不死の吸血鬼と神喰いの狼   作:雲海月

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いよいよ?ヴェイン組がアナグラへと突撃します。
キャラが多い上に地の文に名詞が少いため、キャラの書き分けが死滅しています。何かもう気合で読んで下さい。
一応、一人称視点寄りでソーマ→ルイ→ジャックです。


訪問と会談

 その日支部長室に呼び出されたソーマは、ある意味では予想通りにテンションの高いサカキを前に、何とも言い難い表情で立ち尽くしていた。

 

 

「赤い霧に閉ざされた牢獄に、人ならざる力を持った戦士、か。いやぁ、実に興味深い!!これは是非友好関係を結んで、色々と交流したいものだね!」

 

 にこにこと笑みを深めて楽しげに話すその手に握られた一束の資料。それは、つい先日持ち込まれた特大の爆弾だ。

 イギリス……グラスゴー支部の近くに存在する、赤い霧に覆われた領域についての緊急報告。

 かれこれ十年以上にも渡って監視と観測を続けていたそこは、しかし基本的には不変の領域だ。時折揺らぐ事こそあったものの、その内外を行き来出来たどころか内部を観測出来た事さえ無かった。……だというのに、観測員達自身が転げ込む様にして持ち込んだ情報は、それまでの定説を根本からひっくり返すものだった。

 

【一時的かつ局所的ではあるが、赤い霧の開放を確認。同時に、内部住民と思しき数人と接触。此方側の神機や腕輪、フェンリルといった用語を知らないとの事。本人達も腕輪や神機を所持してはいないが、低位アラガミ相手に戦闘が可能な様子。長く霧の内側に居たとの事で、外部との交流を希望している。会談が可能であれば、一月後の満月の日までにとあるモノの準備を済ませておいて欲しい……との事】

 

 興奮と衝撃で支離滅裂な部分のあった調査員達の言葉を、何とか聞き出して纏めた報告書。そこに在ったのは、弩級アラガミの巣という仮説よりも尚衝撃的で驚嘆すべき事実。フェンリルに属さず、神機使いでも無く、二十年近くも独立と生存を続けていた組織の存在。……そう、組織だ。破落戸や小規模なレジスタンス等では無く、ある程度以上の指揮系統と広範な判断力を持つ組織の存在。

 確かに興味深く、だがそれ以上に脅威ともなり得る筈なのに、相も変わらずなその様子に深々と息を吐く。……本部や他支部の人員を迎えるより、更に面倒な相手であり状況だということを、本当に分かっているのだろうか。

 

「来訪人数は12人。うん、中々の大人数だ。そして、その全員が吸血鬼であり、戦闘員だけではなく研究者や技術者も含む。そして何より、あちら側の組織のトップを含む、か。さてさて、あちらの意図はなんなのだろうね?」

「……接触した者達からの聞き取りでは、ひとまずの挨拶と今後の交流について話したい、との事だったが」

 

 そう、確かにそう聞いてはいる。だが、それだけでは具体性に欠ける上、来訪する人数が人数だ。加えて、神機使いとは異なる戦力として提示されている吸血鬼【レヴナント】という謎の存在。字面だけを見れば、古い御伽噺にでも出てくる人の血を啜る夜のバケモノだ。

 良からぬ事を、企んでいなければ良いのだが。

 

「ひとまず、歓迎の準備をしよう。食料の確保と調理…後は血の準備、かな?吸血鬼という名が文字通りなら、必要になるかもしれない」

「…一応輸血パックで30は確保出来る。生き血でなければならない、ではない事を願うが」

「そうだね。ああそれと、当日は出来るだけ此方も人数を揃えておこう。なに、何も問題が無ければ盛大な歓迎会になるだけさ」

 

 そう。あちらの事情というものが食糧難…つまりは近場の人を食い尽くしたから、なんて事態でなければいい。話の通じる相手ではあると聞いているが、それでも用心に越したことは無い。……万が一の事があれば、揃えた各部隊の面々に一働きしてもらわなければならなくなる。

 

「友好的で有意義な関係を結べると良いね」

「……本当にな」

 

 そんな話をしたのが、確か3日前の事だ。

 

 

 

 

 

 そして、その当日。彼等は唐突にそこへと現れた。

 

〈っポイントβに生体反応!!数は2…いえ、続けて反応増加!!これはっ…〉

「映像、出せるか?」

〈付近のカメラとの同期完了。転送します!〉

 

