こちらは同シリーズのメインとは全く異なる完全なifの物語となります。
物凄くざっくり言えば、闇の住人endではなく果てなく共にend後の、CV主+アラガミvsGE勢の戦争です。CV主以外のコードヴェインキャラは基本出てきません。
時間軸はGE3のエンディング後あたりです。
死ネタ等を含む為、何でも許せる方のみお願いします。
このシリーズを読まなくても本筋ルートには何ら支障はありません。
終わりの目覚め
それは、停滞していた終わりの目覚め。
「新種の、アラガミ…?」
西の果て。数多の犠牲と願いを対価に稼働していた、血濡れの延命処置が機能を停止する。
「こいつ等……コアが無い?!」
命枯れ果てた霧の中、世界への絶望と共に王が目覚める。
「血の霧が、アラガミを、侵食して……」
終わりを取り上げられた世界に、終わりを齎す為。
「アラガミの〝大軍〟が迫って来ます!!」
無意となり、忘れ去られた者達の記憶と力を引き摺って。
「何だ、アレ……。人、なのか……?」
朽ちる事の無い器に滅びの種を抱き込んで、唯、歩む。
「違うっ!アレが、親玉だ!!」
……世界よ。最も古き護り手にして、最も新しき世界喰らう獣の王が此処に問う。
「奴の狙いは聖域だ!!」
お前達の今は、彼等の犠牲に見合うか否か?
■ □ ■
あの日、覚悟していた事の筈だった。
言葉を交わし、最期を看取った継承者達の神骸と遺志を引き受けて進んだその先。限界を迎えたシルヴァへ刃を向け、彼が変じたバケモノを倒し。髄骸とその他多くを継承して、赤い霧を維持する為に眠りに付いた日。いつかこうなるだろう事を予見しながら、それでも何処かで夢見ていた。
――荒廃した世界で、それでも確かに生きる人間と吸血鬼達。目覚めた後には仲間達と挨拶をして、赤い霧を必要としない程に強くなった彼等と共に外の世界へ。……そんな、願いとさえ言えない様な夢物語を。
分かっていた。この世界で、そんな奇跡が起きる筈なんて無いと。……夢は所詮夢でしか無いのだと。
知っていた。血涙の泉と地脈を維持する女性が既に限界であり、そして継ぐべき適合者が不足している事を。……それが意味する緩慢な終わりを。
教えられていた。既に継げる者の居ない神骸が存在する事を。……自分の目覚めが意味する悲劇を。
覚悟していた。目覚めたその先で、自分がただ一人である事を。……あれが最期の別れとなる事を。
ああけれど、本当に自分だけが生き残ってしまうのなら、せめてずっと眠ったままでいたかった。覚めない夢を見続けていたかった。……何も知らないまま、灰になってしまいたかった。
「あ゛ぁ……」
何年か何十年か使われていなかった喉が不鮮明な音を奏でる。……これではまるで堕鬼の呻き声だなと他人事の様に思いながら、大き過ぎる玉座から蹌踉めく様に立ち上がる。
見るともなしに見渡した牢獄の最下層。視界に感じた違和感の理由はすぐに知れた。嘗ては赤黒い液体で満たされていた筈の周囲が乾き切り、すっかりと底を晒した事で、その空間は倍以上の広さになっていた。喉がかさついているのは、湿度が消え去った空気を吸い込み続けたせいか。……こんな状況になるまで、何も気付く事が出来なかった己を呪う。
「ア゛アぁぁァあっ゛」
からん、と乾いた音を立てて落ちたマスクを気にかける余裕さえ無く、意味をなさない叫びが伽藍堂の牢獄に響き渡る。がらついた喉の酷使によって、刺す様な痛みと鉄錆じみた味が口腔内に広がって……そして即座に消えていく。
吹き荒れる様な瘴気の渦の只中で遠慮も加減も無く息を吸い込み叫んでも、喉の渇きはもう感じない。再生力を使う必要さえ無く、損壊が即時に再生され再構築されて消えていく。尽きること等無いだろうと思える程の力が、滾々と湧き出して身体を満たす。きっと今ならば、千夜の時を越えてでも戦い続ける事が出来るだろう。この力を地脈と泉の維持に回せたならば、ヴェインの全てにヤドリギを芽吹かせ、泉に血涙を実らせる事さえ出来るだろう。
