・赤禍の王が聖域に到達する(第10次防衛戦で敗北)
・血蝕種アラガミの数が一定数を超過するor味方戦力が壊滅する(第1〜9までの防衛戦で5回以上敗北する)
上記いずれかの条件を満たす、もしくは他ルートの条件未達成により分岐。
人は、逃れ得ぬ終わりへと向かっていた。
「……進路上のミナトが5つ落ちたわ。これでもう、極東までを遮る拠点は無くなってしまった」
策謀。暗躍。癒着。怯懦。
理由など数多あり判然としなかったが、人は終ぞ溝と垣根を越える事が出来なかった。
戦力の逐次投入に纏まらぬ防衛線。各ミナトや組織はそれぞれ己が身を守る為に動き、分散された戦力は増え続ける脅威に対しあまりにも無力であった。
「血蝕種アラガミの数は既に十万を超えています。……そして【赤禍の王】は、未だその中心部に存在しています」
喰い破られる戦線は日に日にその速度と規模を増し、磨り減り続けた人類の戦力では増え続ける獣達の足を止める事は叶わなかった。
名もなきバケモノの王は悠然と歩み続け、周囲に侍るバケモノ達はその身を以て王へ挑まんとする不届き者への壁となる。……その存在が確認された当初と異なり、既に【赤禍の王】へ直接挑む事すら不可能となりつつあるのが現状だった。
「例え、こちらの残存戦力を結集出来たとしても、もう……」
何より、例え謁見が叶いその場で刃を抜けたとしても……かの王を討ち果たす事は既に不可能と言っても過言ではない。
もはや不条理なまでの再生能力を活かすまでも無い。かの存在はただ純然たる戦闘能力で精鋭達を薙ぎ払い、必要最小限の動きで命を奪う様はいっそ機械的なまでに効率的であり、その上で止まる事なく成長を続けていた。
人が足並み揃わず足踏みをしている間に不滅のバケモノは只管に進み続け、そうして何十何百年分もの進化と成長を終えていた。
「それでも、やるしかない。……今まで、世話になったな」
「それはっ!!……っどうか、ご武運を」
もはや、滅びを免れる事は出来ない。
三度の奇跡をもって存続した世界。しかしそれも、見方を変えれば確かに歪なものなのだろう。
先の奇跡とて、結局は特異点たる存在達の献身によるものだ。……かの王が〝特異点〟であると言うのならば。その信認を受けられなかった時点で奇跡の切符は存在しない。
そして恐らくは実力でもぎ取る機会さえ、自分達は不意にした。
あまりにもゆっくりとした【赤禍の王】の侵攻。それはかの存在が進化する時間であると同時に、きっと自分達へ与えられた猶予でもあった。――あまりにも人間じみたその双眸は、あの日確かに失望の色を浮かべていた。
上に振り回され総力戦さえ挑めず散っていく神機使い達を、ある意味もっとも哀れんでいたのは【赤禍の王】でさえあっただろう。……ああ本当に、これで何を認めて貰おうというのだろうか。
それでも尚みっともなく足掻くのは、ちっぽけな意地と誇りでしかなかった。
…………………
そして。
最後の抵抗であったのだろう防衛線を紙の如く引き裂いて、〝彼ら〟はその線を踏み越える。――【赤禍の王】の討伐はならず、その身は遂に東の果てへと辿り着いた。
『…………』
ぐるり、と周囲を見渡す青の双眼に熱は無い。
此処へ到るまでに歩んだ地の光景と其処に残した地脈を通して伝わる情報を処理し、僅かに吐く息には隠しきれない失望が滲んでいた。
浄化の術無き瘴気が世界を覆い、凶暴化したアラガミが本能のままに世界を喰らい、僅かな空白を求めて人々は互いに争いを続けている。向かい来るのは、既に満身創痍の見慣れた顔ばかり。この期に及んでさえ、人は……世界は。ごく一部に負担と負債を負わせて逃避し、溝や垣根を超え全てを賭しての決戦を選ぶ事は無かった。
――ああ、所詮は何処も同じなのだ。あの場所が、吸血鬼が、特別狂っていた訳では無かった。……贖罪の為に隠れ飢えて朽ちる必要等、何処にも無かった。
その感傷は果たして誰のものか。微かな絶望と後悔を遠くに置きながら、王は白く聳える山脈へ手を伸ばす。本来ならば何を許す事も無く世界の破壊と再生を担った筈の、今は奇跡の証等と呼ばれるそれに、役目を思い出せと発破をかける。
星に与えられた権能と身に蓄え続けた力と情報を呼び水に、本来あり得てはいけない邂逅を果たした先代へと呼びかける。
『目を覚ませ。……外の惨状がわからないのか?』
――緩慢な変化と再生等で、人の欲を受け止められる筈が無い。
数多の奇跡の具現たる極東の聖域。バケモノや死の灰に脅かされる事の無い、緑豊かな果ての楽園。……そう言えば確かに聞こえは良いが、それは同時に人々の醜悪さを露呈させる起爆剤になり得るものだ。
自分が此処を目指していたからこそ今は誰も居ないだけで、そうでなければ遠からずこの地の取り合いが起きていただろう事など想像に容易い。今の当事者達が生きている間は良くても、それもあと数十年程度の事。
地殻変動に近く変化したというこの聖域が、世界を覆うまで、一体どれ程の時がかかる?
