俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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子供の涙

 

「ッハ!?」

 

 気が付けば、俺は布団で寝ていた。

 ここは確か、鬼殺隊からしてされているだ。

 けど何で俺はここにいるんだ? 確か、さっきまで鬼と戦ってたはずじゃ…。

 

「……そうか、俺は負けたのか」

 

 負けた。

 初めて鬼に敗北した。

 三体も鬼を斬ったこの俺が……。

 

「(いや、本来ならコレが普通、なのか…)」

 

 そうだ、忘れていた。

 鬼とは本来人類の天敵。格上の存在なんだ。

 人間がどれだけ力を高めようとも、鬼はソレを容易く超える。

 鬼殺隊最強格である柱だって殉職率は高く、中には十二鬼月でも何でもない鬼にやられたって話があるじゃないか。

 だというのに俺は、たかが三匹の鬼を倒した程度で舞い上がっていた。何だこんなモンなのかと。……考えが甘過ぎる。Maxコーヒー以下だ。

 けど、その代償を支払うことはなかった。五つの幸運が俺を守ってくれたんだ。

 

 五つの幸運。

 一つ目は俺が稀血だという事。鬼が俺を噛んで数秒後、薬でも決めたかのようなトロンとした顔でべろべろになって俺を放り投げてくれた。

 二つ目は入り口がすぐ近くにあったという事。鬼が放り投げた場所が出口の真ん前だった。おかげで朦朧としていても階段に辿り付いて登る事が出来た。

 三つ目は日が差していた事。扉を開けっぱなしにしていたおかげで日の光が出口付近だけ届いていた。おかげで鬼から逃れる事が出来た。

 四つ目は屋敷の奴らに会うことなく逃げ出せた事。もし誰かに見つかって捕まっていれば、俺は抵抗も出来ずに鬼へ届けられ、喰われて死んでいただろう。

 五つ目は食らった毒が神経毒のみであり、呼吸によって分解できる程度のモノだったという事。コレがもし分解出来ないタイプだったら、俺は動けず殺されていた。

 

 ご都合主義もいいとところである。

 どれか一つでも十分に幸運なことなのに、四つが同時に起こってくれたのだ。

 これは神様仏様に感謝……は、出来ねえな。もしそんなのがいるならさっさと元の世界に帰してくれ。……いや、今はそんなことを考えるべきじゃないか。

 

「(さて、このまま任務を続行するべきか……)」

 

 俺はあの鬼に一度負けた。このまま無策で行っても、返り討ちになるのは目に見えている。よって最善手は応援を呼ぶことなんだが……。

 

「(その間にも犠牲者は出るだろうな……)」

 

 そう、ここは本土から離れた島なのだ。

 応援を呼んだとしても直ぐには来ない。その間に鬼は人間を食らい力を溜める。

 けど仕方ない。今の俺には奴を倒す力なんてないのだ。このまま行っても犬死にするだけ。ここは応援を待って情報を伝えるのが正解だ。

 牢屋にいたあの子には悪いが……。

 

 

 

『あれ、何で俺…泣いて…』

 

 

 

「……ッチ」

 

 ああ、本当に……子供の涙というのはズルいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明け一時間前、八丈島の西山付近に建てられている一軒の屋敷。

 流石にこの島一番とは言えないが、それでも比較的裕福な御館。

 その屋敷が今、燃やされている。

 火事、もっと言えば放火である。

 

「よしよし、燃えているな」

 

 放火犯である八幡は山からその様子を見下ろしていた。

 屋敷から少し離れ、全体を見渡せる位置。しかし八幡自身は木や草に隠れて向こうからは見えない。

 彼の隣には焚火と弓矢があり、これによって火を屋敷に付けたのが予想できる。

 

「……八幡、お前はもう少し大人しいと思ったのだがな」

「うっせえ八雲。あの屋敷の女共が積極的に鬼と協力して旅人を殺してたのは明白だ。なら慈悲をかける必要はねえ」

 

 そう言って八幡は火矢を放つ。

 本来、使い慣れていない武器だというのに、八幡は狙い通りの位置に矢を命中させた。

 全集中の呼吸によって筋力と視力を強化し、弓術に応用したのだ。

 

「それじゃあ行くか」

 

 

【雷の呼吸 壱の型・崩し 雷閃】

 

 

 八幡は焚火に水をかけて消し、屋敷へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってくれたのぅ」

 

 屋敷の本殿、八幡は蛇鬼に見下ろされながら壁にもたれていた。

 

「(クソ、このまま伊黒を助けるつもりだったのに……!)」

 

 身体に力が入らない。

 蛇鬼の毒と攻撃を食らってしまったからである。

 

 第弐回戦は前回の焼き増しであった。

 最初は蛇鬼の攻撃を対処するも、徐々に追い込まれ、最期は魔眼を食らって止められてボコられた。

 前回と全く同じ。一体コイツは戦いの中で何を学んだと言うのか……いや、ソレも仕方ないことであろう。

 