全ての神骸を統合し融合してそれそのものとなった身体は、遠い記憶に残る女王のそれと等しくなった。否、数多の血を取り込み癒合し加算された結果、それ以上の何かとして完成した。……その力で以て護りたい存在は、既に亡いと言うのに。
――萌芽が枯れ泉が涸れ、それでも残っていた血管じみた地脈を伝う必要も無く、遠くを見通し近くを見抜いた眼を使う必要も無い。……そんな物に頼らなくても、ヴェインの中にはもう何も無いと分かっていた。せめて何か送りたくても、歌を知らない喉が紡ぐのは獣じみた慟哭だけ。2つが重なり1つと成った心臓が、これ程の激情にも揺らぐ事の無い鼓動を刻み続けていた。
眠りについたあの日には確かに欠けていた部位が今、一つの欠けも無くこの身の内に在る。
神骸の完全統合。それが意味するものは、ソレらを継いで封じていた者達の逝去。
玉座の傍らに転がり落ちた琥珀色と僅かな灰が意味するものは、自分を支え続けてくれていた伴侶の喪失。
揺らぎのない赤い霧と伽藍堂の中身が示すのは、逃げ出す事さえ叶わずに緩慢な絶望の末に誰もが力尽きたという事実。
余りの渇きに耐えかねたのか、堕鬼さえも半ば以上が休眠状態となっているこの地には、最早何も残ってはいない。
ああ、けれど。それならば……それだけ、ならば。まだ、耐えられたかもしれなかった。……いや、例え血反吐を吐き散らし永劫の苦痛に苛まれたとしても――耐えて、みせた。
例え仲間や同胞たちが、寄り添ってくれた少女が居なくとも……守るべき者を見出だせたならば。
「何故………」
何よりもその心を砕いたのは、〝外〟の状況だった。
「何故……!」
外が、ヴェインとはまた違う形で追い詰められていた事は分かっているつもりだった。だからこそ、進化し、強大化したバケモノを相手に、それでも尚戦い生き残ってる人々の存在を知ったあの日、心からの感嘆と称賛の念を抱き、そして覚悟を決められたのだ。
赤い霧が……ヴェインがヴェインである必要があったのだと、確かに実感出来た。……だからこそ、彼等の生きる世界や彼等自身を護る為に、ヴェインと吸血鬼が犠牲になると分かった上で霧を継ぐ事を受け入れた。――仲間達や継承者達に期待され、願われたからだけでなく、自分自身の意志でそうしても良いと思う事が出来た。
自分達が眠り抑えるその間に、この身を殺してくれる存在の誕生を願っていた。後始末を押し付けてしまう事へのせめてもの贖罪として、ヴェインと吸血鬼の未来を捧げた。……なのに。
「バケモノが……【アラガミ】という天敵が存在しながら……!」
どういう理屈かなんて分からない。赤い霧が維持されている現状で、繋がる筈が無いというのは確かな筈なのに。……それでも、何故か手にとるように把握出来た外の現状と、其処にある知識と力に歯噛みし、絶望する。
ヴェインと呼ばれたこの地と、其処に生きた全てを引き換えに齎されていた筈の静穏。皆で護ろうとした外の人は、その手で救済を変質させ厄災を招いて自らの首を締めていた。
――こんな世界と人を護る為に、自分達はこの牢獄を維持していたのか。
――こんなものを護る為に、自分は彼等を犠牲にしたのか。
――こんな事になる位ならば、あの時霧を消し去って、彼等だけでも何とか逃していたほうが良かったのでは無いか。
――自分達がもう少しだけ身勝手に生きても、許されたのでは無いのか。
――……自分が、あの時もっと上手くやれていれば。
憎悪と後悔、怨嗟と自責が積み重なってその心に伸し掛かる。それが八つ当たりじみている事も、たらればの無意味さも虚しさも分かった上で、それでも呑み込みきれない激情と慟哭が、完全には静まっていなかった神の骸を呼び起こす。危急の役目を失い緩く微睡んでいた種に、意思という名の呼び水が注ぎ込まれていく。