 驚愕の声の後に送られてきたのは、どこにでもある荒野の一角を映した映像。アナグラからそれなりに近く、けれども乗物無しでは些か遠い場所。そこにぽつりと一つ、白い物体がある。

 それは、相手が来訪時の目印にするから、会談を受ける意思があれば生やしておいて欲しいと預けられていた、見た事も無い植物の様なナニか。……その至近に、突如として人影が現れていた。

 

「目印、と言うから、あの植物が出しているなにかしらのエネルギーを、辿ってくるのかと思っていたのだけど……」

 

 2人、先行して現れたらしい人影の片方がその植物へと手を翳す。途端に、ふわりと、まるで花弁が花開くかの様に上部が展開したその植物?から、火の粉にも似た粒子が溢れていく。それはまるで何かに導かれる様に寄り集まって色を持ち。――そして。

 

〈生体反応数12。識別コード確認…一致。間違いありません。ヴェインからの特使です!!〉

 

 数分とかけずに姿を現した人影に息を呑む。ガスマスクを思わせる物々しいマスクで顔を覆い、武器や荷物を携えた12人の男女。中には、10にも満たないだろう子供の姿も見える。

 移動用の車両もヘリも無いままに、星を半周する程の距離を当然の様に踏み越えて、その存在はそこに在った。

 

 

「……驚いたけれど、やる事は変わらない。皆、

"お迎え"を任せたよ」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「っと…渡れたか。そっちに問題は無いか?」

 

 ヤドリギを通った先で再生する慣れた感覚。ひらけた視界にうつった見慣れた姿に声をかける。返ってくる小さな頷きに安堵して、共にヤドリギへと視線を向け直す。

 次々と転移してくる仲間達を見守る表情は真剣そのものだ。

 

「全員、揃ってるな?」

「ええ。12人全員、問題無いわ」

 

 最後にシルヴァが転移し全員が揃う。……それに、ほっと息をついているのが視界の端に見える。何と声をかけようかと思案している間に、ヤクモがその頭をぐしゃりと掻き回していた。……元々、背負込みがちな性格ではあったが、王としての力と役目を継いでからは、それが余計に強くなった様に感じる。ヴェインの外、それもこれ程の長距離を結んでの移動は初めてではあるから、心配だというのは分かるのだが。

 

(心配なのは、寧ろ此方の方なんだが…) 

 

 先方へ託したヤドリギを目印に、ジャックの能力で移動。そして、彼の血でヤドリギを活性化させて他の皆の道をつくる。……やる事は簡単ではあるが、ここはヴェインでは無く、あのバケモノが徘徊する場所だ。そんな所にヴェインの要であり、何より大切な仲間を先行させなければならない此方の事も考えて欲しいものだと、そう思う。

 

 

「安心しろ、瘴気は無い。そして…迎えも来たようだな」

「早い。……やっぱり、技術力では叶いそうも無いわね」

「だな。さて、確認だ。一先ずは俺とそっちのリーダー、研究者としてアウロラ、技術者として夜叉…ムラサメが対応する。見定めが終わるまで他は待機だ。……特にそこの継承者連中、不用意に動くなよ」

「このタイミングで動きがある事を考えると、先行していたのはバレていそうだが?」

「お前達が先行しなきゃならねぇってのがバレなきゃ良いんだよ。必要なら、ヤドリギ賦活材を使って短距離を実演して見せてやりゃ良い」

「戦闘面での実演は私とヤクモで出るわ。タイプも両極端だし、丁度良いと思う」

 

 瘴気は無いという事でマスクを外し、シルヴァを中心として今回の役目を確認していく。

 総督府のトップとしてシルヴァ。探索者の代表としてルイ。研究者の代表としてアウロラ。技術者としてムラサメ。ニコラは威圧感の軽減。そして残りが戦闘員兼実演担当兼護衛、というよりは目晦ましだ。

 

「決まりね。そういう訳だから、3人とも静かに、ね?」

 

 シルヴァに注意された上笑い混じりのエヴァに釘を刺された約2名……レイとジャックが何とも言えない表情になっている(イオは通常運転の無表情だ)。

 確かに、実力的にも経歴的にも性格的にも、ただ護られるというそれが似合わない者達だとは同意出来るが、今回ばかりは下がっていて貰わなければならない。

 

「……理解は出来るけど納得いかない」

「駄目、ですよ?…本当に危なくなったら、頼りますから」

「大人しくしていろ、新入り。…納得いかんのは、俺も同じだ」

 

