不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

22 / 34
CVのDLCネタあり
時間軸が若干迷子


とある戦闘記録

 

 カン、カン、カン、ガコン!

 

 

 細い金属の管が、硬質な何かを軽快に打ち据える音が連続する。合間合間に挟まるのは、この世の物ならぬ異形の咆哮。そして、空を灼き放たれる雷撃と、全てを焼き尽くす焔の音。

 その殆どは、異形の怪物を相手にする者達にとっては耳慣れた物であったが……そのはじめの1つだけは、世界的に見ても異質な極東支部所属の彼らにして、余りに馴染みの無い物だった。

 

 

 

 

「形状や能力から見て、ハンニバルの原種かな。二十年近く前に捕獲された個体だとすると、大型種としては殆ど始まりの一体と言えるだろうね」

 

 サカキの感心した様な言葉が流れる映像に添えられる。

 それは、ヴェインの深層に封じられているというバケモノとの戦闘記録。外界と絶たれ、やがてはごく狭い領域に封じられていたその個体はそれこそ、キュウビさえも上回る程に古いオラクル細胞を残している可能性さえある。故に、アラガミの進化を紐解くに重要な役目を持つと思われれていた。

 何より、彼等吸血鬼の実力がどの程度かを確かめる事において、実戦の姿を目に出来るのは大きかった。……ただそれは、少々予想とは違っていた。

 

 

「うん、いやそれよりさ……何で鉄パイプ??」

 

 アラガミとするなら間違いなく大型に分類されるだろうバケモノ(殆どハンニバルだ)に対するのは、一人の吸血鬼。その装備は、とても防具には見えないひらひらとした布地を靡かせた外套と、そして中が空洞となった細長い鉄の管。

 前者は、その見た目とは裏腹に高い防御性能と攻撃性能を持つ〝吸血牙装〟だと既に知っているから、まだ分かる。何なら、服の薄さや布地の少なさという点では神機使いは人の事を言える立場ではない。……問題は、その手に握られた鉄管だ。

 

 それは俗に、鉄パイプと呼ばれる建築資材。例え対人戦であっても、もう早々使われる事の無いだろうレトロな打撃武器。否、そもそも武器でさえないただの建材だ。

 だというのに、それを片手に携えた青年が相対するのは世界喰らうバケモノの上位個体。まず抱いたのは、不釣り合い、不適格、不合理。あるいは自暴自棄かそこまでの困窮かという感情だ。

 何も知らずにこの映像だけを見れば、武器など持ちようもない一般人が、それでも一縷の望みをかけて立ち向かう姿にも見えるだろう。悪足掻きでしかないその直後に凄惨な最期が映り込む様な、B級パニックホラーにでもありそうな出来の悪い悲劇の一部始終だ。

 しかし実際は、放たれる炎も振るわれる豪腕も薙ぎ払う尾も、まるでステップでも踏むかの様な軽やかさで回避し、そして反撃する確かな戦士とその獲物。一般人でさえ振るうことが出来るほどに軽いそれは、人ならざる者が持てば十分な凶器となるのだと、連続する軽快な打撃音は確かに示していた。

 それでも、神機という巨大な武器を前提とした彼等の常識が多大な違和感を訴えて止まらない。最初期の神機でさえ、一応はピストルやナイフといった武器の体を成していたのだ。今でこそバスターブレードやブーストハンマーといった打撃系統の神機もあるが、そのどちらも神機使いの腕力でしか扱えない重量で叩き潰す物。……少なくとも、持つだけならば一般人でも容易いレベルの建材でアラガミを殴りつけた経験のある神機使いは早々いないだろう。

 

「いや、始めは普通に戦ってたんだけどな。安定して戦える様になってきたあたりから、なら何処までやれるかって話になったんだよ」

「ヴェインに残っていたバケモノは、こいつを含めて3体のみ。相手側の多様性で検証出来ない以上、此方側の行動で確認するしかなかった」

 

 連続で振るわれる炎剣の直下で共に踊り、豪腕と鞭尾を滑る様に躱してその懐へ。神機ならばショットガンに近い間合いから放たれるのは、複数種類の雷撃。そしてその合間に挟まる、鉄パイプによる殴打。変形や構えを必要としないその連撃は、時折の息継ぎを除いてほぼ途絶える事が無い。その息継ぎさえ回避の幾らかを錬血で賄う事でほぼ必要無く、スタミナのほぼ全ては攻撃へと転化される。

