「……そうか、最後に兄ちゃんに会えたんだな」
気が付いたら、俺は鬼の手を握っていた。
何故こんな行動をしたのか俺自身にも分からない。
悲しい匂いがして、気が付いたら手を繋いでいた。
この鬼は間違いなく悪だ。
鱗滝さんの弟子を何十人も嬲り殺してきた。
俺だけじゃない、全く関係のない第三者でもこの鬼が悪いと答える筈だ。
けど、それでも俺は哀れだと、助けたいと思った。……思ってしまった。
「……ああ、そういや鱗滝さんが言ってたな」
鬼は元々人間。そして、鬼になった者は二度と人間には戻れない。
飢餓によって狂って、親しい人間だろうとも判別できず食らい、人間の頃の記憶を忘れ、心も完全な鬼となる。
要するに洗脳じゃねえか。くたばれや無惨。
思えば、フィクションの眷属を増やす作品ってかなり残酷だな。
だって無理やり別の生物に変えて、自分の手下にして、本来なかった本能や精神を植え付けるんだぜ?
これって他生物を奴隷に変えて洗脳してるようなモンじゃん。
そして、俺はその末路をこうして見せつけられた。
鬼なんかになってなけりゃ、鱗滝さんの弟子を嬲り殺すことも、人を食うことも、自分の兄を殺すこともなかっただろう。
「………」
これは、戦う理由がまた一つ増えたな。
――今年は何人残るのかしら……。
夜明けの藤襲山。
産屋敷あまねは夜明けの光に目を細めながら、深く俯いた。
毎回、この瞬間は申し訳なさで胸がいっぱいになる。
まだ十年少し程の子供を、鬼が跋扈する藤襲山に送り出す。
この悲しみと罪悪感は母親になることでより強くなった。
しかし、ソレでもやるしかないのだ。
生き残っても、全身負傷していたり、四肢が欠けている事もある。
五体満足でも、隊士を諦めて隠となることを望んだり、その隠すら諦めることだってある。
帰ってこられるのは数人程度。
誰も帰ってこないなんてこともあった。
生きて帰れた子供の大半は目が死んでいた。
選別を生き残った事を喜び合う事すらせず、黙って帰っていく様を長年眺めていた。
鳥居から人の声が聞こえてくる。
ドカドカと他の足音を引き連れて誰かがやって来る。
「うっせえな!別に礼が欲しくて助けたわけじゃないんだよ!」
先頭を走る狐面の少年。
立涌文の羽織を着流し、手には何かを入れた風呂敷を持っている。
「君のお陰で無事に生き残れた!ありがとう!」
「オレもお前に礼を言いたかったんだ。あの時は助かった」
「異形の鬼と戦ってる所を見ました!」
ぞろぞろと少年の後ろから他の子たちが続く。
全員が生き生きとした表情をしている。
「あ、そこのお偉いさん!」
先頭の少年は跳び上がり……。
「もう試験終わったんで、帰っていいですか?」
あまねの前に着地すると同時、嬉しそうに言った。