 現役の継承者に神骸の伴侶、そして唯一の王。戦力としては確かに高いが、それ以上に、その役目を考えると前に出す事は躊躇われる面々。……それこそ初めは、道を繋いだ後は彼等だけでも送り返す案があった位には、その存在はヴェインの根幹に食い込んでいる。

 万が一の際には、彼等…彼だけでも生き延びて貰わなければならない。

 

 近くに止まった数台の車両を眺めながら、一つの覚悟を定めなおしていた。

 

 

 

 

「フェンリル極東支部、独立支援部隊クレイドル所属、ソーマ・シックザールだ。この度は来訪を感謝する」

「ヴェイン統治機構、臨時総督府代表のグレゴリオ・シルヴァだ。こちらこそ、機会を感謝する」

 

 代表として進み出た一人に、此方も予定通りシルヴァが前に出た。その背越しに、相手の姿を観察する。

 白い大剣を持った青年。比較的若く見えるが、動きを見れば相当の実力者なのだろうと分かる。巨大な大剣を軽々と扱っているあたり、ヤクモに似た前衛を張るアタッカーだろうか。そして、少し離れた後方に待機している数人に関しても同様に戦い慣れた気配を感じる。――ヴェインの近くで出会った若者達もそうだったが、矢張り吸血鬼よりも全体的に地力が高い。

 

(それにしても支部、か)

 

 明らかな強者への警戒と驚嘆と同時に、その言葉そのものへも興味が向く。ヴェインが全てだった自分達と違い、彼等はどれ程の世界を知っているのだろうか。ヴェインは、理由はあれども長く閉鎖的であり過ぎた。……この邂逅が上手くいったあかつきには、是非色々な事を聞いてみたいものだ。

 

「外で長話をするのも変だろう。支部へ案内する。すまないが、3組程度に分かれてくれ」

「重ね重ね感謝する。…おいお前等!聞いての通りだ、乗せて貰うぞ!」

 

 そう声を張り、太く笑うシルヴァへと相手の注意が向いたのが分かる。その存在感は、流石は討伐隊の指揮官や総督府を纏め上げる吸血鬼といったところだ。……そして、それは意図的なものでもある。

 ――明らかに戦闘員でありながら、後方に下がっているあの4人から注意を逸らす為。

 エヴァとイオはまだ、その姿や雰囲気で誤魔化しも効くが……後の2人は生粋の戦闘員だ。下手に隠そうとすればする程、違和感が生じる事は分かっている。それでも、初手で狙われさえしなければ、霧散しヴェインへと帰る事は出来るだろう。

 

 最悪、何人かを犠牲にしたとしても、優先順位は違えない。――シルヴァは、万が一の際に自身を的にする事を自らに課している。

 

(……まぁ、そんな事になったら暴走する可能性が高いのが問題なんだが)

 

 同時に、その性格も実力も良く知るからこそ頭が痛い。多重の意味で彼等が死ににくいのも確かで、的になるのに向くのは自分達だと言う主張も……分からなくは無い。最悪の事態となれば、静止を振り切って暴れる可能性は十分に考えられた。

 それも、神骸の侵食によるものではなく、彼等自身の意思によって。……先代も、そして今代も。優し過ぎる程に優しく情の強い"王"は、きっとそれを許しはしないだろう。

 

 

 だからこそ、そうならない為に動かなければいけなかった。

 

 

 

 

 "そこ"に招き入れられてまず初めに感じたのは、むせ返りそうな程に濃い"人"の香りだった。……自分達を迎えに来た、少しだけ何かが混ざったようなそれとも違う純粋なそれに、一瞬身体が強張る。幸い怪我人は居ないのか明らかな血の匂いはしないが、ヴェインに慣れた感覚は、此方の何倍もの人間の存在に違和感とざわつきを訴えていた。――まさか、此処までとは。

 

「ここだけで、ヴェイン中の人より多そうね」

「いや、外にも居住区があった。恐らく、吸血鬼と人間全てを合わせたヴェインの人口よりも遥かに上だ」

「……少し貰えないかな? 血涙増やせそうだけど…」

「皆さん…バレてしまいますよ?」

 

 背後で交わされる小声での会話に苦笑する。血涙については気になる情報ではあるが、今は取り敢えず静かにしておいて欲しい。

 