 逆鱗が無く、また吐き出される炎球が無いとは言えその姿と力は確かにハンニバルと遜色無い。ひたすらにじり寄ってくる炎の渦などは、寧ろこちらの方が嫌がらせかと言うようなしつこさだ。それを相手に鉄パイプ片手に挑むというのは、極東支部の彼等であっても流石に想像の外だった。

 

「ちなみにこれは、錬血と鉄パイプで何処までやれるかの検証と、徹底的に回避の技術を高める目的での戦闘ね。まああの武器も並の堕鬼程度なら倒せる兇器ではあるのだけれど」

「それも何か可笑しくね?」

「こんなのもあるよ?」

「……おう」

 

 ヴェインの堕鬼が持つ脅威は、平均するとせいぜいが小型アラガミ程度だろう。しかし逆に言えば、〝現代の小型アラガミと同程度〟の脅威ではあるという事なのだ。――通常兵器の一切を受け付けず、一般人ではただ一匹が相手であっても壊滅の危機となりかねない存在。それを平然と殴り倒せる鉄パイプとはと、疑問符がアナグラ勢の脳内でラインダンスを披露する。

 ちなみに。最終的には、時間こそかかるものの鉄パイプのみでこの大型種を殴り倒したという情報まで追加され、彼らは一先ず深追いする事を諦めた。……出来るか出来ないか以前に、そもそも何故鉄パイプでの討伐に拘るのだろうか。

 自身に適合した神機以外はろくな武器を握れぬ神機使いや人間ならば兎も角、武器を山程抱えて歩く武器庫となれるのだから、非常時を想定した訓練という言い分も苦しい。

 

 ついでに、こんなのとして提示された、雷光を纏っていたり獄熱を宿していたり零下の霜を纏っていたりなんなら金色に輝いていたりする鉄パイプ群からも、そっと目を逸らしておいた。――なんで鉄パイプの種類がそんなに豊富なのだろうかとか、鉄を融解させる様な熱を宿して何故鉄パイプが無事なのかとか、鉄パイプに電撃は握っていて痺れないのかとか、何で金色に光り輝いてるだとかの疑問もついでに飲み込んでおく。

 奇想天外摩訶不思議なアラガミ連中が蔓延る世界なのだ。不思議を一々気にしていては、進む話も進まない。

 

 

 

 

「彼に関しては、殆ど何でもありだからねー。属性も武器の種類も錬血も、相手に合わせて幾らでも合わせられるからさ」

「錬血の威力を保ちながら、片手剣や銃剣での高速戦も併用出来る。……何より、一対一の物理戦であいつを捉えるのはほぼ不可能だ」

「は?」

「まー見てろって」

 

 ハンニバル似のバケモノ……【劫火の騎士王】が崩れ落ちると同時に映像が切り替わる。次に現れたのは、これまた馴染みのある姿に似たバケモノだった。

 

「おいおい、ピターの原種までいたのかよ」

「ふむ……写真では見せて貰ったけれど、こうして映像を見るとますます興味深いね。これまでピターはヴァジュラの進化体……つまりは比較的新しい種だと考えられていたけれど、もしかすると初めから進化の形の一つとしてあったのかな?」

「見た目はこっちの方が格好良いねー」

 

 背に巨大な刃翼を背負った金色の大型種。獅子や猛虎の様にも見えるそれは、とある騒動からこちら極東ではよく見かけるようになったアラガミによく似ていた。

 

―― ディアウス・ピター ――

 

 ヴァジュラ神族の接触禁忌種にして、かつての第一討伐部隊……今では独立支援部隊として活躍する面々にとっては、特に因縁深い相手。

 恐らくは進化体に当たるのだろうピターに比べて雷撃での攻撃は少なく、またどこかその刃翼の重さに適応しきれず振り回されているかの様な動き。それでも広範囲を纏めて薙ぎ払い、時には宙返りの様にして切り裂くその動きは早く、鋭く、そして重い。

 その攻撃を、青年は懐へ飛び込む事で易易と躱す。――明らかに、人の通れる隙間等無い刃の円環を潜り抜けて。

 