数万年か、数億年か。地殻の動きとしては破格、というよりは異常な1m/年だとしても、千年で漸く1km、百万年で1000kmだ。……滞り無く両側へ広がっていったとしても、完遂には約二千万年程かかるだろう。仮にもし百年で終わらせようとすれば、年間約20km……日にして50m強等という、天変地異も真っ青な速度が必要となる。
そしてもし、正しく地殻変動の速度だと言うのなら……かかる年月は億の単位となるだろう。
『このまま行けば、人の世どころか世界……いや、星そのものが再生不可能な傷を負う。……誰に唆されてそんなにのんびりしてるのか知らないが、星が滅びれば人も滅びる』
――人という種そのものが、それだけの未来まで残っているかという以前の問題だ。
終わりがその役目を果たす時まで、バケモノ達は聖域の外で消える事無く進化し続ける。
僅か数十年で此処まで育ったソレらに対し、数千万年もの時間を与えてしまえばどうなるか等、考えるまでも無い筈だ。
今でさえ、力あるアラガミならばその直下で活動する事も出来る。ならばやがて、終末捕食に取り込まれる事無く生物として確立したバケモノが誕生する可能性とてあるだろう。……現に今、自らが率いる血蝕種達はあまりにも急速に生まれた種族なのだから。
対して人には、どうしようもない限界が存在する。僅かに二十年程度しか戦えぬその身で。何をつくり何を成すにもリソースを必要とするその身で。……どうしてバケモノの速度に追いつけるだろうか。
そして。どうしようも無く彼我の戦力が開いたその時に、決して侵される事の無い楽園があると知られれば。そしてそこが、ごく限られた人数しか収容出来ないと分かれば。待っているのは、聖域の席を争う人同士の争いであり……それに伴う聖域内の崩壊だ。
聖域の中と外。明確に異なる区分はやがて差別と乖離を生み、そして正しい一部と弱き多くが割を食う事になるだろう。そして数千万年の時をかけるとすれば、人は容易く聖域の内部を破壊する。……人が生まれてたかだか数千年程度でどうにもならなくなりかけた旧世代を知るからこそ、そう思う。
狭い土地に、限られた資源。それらを巡って争う人々によって、聖域内部は数百年もすれば汚染され、荒廃するだろう。そうなれば、千年と保たずに人という種そのものが滅びる可能性は非常に高い。……なにより、聖域の内部は既に終末捕食が終わった場所だ。汚染や荒廃をリセットし再生する役目を担う終末捕食によって救われるのは、進行途中の終末捕食が完遂されたその更に先のみ。
例えどれ程聖域の内部が滅び果てようと、そこに浄化の端末たるアラガミが現れることも、特異点が出現する事も無いのだ。
今を生きる者の中に惹かれる者が居る事は解る。それを摘み取ってしまう事が惜しいという想いも、人と長く共にあった〝王〟は良く知っている。――それでも。
『――役目を、思い出せ』
人がいる限り、争いは無くならないだろう。それでも、本来ならば皆々同時に齎された筈の恩寵を、僅かな範囲に留める理由は無い筈だ。全てを同時に癒やして戻せば、今を生きる人間達と同数程度は等しく豊かなリソースを得る。
星を……人を救いたいと願うなら、根本から全てを救わねば気休めの延命としかならないのだ。
何より、終末捕食が完遂された世界は……崩壊の先に、再びの再誕を期待する事が出来る。
『星の獣の役目を思い出せ。与えられた権能を取り戻せ。……その為に、自分達は生み出された筈だ』