「すまないが、武器を預からせてくれるか? こちらの代表は、一応唯の人間なものでね」

「ああ、分かっている」

 

 案内してくれた青年…確かソーマの言葉に応じ、入口付近でがしゃがしゃと武器や銃器を置いていく。

 正直あまり意味は無いんだが、それでも即応出来る状態から一拍必要な程度には落ちる。そして、さて牙装は渡すか収納するかを考えていた為少し間があき……気にした様子も無く案内を再開されてタイミングを見失った。どうやら、彼等にとって牙装は武器とは認識されていないらしい。――まあ確かに、"吸血"牙装を人間が使う筈は無いか。

 

(吸血牙装があれば、幾らかは耐えられる。移動の様子から、霧散と再生を使えばヤドリギまでの移動なら此方の方が早いか。……初手で灰にやらなければ、十分逃げる事は出来る)

 

 こちら側から攻撃するつもりは無い。……いつかは、一切の警戒無く過ごせる様な関係となれればとも思う。――それでも、今だけは気を緩める事は出来ない。

 あのバケモノを倒せる力を持っているここの戦闘員達は、上のみならず平均しても尚自分達より強いと考えられるのだから。

 

「信じたい、ものだが……」

「そうね」

 

 疑い過ぎれば反って不審を招くと分かっている。それでも、無条件に信じるにはこれまでの過去と経験が枷となる。明確な損得の擦り合せや契約を交わした訳でも無い現状、アドバンテージはあちらにある。……出会って、話して、ここまで案内して貰って。決して悪意がある相手では無いと分かっていても、尚。

 

(しっかりしろ。……今回は俺が前に出ると、自分で決めた筈だ)

 

 探索者として、研究に関わった者として、そして…始まりを知る一人として。始まりから討伐戦までの中心であったシルヴァやアウロラ達と共に、ヴェイン側の代表であろうと。

 神骸を核とする継承者達や、その再生能力さえもクイーンから継いだ王は、ある意味では最も死から遠い存在ではある。だが死に近い状態となる事は自我を削る。……何より、こんな場所でうっかり暴走でもされたら、二重三重の意味で取り返しのつかない事になる。

 

「んな辛気臭い顔すんな!考えるってのは必要だが、先に悪い事ばかり考えちまうと動けなくなるぞ。…もしも、の動き方はもう決まってんだ。だったらそん時がくるまではしゃきっとしてろ!!」

「ぅぐっ?!」

 

 ばん、と叩かれた背に一瞬息が詰まる。…必要時は兎も角、基本的には厳格というよりも豪快という言葉が似合う相手の姿に、わずかに力が抜ける。確かに、やる事もいざという時の対応も既に決めているのだから、後はそれにそって動けば良い。……それに皆、ただ右往左往するだけの新人なのでは無いのだから。

 

(どうか)

 

 この心配を笑い話にできるような未来をと、そう願った。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 支部長室へと向かう相手と、その案内兼監視役となった数人を見送ったエントランスで言葉が交わされる。その焦点となっているのは当然、つい先程やってきた珍客達だ。

 詳細は告げられずとも外部からの来訪者があるという話だけは、極東支部関係者の多くに伝達されていた。その中でも更に、より詳細な内容を伝えられていた者達は、さざめく様にして互いの所感を語り合う。

 実際に対面して感じたのは、強い警戒心と奇妙な落ち着き方。こんな時世だから警戒は当然だろう。……妙なのは、その向き、いや形だった。

 

「外、は当然としても中に入ってからの警戒の仕方がどうも変な気がする。武器は預かってるけど、あれを使えるなら素の身体能力も大分高い筈だよな?」

「敵意や害意は一切感じませんでした。話を聞く限り、フェンリル上層部よりもまともに思えます」

「戦い慣れしてる感じもしたな。それも多分、アラガミより対人……って感じだ」

 

 勿論、外でもしっかりと警戒はしていた。いつどこから何が来ても対応出来る様にと索敵して、非戦闘員を囲うように立つ姿は確かな慣れを感じさせた。

 そして、アラガミの蔓延る外とは幾らか形を変えた鋭く尖ったその気配が向けられているのは、自分達やアナグラの人員達。だが、端から信用していないという攻撃的なそれでも無い。強いて言えば神機使いに対する普通の人間達のそれに近いだろうか。……が、そうと言い切るにはまた妙な感じがするのだ。

 

「対人、と言うには物騒な武器だがな」

 

