不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

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Normal、Bad、Trueの3種を想定しているシリーズエンディングの1つ(この区分はGEサイドからの認識なのでCV視点では名称が揺らぐ可能性あり)

分岐条件
・終盤までにヴェイン跡地を訪れていないor訪れていても情報を十分に取得出来ていない(廃教会へ行っていない、同行メンバーの選定ミス等)
・上記条件を満たした上で、期限内かつ聖域到達前に赤禍の王を討伐(第10次防衛戦までに6勝)する


Normal End:ケモノの終わりに人は想う

 

 灰と瘴気が渦巻く荒野。人と神が互いを喰らい合い殺し合う凄惨な戦場と死闘の果て、遂にその決着が着こうとしていた。

 

 

 

 倒れたのは、数多の変異アラガミを従え、己自身もまた壮絶なまでの死体と怨嗟を積み上げ続けた〝王〟だった。

 

『……』

 

 がくりと膝が折れ、灰と砂に覆われた大地にその身体が崩れ落ちる。それは明確な好機。致命の証。此処で全てを決めるべく、ありったけの力が注ぎ込まれてその身体を覆い尽くしていく。

 AGE達を中継点として繋がる力が数多から意思を掻き集め、それを糧として嘗て終わりを留保し変質させた力が展開される。――不活化を強制し、再生を阻み、その身体を形作る細胞そのものを壊死させて白い灰へと変えていく。

 

「効果……確認しました!! このまま!!」

「全員気張れ! 何としてでも、ハウンド隊とブラッド隊の奴等を守れ!!」

「厄災の王め……くたばれ!!」

 

 自らの王を守らんとする血蝕種アラガミ達の動きを、死兵と化した兵士達が命を賭して押し留める。ばきばきと形成され中核たる者達へ向けられた白い棘を、精鋭と呼ばれる者達が決死の働きで防ぎ止める。夥しい程の犠牲を新たに積み上げながら、意思と遺志を託された者達がその力を振り絞る。

 もはや、再びの総力戦を挑む余力など存在しない。今この時この場で【赤禍の王】を討伐し得なければ、待つのは今の世の終わりでしかない事を、既にここに居る誰もが理解していた。

 

 その身をただ壊すだけでは意味が無い。例え粉微塵にその身体を砕いたとしても、バラしただけではじきに再生する。ならば、その細胞の一片に至るまでの一切を、その時その場で死滅させるしかない。

 蓄積され、解析され、証明されたその特性。

 理不尽なまでに一方的な消耗戦を強いるその存在に対し、彼等は個の力を束ね合わせ増幅して上回らんとしていた。

 

 

『……』

(……ああ、これが、終わりか)

 

 力が抜ける。身体が崩れる。……終わりが迫る。

 激痛すらも超えた衝撃に、感覚が麻痺して鈍化する。身体の維持と再生に全ての意識と力が注がれ……だからこそなのか、誰に悟られる事も無いままに沈んでいた1つの意識が浮上した。

 

 それは、とある青年が砕いた心の一欠。――人を、世界を、自らを呪い、絶望の果てに自らを砕いて贄と捧げた、王の器となった吸血鬼のもの。

 透明なガラス箱の中から眺めているような、認識と思考だけを許された状態で、身体への干渉権は無い。まるで寝起きのような茫洋とした意識の中、あるいはだからこそ、彼は人と世界を比較的冷静に認識する事が出来た。

 茫洋とした意識と視界に捉えるのは、死力を尽くし命さえ擲って向かい来る敵対者達。人もGEもAGEも関係無く、ただ一つの脅威に対抗する為集い戦う姿に遠い過去を幻視する。――なんだ。やればちゃんと出来るんじゃないか。……そんな思いが、思考の端を掠めて消えていく。

 

『………』

(……ここまで、だな)

 

 未だに生きようと足掻く己の身体さえ、何処か俯瞰的に認識する。そんな事が出来てしまう位に、最早状況は絶望的だ。

 聖域まで、あと数日足らず。もはやその山脈がはっきりと目視出来る程の距離だった。此処を凌ぎ切れば、届く筈の願いと役目だった。けれどもう、戦うどころか歩くことも出来そうに無い。

 そして……それでも良いかと、今は少しだけ思えた。

 

「死ね! 死ねよバケモノ!! お前のせいで、どれだけの人がっ……!!」

「許さない。……っ絶対に! 許さない!!」

 

 叩きつけられる純粋な憎悪と殺意がいっそ心地良い。再生する端から削られ砕かれ裂かれているせいで、何とも言い難い感覚がずっとしてはいるけれど……確かな終わりを感じさせるそれは悪くない。

