コンスコンと愉快な会社員たち   作:おゆ

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最終話、そして宴会

 

 

 

「右舷前方に反応あり! 識別信号認められず! コンスコン司令、れ、連邦艦隊です!!」

「む、この宙域まで連邦艦が? 規模と進路を判り次第報告しろ。慌てるな。訓練通り、迅速に、確実にだ」

 

 俺は新兵らしきオペレーターにそう言う。近頃はジオン兵の大半が新兵に近いような者となり、むろん俺のチベばかりが優遇されることはない以上、やはり新兵が多く配属されている。そして実戦経験が薄いためについ慌ててしまう。ただし新兵たちは愛国心が高く、そういう意味では我がジオンの宝とも言えよう。

 本当なら訓練航海を重ね、じっくり養成されるべきものだ。いきなり実戦に突入とは運がない……いいや、そこまでジオンが劣勢だということか。

 

「全艦に伝える。反応炉出力最大! 臨戦態勢! 主砲にエネルギー充填しながら、斉射のタイミングについてはこのチベからの指令を待て」

「詳細出ました! 連邦はマゼラン三隻、サラミス八隻、他小型艦多数、中隊規模です! 戦力比で当方の約二倍と計算!」

「むふう、さすがに連邦、お互い単なる遭遇戦なのだろうが、大した戦力だな。おそらくア・バオア・クーへの威力偵察といったところか」

「進路をこちらに転じて、増速している模様! 接触予想時間、あと六分!」

 

 連邦の物量は凄い。こんなにア・バオア・クーに近いところまで押し込んできている。もう戦争に勝ったつもりなのだろうか。

 目の前の連邦中隊も退避するどころか戦意満々で向かってくるじゃないか。

 

「純粋な砲戦では分が悪いな。ミノフスキー粒子を散布しつつ微速前進、そして接触直前に斉射二連を加え、その後は素早く進路変更だ。同時にMS戦へ移行する」

 

 オペレーターの新兵たちが俺の指示を僚艦へ伝える。そこにさっきまでの戸惑いや怯えはない。

 たぶん思い出したのだろう。

 このジオン艦隊はコンスコン機動艦隊なのだ。自分で言うのもなんだが、今までどんな難局にあっても敗北を喫したことはない。今から待っているのは敗北や死ではなく、きっと勝利と栄誉になる、新兵たちはそんな期待に満ちている。

 ならばそれに応えなくてはならないな。

 

「ガトーの隊に出撃準備! 出し惜しみはしない。MS全機で一気に攻勢をかける。主導権を奪い取り、そのまま勝ち切る!」

 

 俺の得意とする戦法は見敵必殺、相手に判断の時間を与えず、全戦力を叩きつける。連邦艦隊には悪いがその程度の戦力差で俺の艦隊をどうこうできると思わないでほしい。

 

 

 

 

 

 …………ん…… 何だ、夢か。

 

 俺は疲れが溜まり、営業本部の自分のデスクでうたた寝をしてしまったらしい。

 窓から差し込む光はぼんやりと薄紫で、ちょうど日没の時間であることを教えてくれる。

 

 しかし面白い夢もあったものだ!

 こんなサラリーマンの俺が、まるで縁のない宇宙で、しかも何かの戦いをしているとは。

 やけにリアルなのが気にかかるが……

 まるでそっちの方が本当の自分で、実際に経験したことのようだった。まあ、不思議なものだが、夢とはそういうものかもしれないな。我が社と連報との戦いが無意識のうちにプレッシャーになったのだろうか。

 

 

(こん)営業統括部長! とんでもないことになっているさね。連報の悪辣ぶりもここまでくると笑えちまう」

「ん、椎間(しいま)課長? 何だ、連報が何を?」

 

 俺がうたた寝から起きたのは、総務部の椎間(しいま)課長が駆け込んできたためらしい。

 そして前置きなしにいきなり用件を語り出すとは、いかにも虚飾を嫌う椎間課長だな。だがその用件とは……字恩の存亡に関わるようなことだった。

 

「企画制作部は大慌てさ。何しろ有望タレントが軒並み奪われて、制作のしようがないときた。こんなんでは営業もいずれダメさね」

「何だと!? タレントを奪われた……」

 

 これは衝撃だった。

 字恩広告社は今、営業戦争の真っただ中にある。連報の凄腕たちが各方面で暗躍し、それに対抗するために全力を使っている。文字通り全てのリソースを営業に振り向けているのだ。その隙に連報が着々と手を打っていたとは!