それに危惧を覚えた意識は、しかしそれを抑え得るだけの強さを既に失っていた。
――今更。何故。自分が。自分達だけが。オキタ。違う。痛い。苦しい。クイタイ。違う。誰か。オナカスイタ。ちがう。ソトニ。ちがう……何が……? オハヨウ。
混在し混濁する意識に何かが混じり込んでいく。バラバラに引き裂かれ分解されて、何かに喰らわれてその養分となっていく様な、異様な感覚。外へ。喰らえと、自分では無い自分が浮かび上がろうとする。それは皮肉にも、女王と成り果てた少女の末期にも似た状況。異なるのは、それを止め得る者も寄り添う者も敵対する者達さえも居ないということ。そして、器である青年自身が、半ばそれを呼び込んでしまっていた事。
余りにも冷たく、無慈悲で、伽藍堂な孤独は、冷たい不死の肉体に宿る脆く暖かな人の心を砕くには十分過ぎた。
最早、その願いや敵意が誰のものなのかさえ曖昧となったその中で、女王の遺志と王の意思が混濁して癒着し、そして混ざり合っていく。僅かに残っていた抵抗の意思も、濁流のようなそれに耐えきる事は叶わなかった。――そして。
「―――――ッ!!!!」
見開かれたその瞳の、人と同じ白色をしていた強膜が漆黒へ、その中心に収まる瞳孔は寒気がする程に冴え冴えしい青へ。そして、青とも紫とも黒ともつかない瘴気が、可視化出来る程の濃度でその身を覆っていく。
器たる継承者の自我喪失。それが示すのは、確かに個として名と意思を持っていた吸血鬼の終わりであり、女王の復活。否、女王に匹敵……あるいは凌駕する潜在性を持っていた青年を器としたそれに宿るのは、三代目。真の王たるモノ。――その危険性を知る者も、止める者も最早居ないまま、絶対的な脅威と成り得るモノが産声を上げた。
『――――』
〝王〟は、僅かに遺された少女と青年の遺志を歪に引き継ぎ、世界へと降臨する。
皆に救いをという願いは、個という視点を失い地球という星そのものと人という種そのものへの救済へ。
仲間達の献身と死を軽んじられた嘆きは、彼等が封じていた脅威を現出させる事による宣戦へ。
ただ1人残された孤独と絶望は、外に蔓延する絶望と怨嗟と結び付き溶け合って世界への憤怒と絶望へ。
再生を願う星の意思を受けた終わりの獣は、薄れかけていた本能を剥き出しにして咆哮する。
堕鬼そのものはアラガミに遥かに劣る脅威だろう。吸血鬼が生き残っていたとしても、腕輪の兵士達には敵わなかっただろう。この身とて、この世界では余りに旧い骨董品だと分かっている。
だが……だからこそ。この身は世界の敵となってみせよう。そしてその果てに、袋小路に踏み込んでしまった世界の全てを救ってみせよう。
本来であれば明確な自我等残らない筈の機構と成り果てながら、それでもそのバケモノは器となった吸血鬼達の想いを継承する事を選択する。――それはもしかすれば、長い時を抗い続けた彼等へ向けての、ある種の敬意であったのかもしれなかった。
単純な脅威には慣れていると、それだけの戦力が確かにあると言うのなら、その戦力自体を奪い取ろう。――核によって制御された獣を扱うと言うのなら、その核さえ崩してしまえば勝手に自滅していくだろう。
機構では無く、生物染みた動きや意思を宿し始めた獣達の本能を揺り起こそう。――砕けても戻る滅び無き身で、敵を前に逃げる理由が何処にある。コアの損傷を恐れるのなら、その枷は自分が取り払ってやろう。
――世界よ識れ。世界よ慄け。
命とを対価に維持されていたあの場所が必要であった事を。彼等が捧げた覚悟は確かに世界を護っていた事を、我が身を以てここに証明しよう。
――世界よ、今こそ知るが良い。お前達が気にも留めずに忘れ去った場所と者達が、どれ程の事を成し遂げていたのかを。
最早、誰のいつの意思かも分からぬ程に混在して溶け合った意思が今、器を得て極西の地にて顕現した。