不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

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本編合間の小話です。
かなり短い上に深い考察等も無いので、さらっと読んで下さい。


気になる事

 アラガミの出現により世界が喰い荒らされ、無惨な姿を晒す様になってから既に20年以上が経つ。霊長の座を追われ弱者となった人間はそれでもただ屈する事を良しとせず、ハイヴやサテライト拠点等のアーコロジーを頼りに細々とその生を繋いでいた。

 旧世代に比べ遥かに狭く、不自由な生活圏と制限の多い暮らし。その中で神機使い達は、戦う義務と命の危機と引き換えに様々な特権を享受していた。……彼等にとってそれは神機使いとして戦う以上当然の対価であり、だからこそ似た境遇の〝彼等〟もまた近しいのだろうと思っていた。

 それが覆されたのは、交流開始から実に半年程が過ぎてからだった。

 

 

 

 

「そういや、この間からずっと気になってたんだけどな……」

「どうかしたか?」

 

 他愛の無いラウンジでの会話中ふと眉を寄せたリンドウに、ルイが気負いなく問い返す。どう言ったものかと頭を捻るリンドウを待つその様は、確かに年上らしい落ち着き様だ。……そんな、実年齢と外見年齢が反転した光景にも慣れてきたなあ等と周囲がまったりしている間に、どうやら言葉は纏まったらしい。

 

「いやー…そっち……ヴェインの写真見せて貰っただろ? んーと、ほら、拠点にしてる教会?とか」

「ああ、確かに見せたな。…何か、気になる事でも?」

 

 よし、と何故か気合を入れて態々向き直ったリンドウの言葉に、そんなに気合がいる事なのだろうかと軽く首を傾げながらも言葉を返す。

 思い出すのは、互いの最高機密を共有し終えた後、最早隠す理由も無いと請われるままに提供したヴェイン内を撮影した写真の数々。その中には確かに、拠点として未だ機能している教会のそれもあった。……とは言え、それは本当にただの写真で、街や棺等を写した他のそれと違い、何かの参考になるような物では無かった筈だ。

 それでも、違う視点から見れば何かがあるのだろうかと、研究者としての意識が表面化しかけたその直後だった。

 

「いや、あれを拠点って、その…無理があるんじゃねーかなあ……と思った訳なんだが」

「……は?」

 

 予想外の言葉に、ルイが硬直。暗紅色の瞳を見開いたまま、高速で巡る思考が該当するものを記憶から検索していく。

 提供した写真は、教会の入口側から拠点を写したものと、温泉の入口側から拠点を写したものだった筈だ。――寂れた教会の中、それぞれが好き勝手に弄って自分のスペースを作ったものだから統一性も何もありはしないが、そこまで言われる様なモノだろうか? いや、アナグラと比較すれば確かに規模も設備も足りていないが、あくまで少数の探索者の拠点なのだから可笑しくは無いはずだ。

 

 

「リンドウさーん、どういう事?」

「おうコウタ。あー……見りゃ分かる」

 

 思考に沈んだルイを横目に、興味を引かれたらしいクレイドルの面々がリンドウの元へ集ってくる。数日拠点を空けていた彼等は、まだ吸血鬼達が齎した情報の細部は知らされていない。どう説明したものかと少し思案し、言葉で説明するよりは遥かに早いなと自己完結。現物を元に本人に問い正そうと持ち込んでいたソレをぺらりと見せた彼等の反応は……凡そリンドウの予想通りだった。

 

「……あの、これって」

「これが、拠点…?」

「何で、教会の中に車やバーが…」

 

 1つの空間を区切らず多人数で利用している為に、地面に置かれた物がそれぞれの領域を示している様子なのは……まだ良い。いや、もう少しどうにかならなかったのかと思わなくもないが、それは個人の問題だから脇に置いておく。

 ユウが言う様に、元教会にそこそこ本格的なバーカウンターがあったり、明らかに屋内であるそこに車やバイクがあるのも、確かに可笑しい。しかし、それ以上の問題がデカデカとそこには写っているのだ。

 

「あの、壁が無いんですけど」

「窓割れてるし、ステンドグラス?もあちこち抜けてるし、壁に罅どころか人が通れる亀裂がある建物とか怖すぎるって!」

「風通し良いってレベルじゃ無いよね?」

「やっぱそーいう反応になるよなぁ」

 

 それは、開放感に溢れ過ぎた建物そのものの惨状に他ならない。

 右を見ても左を見ても上を見ても外が見えるレベルの亀裂が奔った壁と天井に、無事な部分の方が少ないんじゃ無いかと思える窓やステンドグラス等のガラス類。極め付けは、壁の一面が丸々崩壊して外と繋がっている有様のバルコニー()だ。……何と言うか、床が地面と化している事を除けば、いっそ贖罪の街にある教会の方がまだまともなんじゃないかとさえ思える程のボロッぷりなのだ。――なまじ生活感のある家財や小道具が散乱しているからこそ、騙し絵か何かの様な違和感が凄まじかった。

 

「……そんなに酷いか?」

「酷いっていうか……住んでて大丈夫なのかなってなるよ。これ、雨とか大変なんじゃ無いの?」

 

 周りが騒いだ事で思考の淵から脱したらしいルイの言葉に、流石に人の拠点を酷く言い過ぎたかと声を落としたコウタはそう返答する。――建物本来の役目である筈の防風や防雨に、全く役立ちそうも無い廃墟一歩手前の建造物。アラガミへの防御云々以前に、ただの自然現象が物理的に脅威となる事間違いなしだ。外部居住区や環境のあまり良くないサテライトの建物だって、もう少しはまともに建物をしているだろう。