 手薄になっていた制作方面を狙われ、そこを切り崩された。なんという鮮やかな手口、大胆な戦術だろう。連報にはよほどの切れ者がいるらしい。

 タレントの手持ちが乏しくなれば……いずれ動物や過去映像なんかでは凌ぎきれやしない。そんなことではクライアントの納得する広告は早晩作れなくなる。いや、それ以前にクライアントは先細りする広告会社に頼もうと思うわけがない。

 椎間課長の言う通り営業の土台が失われる。

 

「椎間課長、今から(きし) 莉愛(りあ)常務のところへ行くぞ。ああ、それから総務部長も呼んでおいてくれ」

 

 

 

 

 そして俺は岸常務に危機を訴える。もはや待ったなしの情勢なのだ。

 

「岸常務、連報は壮大な策をもって字恩を潰しにかかってきたのです。営業を妨害し、そこに目を引き付け、最後の詰めがタレントを奪うことでした」

「……連報がそんな策を……恐ろしいことだな。今からどうにかできないか、今営業統括部長」

「字恩が慌ててタレントを引き戻しにかかっても、おそらく無理でしょう。こんな策を考えた者がそこを計算していないはずがありません。残念ですが」

 

 俺は正直に言う。

 もはや確定した未来だ。字恩広告社は乏しくなったタレントをやり繰りし、耐え忍んでいかなくてはならない。()()()()()

 

「では、対策はもはや無いとでも言うのか。お前のことだ。ここへやってきたからには、何か考えがあるのだろう。それに絶望しているような顔には見えん」

「その通りです、岸常務。一つばかり考えがあるのですが……しかし社に大きな負担を強いるもので、一種の賭けともいえる案です」

「それでも字恩が座して死を待つよりいい。早く言え」

 

 さすがに岸常務、激高したりせずに状況を受け止めてくれる。正確に危機を把握した上で、これから出す案を客観的に見てくれるだろう。そしてしっかり判断してくれるに違いない。

 

 それから俺はゆっくりと後ろにいる総務部長を振り返る。

 

 常に謹厳な顔をしているが、根は熱い漢であることは保証する。それが俺の信頼する寺頭(てらず)総務部長だ。

 俺のアイコンタクトを受けて話し始める。

 

「では儂が話そう。思い起こして欲しいが、以前我が社がタレント絡みで困ったことになった。営業の赤井君が発端で起きたトラブルだったが、ほどなくして今部長が解決してくれた。だがさすがに今部長、抜本的な解決とまで思わず、儂に相談を持ち掛けていた。すなわち、今後に渡って字恩がタレント問題で困らなくなる方策についてだ」

 

 そう、きっかけはそんなところにあった。企まずして赤井君が功労者になってしまったのだから、世の中面白い。

 

「考えに考えたが、やはり小手先のタレント確保ではいけない。地道にタレントを養成していくしかないという結論に至った。そこで今部長と儂は案を綿密に練り上げたのだ。その骨子は自前のタレント養成施設を持つことである」

「な、何!? 自前の養成施設を? それはどこに、どんな規模で」

「岸常務、字恩は今アクシズ建設に舵を切っているのだろう。それ自体は素晴らしいことだが、しかし儂はこちらもまた重要だと断言する。案では、茨城県にタレント養成学園を作る」

「茨城県に養成学園……」

「すなわち、(いばら)(その)である!」

 

 

 これには岸常務も唸る。

 アクシズ計画を始めた字恩にそんな余力があるだろうか。

 

 だが問題はそこではない。

 クライアントたちが、タレントの足りなくなった字恩広告社が先細りしていくと踏み、離れていくのが問題なのである。そこを食い止めるには字恩の将来についての不安を払拭できる、根拠のある希望が必要となるのだ。だから自前のタレント養成、その青写真をぶち上げればいい。それこそ最適解ではないか。

 

「…… 理解した。今部長、寺頭部長、その案は公表に耐えうるくらいまで練り上げているのだろう? 直ぐにそれを公表する。連報の思い通りにさせるものか」

 

 そうと決まればさっそく動かねばならない。

 俺は退席しようとしたが、岸常務から呼び止められてしまった。

 

「悲報ばかりでは気が滅入るというものだ。たまには朗報も聞きたくはないか? 今部長、以前言っていた公正取引委員会の件で進展がある! ようやく証拠が手に入るぞ。潜入させていた工作員、曽良(そうら) (れい)の殊勲だ。これで連報の中枢を吹っ飛ばしてやれよう」

「本当ですか、常務!」

 

 ようやく反撃できる! 連報め、覚悟しておくがいい!