 一回負けた相手に再戦し、その上勝つのはとても難しい。

 というか、一日二日でいきなり戦闘力が上がる方がおかしいのだ。

 まして、一年足らずや数か月ほで柱になるなんてありえない。

 よって、こうなるのは当然の帰結と言えるだろう。

 

「ククク…。愚かな鬼狩りじゃ。あのまま大人しく逃げていれば良かったものを。まさかこうしてまた餌になりに来るとは。嬉しい限りじゃ」

 

 蛇鬼は八幡が火を付けた犯人だとすぐに見抜いた。

 火の元は座敷牢から離れた場所と、人がいなさそうな場所ばかりだった。

 こんな回りくどい上に屋敷の内部を知り尽くしたような手口を出来るのはこの男(八幡)しかいない。

 

「貴様の血は我を失う程に極上じゃったから、儂としてはうれしい誤算じゃ。貴様を食らえば、十二鬼月になれるかもしれんな」

「………ッハ」

 

 八幡は刀を肩に担ぎ、鼻で笑った。

 

「本土から逃げてこんな辺鄙な島にいるテメエが十二鬼月? 笑わせるなよ三下が」

「……何?」

 

 

「何百年と生きていながら何でお前は十二鬼月に入れてない? その理由は簡単だ。お前が鬼として弱いから。これ以上強くなれないからだ」

 

「もし本当に強い鬼なら、新人の俺なんてとっくに殺している。ソレが出来ないってのは、お前が弱い証拠だ。そんな雑魚鬼が稀血を喰った程度で強くなれるかよ」

 

「お前は一生そのままだ。強く成れず、十二鬼月にも成れず、このまま小さい島で井の中の蛙でも気取っていろ。そんで俺よりも少し強い程度の一般隊士に殺されるのがお似合いだ」

 

 

 

【血鬼術―――】

 

 

 返答は言葉よりも分かりやすい形、暴力で返される。

 額にある蛇のような眼光を八幡に向け、血鬼術を発動させようとした途端。

 

 パシャリッ。

 

「~~~~~~~~!?」

 

 突然、何かを顔に掛けられた。

 とても香しく、甘ったるい匂いと味。

 酒でも飲んでいるかのような、いやそれ以上の酩酊感。

 魂が抜けるかのようなこの快感。蛇鬼はこれを憶えている。

 

「どうだ、俺の稀血は?」

 

 八幡の血である。

 彼は会話で時間を稼ぎつつ、蛇鬼から見えない位置で手の平を皿にして、肩から滴る血を溜めていたのだ。

 十分に手の皿に血が溜まったところで蛇鬼の額の目にぶっかける。結果、蛇鬼は八幡の血を前回以上に摂取してしまったのだ。

 

「おのれ~~~~!!!」

 

 蛇鬼は暴れまくる。

 毒を無暗矢鱈に吐き、血鬼術を撃ちまくり、蛇に変えた自身の体の一部を振り回す。

 彼女はおそらく自分が何をやっているのかよく理解してないであろう。

 なにせ、稀血によって我を失っているのだから。

 だから彼女は気付かなかったのだ……。

 

「っぐ、おお……!!」

 

 夜が明けて日が差したことに。

 

 普段なら問題なかった。

 この屋敷は食事場というよりも日除けの役割が大きく、特にこの部屋は戸を閉めていれば一切日が差さないから。

 しかし、先程暴れた事で部屋の壁や戸を破壊してしまった。自分で日の光から守る楯を取っ払ってしまったのだ。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 八幡は蛇鬼の悲鳴を背にして伊黒を探しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、俺は牢獄から解放された。

 

 俺の目の前に突然現れた一人の剣士が俺を出してくれたんだ。

 

 剣士は強かった。水のように流れる剣技で化物の妖術に対抗していた。

 

 一度は化物に負けた。けど再び立ち上がり、知恵と勇気で化け物を倒した。

 

 水の竜を彷彿させるような凄まじい斬撃。その一撃であの剣士は化物を退治した。

 

 化物を倒した後、剣士は俺を牢獄から逃がし、生活するための物資を渡してくれた。

 

 この家から火事場泥棒して得たものだが、俺の家の物だから俺が使っても問題は無いと言う。

 

 思うところはあるが有難く使わせてもらう。なにせ今の俺は一文無しなのだからこうする他ない。

 

 あの家から逃げて、遠く離れた新天地で生きるためにも必要なこと。もうあの家に戻る事は絶対にない。

 

 

「行くぞ伊黒。警察に見つかったら面倒だ。先を急ぐ」

「……ああ」

 

 燃えている屋敷を見下ろす。

 あの牢屋には、もう俺を囚える拘束力はない。

 俺は解放されたんだ。あの忌々しい一族から。

 これから俺の新しい生活が……人生が始まる。

 

 俺も剣士になる。

 あの流麗な剣技をモノにしたい。

 そしていつか、俺もあの人みたいに美しい人間になってみせる。

 

 

 

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