 例え意識が消し飛んでいたとしても、身の内に眠っていた神にそれを願い頚木を外したのが自分である事は理解していた。今更許される事など無いと理解して、何より自分自身赦しを乞うつもりなど毛頭なかった。……これは、自分の選択とその結果だった。

 何より、確実にこの身を消し去れるだけの力が外に存在するその事を、ただ純粋に賞賛する。何故もっと早くに来てくれなかったのだと嘆きながら、それだけの力とそれを使い得る存在が外の世界に育っていた事に心から歓喜する。

 

 ――あの場所には、女王の骸を処理し切る力や手段が無かった。だからこそ、犠牲に犠牲を重ねて時間を稼ぐしか無かった。その稼いだ時間の果てにこの終わりが在るのなら、きっと彼等の犠牲と献身は無駄ではなかった。……もっと早くに現れてくれていれば、なんて。結局は自分の我儘でしか無い。

 この力が現れるまで保たなかった、外の世界を信じ切る事が出来なかった自分が、ただ弱かっただけという話だ。

 

 

 ああ、ならば後は任せて良いかと息を吐き……同時にどこか深い場所で致命的な何かが砕ける音を知覚した。

 

『…………』

(多で個を踏み潰す。……人らしい、人の力)

 

 かつて神の定理さえ書き換え、終わりを留保し変質させたその力が尽きぬかに見えたリソースの上限を踏み越えた。

 灰化と再生を繰り返していた身体の再生を、灰化の速度が遂に上回る。力に晒され刻まれる度に、灰白の無機物がその面積を増していく。神骸……完全に同化した今は神躯とでも呼ぶべきその形を保っていた寄生体が、一つ一つ丁寧に圧殺されて活動を止めていく。もう幾許も無く、この身体も意識も終わりを迎えるだろう。いかに総身がコアに等しいこの身と言えど、全ての細胞を失えば再生も叶わない。

 

 

 それを自覚して、僅かに戻った意識でもって最後の心残りを清算する事にする。

 

 

 ――遠く、遠く。すっかり離れてしまった、嘗てヴェインと呼ばれたその地へと意識を向ける。僅かな繋がりを通して下す最後の命令は、該当区域一帯の崩落。正しくはヴェイン中に存在する終末の棘へ向けた、形態維持機能の解除命令。これにより、棘と地脈と棺によって歪に支えられていた彼の地は、そう間を置くことなく地の底へと沈むだろう。……瘴気も、堕鬼も、深く深く沈めてしまえば、拡散を止める事位は出来る筈だ。この身が潰える以上、それらを残しても最早意味は無い。

 何より。……何よりも。

 今度こそ、暴かれる事の無い眠りを皆にと、そう願う。後世で掘り起こされ、その在り方や意思が好き勝手に推測され論じられるのは耐え難い。……責められるのは、自分一人で……いや、自分一人〝が〟良い。

 

 

 期待にも願いにも応えられ無くて、ただ八つ当たりしか出来なかった自分と彼等は違う。

 彼等は、本当に最期まで、世界と人々の事を考えていた。自分達の未来を閉ざした上で、この時この場に間に合う様に耐えてくれたのだ。……例えそれを知る者が外に存在しないとしても、自分はそれを良く知っている。

 

 そのままでも、吸血鬼やヴェインの事を知らなければ、彼の地はただ自分というバケモノが生まれて巣食っていた場所としか見られない筈だ。それでも、落ち着いて探されれば彼等の足跡は幾らでも見つかるだろう。……優しい彼等の事だから、きっと自分についての情報も残してくれている事だろう。

 あの地獄で手にした得難い繋がりとかつての追憶。――それらを全て、消させて貰う。

 自分という世界の怨敵から繋がる縁によって、彼等の名や覚悟を穢したくは無い。

 これだけの事をやらかしておいて何を身勝手な、と。……この内面を知られれば、そう誹られるだろう事は解っている。けれど……だからこそ。何も告げず残さずに消えさせてもらう。生き残り贖罪を強制される事無く、ただ無へ還る事を許してくれると言うのなら。

 

 どうか、我が身の存在全てと引き換えに、人知れず世界の礎となった彼等に永久の安寧を。

 そして、抗い続けると定めた者達に呪いと祝福を。

 

 

 砕け溶けた筈の自分にそんな権限があるという事そのものが、【王】の限界を示しているのだと分かっていた。――だから最期は、自分こそが。

 

『…………』

(……もう、いいだろう?)