「補助錬血【シフティングホロウ】。こちらでは改良型の【シフト】を使っているが、本来はこういった挙動だ。ごく短距離かつ短時間の霧散と再生による、前方への高速移動。霧散から再生までの間は実体が無い為、空気が通り抜けられる程度の隙間さえあれば、あらゆるモノをすり抜ける事が出来る」

 

 範囲外に飛び退いたり盾を使って受けるのではなく、攻撃の隙や範囲外を狙って滑り込むのでさえ無く、今まさに刃が通過している場所そのものを潜り抜けて行う絶対回避。子供どころか鼠さえ抜けられない程の隙間でさえ、彼等にとっては十分過ぎる通り路。大きな隙を見切る必要も無いそれは、空間全体を圧する様な衝撃波や液体の波濤でも無い限り、ほぼ確実な回避を可能とする。

 

「元々吸血鬼の特性としてある力の応用だからかしらね。冥血の消耗は全錬血の中でも最低値で、かつ殆ど間断なく使う事が出来るわ。ただ……それを実戦で使いこなせるかどうかは、本人の適性と経験次第だけど」

「え、そうなのか?」

 

 感心している所に投げられた、苦笑混じりの言葉に思わず疑問を返す。改良型こと【シフト】がその自由度故に使い勝手が悪化したとは聞いた事があったが、これは前方への直進だけと聞く。

 加えて、改良型ではなくブラッドコードに依存する錬血は本能的に使い方を理解出来るのだとも説明を受けていたからこそ、神機使い達にしてみれば疑問の生じる話だった。

 そしてそれが分かるからこそ、吸血鬼達も説明を惜しみはしない。……錬血も吸血鬼の特性も酷く感覚的なものではあるが、それでも長く付き合っていれば最低限の理解は追い付くのだ。

 

「使う、だけなら確かにそう難しい錬血じゃ無いんだ。実際、マスタリー化された事で私達も使える様になっているし、こっちでも使ってるしね。……けれど、使いこなせるかは別」

「ヤドリギの力を借りない霧散からの再生は、可能な時間が極めて短い。だから、相手の攻撃に合わせる様にして使う必要があるのが一つ」

「あー…その辺は俺等の回避とかシールド展開と同じ感じか」

「そういうこと」 

 

 理由の1つ目は何という事もない。

 【シフティングホロウ】も【シフト】も絶対回避を可能とする錬血ではあるが、その効果時間は短い。

 ヤドリギという標を頼らずに再生が可能なギリギリの時間にのみ許される霧散。それを相手の攻撃に上手く合わせられるか否かは、純粋にその吸血鬼本人に依存するのだ。

 

「もう一つ……っつーか一番の問題は、距離感の把握と再生場所の調整をその一瞬でしないといけない事だな」

「距離感?」

「ああ。時間制限の影響もあると思うが、移動可能な最大距離にはある程度制限がある。その距離と方向で固定して移動するだけなら簡単なんだが……それ以内の距離でかつ任意の場所となると、使い手の技量と習熟が必要だ」

 

 何のノウハウも無く吸血鬼となった人間が、錬血という人外の力をごく短期間で使える様になった理由。神機使いが適合後すぐに神機の使用が可能となるように、適性のある錬血の使用には何かしらの補助がかかっていると考えられている。力の流れや制御訓練云々等も無く、使えるものならば使おうと思うだけで最低限は使えるのだ。

 故に。【シフティングホロウ】と呼ばれるその錬血に規定されている制限距離の限界まで移動するだけなら、ただ錬血を使えば事足りる。錬血の効果が切れる場所の最果てで、その身は勝手に再生するのだ。……だが、それだけでは戦闘で使いこなすとはとても言えない。

 

「相手との距離、そして目標地点を瞬時に見極め、再生場所を規定し実行する。……ヴェインは足場の悪い場所も多い。距離を見誤り再生場所をしくじれば、待つのは奈落の底だ」

「空間把握能力、とでも言うのかしら。相手や地形との位置関係を認識していないと、普通に危ないのよ」

 

 相手にめり込んだり同化したりするような危険こそ、本能的に起動する補助によって自動的に回避される。だがそれ以外……相手を突き抜ける事も、相手に激突する事も無く、崖横で足を踏み外したり変に乗り上げたりもせず、丁度その手の刃を振るい易い場所へ移動するというその動きは使用者に依存する。