 アナグラの施設や部屋には特に問題無く馴染んでいた様子なのに、何故これに対する違和感が無い様子なのだろうか。

 

「雨は降った事が無いな。恐らく、赤い霧が雲も遮っているんだろう。…ああ、砂埃なんかが吹き込んでくるのは、少し困りはするが」

「砂埃……」

「それは、あの、沢山入ってきそう、です…ね…?」

 

 やり取りは成立している筈なのに、何とも会話が噛み合わない。

 リスクと引き換えに、今の世界における上流階級の暮らしを約束される神機使いの個室は言うに及ばず。狭ささえ気にしなければ街の片隅にある掘っ建て小屋の方が、まだ建物としての機能を果たしているレベルの損壊度合いだ。……これでは、野宿よりはマシというレベルでは無いだろうか。サバイバルミッションの移動車両の方が、下手をしなくても居住空間として成り立つ気さえする。

 ましてや彼等は大崩壊前……アラガミの居ない時代に、それなりの家庭で生まれ育ったと聞いている。なのに、こう言っては何だがスラムに住み着くレベル一歩手前の拠点を当然としているのは……何とも言い難いものがあった。

 

「そう言われてもな……。内装はどうにか出来ても、建築面に手を付けられるメンバーが居なかったんだ」

「いやいやいや。そうじゃなくてなぁ……もっとこう…他に無かったのか?」

「人の居住区以外は、大体どこも似たような物だ。壁の無い立体駐車場や水没した地下空間、雪山で野宿するよりは、余程マシだと思うが……」

「ええぇ……」

 

 とうとう頭を抱え出したコウタに、大丈夫かと声をかけるルイのペースは変わらない。ちゃんと人が住めるレベルの建物やその要素も知っているのにこの無頓着さ。――そうなってしまう程の生活環境に同情すれば良いのか、その図太さに呆れれば良いのか、何なのか。。……この言い方では、本当に野宿よりはマシだと思っていそうでもある。

 大体、百歩譲って立体駐車場や地下街は兎も角、水没した場所や雪山での野宿とは冒険家か何かなのか。まさかそこに住み着いていた訳では無いと信じて問いかければ、短期的には生活していた吸血鬼も居たとの答え。確かにそれを考えればあの拠点でもマシなのかもしれないが、そもそもの基準を下にぶち抜くのはやめて欲しいと思う。

 

「奴隷として扱われていた者達は省くとしても、ヴェイン全体が物資不足だったからな。吸血鬼は早々身体を壊す事も無いから、寝袋を使って野宿する吸血鬼も多かった。吸血鬼はまとまった睡眠は必要としない、というのも大きいだろうな」

「ソウデスカ」

 

 どうやら、奴隷なんて言葉が普通に出てくる様な生活だったらしい。……〝奴隷の様な扱い〟では無く、〝奴隷〟と断言している辺り闇が深い。しかもルイの言い方では、そういう存在が居た事を知っているというレベルでは無く、直接的に関係した事さえあるのではないのか。……彼等自身が他者をそう扱っていたとは思わないが、完全に無関係とも言い切れない程度には近い存在だったのでは無いだろうか。

 ついでに言えば、必要が無いからときっぱり後回しにするその感性も相変わらずだ。……確かに必需品以外は贅沢や嗜好品の部類で良いかもしれないが、衣食住をその括りに放り込むのはやめて欲しい。主に、聞いているこちら側の精神的な安定の為に。

 

 ヴェイン……吸血鬼の闇を垣間見てしまった神機使い達が遠い目をする中で、〝ここは過ごしやすくて良い〟等と宣うこの若作りに、ラウンジ中から何とも言い難い視線が集まったのは言うまでも無い。

 

 

 

「折角だ。他に何か聞きたい事はあるか?」

 

 〝この微妙な空気で続けるのか〟と、ラウンジの神機使い達の心境が一致する。聞きたいことや突っ込みたい事が無いわけでは無いのだが、気軽に突付くと地雷を掘り起こしかねない話題選びをどうすれば良いと言うのか。……いや、本人的には地雷でもなんでも無い気楽な世間話なのかもしれないが、聞いている側のメンタルにダイレクトアタックが飛んでくるのだ。

 仲間だと認識するからこそ、聞いて良い事と悪い事は確かに存在すると思うのだ。

 

 

 

 

 ちなみに。数日後には場合によっては寝袋を使った野宿よりも尚過酷な過ごし方をしていた経験者達が多量に居る事を知らされ、さらなる阿鼻叫喚が神機使い達を襲う事になる。




※拠点をしみじみ眺めていて思った事。吹き曝しすぎて、本とか大丈夫なんだろうかとか。壁にも天井にも大穴が空いていて、建物自体の荒れ方ならペニーウォートのAGE居住区より酷い気がするヴェイン拠点。
※吸血鬼はルイのみ。神機使いはルイと飲んでいたリンドウと、近くのテーブルで駄弁っていたユウ、アリサ、コウタの同期組。と、巻き込まれたその他数人。せめて吸血鬼側にヤクモが居れば、もう少し普通の反応をしてくれていた(教会の内装を整えた本人らしいので)。
※ルイやココは置いた物を線引きに自分の領域を形成しているので、仲間内でもあまり頓着してなさそう。
※多分吸血鬼上層部組は頓着皆無。良い暮らしがどんなものかは知っているけれど、無いなら無いですっぱり諦めている。棺の中で座っているだけよりマシ(by継承者一同)。
※血英から漏れる声とか血英返還時の記憶共有等の影響か、エグい部分を知る・知られる事への感覚が麻痺気味な吸血鬼達。
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