、それまでの怒涛の情報で摩耗した精神には、ただ納得と共に染み入るだけだった。
ある意味では、嘗て打ち立て、そして彼等と交流する中で否定した仮説。……終末捕食に関係する程の存在が眠る地だというソレこそが近かったのだ。
「こんな感じだから、こちらとしては、本当に答え合わせね。……今更知っても殆ど役には立たないけれど、あの頃の疑問や漠然としていたモノに、明確な答えと名前は貰えたわ」
何とも悄然としたサカキとソーマの2人に申し訳無く思いながら、ヴェイン側の総評としてはカレンのそれに尽きた。
何が何だか分からないまま、それでも何とか対処方法を模索し打ち立て実行して凌いで来た過去のあれこれと、今に残るものの答え合わせ。こうして仮説を立て、立証し、確定させたとしても今更何かが変わるわけでも無いけれど。アレだとかソレだとか多分だとか恐らくだとかであやふやに認識していたものに名称が付き、確かな根拠の元に定義された事で……単純にスッキリとした気持ちになれたのだ。
それに、これからはもう隠す必要が無いという事も理由としては大きい。
「正直、いつバレるかってひやひやしていたから、今回纏まったのは有り難いわね」
「……本当に、そうだな」
半ば乾いた笑いと共に吐露したそれは紛れもない本心だ。……何せ、話題の中心である最重要人物達が、自重してくれないどころか率先して動き回っていたのだから無理も無い。流石に一線は守ってくれていたが、大分すれすれを攻めていた部分も多かった。
その力が役に立っている事も、本人達にも殆ど負担が無い事も事実で、ついでに使えるなら自分達も使っていただろうからあまり文句も言えなかった。……が、それでも時折吸血鬼には無縁となった筈の胃痛じみた幻痛を覚えていたのも事実だった。
「確かに、そうだね。ちらほらとだけど、不思議な行動や力は報告されていたよ」
「まさか、そこまでの重要人物だとは思ってなかったがな……」
「でしょうね。幾らかは、それを逆手に取っていたからこその行動だった訳だし」
「ちなみに、残りは?」
「素」
すぱんと言い切れば、意外だったのか間の抜けた表情が見れた。そんなに可笑しな事だろうかと考えて、まあ第一印象では誤解を受けやすいのが半数を占めていたなと思い至る。……多分アナグラ側が思っているよりも、渦中の当人達は感覚的で単純だ。
干渉を受けていた時期の様に、〝動けない〟のならば何年でも耐えられる者達ではあるのだが、何分動けるのに〝動かない〟というのは酷く不得手な者ばかりだ。
そもそもの性格として、論理や倫理を投げ捨ててでも計画を推し進めた自分達(ルイ以外)に比べれば、比較的真っ当な情緒と感性をしているのだ。加えて、なまじ力がある上に並みの吸血鬼より更に死に難いものだから、至極当たり前の顔をして討伐部隊に混じっていた。……周りとしても、外と繋がりを得られた今になって、彼等だけヴェインに籠もっていろとは言えなかった。
それでも。今の世界であっても異質な吸血鬼の中で、更に特異で重要な存在である事は確かで。継承者としての権能を知られずとも、危険視され害されるリスクは何時も危惧していた。それを承知の上での、今回の開示だ。……最悪、今日を最後に交流を断つ可能性さえ考えてはいたのだが。
(まあ……杞憂だったな)
アナグラ側の反応を見る限り、それは信頼して良いだろうと思う。明かされた情報を見る限りここも相当に隠し事が多い上に、特殊な事情持ちのメンバーが多い。それで何とかなっている場所ならば、特異な存在は排斥よりも有用性と利用を考えてくれるだろう。
「隠していた理由は、察して貰えると思う。ただ、そちらの手札を知った以上、此方も明かすのがフェアだろう」