王の器となった青年が目覚め、壊れ、狂い、そして王を受け入れたあの日、王は本来の役目を識った……否、思い出したと言っていい。
それは、後に大崩壊と呼ばれたあの日、棘やバケモノが余りにも唐突に地を裂き、世界を喰らって現れた理由。軍人でも政治家でも無い、ごく普通の心優しい少女を壊し狂わせた本当の理由。継承者と呼ばれた吸血鬼達が、それに寄り添い支える者達が、全てを擲ってでも王の誕生を封じ込めようとした理由。器となった青年が、不完全に降誕した王の顕現を世界の終わりと結び付けた理由。
アラガミとは……その王とは。古きを喰らって新しきモノを生み出すシステムの端末であり執行者。破壊による再生を齎し、どん詰まりの荒廃に未来と救済を施す存在。終焉の獣を呼び起こす引鉄であり、新たな世界の礎となるモノ。
それこそがアラガミの存在理由であり、赤禍の王と呼ばれるに至った王が果たすべき役目だった。
だからこそ、少女のそれでも青年のそれでも無い新たな意思を得た王は、彼女と彼の願いと意思を引き継ぎ願う。
〝皆〟へ救いを。……生者も死者も、人もアラガミも吸血鬼も、天も地も海もその一切を区別無く、この星にある全てに、終わりとその先にある救いを。孤独も絶望も呑み込んで、あらゆる奇跡も願いも覚悟も罪も贖罪も区別無く、今と過去の全てを等しく平らな礎に。
古く廃れた劇を未練がましく続けるのでは無く、すぱりと幕を下ろして次の演目へ。
『死にゆく世界に終焉を。新たな世界に寿ぎを。古きの遺灰を以て、世界を肥やし整え新世界を芽吹かせる。……星の生んだ救済措置が、俺達星の獣の役目だろう』
――終わりの破滅が不条理である程に、始まりの救いは鮮やかに齎される。ここで正しく終われなければ、正しき救いは訪れない。だからこそ、この身は破滅の先駆けたろう。
本当に望まれた事とは違うと、頭の片隅が叫ぶ。
それに、ならば正解を教えてくれと慟哭する声がする。……それに答えられないのなら、邪魔をするなと切り捨てる意思がある。そして、何と言われようと王の答えは既に決まっている。
この世界は既に行き詰まり、正解など最早何処にも存在しない。……望みをかけるのなら、全てが刷新された次の世界へ。
『行け』
対となる存在とその権能に揺さぶられ、微睡む巨獣が微かに身動ぐ。それでも尚起きぬ寝汚さに、まるで人の様なため息が漏れる。
半ば枯死しかけた山脈だけでは鈍いのならと、飢えて狂い、本来の暴虐と役目を思い出した荒ぶる神々をその山肌へと喰らいつかせる。粘土細工か何かの様に癒着し混ざり合い一つとなっていく赤黒い波濤に溶けながら、人の願いに歪められたもう一つの終わりへ呼びかける。
――正しい終わりとその先の再生を齎す役目を思い出せ。僅かずつの癒やしなど、それを上回る傷で無意となるだけだ。
再生したその未来でも、やはり人は争うだろう。それでも、一時の平穏と充足は皆々平等に訪れる。そしてその先には、新たな終焉と再生もまた確約される。……何度だって、星は彼らを許し破壊と再生を齎すだろう。
だから、〝今回〟はここまでだ。
今の〝人〟は良く生きた。絶望に抗い終わりを引き伸ばそうと足掻き続けた。――ああ、自分もその意思を称賛しよう。そして称賛するからこそ、我が身を以て救いを齎そう。
もう戦う必要はない。もう自分や仲間の死に怯える必要はない。……世界の終末故に訪れた悲劇は再誕した世界には存在せず、彼等を力不足と罵る者もまた存在しないのだから。
アラガミもバケモノも存在しない、人が人として人と争える世界を〝皆〟へ。今に固執し未来の荒廃を招くのでは無く、未来の為に今の全てを礎に。