 それは、自身の足で飛び込み飛び退る神機使いや人間達と同じ技能ではあるだろう。狭い足場で戦うとして、足場以上に自ら跳躍する馬鹿は早々居ない。誰もが皆、その距離や加減は半ば無意識に行っているだろう。

 

 問題は、霧散中は感覚器が働かない為、錬血行使時に全ての処理を終えていなければならない事にあった。人間で言えば、目視で確認した後は完全に目隠しをして耳栓をし、分厚い全身タイツを着た体で、予め定めおいた目標位置に全速力で走り込んで寸分違わず停止するような曲芸じみた行動になる。

 勿論、ブラッドコードや錬血そのものに組み込まれた補助はある。神経の伝達速度や脳の処理能力、筋反応性等も、吸血鬼としての身体が最低限備えてはいる。……それでも、実戦で実行できるかは別問題なのだ。

 

 そして、身体全てを失っての移動であるが故に生じる弊害がもう一つ。

 

「後は……そうね、突然切り替わった視界と距離感と状況に、咄嗟に対応し続けられるかもどうかも大切かしら」

「あー……そっか。使われた側は勿論だけど、使ってる人の方も相手が瞬間移動して近付いて来たみたいに見えちゃうのか」

「そういう事だな」

 

 それは、一瞬とはいえ全ての感覚が閉じ、そして一気に戻るという生物としては中々にあり得ない挙動への耐性及び拒否反応の有無。そして、僅かとは言え途絶した情報と変化を即座に知覚し、的確に処理する対処能力が必要となる事。

 定点から定点へ、外部の補助を借りて幾らかの時間をかけるヤドリギのそれとは違うのだ。

 いくら移動距離や場所を規定したのが本人だとしても、移動の前後で急激に変わる視界に振り回されて転移後に安定しない、あるいは酔う吸血鬼は多い。ただ移動するだけならまだしも、戦闘の真っ只中であれば当然移動先にも危険は待ち構えている。何より、見えるのはいきなり急接近した堕鬼やバケモノの姿であり、場合によっては予備動作を見落とした状態で攻撃への対処を迫られる事も珍しくない。

 

「その特性から、高機動近接型の吸血鬼の方が習熟は比較的早い傾向にある。次点で高機動の後衛型。つまるところ、元々防御ではなく回避を主軸としているタイプだ」

「まあけど、回避だけに集中すれば結構誰でも使える様にはなって来てる方だよ。相手の攻撃さえ見切れたら、後はタイミングを合わせるだけだから」

「それも難しく無いですか……?」

「吸血鬼は元々盾ってモンは持たねぇからな。余程の重装型でも無けりゃ避ける方が安全だってんで、回避は戦闘訓練の中でも必修だ」

「それにも向き不向きが出るのが吸血鬼なんだけどねー」

 

 回避にしても錬血にしても、そのタイミングは早過ぎても遅過ぎても直撃を喰らう。そして大抵において直撃は致命的であり、場合に依っては死に直結する。

 堕鬼が吸血鬼の成れの果てであるが故に、似た錬血で以て後方へ強襲される事も珍しくはない。故に、装備が薄く体力にも劣る後衛こそ、文字通り命懸けでその感覚を掴む必要がある。――幸い、と言うべきなのか。〝うっかり〟で腕や脚が断ち落とされ潰れ砕かれたとしても、吸血鬼の身体はその一切を〝無かった事〟に出来る。何なら頸を撥ね飛ばしてさえ戻れるものだから、戦闘訓練の過酷さとそれに比例した習熟速度は圧巻だ。痛みと死というこれ以上無い指標は、ミスや甘さを矯正するにはうってつけだった。

 その甲斐あってただ避けるだけならば、今のヴェイン上層部はかなりの精度を誇っている。それこそ避ける事に徹した生存能力であれば、既に極東の上位陣にも匹敵するだろう。……ただ、それだけの修練を越えた吸血鬼であっても尚、実戦の中でホロウ系統をその性能限界まで使いこなし攻勢へ転化出来る者は少なかった。

 

 