オラクル技術を基幹としたフェンリルの施設や支部を、継承者達は理論上乗っ取る事が出来る。そして……同時にフェンリル側もまた、ヴェインを害そうと思えば害せるからこそのやり取りだ。――その理由は、主に極東支部に属するブラッド達。終末捕食に干渉し得る感応能力を誇る彼等は、ほぼ確実に赤い霧への干渉が可能だろう。
双方の機密を知り、そして互いに相手への致命打を持つと知った以上、今後の背信は自分達の首を占める自殺と同義となった。
ただの義理や親愛のみならず、実利的な損得やリスクも合わせ、ヴェインとアナグラが分かたれる可能性は、ほぼ無くなったと言って良い。
それに何より……彼等は正直、人同士の軋轢に膿んだ部分のあるヴェイン側に比べて、善良で真っ当に情が強いのだから。
「これは、他の皆に明かしても?」
「そっちの責任において、采配は任せる。こっちも、全ての吸血鬼に明かすつもりはねぇからな」
その言葉に迷いは無い。
そもそも吸血鬼にとっては大半が既に終わった事であり、更には大多数において関係の無い事柄なのだ。勿論最低限の開示はする予定だが、態々騒動の種を播く理由も無い。
緩い統治機構の下ある程度のルールを敷いてはいるものの、ヴェインはフェンリル程厳格な組織では無い。嘗ての様な、見境なく人を襲いかね無い極限状態から脱した今なら、最低限の規律と規則だけを徹底しておけば一般の吸血鬼達も極東に馴染めるだろう。
人や神機使い達の傍らで、バケモノだけを相手に、共に滅びに抗い歩み行く。――それは、本来そう在る筈だった吸血鬼の姿だ。
嘗ての後悔も贖罪も、その殆どは自分達だけが担えるモノだ。ならば、例えそれが身勝手な感傷と想いだとしても……せめてここから先の世代は、俯く事無く進んで欲しいと願う。
……尚、後日文書で再提出されたヴェイン側の情報とその密度に極東側が再度目眩に襲われたのだが、それはまた別の話だ。
――おまけ?
「じー………(オウガテイルのミニチュアに注がれる熱視線)」
「……欲しいならあげるわ。コアも命令も組み込んでいないし、動き出す心配も無いから」
「ありがとう! ……干渉力があれば、もっと大きいのも作れるのかな?」
「作れるとは思うけど……どうするの?」
「それは勿論、色々なアラガミの実物大模型をだね……!」
「やめろ」
「それにしても、これでやっと彼に許可が出せるわね」
「ああ……あれか」
「これ以上何かあるのか……?」
「アラガミのコードを取り込めないかっていう理論の、第2案以降の実践よ。深層のバケモノと違って戦うだけだと駄目だったから、コアを抉って直接取り込めばどうかって話が出てたから」
「……は?」
「本人はやる気だったのだけど……見た目が少しアレだし、あなた達の感覚的に危険視される可能性が高かったから凍結していたの」
「アラガミのコアを、直接いくのかい?」
「だろうな。神骸を取り込むのと同じ感覚なんじゃねえか?」
「……初めは近場の小型で、良ければこちらの人員を同行させても?」
「一応、本人に聞いてみてくれ。……恐らくその場で頷くとは思うんだが」
「実際の所、どの位のサイズや広さまで弄れるんだ?」
「材料になる棘やオラクル細胞の特性もあるけれど、個人の適性で違いが大きいから説明が難しいわ。例えば、私やシルヴァなら結構大きな物を動かせるし、アウロラは細かい加工が得意よ。現役の3人に関してなら、支部1つ分位は簡単だと思うわ」
「素晴らしい! 今度見せてもらっても?」
「手が空いてりゃな」
「吸血鬼全員が出来る訳では無いから、それだけは知って欲しいんだが……」
「お前も苦労するな……」
―― 同日。ヴェインの何処か
「……?」
「………」
「?」
「……どうか、しましたか?」
「いや……何か、変な感じが……」