 

 

 

 

 

 

 その三か月後________ 広告業界に激震が走った。

 

 長く君臨してきたあの連報、強大な力を誇るあの連報が、潰えたのだ!

 

 公正取引委員会による捜査のメスが入り、連報が不法に業界を縛り付けていた実態が明らかとなった。その結果巨額の違反金が科され、幾人かの逮捕者まで出る事件となった。こうなればもはや連報も解散せざるを得ない。

 

 我が字恩広告社の勝利である!

 

 完全勝利とまで言わないのは、いち早く事態を察知した連報の一部局が別法人として離脱し、難を逃れたらしいのだ。

 それは渉外部といったか……

 目端の利く者がそこにはいたのだろう。ただしそんな一部局が生き延びたとしても今はひ弱な花である。将来のことは判らない。しかし少なくとも字恩にリベンジできるまで力を蓄えるには年月がかかるはずだ。

 

 

 

 

 字恩社内ではもちろんお祭り騒ぎである。まさか連報に勝利できたとは、これほどの喜びはない。

 

 俺も嬉しいが、この勝利は皆が一丸となって掴んだものであることを忘れない。忘れてはならない。ならば形にして謝意を表すべきではないか?

 何が良いか…… ああそうだ、以前営業本部の皆に高級フグ料理を振る舞ったことがあったではないか!

 

 今回もそうしよう。

 俺は自腹でまたフグ料理を振る舞うことを決める。

 

 

「あれはいいものだ…… 」

 

 え!?

 何? その声は……

 なぜか品質管理部の真久部(まくべ)課長がすすっと後ろにいたではないか!

 

 真久部課長はフグ大好きだったの?

 そしてこの流れでいくと、俺は営業本部の皆に御馳走するつもりだったのに、真久部課長も呼ばないといけなくなったのか。

 

 ええい、こうなればヤケだ。

 大きな会場を借り切り、俺はフグ料理の宴会を開く! やるからには楽しい会にしようじゃないか。

 そうしたら……またしても営業本部に関係ない人が来た。

 峰場(みねば)常務、この字恩広告社の次期社長と目されるほどの才媛だ。

 

峰場(みねば)である。逃げも隠れもしない」

「いや、あの、宴会なので…… 直ぐに席を用意します」

「フグ料理と、スイーツもあるのか。これはバナナ味……バナナ味……バナ味… うっ」

 

 おまけに経理部の浜庵(はまあん)部長補佐までいるじゃないか。

 フグ料理を聞きつけて、外回りから急いで帰り、ここに駆け込んできたらしい。

 

「帰ってきてよかった…… 旨いフグに出会えて……」

 

 

 

 そして宴会は進み、フグ料理を堪能していると、ついにフグ料理のメインである刺身が来た!

 高そうな大皿がテーブルの各所に置かれていく。

 しかし…… 肝心の刺身が入ってない? いやそんなことはない。これはフグ料理独特の超薄切り刺身なのだ。透けるほど薄く、均一であり、なおかつ皿の絵柄が派手なため刺身が見えにくい。高級になるほどそうなる。

 

「刺身がないじゃないか」

「刺身なんて飾りです」

 

 それを知らなかったのか、赤井君が給仕係に尋ねたようだ。すると給仕係はそんなふうに躱している。

 数瞬の後、ようやく赤井君は高級フグ刺身のことを理解したらしい。

 

「見える! 私にもフグが見えるぞッ!」

 

 良かったね赤井君。そんなところで感動してくれて。

 

 

 ただそこから…… 赤井君は刺身を皿から一枚ずつ取っている。普通の刺身ならいいのだが、フグに限っては二、三枚をまとめて取った方が身が捩れなくていい。俺は一応そう言っておいた。

 

「食べ方を知らんからさ。だから未だに嫁さんも貰えん」

「いや赤井君、それたぶん食べ方の問題じゃないから」

 

 

 

 

       ー 完 ー

 

 

 

 




 
 
コンスコン番外編いかがでしたでしょうか?

字恩広告の未来やいかに……


(かみ) 実結(みゆ):「こんな小説、修正してやるッ!!」


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