俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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俺の戦いはこれからだ

 

 初任務翌日の早朝。

 俺は夜明けの光を浴びながら、ゆっくりと体を動かしていた。

 

 全集中の呼吸を行いながらの太極拳。

 アニメや漫画で見る気功のように。力が身体の芯まで流れ、全身を循環するイメージで。

 

 深く、長く、広く。

 全集中の呼吸を繰り返す。

 身体への負担を最小限に、尚且つ効果を出来得る限り長く続かせるように。

 そして呼吸に向いた体に進化するイメージで。

 

 全集中の呼吸・常中。

 常に全集中の呼吸を行う事で身体能力を飛躍的に上昇させる技法。

 俺はこの技法を未だ習得していないが、呼吸を行い続ける事で細胞を活性化させ、自然治癒能力を上げる事は出来るようになった。

 悪く言えば常中の劣化版だが、コレのおかげで前回の仕事では毒に侵されても後遺症無し、しかも数時間で毒を分解する事が出来た。

 

 

 鬼殺隊にいる以上……いや、この世界で生きるには力が必要だ。

 

 蛇鬼にこっぴどくやられて、俺はこの先も鬼殺隊として生きることに不安を覚えた。

 自衛の手段と幾らかの金を得た以上、鬼殺隊に無理している必要はない。

 さっさと辞めて力仕事でもしながら帰る方法を探すのが賢いやり方だ。

 何なら、藤の花の匂い袋でも買って過ごせば稀血の俺でも鬼に襲われるリスクは下がる。

 だが、それじゃもうダメなんだ。

 

 俺は力が欲しい。

 鬼という捕食者に対抗する手段が。

 何時、何処で鬼に襲われるか分からず生活するなんて耐えられない。

 運良く狙われないとしても、生きている間はひたすら怯え続けることだろう。

 そんな生活なんて御免だ。だから鬼への恐怖を克服するためにも力が俺には必要だ。 

 

「朝から精が出るな、八幡」

「鱗滝さんも早いですね」

 

 太極拳ダンスも終盤に入り、震脚を取り入れていると、鱗滝さんが俺の背後に立っていた。

 

「格闘技か。雷の呼吸の踏み込みを打撃に応用する」

「ええ。刀を奪われても反撃出来ように」

 

 嘘である。

 考えなしにやってました。

 

「そろそろ戻れ。朝食が出来たぞ」

「はい」

 

 俺は朝食の匂いが香る家の中に戻った。

 囲炉裏の上に吊るされた鍋をかき混ぜ、味噌汁をお椀の中に入れる真菰。

 

「真菰、お前も早かったな。てっきりまだ寝ているものかと」

「また任務に行っちゃうからね。今日こそちゃんと見送りしないと」

「さあ、座れ。今日は米を炊いた。美味しく頂こう」

「はい」

 

 俺たちは囲炉裏を囲み、目の前に置かれた食事に手を付けた。

 

「美味い。やはり出来たてが一番だな」

「ああ。これで鮭大根があれば最高なのだが」

「もう、義勇ったら鮭大根ばっかり。他に何か好きなものは無いの?」

「う~ん、この前、町で食べたホットケーキとやらが美味かった」

「流石に異国の料理は無理かな」

「……にゃに? 異国のお菓子だと?」

 

 俺がそう言うと、全員が『やべっ』という顔をした。

 さては皆、俺が任務に行っている間に美味しいモンを食いに行ったな?

 こちとらこの世界に来てからこの時代の食い物ばっかりだというのに、そんな現代風“ハイカラ”なものを!

 

「すみませ~ん、刀鍛冶の里の者ですが」

 

 皆を糾弾しようとした瞬間、家の戸がコンコンと叩かれた。

 

「ど、どうやら来客のようだな」

「私が出るわ!皆はご飯を続けて!」

「いや、俺が行く!」

 

 全員が足早に戸へ向かう。

 ちくしょう、タイミングの悪い来客だな。

 

「どうも、刀鍛冶の里から参りました。鋼鐵塚甲“はがねづかかぶと”と申します」

 

 戸の外には、ひょっとこの面を被った黒髪の大男がいた。

 おそらく刀鍛冶の里の人間だろう。そこでは全員が例外なくひょっとこの面を付けているらしい。

 そのことを知っていた俺は少し驚くだけで済んだが、真菰と錆兎は目に見えて引いていた。

 まあ、いきなりひょっとこの面を付けた男を見たらびっくりするよな。

 

「比企谷様、貴方の刀を持って参りました」

「おお、良い頃合いに来た。早く上がるといい」 

 

 鋼鐵塚甲と名乗った男は一礼して家に上がり、早速背負っていた細長い木箱を早速開ける。

 その中には太刀と小太刀が黒鞘から日光を反射させていた。

 

「こちらが貴方様の刀です。手によりをかけて鋭く、頑丈に仕上げました」

「あれ? 二本あるんだな」

「ええ。刀一本では心許ないでしょ? やはりいざという時に予備は必要ですから」

 

 鋼鐵塚さんは木箱を置き、俺に太刀を渡す。

 

「早速抜いてみてください。きっと綺麗な水色に変わりますよ」

 

 俺は早速渡された日輪刀を鞘から引き抜いた。

 すると、俺の刀は根元から滲むように黒へと変化した。

 初めて色が変わる瞬間を見た俺は驚きのあまり声を出せなかった。

 

「ほう、美しい漆黒ですね。まるで夜空のようだ」

「本当に綺麗だ。黒は出世できないと聞くが、お前なら問題ないはずだ」

「八幡なら大丈夫だ。自分用じゃない刀で任務に行っても勝てたんだから」

「凄い凄い! いいなぁ、私も早く日輪刀欲しい~」

「………」

 

 皆が色々と言う中、俺は黙って刀を見つめる。

 これが、俺専用の刀……。

 

「あ、そうだ。鋼鐵塚さん、コレを見てほしいんですが」

 

 俺は前から使っていた日輪刀を渡した。

 元の世界に戻るための唯一の手掛かり。

 刀の素人の俺がいくら見ても何も分からなかったが、この人なら……。

 

「……ほう、立派な刀ですね。しかし古くて色々と手入れが必要です。それ以外におかしな点はなさそうです」

「そう、ですか……」

 

 俺はおもむろに項垂れた。

 ああ、そうだよな。刀を見た程度で神隠しなんて超常現象の手がかりを掴めるわけがねえよな……。

 

「しかしここに刀匠の名が刻まれております。ソレを調べたら何かわかるかもしれません」

「ほ、本当か!?」

「ええ、保証は出来ませんが……」

「じゃあ頼む!」

 

 俺は顔を上げて鋼鐵塚さんの手を掴んだ。

 良かった、これで帰るための手がかりがつかめるかもしれない!

 

「八幡、 早速任務だ!飯倉に鬼が出たらしい!至急向かうぞ!」

 

 突然、俺の鎹烏である八雲が無駄にダンディな声で飛び込んできた。

 八雲の声を聴いた俺はため息を付きながら刀を鞘に納める。

 その後、寝間着を脱いで支給された隊服へと着替え、羽織で申し訳程度のカモフラージュをする。

 

「八幡、頑張って!」

「……八幡、死ぬなよ」

「行ってこい八幡!」

「また帰ってきてくれ」 

 

 これでしばらくは鱗滝さん達とは会えなくなるな。

 けど仕方ない、いつか来るはずの日なのだから。

 俺が元の世界に帰るためにも……。

 

「行ってくる」

 

 俺の戦いはこれからだ!

 

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