俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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囚われの生贄

 

 とある屋敷。

 宴会室のような場で、八幡は歓待を受けていた。

 客は八幡しかおらず、だだっ広い和室の中央にお膳が一つ。

 八幡は胡坐をかいて、隣に座る女の給仕からお酌をしてもらいながら箸を付けた。

 

 こうなったのは数時間前、八幡が事件のあった周囲を日没後に散策していた時である。

 偶然その様子を見かけたこの屋敷の女主人が何事かと八幡に問い、咄嗟に彼は泊まる宿がないと嘘を付いた。

 そこからあれよあれよと流れに乗り、屋敷に泊まることになったのだ。

 

「難儀でしたね、旅人さん。宿が全部埋まっているなんて」

「ええ、仕事の関係で来たのですが宿が取れなくて。けどこうして美人にお酌してもらっているので役得です」

「まあ、お上手ですわね」

 

 女性はそう言ってまた八幡に酌をする。

 

「私の仕事は蛇女伝説を調べることなんです。何か知りませんか?」

「………え?」

 

 ピクッと、女性の身体が震える。

 

「私は作家なんですが、特に鬼を題材にしたものが多いんです。今回は邪悪な鬼と契約して発展する御家のお話を書こうと思いましてね。そこで私が参考にしたいのが…」

「……この島に存在する蛇女の伝説という事ですか」

「その通りです。蛇と鬼は関係が深く、蛇の鬼というのも面白そうですので」

 

 女性はニッコリと笑顔を浮かべながら会釈をする。

 しかし、彼女の目は笑っていなかったのを八幡は見逃さなかった。

 

「それにしても大きくてご立派な屋敷ですね。もしよければ参考にさせていただけないでしょうか?……特に、あの本殿らしき場所とか?」

「なりません」

 

 ピシリと、女性は拒絶の意を見せた。

 明確な拒絶の匂いと音に混じって、恐怖の匂いと音をを八幡は感じ取る。

 

「ご職業に熱心なのは大変よろしいですが、こういった伝説にはあまり深入りする物ではありませんよ?好奇心猫を殺すと言いますし」

 

 八幡は横に置いた刀を見せた。

 

「以前、鬼を狩る剣士の話を書いてましてね、その際に剣術を少々齧ったのですよ。文章を書くには知識が必要なのでね」

「まあ、なんて頼もしい作家の先生なのかしら」

 

 女性は空になったお猪口を持って立ち上がる。

 

「それではお酒も切らしてしまったので別のを持ってきますね」

「いや、その必要はない」

「え?」

 

 振り返った瞬間、八幡は右腕で女性の首を絞めた。

 見本のような羽交い絞め。

 気道を開け、頸動脈だけを絞めて。

 八幡は数秒程で女の意識を刈り取った。

 

「悪いけど、ちょっと寝てくれ」

 

 八幡は気絶させた女を縛り、部屋の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり匂うな」

 

 この屋敷の中心にある本殿。

 きらびやかな装飾が施された豪華な部屋だが、家具の類は一切ない。

 無駄にデカい仏壇か祭壇かご神体よく分からない趣味の悪い物がドンと中心にあるだけだ。

 

 俺は無断で入り、臭いを嗅いでいた。

 やはり臭う。鬼の匂いがプンプンする。さっきまでここにいたかのように濃い臭いだ。

 そして、ソレに混じった人間の血の匂い。しかも、まだ新しい。

 

「(なるほど、ここで人間を喰ったのか)」

 

 道理で行方不明事件があった現場付近から鬼の痕跡があるのに、血の匂いはしないわけだ。

 ここまでお弁当としてお持ち帰りして、ゆっくりと食事を楽しんでいたワケか。

 確かに、外よりも家の方が人目を気にせずに飯が食えるからな。

 で、その宿をこの屋敷の人間が提供していたと。

 

 あの女からは動揺の臭いと音がした。

 わざと蛇女伝説と鬼の話、そして剣士という単語と日輪刀を見せた途端、動揺と焦りの匂いと音がした。

 上手く表情は誤魔化せたが、匂いと心音はどうしようもない。

 

 

 屋敷からする鬼の匂い。

 この部屋からする血の匂い。

 先程の女性からした動揺の臭い。

 この三つの匂いから導き出される答えは一つ。

 この屋敷の人間は鬼を匿い、鬼の人食いを手助けしている。

 

「(どうする?今はお出かけ中だろうから、ここで待ち伏せするか?……いや、隠れるところが少ない。ここはルートを確認して奇襲するポイントを探そ)」

 

 部屋を出て匂いを辿ると、堅牢な扉の前に付いた。

 木製だが重そうな扉を開けると、あの部屋ほどじゃないが鬼の臭いが漂ってきた。

 

「…行くか」

 

 中に入ると、そこは座敷牢だった。

 石畳に石の壁、木製の格子、質のいい畳。

 その一つに子供が一人閉じ込められていた。

 

 白い薄着の寝巻きの十代ほどの男子。

 飯を食わせてもらってないのか、かなり痩せている。

 口の周りに包帯を巻いており、左右で目の色が違う。所謂オッドアイという奴か。

 手の平の上で髑髏巻きになっている白い蛇と一緒に、牢屋の小窓から月を眺めている。

 

「……誰だ!?」

「ソレはこっちの台詞だ。お前、なんでこんなとこにつかまっているんだ?」

「……俺は生贄だ。あの化け物へのな」

「化物?どんな?」

「蛇の化物だ。奴は鬼と言っていたが、まあ似たようなものだろう」

 

 あれ?この子、態度は悪いけど素直に答えてくれるな。そんなに悪い奴じゃなさそうだ。

 

「……この家は、呪われた家だ。しかも、自分から呪われにきた哀れな家だ」

 

 牢屋に閉じ込められた子は勝手に話し出した。

 俺としても鬼が出るまで情報収集暇兼つぶしのために事情を聴くつもりだったから手間省けていいけど。

 でもまあ、こんな牢屋に閉じ込められたら、俺みたいにいきなり来た怪しい奴相手にも会話をしたくなるか。

 

 この子―――伊黒小芭内はこの家と鬼について全て話してくれた。

 

 彼の一族は、鬼が殺した人の金品で生計を立てており、代償に鬼の好物である赤ん坊を生んで捧げているらしい。

 小芭内は一族では珍しい男であり、風変わりなオッドアイだったため、鬼に気に入られて成長して喰う量が増えるまで生かされていたそうだ。

 

「この口はその証だ。お揃いにすると言って割いて、俺の血を……飲んだ」

「………もういい」

「何だ、同情したのか?いらんぞそんなものは。もうすぐここから抜け出して…」

「気づいてないのか?」

 

 

 

「お前今、泣いているぞ」

 

 

 

「………え?」

 

 恐る恐ると言った様子で伊黒は自分の頬に触れる。

 

「あれ、何で俺…泣いて…。クソ、止まれ、止まれよ…!」

 

 堪えようとするがどんどん涙が流れる。

 数年間溜めに溜めたものが溢れるかのように。

 

「(……泣くってやっぱりズルいよな)」

 

 女の最大の武器は涙というけど、子供の涙も結構効くんだよな。

 喧嘩で相手の方が悪いのに泣いたら、俺の方が悪者になったこともあるし。……いや、今はどうでもいいか。

 

「……悪いがそろそろお話は終わりだ」

「え?」

 

 

 

 

「おや、お前まさか鬼狩りか?」

 

 それじゃあお仕事頑張るか。

 

 

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