 近過ぎず遠過ぎない場所へ、早過ぎず遅過ぎないタイミングで。致命の攻撃を掻い潜り、退避では無く攻勢の為にバケモノの懐深くへと侵攻する。それは、基礎能力やその限界点よりも何よりも、神経擦り減らす実戦の只中で迷い無く持続的に実行し続けられるその精神性こそを必要としていた。

 

 

「つってもまあ、無傷でバケモノを狩るのはあんた等も出来るだろ?」

「いや……うん、近い事は出来るけど。こっちの場合は基本攻撃範囲外に退避するかシールドで防ぐかだから、同じ動きは出来ないよ」

「それで足りる位火力とか防御性能があるって事だから、そっちの方が羨ましいよ。私達の場合、ヤクモとかシルヴァのレベルじゃないと、しっかり防いでもダメージ抜けるからさー」

「軽いものなら、牙装で弾いたり受け流しも可能だが……避けた方が確実だな」

 

 尚、此処まで言っておいて何ではあるが、ヤクモとヒロとムラサメとルイの会話通り、極東上位陣ならば似た結果は出せる。何なら一対一で乱入の無い広場という関係上、無被弾に拘らなければ火力とシールドを両立する神機使いの方が適任でさえある程だ。更には完全な無傷は難しくとも大した損害なく討伐出来る者達ともなれば、それなり以上に存在する。

 

 装備の面による差は勿論の事、極限地帯で生き残り積み重ねられた経験は、未だ他の追随を許してはいない。それは彼らの中にも確かな自負として存在する。……だが、出来る事と実行する事は違うだろうと思うのだ。

 

 

「本当に当たらねぇもんなんだな……」

「まあ……これと騎士王に関しては、下手に距離を取るより密着していた方が当たらない。中距離が、最も危険だな」

「本当にね……」

「女帝の方は、寧ろやりやすいんだけど……」

「そっちはむしろ俺等の鬼門だな」

「…………」

 

 どうやらそれぞれに苦手な相手がいるらしく、実感の籠もりまくったため息と苦笑いが重い。どうしても特化型が多くなりやすい吸血鬼達は、やはり得手不得手がはっきりしやすいらしい。――第1世代の神機使いたちが同意するように頷いているのが、何とも印象的だった。

 

 

 やがて、5分と経たずバケモノが地に伏せる。対アラガミ戦の多くと違い、障害物も取り巻きのアラガミも無く、逃げ回られる事も無いのだから、ほぼ純粋な戦闘のみの時間だ。とは言え、単独での大型種討伐と考えれば十分な速度だろう。

 

 

 

 

「次は何だったか……ああ、共錬血だな」

「きょーれんけつ?」

 

 映像に映ったのは、これまた異なる意匠を持つバケモノの3体目。比較的はっきりと極東で見られるアラガミに似ていた先の2体に比べると分かりにくいが、ガルムやデミウルゴスが近縁種だろうか。

 だがそのバケモノよりも、また何か新しいモノを見せるらしい吸血鬼達の説明に意識が向いた。

 

「一定以上の能力を持ち、かつある程度互いの能力を把握した吸血鬼が2人以上居ることを前提とした、特殊な錬血だ。お互いの血を微量に交換し取り込む事で、一時的に相手のブラッドコードに由来した強化効果を得る」

「え、他の奴の血って飲んだら駄目って言ってなかったか? 大丈夫なのかよ?」

「多量に取り込むのは危険だけれど、微量であればカンフル薬……と、いうよりは寧ろ麻薬に近い効果が得られるのよ。人に似た血が交じる冥血は、吸血鬼にとって渇きを加速させる代わりに瞬間的なドーピングにもなるわ」

「いや、その例えはどうなんだよ」

「分かりやすいでしょう?」

 

 何かしらの効果を互いに齎すという、聞くだけならば感応能力に近いソレを何ともいかがわしい表現にされた事にツッコミが飛ぶ。――旧世代の言葉や生活を基盤とする彼等の語彙は、所々で黒さを滲ませる。親世代から聞く事のある旧世代の話もだが、かの世界は中々に人の闇が深かったらしい。

 

「その特性上、共錬血は組む吸血鬼によって千差万別よ。共通しているのは、発動に必要な冥血の消費賀重い事と……強力な効果と同時に何かしらのデメリットが生じる事ね」

「デメリットがあるんですか?」

 