 預かった武器の数々。銃剣に関しては人用の物に近いが、それ以外に関しては神機に近いサイズ感の物。つまりはどれも、常人であれば持て余す事請け合いな武器の数々。こんな物を人へ使えば、オーバーキルも良い所だろう。……何より。こんな物を扱えるのであれば、神機使いにとってそうであるように、ただの人間などあまり脅威とはならない筈だ。

 明らかに、人ならざるモノを想定した武装。……なのに、人にこそ向けられる強い警戒と関心。それが、違和感として思考の隅に引っ掛かっている。

 

「敵対意識、というよりは効率的な離脱方法を考えているように感じました。……此方を信用していない、というのは勿論ですが、何かあった際に可能な限りこちらとの交戦を避けて離脱する為、のような」

 

 シエルが上げた意見に、成程、という賛同が幾つか重なる。

 こちらの動きを注視しているのはこちらが動いてから動く気であるからで、あちらこちらへ向けられる視線は興味以上に構造の把握のため。――それは、なんとも落ち着かないしどこかむず痒い。

 基本的に、神機使いは人間を脅威とは捉えにくい。それは立場的なもの以上に、頑強な身体や力の強さ等、そもそもの能力差に由来するものだ。それは人間の側も同じで、一般的にはアラガミ寄りだと認識されている事が多い。……それを、可能な限り傷つけずに離脱する、なんて。

 

「神機使いを知らない、っての本当なのかもな」

「だよなー」

 

 今のこの世界で、フェンリルやアラガミ、そして神機使いを知らない者など居ないだろうと思っていた。――だが、もしかしたら本当に。

 

 

「ま、サカキ支部長の判断次第だな」

 

 

―――――――――――

 

 

「ようこそ、フェンリル極東支部へ!私が支部長のペイラー榊だ。よろしく頼むよ」

「こちらこそ」

 

 にこにこと笑顔を浮かべた壮年の男と、此方側の代表達が言葉を交わすのを眺める。確かに疑いようも無く人間であり、加えて銃などの武器も携帯していない様子に、剛毅なものだと些か呆れ混じりに感心する。護衛代わりだろう戦闘員が何人か居るとはいえ、得体のしれない存在だろう此方相手に良くそこまで対応出来るものだ。

 

「取り敢えず、代表者で話を進めておくわよ」

「ああ、任せる。……外で待つ」

 

 一通りの紹介を終え、流石に12人全員が同じ部屋に居るのは手狭だと部屋の外へ向かう。あちらの戦闘員はどうやら室内に残る様だ。

 廊下には、離れた場所に2人居るのみ。――ならば、多少は動けるか。

 視線を読まれない様にだけ気を付け、ぐ、と僅かに"眼"に力を込めて周囲を確認する。視るのは、周囲の構造物…そこに使われている素材とその特性について。――此処へ招かれた時からもしや、とは感じていたが。改めて読み取れたのは、終末の棘に類似した……つまりはあのバケモノ共とほぼ同質の何かを素材とした拠点である、ということだった。

 

(流石に、棺とは感覚が違うか。……純粋に技術によるものだとすれば、驚異的だな)

 

 ほんの僅か、意識して力を向ける。それに返る、幾らかは抵抗があるものの確かな手応え。棺やその建造物とは違う、部品毎に形作られ組み上げられた、人の手による被造物。つまりそれは、かのバケモノ共の討伐のみならず、その素材さえも利用して生きる人々の強かさと技術力の証だ。……特定の個人に拠らず、汎用的な技術が此処まで進んでいるというのは、単純な戦力以上にその地力の差が伺えるだろう。

 そこまでを読み取り、一息を付くと同時に"眼"を閉ざす。戻った視界にふとうつった相手の眼の奥にちらつく青い炎。……どうやら、同じ考えで同じ感覚を掴んだらしいと判断する。

 

「……一つ、手札が増えたわね」

 

 幾らか遅れて同じ感覚をつかんだ様子のエヴァの言葉に頷き、余計な事はするなという意図を込めてレイの肩を軽く叩く。――それは、最後の手段だ。

 

「……分かっている。けど、もしもの時は」

「おい、どうした?」

 

 ヤクモを初め、他は何の話か分からない様子だが無理も無い。これは、継承者であるが故の感覚。……かつては必要が無かった為に使う機会は無かったが、それでも共通の特性として存在している、"棺"の形成能力に関わるものだ。