【世界と人を守る】その為に、今の世界に生きる個人は犠牲となって貰う。……あの牢獄で、彼等がそうなった様に。
『――奇跡と夢は、もう十分に見ただろう?』
世界を喰らうバケモノに抗い、世界を滅ぼす厄災を押し留め、人の時代を引き伸ばす。
それはさながらお伽噺の英雄譚、或いはテンプレ極まるゲームの筋書きとその結末。ならば自分は、世界に対する魔王や邪神あたりの役回りか。
ならば成る程、自分に求められるのは激闘の末の敗北なのだろう。魔王は勇者に討たれ、世界が手を取り合い光に満ちる。……ああ確かに、それは一つの結末なのだろう。かつての女王がそうなった様に、挑む者達が勝るのならばそれもまた1つの結末だ。
だが残念ながら、この筋道はお伽噺でもゲームでも無い。――勝敗を定めるのは互いの立場や主張の善悪正誤では無く、ただその強さによってのみ。
そして此度の勝者は自分となった。……勝てぬならば、その主張を通せる道理等無い。
そうして、遂に。
終わりが目覚め、世界を喰らう獣が咆哮する。
白と黒と赤が入り混じった顎に自ら身を差し出して、抱え続けた数多の記憶を還元する。ここで漸く終わりを押し留めんとする力が背を撫でる。仕留めそこねた先代たち。恐らくは自らの暴走さえ承知の無茶なのだろうが、星の端末と化した身を抑えるには到底足りはしない。……特異点を喰らい起動したノヴァは、終末捕食を終えるまで止まる事等出来無いと、誰よりも彼等が知っている筈だ。
それは、ここに到るまでにどこかの誰かを喰らって得た記憶にあった情報。
この地で起動した4度の終末捕食の中で、完全に止められた物など1つも無い。
1度目の様に狙いを逸らすつもり等自分にある筈が無く、2度目と3度目の様に共食いする為の相手はおらず、暴走の様に始まった4度目と違い正統なコアが健在でこちらに応える気が無い以上、対話の余地等無い。……1度目と2度目の間に現れた残滓を止めたように、此処に至るまでにこの身を止められなかった時点で詰みだ。
時間はあった筈だ。力もあった筈だ。
進化を是とし神化に至った外の同族達と異なり、停滞と維持を望んだ様な、こんな古い旧い遺物を止める事さえ叶わない世界と人間が、この先に待つ暗黒の時代を越えられるものか。脅威が未だそこに存在する状況下でさえ争い足を引き合う様な状況で、荒廃する世界と進化する同族達に耐えられるものか。
人同士でいがみ合い争いたいのならば、嘗ての様に平和に呆けた世界でやれば良い。
――……………。
身体が霧散し、余りにも巨大なその質量へと飲み込まて同化する。……ここまで来れば、もう自分の制御や意思等関係無い。星が生み出した初期化機構の本能と組み込まれたプログラムが、その式に従って役目を果たすだろう。
――世界よ終われ。終わりて巡れ。今の悉くを零へと還し、次のあらゆる者に壱を得る権利を与えよ。
――古き記憶よ砕け散れ。遍く心よ灰となれ。一切合切相違無く礎となり、そして認識される事なき過去となれ。
――戦い抜いた者達に敬意を。生き足掻いた者達に称賛を。……次の世界では、彼等の生に幸あらん事を。
意識が溶け落ち自我が霧散し始める。……そんなもの、今更惜しみ等しない。この世界にあった意思の一切を贄に捧げてこそ、彼と彼女の願いは成就される。
願うのはただ人と世界の救済。そして、自分という個の終わり。……バケモノは等しく世界の礎に。次の世という祝福は、抗い続けた者達にこそ相応しい。
――これで、良かったのか?