 思いがけない言葉に、逸れかけていた意識が戻る。吸血鬼達の用いる錬血は多種多様だが、冥血という明確なコストを支払うためか、明らかなデメリットを背負っているような印象は受けた事が無かった。勿論、ただ使う姿を見たことが無かったというだけなのかもしれないが、それでもこうはっきりと言い切られると興味と共に心配も頭をもたげた。

 

「デメリットになるかは組む相手による…っていうのが正しいかな。例えば、私の【トランスタイム】は、錬血の消費冥血が軽くなる代わりに近接攻撃が弱くなるデメリットがあるから、組むのがエヴァならデメリットにはならないけれど、ヤクモとだとデメリットの方が大きくなる……って感じね。ヤクモの共錬血も私とはあまり相性が良くないし」

「なるほど……。使い様によってはメリットとデメリットの大きさが反転する、っていう訳だね」

「そういう事だな」

 

 会話の中でも流れ続けていた映像では、丁度その瞬間が映し出されていた。

 示し合わせるようにして交わされる血と、それを取り込んだ2人に起きる変化。

 相も変わらず鉄パイプを片手に牙装のみを変えたレイと、普段通りのミアがほぼ同じ距離をとってバケモノに相対する。開戦の直前、2人が何かを受け渡し合ったかのように見えたのがその共錬血だろうか。

 立ち位置としては遠距離という程遠くは無い中距離戦。先の会話を思い出せば、このバケモノ相手に向いた距離感だったかと、皆の視線が向いた数秒後、怒涛の攻めが開始された。

 

「レイに関しては共錬血も特殊でな。固有のものを持たない代わりに、相手と全く同じものを相手に返す特性がある。吸血鬼の錬血は凡そ持ち主が最も扱いやすい事もあって、基本的に相手を選ぶ事が無い」

「おー………」

 

 冷気を操るバケモノに対する為、主軸となっているは炎錬血。……それは分かるが、その手数と手札がとんでも無かった。

 

「えっと、凄い連続で使ってるけど、その共錬血を使っているから冥血が足りるの?」

「それも勿論あるが…これについては、生命力を冥血に変換する錬血と生命力を回復させる錬血も併用して使っていた筈だ。余程の短期決戦でも無ければ使わない手だから、こちらでは殆ど使ってはいないと思う」

 

 騎士王と呼ばれていたバケモノが用いた這い寄る炎渦と炎剣、空中から躍りかかる炎弾に高速で飛来する炎の投剣、小型の連炎弾に扇状に広がる火矢。それらが間断なく画面を埋め尽くし、いっそ目に悪い程の光を生み出し続ける光景に息を飲む。

 バケモノ側も浮遊し追随する氷水晶や地を這う氷弾、ガルム種の炎を氷とした様な攻撃に圧縮した冷気ブレスと多彩な攻撃を繰り出し、双方負けず劣らずの猛攻が続く。

 前脚付近を唐突に氷結させる攻撃や出の早いバックジャンプ、本体と独立した氷水晶から放たれ後方から迫るる氷弾等、確かに近接型にはやりにくい相手なのだろうとも分かった。

 それにしても、錬血を使い続ける為に自身の生命力を削るというのは、ある意味共錬血とやらのデメリットよりも重いのでは無いのだろうか。

 神機使い達のアイテムにも似た物はあるが、それを用いるのは余程切迫した場合が殆どだ。……少なくとも、そう気軽に何十回も使うものじゃない。

 

「俺らは再生すりゃ回復出来るからなぁ。それに、普通はここまで錬血特化での攻撃もしねぇし」

「私達で他に錬血特化ってなるとエヴァだけど、それでもここまでじゃないからねー」

 

 そういう問題でも無いと思うのだが、吸血鬼達にしてみれば生命力と冥血の優先比率は然程変わらないらしい。……まあ良く考えればブラッド達の扱うブラッドアーツにも一部似たものがあるのだから、あまり人の事を言えた義理でも無いのだが。

 

「それにしても……凄いですね」

 

 避けて撃って避けて避けて撃って撃って殴る。

 先の2体を相手にしていた時に比べて大きく違う音階は途切れず、その苛烈さと密度を物語る。

 コレで倒れないバケモノも大概だが、コレをやっているのがぼ一人だという方にもはや呆れを通り越して変な笑いが漏れる。……もしも万が一敵として相対する事になったとしたら、コレが自分に向けられるのだと思うとあまり笑えない。