 

 維持限界を迎え、それでも声無き咆哮を上げて抗おうと、望みを叶えてくれようとしている【王】を……2度目の命の始まりから傍らにあってくれた無二の半身を、内側からそっと抑えて動きを縛る。自分という存在を外の者達に気取られない様に。ただ限界によって消えゆくと見える様に。

 そうっと静かに密やかに。不俱戴天の敵性種でありながら、それでも人類への敵意や怨恨は無く、ただ只管役目に殉じようとした星の落とし子を眠りに誘う。

 

 ――押し付けてしまって、すまない。そして、ありがとう。……もう、休んで良いんじゃないか?

 

 あの日。背負いきれず逃げてしまった自分の後を継いで、此処まで来てくれた事に、心からの感謝を告げる。お陰で、僅かな時間といえど安寧の闇に揺蕩う事が出来た。外界から隔絶されその内で微睡む時間は、今こうして思考出来るだけの残滓を取り戻してくれた。……そして、心から感謝しているからこそ。今一度共に眠ろうと誘いをかける。

 星が提示する確実で最大の救いを自ら切り捨て、果てなき闘争と地獄の世を人が選ぶというのなら。星の自浄作用に頼らず、己自身で世界を継いでみせると言うのならば。……もう、全て任せてしまえば良いじゃないか。それで例え人という種が滅び果てたとしても、それは彼等の選択が招いた結果であり自業自得だ。もしそうなった時に今度こそ星に救いを齎せる様、今は全てを放り投げて休んで良いじゃないか。

 そうして、全てが崩れ落ちるヴェインの底に、長く眠り永く残る種を残そう。人が……人の世が。本当にどうしようも無くなってしまったその時に、砕けて壊れ、それでも残り積み重なった棘の欠片を糧として芽吹ける様にして。……全てを今と先に生きる者達に任せて、古い残滓はここで一度幕を引こう。

 

 

 ――何もかもを間違えて、全てに背を向けた自分達ではあったけれど。それでもやれるだけの事をやって、進める限り歩み続けて。……もう十分、頑張っただろう?

 

 

『過去を、切り捨て………、その――、を、選ぶ……なら。人……を、世界を。……救って、みせて…くれ』

 

 最後に遺すのは、困難で絶望的な未来を選んだ今を生きる者達への恨み言であり、ある意味では自分達の後輩に向けた届けるつもりの無い激励。

 誰もが仕方無かったのだと諦めて受け入れる他ない公平で平等な審判と終わりを拒否し、回帰と再生を拒み、今在る自分達の存続と果てなく続く闘争を選ぶのなら……それに足るだけの覚悟と足掻きをみせて欲しい。僅かな聖域という安全地帯とアラガミという天敵を前に、それでも人の欲や悪意に屈せずいられると言うのなら。この枯れ果てて乾き尽きたこの世界で、それでも地に満ち命を謳歌してみせると言うのなら。

 それは確かに、ここで潰えさせてしまうには惜しいと思えるだろうから。

 

(ああ……眠い、な……)

 

 意識が霞み、身体が解け崩れていく。能力の過負荷による混濁や、髄骸に頼った昏睡では無く、もうどれ程ぶりに感じるのかも分からない純粋な睡魔が意識を覆っていく。内腑を灼くかの様だった激情も渇きも、まるで燃え尽きた炭の様に軽く空虚な物へと消えていく。

 全てが、灰へと還っていく。

 ……なにものでも無い灰に還れば、彼等の元に帰れるだろうか。――許されたいなんて思わない。そもそも、それを請う資格すら無い身だけれど。……あの場所でひとり眠る事位なら、許して貰えるだろうか。

 

 

 ――せめて、共に。

 

 

 王の状態に共鳴するかのように、遠い遠い始まりの地が人知れずに崩壊を始める。

 最後の駄目押しとばかりに叩きつけられた圧殺の力がその全てを呑み込む寸前、酷く懐かしい姿を優しい闇の中に幻視し……そして留まる事無く砕け去った。

 

 

 形と成り損ねた一掴みの灰だけが、西の方角へ流れて消えた。

 

 

…………………

 

 

 赤禍の王が崩れ去り、どれ程の時間が過ぎただろう。再生の予兆は無く、探知に優れた能力達がその力を限界まで絞っても、その余りに特徴的な存在が引っ掛かる事は無かった。

 

 人の世を賭けた死闘は、今ここに幕を下ろした。

 

 

「やっ……た?」

「ああ……やった、やったぞ!! 俺達の勝利だ!!」

 