 技術や地力で劣ろうとも、"最悪"を回避するだけの力は此方にもある。――終末の棘と同質のモノならば、それは棺を形成する素材とする事が可能だという事。これだけの"素材"があれば、かなり大規模なものを形成する事が可能だろう。広範に干渉し掻き乱せば、足止めには十分なる筈だ。……内部の存在の安全を度外視したやり方だが、死に戻れる吸血鬼ならば退避の一環ともなる。

 

「……少なくとも、今は必要無いと思います。今後は…分かりませんが…」

「当然だ。態々此方から火種を投げ込む理由は無い。…干渉出来る、という事を知られるだけでも危険だろう」

 

 必要が無ければ使うつもりが無い、というのは事実だ。己の拠点を弄る事が出来るというだけで警戒されるのは必然であり、それはリスクを徒に高める事になる。……それでも、可能性を放棄する訳にはいかない。

 

「最悪の場合に限り、という事ね」

「……その時は、本気で暴れる。逃げろって言われても、此処で皆を失う位なら」

「灰にさえならなければ好きにするがいい。……その時は、手を貸そう」

 

 物騒な言葉を、止める気は無い。考える事は、そう変わらない。優先順位は明確であり、それを誤認などしはしない。本当に手が無ければ、こいつをヴェインへ引き摺って行く事も納得している。……だが、それ以前の段階でただ護られる等性に合わない。

 此処が人類生存の唯一であるというのならはままだしも、一支部でしかないというのならば。自己防衛程度には、抗うと言うだけの事だ。

 

「そうなった時は、棺は私が請け負うわ。あなた達は、動けた方が良い筈」

「……何となく察したけどよ、頼むからほんとに最後の手段にしてくれよ?」

「勿論。……俺だって、逃げられるなら逃げて終わりが良い」

 

 無論、"最悪"など無ければそれに越した事は無い。……これ程に人が密集した場所で棺を形成し王が暴走すればどうなるか等、分かりきっている。人間やそれに類する者達を、徒に殺めたい訳などでは無い。それに、この場所の戦力を鑑みれば、真正面からやり合えば最終的には此方が押し潰されるだろうとも、分かっている。あくまでも、時間稼ぎと足止めが目的だ。

 全員が灰とならずヴェインへ戻れるならばそれで良い。……交戦するのは、本当に最後の手段だ。

 

「……そうならない事を、祈りましょう……」

「ええ。……終わったみたいね」

 

 通路の先に現れた新たな人影と、背後の扉の内部から伝わる気配の変化に、どうやら話が一段落した様だと判断して話を切り上げる。…どうやら、ひとまずの最悪は回避出来た様だ。

 敵でさえなければ、協力する事に問題は無い、……元々、そのつもりでここ迄来たのだ。

 

 

「ひとまずの話は終わったよ。いやーとても興味深い話ばかりだった!まだまだ聞きたい事はあるけれど、続きはまた明日以降にしよう。今夜はささやかだけど歓迎会の準備をしているから、皆にも顔を見せてあげてくれ」

 

 どこまで話したかは知らないが、それで初めと同じ態度を貫けるあたり中々の大物だ。……知的好奇心の強さに些か嫌な相手が被るが、ある意味では真逆だろうとも感じる。

 

 

 

 歓迎するよ、というその言葉を。信じたいとは思うのだから。




ヴェインサイド
→進化したバケモノが蔓延る世界で、滅ぶどころか強かに生き残り抗っているアナグラ組に、称賛や驚嘆、敬意を持つと同時に恐れているし警戒している。
事実として、対バケモノ戦力としては現状神機使い側が完全に上回っている。極東基準だと、新人を脱した頃合い位?(2人でヴァジュラを何とか倒せる位。囮としては優秀)

アナグラサイド
→超弩級アラガミか何かの巣だと思っていた赤い霧の領域内で生き残っていた上、限定的とはいえ赤い霧に干渉出来るらしい吸血鬼達に強い興味と警戒を抱いている。後吸血鬼という名前も警戒の理由。
地力が上なのにヴェイン側程では無くとも警戒しているのは、吸血鬼側の警戒に触発されているのと吸血鬼達の対人能力を本能的に察しているため。


つまりお互いにお互いを知らなさすぎて過剰に警戒している状況です。遅れているという自覚のある吸血鬼側は特に。ただ、初手で極東サイドと出会ってしまった為、神機使い=極東戦力という認識がインプットされました。
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