 そう言えば、「ブラッドレイジ中の隊長さんはそれ以上だろ?」と返された。……確かにそうではあるけれど、アレはアレで他に誰も真似できないから基準にするのは勘弁して欲しいと思う。

 

 

 

「んで、最後も共錬血を利用した検証なんだが……まーコレが一番極端な例だろうな」

「まだあんのかよ……」

「これで最後だ」

 

 長くも短くも感じた数分の後、崩れ落ちた女帝の姿に息を吐き気を緩める……間もなく、再び変わった映像と告げられた言葉に向けた視線がやや恨みがましくなったのは、仕方が無いだろう。

 一つ一つの時間はそれ程でも無いのだが、仮にも大型種を相手に、未だ物慣れ無い動きや判断で戦う姿を見続けるというのは中々にキツいのだと、重々思い知っている所なのだ。

 その上で更に極端なものが来ると言われれば、思わずジト目の1つや2つは向けようというものだ。――ならば見るのをやめておくかと聞かれれば反射で嫌だと答えてしまうのだから、吸血鬼達だけを責めるのもお門違いだろうけれど。

 

「これかー。うん、確かに極端だし……こっちじゃまず見せる事も無いやつだから丁度良いんじゃないかな」

「そんなに?」

 

 場所と、揺らぐ血界の奥に見える姿から、相手は再び騎士王に戻ったらしい。血界の入口に立つのは、漸く鉄パイプ以外の武器……戦槌を手にオウガ型の牙装を纏ったレイと、普段と変わらない様子のジャック。……何かと妙な問題を起こしがちな組み合わせに感じた嫌な予感は、何とも遠い目をした吸血鬼達の姿を見て確信に変わる。――大抵の無茶と果断を平然とこなし、なんならやらかす彼等が呆れる程のものなのだ、と。

 

「ああ。――継戦能力を完全に捨てて、眼の前の敵を極短時間で確殺する為だけの取り合わせだ。初撃に特化している上、多重のデメリットによって1分で確実に、レイが力尽きる。だから、継戦能力は僅か1分足らずだな」

「はい?!」

「見れば分かるよ」

 

 ルイの不穏当過ぎる言葉に上げた驚愕の声は、華麗にスルーされた。――自分達の聞き間違いで無ければ1分で力尽きると聞こえたが、実行者はただでさえ死に難い吸血鬼の中でも更に死に難いというレイだ。

 その彼の命と引き換えとは、いくらなんでもデメリットが重すぎはしないだろうか。いや、それ以前に何故そんな組み合わせを思い付いたのか。ついでに言えば、仮に思い付いたとして自分の死が確定しているやり方を平然と実行しようとしているのもどうなのか。……突っ込む気力も削がれるが、それはそれとして胸元掴んで揺さぶりたくなったとしても仕方が無いだろう。

 

 

 そんな彼らの混乱を置き去りに、事態は滑らかに推移していく。

 

 

「なんか……めっちゃ強化してる…?」

 

 既に共闘回数も指の数を越え、多少は吸血鬼達の動きやそれに付随するあれこれも理解出来てきたからこそ分かる。血界のすぐ外側、一歩踏み込めば戦闘開始となるだろう場所であれこれしているのも自己強化だろうとはすぐに察しがついた。

 戦闘となる前に自己や仲間の強化を行うのは、適した錬血を持つ吸血鬼であれば当たり前の事。しかし今映し出されているそれは、神機使い達の記憶にあるものとは明らかに違っていた。

 

「自己強化錬血と条件型の強化錬血。普段使う範囲型に比べ汎用性には乏しいんだが、その強化度合いは当然高い。特定のブラッドコードに依存するものは、特にその傾向が顕著になる」

 

 血を対価に重ねがけられる錬血は、その殆どがただ一人へ向けられている。そして、共錬血。……強化の数と方向性を気にしなければ、先程のそれと然程変わりない様に見えたが、それが間違いであったと分かったのはその直後だった。

 

「はああぁっ?!?」

 