「誰かに噂でもされているのかしら?」
「……面倒事で無ければ良いがな」
◆ ざっくり言うと……
・クイーン=不完全、若しくは最適1つ手前の特異点。もし主人公が現れなければ、そのままある程度の時間をかけて終末捕食を起動していた程度には完成体だった。が、より適した個体が見付かった事で継承に舵を切った。
研究所へ向けて侵攻し続けていたのは、より力のある素体を求めたクイーンの本能と、自分を殺してくれる存在を求めたクルスの意思が一部合致していた為。
クルスの適合値としてはリヴィより上でジュリウスより下といった所。ただし、全身がBOR寄生体に置換された事で実質人型アラガミに近く、吸血鬼の中では選別途中のシオに最も近い存在でもあった。
・主人公は先代のコア(情報)をほぼ丸ごと受け継いだ次代であり、存在としてはジュリウスに近い完全な適合体。本来ならば討伐戦直後に特異点として、ヴェインをノヴァとした終末捕食を起動する筈だった。が、ジャックに心臓を破壊された事で捕食よりも自己保存が優先され、結果として奇妙な安定状態にあった。
・その後も、目覚めた(CV本編)のが2064年前後であった事、赤い霧という障壁の存在、神骸の継承者が複数存在した事、シオという存在が間もなく誕生した事で干渉が分散していた。
【王の目覚め】の時期は2071年半ば(GE無印後)であり、干渉が消失したのは2074年中旬以降(GE2RB後)。
◆さらに身も蓋もなく言うと……
クルスが実験に混じっていたオラクル細胞を取り込みクイーン(準特異点)へと変異
→クイーンが討伐されCV主が座を継ぐも致命的な傷を修復する為休眠状態になり、干渉を受け付けなくなる(CV過去編)
→残滓レベルとはいえコアの一部が継承者達へ分散した上に霧や棺、血界でステルス状態に
→やがて大部分が統合されるが、活発なシオが居た為ニートことCV主は放置される(CV本編とその後)
→シオが月へ旅立ち地球上での終末捕食が不発(GE無印)
→つまり手をかけてきた次女が資産を持って星外に高飛び
→アリウスノーヴァや赤い雨等で次代を誘発しつつ、神骸の大半を統合し条件をほぼ満たしていたCV主に干渉
→引き籠もって無いでいい加減働けや(by星)vsお外出たく無い(CV主)&寝かしといてやれや(監視者s&イオ)の攻防
→極東で未遂3回の後、やや変質しながらも終末捕食起動(GE2RB)
→引き籠もりを引き摺り出す必要が無くなったので放置したら、引き籠もりの方から出てきた(クロス部分)
◆加えて言うと……
・シルヴァを始めとして継承者達が、ヴェインの状況や先の無さを理解した上で尚、赤い霧の保持やヴェインに留まることを選択した理由。
・外のバケモノがやばいレベルになっている事を知った上で、主人公が降誕せしものに世界は終わらせないと言い放った理由。
も、本人達は無自覚ながらこの設定が影響していたという捏造。
※単純な脅威というよりも特異点という存在を外に出さない為のものであり、クイーン≒特異点が復活する≒世界が終わる(終末捕食)だったからこその行動や言葉だった……という妄想。
Q.設定盛り過ぎでは?
A.ゴッドイーター側に設定もりもりの彼等が居るので、この位でもバランスは取れるんじゃないかなと。後、暴走のリスクさえ無ければ継承者の力って有用だと思うので。
Q.チート?
A.ブラッド達と違い戦闘中は基本使えない上、棺の生成にも元手となる棘等が必要な為、ヴェイン外だとおまけ部分の能力(侵食の抑制や遠方転移)がメインなので、戦力としては微妙です。強いて言えば神骸自体がコア代わりになるため、一般吸血鬼より死ににくいのが強み。
完全に新しい力というよりは、原作の能力をリスク無しで使える感じで。