 ぽつり、ぽつりと、勝利を問う声が上がり。それに叫ぶような答えが返り始めるまで、そう時間は掛からなかった。……そして、その時が来た。

 "わあっ!"と、地を揺るがすような歓声が上がる。力尽きた様に座り込む者、逝ってしまった誰かに届けと言わんばかりに天へと吼える者、近くの仲間と抱き合い静かに涙を流す者。そこには、人もGEもAGEもブラッドも、果ては人型アラガミの区別さえ存在しなかった。

 

 自分達は勝ったのだ。

 この世を滅ぼさんとするバケモノ、世界喰らう獣の王を、遂に遂に討ち果たした。

 傍らに居るのは戦友だ。背を押してくれたのは仲間達だ。例えその生まれや姿が幾らか異なっていたとしても、人のカタチをしながら人の敵であったバケモノを思えば最早僅かの嫌悪も恐怖も湧きはしなかった。

 

 

「本当に、終わったのね。……ねえ、これからの事について、少し相談があるのだけど」

「奇遇だな。丁度、同じ事を言おうと思ってた所だ」

「変わるには、良い機会だろう」

「ふん!……借りは返す」

 

 グレイプニルの、ミナトの、極東支部の。人が、神機使いが、AGEが。同じ目標と同じ未来を見て、手を携え歩みを揃えて進もうとし始める。……ただ一人の王に喰い荒らされ、そして死闘の末にこれを撃滅し得た悲劇と経験と連帯が、不必要な程に重く強く存在していた壁と溝を強引に消し去っていた。

 赤禍の王が討伐されたとは言え、アラガミも灰域も荒れ果てた世界も、何も変わっていない。人は世界の弱者でしかなく、受け皿は未だ小さく脆いままだ。……それでも、全てが順風満帆とはいかずとも、これからの未来は少しだけ寄り添う者達の数が増える事だろう。

 

 

 

「終わったようだね。……これが正しい事かは、分からないけれど」

 

 熱狂と歓喜から遠い場所で、老いた観測者はほんの少しだけ独り消えた王を思い目を伏せた。

 思い起こすのは、明確に、明瞭に人の敵としてその自覚を以て敵対した、あまりにも人を知りすぎた人型アラガミ。……あるいは、アラガミと成り果てたかつての人。他の誰に告げるつもりも無かったが、彼は確かにもう一つの可能性にもたどり着いていた。

 

「……この世界は未だ、人が人と争う事が出来る程優しくは無いようだね」

 

 何かもう少しだけ立場や在り方が異なれば、あるいは対話を試みる事も出来たであろう程に人らしいアラガミが叫び続けた言葉。

 終末捕食の再起動と星の再生。滅ぶのは人だけでなく今この星にある全てであり、平等な滅びと引き換えに平等な救済があるのだと明朗に語ったその言葉は……きっとこの星の真実だ。

 今の自分達の選択が、未来で人類の首を締める可能性は十分にある。……あるいは、救いようが無いほどに世界を荒廃させたその元凶とさえ呼ばれるかもしれない。それでも今の人の世を残すと……神の齎す終わりと救いに抗うと決めたのだから、後悔も懺悔もする資格は無い。

 

 

 人と人が対等に争える世界。それを作り上げるその役目を、彼から奪い取り上げ簒奪したのは自分達だ。

 ならばせいぜい、それに相応しくあり続けるのが筋というものだろう。

 

 

 

 

 膨大な犠牲と凄惨な戦場と酸鼻を極めた死闘の果てに、赤禍の王は討伐された。積み上げられた屍は数知れず、失われた資源は余りに多い。……それでも、世界は確かに変わるだろう。

 ただ一つの脅威に抗う為に集結した個は群となり軍となり、断絶されていた世界と人々は再び互いを認め並ぶ経験を得た。

 

 絆が結び直される中唯一人孤独に朽ちた王は、それでも表情を安らげて目蓋を閉ざす。嘗て仲間達と共に守らんとした世界に残る輝きを見届けて、願い続けた終幕の安寧へと心を委ねて消えた。――王が残した終焉の種が芽吹くか否かは、未来を生きる者達次第となるだろう。




GE側の勝利。暴走したCV主は人型アラガミとして討伐され、ヴェインが崩落した事でCV側の情報や記憶は一切残る事無くGE側の世界へと戻る。
共通の脅威に抗い団結を思い出した人々は、僅かに薄れた灰の中、これからもアラガミとの戦いを続けていく事になる。
かつての都は崩れ落ち、その底には遠い未来の絶望を待つ萌芽が静かに微睡む。
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