 侵入者を見つけ、敵を認識したバケモノが向き直り、咆哮し……そして戦闘態勢を取った結果下げられたその頭部に、真っ直ぐに落とされ叩きつけられる戦槌。ブーストハンマーでよく見かける光景だな、なんてのんびり見ていられたのも一瞬の事。――人間の言葉と耳では何とも表現も理解もし難い音と共に、叩き落されたバケモノの頭部が地面に向かい激突。それで収まりきれなかった衝撃が大地を破砕、陥没させ……そしてその亀裂はバケモノの身体そのものへも波及。全身に広がった亀裂は断裂の証であり、そしてそれはそのままバケモノにとって死の線と成った。

 

 バキャン、とあまりにもあっけない音を立ててバケモノが霧散する。戦闘時間など、実質10秒も無いだろう。――生命力だけであれば現行の大型アラガミに匹敵、あるいは凌駕すると計測されたバケモノを一撃で沈めたそれは、すなわち大型アラガミさえも一撃で屠れる可能性があるということ。

 準備に幾らかの時間を要すとは言え、あまりにも強大過ぎる威力であった。

 

「すげぇ威力……けどこれ、本当にそんな危険なのか?」

 

 映像が途切れ、衝撃から立ち直れば正直な感想はそれだった。確かに事前の準備に時間を要す以上、特定の場所に留まらないアラガミには向かないだろうし、戦闘中に気軽に使えるものでも無いだろう。だが、事前に脅されていた程じゃ無いじゃないかと、肩透かしと安堵が混じってしまったのも事実だった。

 

「相手が一体でかつ成功すれば、確かにそれ程では無いな。……問題は、強化時に使用している錬血の方だ」

 

 錬血名【ラストジャーニー】。それは、僅か1分後の死を確約する代わりに使用者の能力を大幅に引き上げる特殊錬血。その死はヤドリギの力を借りるしか回避の方法が無く、例え生命力が万全であっても確実に力尽きるという代償を強いるもの。……死んでも戻り、幾度も再生出来る吸血鬼だからこそ多少重い…程度で済んでいるが、人や神機使いでは使用は即ち命と引き換えになる決死の力。

 共錬血【フェイタルデイ】。吸血鬼の強みであるはずの再生能力を代償にすることで、攻撃性を引き上げる錬血。生命力を削る錬血も併用する事を考えれば、相手を討ち倒すか自らが死ぬかという二択を強制する不退の力。

 他にも様々重ねられた強化錬血の多くもまた、ただ一撃を強化するものや自らの被弾と共に解除されるもの等癖の強いものが揃っているのだと言う。

 

 つまりは、相手の攻撃を受けずに接近し急所に一撃を入れられれば見ての通りの威力であるが、その一撃で決められなければ大きく弱体化する上1分で強制的に死に戻りするという、ハイリスクハイリターンにも程がある戦い方だという事であった。

 

 

 

「……確かに、使う機会は基本なさそうね」

「だろ?」

 

 色々と言いたいことはあったものの、まず出てきた感想はそれだった。

 強力極まる特殊錬血とその実演風景は確かに興味を惹かれまた見入りはしたものの、実際問題参考資料以上になるかと言われれば微妙なところであった。

 なにせ、現状吸血鬼達に求められているのは超短期決戦ではなく、神機使いでは困難な長期任務や補給が乏しい中での持久戦であり特殊事案への対応だ。

 あるいは極東以外の支部であれば、対接触禁忌種などの決戦時に切り札となったかもしれない。が、大抵のアラガミに致命を通せる実力者揃いの此処で、わざわざ吸血鬼達を2〜3体のアラガミを討つために使い潰す理由は無かった。

 ましてやそれが、その能力の多彩さや権能から他分野でも引っ張りだことなっているレイであれば尚更だ。

 

「ま、こういう錬血とか戦い方も出来るよって事で」

「うん、わかった」

「情報は大事ですからね」

 

 

 

 尚、後日解析に回された変種含む鉄パイプ群より、神機使いや吸血鬼以外でもアラガミへ僅かなりとも効力のある汎用武装が開発されることになる。

 




鉄パイプでガンガンやる上にそれを条件に鉄パイプが貰える謎
そして別に盛らずともゲーム内描写で同じ事が出来るCV主
ダメージ量的にコードヴェインの敵は体力だけなら並のアラガミより多そうな気がします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。