俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

16 / 90
牢獄からの解放

 

「……なんだ?」

 

 突然、伊黒は目が醒めた。

 何やら外が騒がしい。

 固く閉ざされた座敷牢には外の音が届き辛い。

 なのに何故悲鳴のような声が聞こえるのか……。

 

「(もう、どうでもいいか……)」

 

 伊黒は目を閉じて布団に籠った。

 

 もう何もかもがどうでもいい。

 どうせあの怪物からは逃れられないのだから。

 

 昨日、突然現れた謎の剣士。

 最初は騙された哀れな生贄だと思ったが、ソレはすぐに間違いだと気づかされた。

 あの化け物とご確認渡り合える剣術。

 その技の数々は魅入ってしまう程に見事だった。

 次々と化物の摩訶不思議な妖術を剣技で切り裂き、前進する。

 伊黒は剣の事など書物でしか知らないが、それでも普通の剣技でない事は理解した。

 

 だが、そのおとぎ話のような剣士でもあの化け物には勝てなかった。

 

 其れを見てしまってから、伊黒に抵抗する気はなくなってしまった。

 逃げられるはずが無い。

 並外れた身体能力と妙な術を使うのだ。

 あんなに強かった剣士でさえ勝てなかったのだ。

 こんな弱弱しい自分に一体何が出来るというのか。

 たとえここから逃げたところで無駄。直ぐに追いつかれて喰われるに決まっている。

 

 諦めてしまおう。

 化物相手に何をしたって無駄なのだ。

 変な希望なんて持たず、このまま明日が来るのを待っていればいい。

 そうやって今まで生き延びてきたんだから……。

 

「おい」

「!?」

 

 突然、牢の外から声を掛けられたと同時、ザンッと何かを叩き切る音が響いた。

 慌てて伊黒は牢の外に振り向く。

 そこには、木の柵が綺麗に切断され、人一人が通り抜けられる隙間が作られていた。

 

「出ろ。逃げるぞ」

 

 この声を彼は死っている。

 昨夜聞いたばかりの声。

 もう二度と聞くことはないと思っていたものだ。

 

「……生きて、いたんですね」

「ああ、なんとかな」

 

 あの化け物と対峙していた剣士、比企谷八幡。

 前回、負けた筈の彼が再び伊黒を助けに来たのだ。

 

「……無駄、ですよ。あんな化け物から逃げられるわけがない」

「その心配はない。あの化け物は日中は行動出来ないからな」

「え?」

 

 伊黒は顔を上げる。

 

「考えてみろ、あんなに強い化け物が何でコソコソして人目から隠れている? 日中には行動できないっていう大きな制限があるからだ」

「………」

 

 ソレを聞いて伊黒は半分納得、もう半分は疑いながら、恐る恐るといった様子で牢から出た。

 

「じゃあ逃げるぞ。これを持っていきな」

 

 剣士は伊黒に何かをギリギリまで詰め込んだ風呂敷と、蛇の鱗の模様の羽織を渡した。

 

「ソレを着て外に出ろ。今、お前の家は絶賛炎上中だ」

「炎上……って、火事って事か!?」

 

 一瞬頭に疑問符を浮かべるも、すぐさま動揺する伊黒。

 それもそうだ、まるで大した事でもないかのようにあっさりと伊黒の家が火事であることを知らせたのだから。

 

「ああ、俺が火を付けた。早く逃げるぞ」

「火を付けた!? お前が!?」

「いいから早く逃げるぞ……ああクソ」

 

 ズズズと、何かを引きずる音が聞こえた。

 伊黒はこの音を知っている。

 たった数回しか聞いたことはないが、彼にとってはとても恐ろしい音。

 恐る恐るといった様子で伊黒が振り向いた瞬間……。

 

「………え?」

 

 彼の中の恐怖は一瞬で驚愕へと変貌した。

「う、お……ぐおぉぉぉ」

 

 蛇鬼の身体はボロボロになっていた。

 鱗に覆われた表皮は所々焼けており、左顔面にいたっては真っ黒になっている。

 何処からどう見ても瀕死状態。この短時間で一体何があったというのか。

 

「く、わせ…ろ。き、さまの……肉! 回復……する、ために!」

 

 蛇鬼が伊黒に襲い掛かろうとした瞬間、その間に八幡が間に割って入った。

 

「ッこの子に手出しはさせねえ。さっさと消えな」

「き、さま……!」

 

 八幡は刀を鞘から引き抜き、呼吸を整える。

 

「来なよ。死に掛けの鬼を倒すなんて、ワケねえよ」

「なめおって……!」

 

