「あ~、ひっどい目に遭った」
任務を終え、本土に戻った俺は、真っすぐ鱗滝さん家に向かった。
いや~、本当にクソだわ。
初日であんなに強い鬼と戦うとか聞いてないし。
普通、もっと手ごろな鬼を相手させるでしょ? なのに何アイツ? 百年以上生きてるベテランの鬼とか正気か?
本当に鬼殺隊はブラックだ。本当に俺はこんな切った張ったの鉄火場でやっていけるのか?
「……っと、そろそろ見えて来たな」
家の方を向くと、真菰がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
その後ろを錆兎と義勇が付いてきており、鱗滝さんが玄関の外からその様子を見ている。
「八幡!」
思いっきり抱き着かれた。
握り締められ着物に皴が出来る。それだけで、真菰がどれ程不安だったか思い知らされた。
「遅いっ!遅すぎるよ!」
「ああ…うん。すまなかった。仕事を…いきなり振られてな」
「そんなの関係ない! 遅い八幡が悪い!」
「え~理不尽……」
そんな風に困ってると、今度は義勇と錆兎もやって来た。
「遅かったな八幡」
「任務に行っていたそうだな」
こっちは大して俺を心配していなかった。
考えてみれば当然か。まだ訓練をしていない真菰と違って、コイツらは俺の強さを知っている。俺が負けるわけないと思ってたのだろう。
まあ、初任務では鬼にぼろくそにやられたが。
「しかし流石に心配したぞ。かなり長かったからな」
「ああ。まさか八幡がと思ったけど。やっぱり大した怪我もなしで帰れたな」
「……いや、そういうわけにはいかなかった」
まだ蛇鬼にやられた傷が癒えてない。
こう見えてけっこうボロボロなんだ。
「……よく、帰ってきてくれた」
今度は鱗滝さんの大きな手が覆った。
ああ、そうか。鱗滝さんは長い間、本当に長い間、弟子が最終選別から帰って来るのを見れなかったんだった。
そんな中、俺は初めて帰った。生きて帰って来れたんだ。
そりゃあ感慨深いものがあるだろう。
俺には分かる。
天狗の面の下には、滝のように涙を零している事が。
温かい。
皆の想いが温かい。
自然と俺の瞳にも涙が浮かんでいるのが分かる。
「……まだ言っていなかったな」
笑顔を浮かべる真菰。
柔らかな雰囲気を醸し出す鱗滝さん。
義勇と錆兎も察して、穏やかに微笑む。
「ただいま戻りました」
「ああ、おかえり」
「そうか。お前でも鬼との戦いで死を実感したか」
食事や風呂を終わらせ、俺たち鱗滝一門は居間に集まった。
内容は初任務について。というか、俺がぼろくそに負けたという事実確認とその反省会だ。
「はい。最初は呼吸の剣技と工夫でなんとかなりましたが……」
「血鬼術で形勢を壊されたといったところか」
「……」
黙って頷くと、鱗滝さんも納得したように首を動かした。
「八幡よ、お前にとって鬼とはどんな存在だ?」
「……人間の、天敵ですね。本来なら勝てる筈のない存在です」
本来、鬼は人間の上位種だ。
鬼は最初から強靭な身体能力を持ち、少し人間を喰った程度で強くなり、力に慣れたら血鬼術という特殊能力まで使える。
雑魚ですら無限に近い生命力と体力を持ち、四肢が欠けようが活動可能。その上、日輪刀や日光以外ではダメージを与える事自体が不可能だ。
対する人間はどうだ?
鬼と同じ土俵に上がるために全集中の呼吸を必死に覚え、血の滲むような鍛錬を積み重ねれても少し強くなる程度。
特殊能力なんて以ての外。即死効果の血鬼術が来た時点でもアウト。手足が少し欠けても即退場だ。
身体能力、成長速度、特殊能力。どれもこれもが人間と比べ物にならない。
優位性と言えば日中は活動できないという点ぐらい。
戦いが成立しているのがおかしいぐらいの戦力差だ。
「その通りだ八幡。鬼は恐ろしい存在だ。どれだけ鍛えても、どれだけ強くなっても、奴らを相手するには不足する」
「相手の使う血鬼術次第では、対峙した時点で死ぬ可能性もありますからね。例えば目を合わせるだけで死ぬ能力とか」
「うむ、極端な例だが十分にあり得る。実際、鬼殺隊において最強格である柱でさえ十二鬼月でもない鬼に負けた事例がある」
柱。
鬼殺隊の中でも特に強い九人の剣士。
ゲームで例えるなら四天王ポジションだ。
そんな彼らでも死亡率は高く、辞任まで生きる事自体珍しいらしい。
つまりそれだけ鬼殺隊は鬼と比べて死に易く、不利な状況という事だ。
「今回の事はしっかり覚えておくのだぞ、八幡。義勇、錆兎、真菰、お前たちもだ。我らは常に不利であり、手段も力も不足している中で鬼と戦わなくてはならないと」
「「「はい!」」」