――………〝 〟
闇の中で、微かな感応が交わされて霧散する。
人を。世界を。そして何よりも自分自身を呪って壊れた1人の吸血鬼。滅びに感謝を告げる程に摩耗して擦り切れた1つの心が、引き止める間さえ無く完全に砕けて闇に溶けていく。
再誕の光では無く、礎となるバケモノ達の元へ溶けたその魂は、このまま旧世界と共に消えるだろう。
王は伸ばしかけていた手を戻して、意識の中で瞑目した。
〝彼〟が望むなら……いや、僅かでも迷いがあったなら、新しい世界に送ってやりたかった。多少嫌がられたとしても、ここまで近ければその奥底まで分かるから、ほんの僅かにでも望んでくれれば無理矢理にでも送り出すつもりだった。
例え特異点という異端の存在であっても、望めば新たなる世界で人と成れる事は前列の少女が示している。純粋なアラガミであったかの存在が人となれたのだから、元が人である吸血鬼を人に戻す事くらい何てことは無い。
誰も彼もが全てを忘れて真白になってしまえば、この世界での事を責める者は本人を含めて誰も存在しない。そうして今度こそ、親しい者達と、気兼ねなく生を共にすれば良い。例え誰が否定し責めたとしても、自分はその権利が〝彼〟にあると保証した。
けれどそれも、ここまではっきりと拒絶されてしまった以上、意味の無い仮説で終わる。……器となった青年が呪ったのは、世界と人、そして何よりも自分自身。骸の器となり得る程に強靭な精神は、結局の所最後まで完全に壊れきる事が出来ず、人や世界への八つ当たりでしかないと自覚出来る自我が残ってしまったからこそ、彼は自分を許し救う事が出来なかった。
それを引き留め、未来を願ってくれる者達が誰か一人でも残っていれば違ったかもしれないが、それももう無意味な妄想だ。
自己の完全なる終焉と、今を贄とした世界の再生。彼が狂気と絶望の中で最期に願ったそれは、確かにここに成就した。
そして、もう1つ。微かに残った最後の意識が霧散するその寸前、溶けて消え逝くその中で、仄かな淡い光を手放して全てを閉ざす。……これで、己が役目も引き継いだ願いも、その全てを果たし終える事が出来た。
星の定めに従い正しく終わった世界は、星によって正しく再生される。終わりの役目を与えられた獣は、役目の完遂と共に終わりを与えられ眠りにつく。1度目のそれを受け入れた月が緑に満ちた様に、この荒漠たる世界も命に満ちるだろう。
後はただ、星に任せて眠るだけだ。
死闘の果てに勝利した王はその身と眷属達を以て天地を覆って喰らい尽くす。そして終焉は世界を覆い、始原へと転じたそれにより、世界は再誕した。
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そこに広がるのは、何という事の無い日常だった。
「おーい、早く帰ろうぜ!」
「あーもう、そう急かすなって!」
「昨日のあれ見ました?」
「見た見た! もう最高に凄かったよね!」
「すまない、少し良いだろうか?」
「ああ、構わない」
「やれやれ、今日も賑やかなこったな」
「何、悪い事じゃ無いだろうさ」
抜けるような青空の下、人々の笑い声が軽やかに空気を震わせる。豊かな自然に囲まれて、それでも都市は緩やかに成長し、人は徐々に増えていく。
学び舎に年若い男女が詰め込まれ、学業や部活や恋愛に励んでいる。
すし詰めの交通機関から吐き出され、社会の波に揉まれながら生きる者達がいる。
その中に、嘗て戦士だった者達の姿がある。幾らか年若い姿に戻った彼や彼女達は、その姿に相応しい場所で、普通の人として生きている。戦うために手放した輝かしい時間を、取り戻すかの様にして。……その手が巨大で無骨な刃や砲を持った事は無く、そして、これからも持つ事は無いだろう。
アラガミもバケモノも。瘴気も灰域も消え去った世界。何処にも残らぬ世界で大崩壊とよばれた以前に良く似たその世界は眩く、嘗ての惨劇は拭い去られて知る者はどこにも居ない。
全ては等しく忘れ去られ、全ての願いと意思は等しく今の礎となり、新たな世界は過去を知る事無く先へと進む。
たった一つの小さな欠損に気付く者はおらず、世界は過去の犠牲も覚悟も罪も全てを白紙として前へと進む。
誰もその色に違和を抱く事の無い青き月。そこに残された少女だけが、終わってしまった世界を思い涙を落としていた。
GE側の敗北。特異点と化したCV主によって聖域は再び通常の終末捕食として起動し、世界は喰らい尽くされた後に再生する。
再誕した世界には嘗てと同じ顔ぶれが揃うが、嘗てと同じ道を歩む事は決して無く、嘗てを知る事も無い。
……
若干BAD?という感じですが、シオや極東面子やブラッドやその他GE世界のキャラ達が本編で紡いだ物語と、そこにあった覚悟や願いや記憶を根こそぎ無視して踏み躙った先の未来なので、GE側から見ればBadです。
最早知る術もありませんが、命と引き換えにしてでも封印と世界の維持を選んだCV側からしても、ある意味Badと言えると思います。――そして、彼を独り残してしまった後悔が、本人へ届く事はありません。新生した世界にバケモノとして消えた王が産まれ落ちる事もないので、仮初でさえ会う事は出来ません。
客観的に状態や立場やだけを見れば確かに旧世界より恵まれていますが、彼等が願ったものではありません。それが違うという事にさえ気づけない事が救いなのかは分かりませんが、彼等は今日も日常の中で笑っています。