 

【血鬼術 大蛇剛腕】

 

【血鬼術 毒蛇敏腕】

 

 

 蛇鬼の右腕が力強い大蛇に、左腕は素早い毒蛇に変化した。

 それらは凄まじい速度で八幡に牙を剥けるも、大蛇は居合で斬り落とされ、毒蛇も返す刀で首を斬られた。

 

 

【血鬼術 怒髪天蛇】

 

【水の呼吸 拾ノ型 生々流転】

 

 

 八幡と蛇鬼が同時に技を繰り出す。

 迫り来る毒蛇の髪を切りながら、高速かつ柔軟に動き回り、回転数を上げる。

 

 

【血鬼術 毒蛇斉射】

 

【玖ノ型 水流飛沫・乱】

 

 

 進行を阻む毒蛇を切り開く。

 刃に届かなかった毒蛇も死角から飛び掛かるも、術を掛ける鬼の力不足のせいか、以前より遅く弱弱しい。

 

「(ま…マズい! やはり弱っている。早く何か食わねば!)」

 

 蛇鬼は焦っていた。

 血鬼術の威力が弱まっている。

 早く肉を食って精力を付けなくては、命に係わる。

 しかしそれには目の前の鬼狩りが邪魔だ。

 体力が持つ今のうちに何としてでも殺さなくては!

 

「(させねえよ。弱っている今のうちにぶっ殺す!)」

 

 対する八幡は冷静に剣技を駆使していた。

 相手は日の光のダメージと自身の稀血による酔い状態。

 瞳の目が開けない以上、動きを止めるあの厄介な血鬼術も使えない筈。

 今が絶好のチャンスなのだ。何が何でも仕留めてみせる!

 

 

【血鬼術 一斉毒射】

 

【参ノ型 流流舞い】

 

 

 全ての蛇が毒を吐く。足元も、髪も、腕も、そして本体も。

 全方向から、威力も速度も範囲も違う毒液が、一斉射撃された。 

 しかし、八幡には一切当たらない。

 全てを剣戟で斬り落とし、足捌きで避け、足元の毒蛇を蹴り飛ばながら。

 彼の流れるような剣技は加速的に勢いを増す。

 

 斬り。裂き。走り。駆ける。

 回転数を上げて攻撃の速度と威力を高めながら。

 勢いを増幅し続けながら、八幡は距離を詰めていった。

 

 

【血鬼術 毒破】

 

【水の呼吸 壱の型 水面切り】

 

 

 蛇鬼の口から吐き出された毒液の塊を弾き飛ばした。

 強い衝撃によって霧散する酸性の液体。

 飛沫となって辺りに飛び散るも、既に溶かす程の威力は失っていた。

 

 

【血鬼術 怒髪天蛇】

 

【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】

 

 

 向かってくる無数の毒蛇の鞭を、連撃で全て斬り落とした。

 斬られた箇所から再生しようとするも、八幡が切る速度が上回っている。

 斬る度に、一歩踏み出す度に、斬撃は威力と速度を増し、竜へと成長していった。

 

 

【血鬼術 蛇突猛進】

 

【弐ノ型 水車・横回転】

 

 

 突っ込んで来た蛇鬼を回転して弾き飛ばした。

 身体を畝らせる龍の如き斬撃は、丸太のように太い大蛇の下半身を切断。

 八幡はその勢いを殺すことなく空中を舞う蛇鬼の上半身へと跳び上がり、首めがけて刀を振ろとした。

 竜と化した斬撃が遂に邪悪な蛇の鬼へと牙を剥ける!

 

「お…おのれ!」

 

 

【血鬼術 血食鋼鱗】

 

【血鬼術 首護蛇髪】

 

 

 蛇鬼は最後のあがきを見せた。

 血鬼術の二重重ね。

 赤く硬い鱗を首に生やし、更に髪を大蛇に変化させて首に巻き付ける。

 完全防御の体勢に入ったその首を……。

 

 

【水の呼吸 壱の型 水面切り】

 

 

 竜の牙は意図も容易く食い破った!

 

 勢いよく飛んで行く蛇鬼の首。

 地面を一度バウンドして1m程転がり、切り離された上半身と蛇の下半身が崩れ落ちる。

 同時、鬼の身体は黒い灰となって段々と消えて逝った。

 

「フゥゥゥ…」

 

 八幡は呼吸を鎮めながら、かちんと刀を鳴らして鞘に納めた。

 

「さ、この屋敷から出るぞ」

「あ、ああ……」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。