三か月後
ある日の夜空、一匹の鬼が飛んでいた。
鳥の首の部分が痩せた女性の上半身の姿をした鬼。
宙に浮く血鬼術を使い、翼を羽ばたかせることで飛行を可能としている。
彼女はそれなりに強い鬼である。
十二鬼月には及ばないが、並の鬼としては強い方だ。
足の鋭い爪は人体を容易く切り裂き、強靭な脚から繰り出される蹴りは岩をも砕く。
翼は空を飛ぶだけでなく、攻防共に使用可能。
血鬼術によって翼を刃に変えることで攻撃に。鋼のように硬くすることで盾に使える。
また、空を飛びながらでも、羽を一部だけ刃に変えて落とす事で、上空から一方的に攻撃も可能。
更に更に。羽を血鬼術によって鳥に変化せて操る事も出来る上にその鳥の嘴には強力な毒がある。
そして何よりも強力な武器は声。血鬼術によって彼女の叫び声を聞いた者は昏睡してしまうのだ。
けっこう強い。
柱とはいかずとも、それなりに位の高く、経験のある隊士が向かうべき相手である。
そんな彼女は餌を求めていた。
只の人間の肉ではない。飛び切り極上の稀血である。
空からでも分かる香しい匂い。少し嗅いだ程度で快感を覚える。
コレを口にすればどれ程の快感を得られるか。どれだけ力を得られるか。
「……フ」
彼女の視力は猛禽類並みであり、空高くからでも地表の対象をはっきりと目視できる。
その目に映ったのは、木の下にある包み。
稀血の匂いはソコからしていた。
大きさからしておそらく赤ん坊。
血の匂いがここまで届いているのを考えると、出血している可能性がある。
しかし、そんなことは彼女にとってどうでもいい。大事なのは、極上の稀血を新鮮な状態で喰う事である。
多少血が流れた程度で人は死なないが、赤ん坊は別だ。すぐに死んでしまう。
稀血の鮮度は足が速い。出来るだけ早く、少なくともくたばる前に食わなくては。
食事をするために地表へ降り立つ。
その瞬間……。
【風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬り】
突如、木から何かが飛び出し、彼女の首を刎ねた。
「………………へ?」
何が起きた。
そんな単純な思考をする前に、彼女の意識は途絶えた。
鬼殺隊に入ってから三か月が経過した。
その間、俺は黙々と任務をこなす毎日を過ごしている。
一体どれだけ鬼がこの世界に跋扈してるんだ。この鬼で9体目だぞ。月に3体のペースだ。
「(しっかし、これ便利だよな。まあ、全ての鬼に効くわけじゃないけど)」
俺は木の根元に置いてあった布の包み、俺の稀血が浸み込んだ枕を回収した。
稀血による餌で鬼をおびき寄せ、不意を突く。
コレでこの鬼を含めて3体ほど倒した。
俺は真正面から鬼と戦わない。
不意打ち、待ち伏せ、或いは罠を仕掛ける。
正々堂々と戦うのはソレが失敗した時のみ。
まあ、奇襲失敗したのは一体だけで、その後は何もさせず首を斬ったが。
卑怯とか汚いと言うなかれ。
相手は超能力を使う不死身の人食い化物なのだ。
真正面でやり合うにはリスクがあまりにも高すぎる。
如何にリスクを最小限にするか、如何に楽して勝つか。ソレを考えてこそ人間らしい戦いだ。
「この稀血の罠が全部の鬼に効くなら何も考えなくてもいいんだけどな……」
俺の稀血は鬼によって効き目が違う。
一番効果があるのは女の鬼、しかも外見は若い女だ。
直接ぶっかけたらべろんべろんに酔い、マトモに動かなくなる。
しかし、男の鬼や中年以上の女の鬼には効果があまりよろしくない。せいぜい少し美味い血と言った程度らしい。
全ての鬼に効くなら安全に鬼狩りが出来るのだが、この世界は俺に楽をさせるつもりはないらしい。ブラックすぎる。
ふざけるな。異世界に転移したならチート寄越せよチートを。鬼との戦力差ありすぎ。難易度が高すぎるよ。ルナティックだよ。
「ふざけている場合か八幡。次行くぞ次」
「え~、まだ鬼を倒したばっかりなんだけど」
この鬼の情報を集めるために一週間ぐらい頑張ったんだけど。
もう休みを貰っても良くない? そろそろ週休あってもいいよね?
「ダメだ。先程救援の要請があった。近場にいるのはお前だけなんだ。早く行くぞ」
「へいへい」
さてと、残業に向かいますか。