まだ一話しか投稿してないのに匿名で評価1入れられた。
もう八幡は時代遅れなのか……!?
心地いい浮遊感を感じる。
日向ぼっこでもしているかのように温かく、気持ちの良い空間だった。
周囲は淡いオレンジ色で埋め尽くされ、鼻をくすぐる香りはこの世のものとは思えないほどだった。
ああ、このままずっとこうしていたい。
ここは無重力空間か何かなのだろうか、やけに身体が軽い。体そのものがないかのようだ。
地面も何だか柔らかい。まるで雲の上にでもいるかのようだ。
そんな事を思ってるの目の前の空間が歪んだ。
フワフワと光が集まっていき、人形を作っていく
ソレは一人の剣士になった。
くせ毛をポニーテールにした和服の剣士。
花札のような耳飾りをしており、顔の左部分には炎のような痣がある。
その剣士は刀を抜き剣技を披露してくれた。
美しい剣舞だった。
迫力と優美さから、太陽の幻が見えた。
こんな剣技、アニメや漫画でも見たことがない。
流れるかのように次々と御業を繰り出し、その度に目が釘付けになる。
興奮した俺は剣士に頼み込んだ、俺にもその剣技を教えてくれと。
俺のお願いに、彼はすんなりと首を縦に振ってくれた。
構え方から振り方まで丁寧に教えてくれる。
特殊な呼吸法、特殊な剣技、特殊な歩法
全て分かりやすく俺に教えてくれた。
どうやらこの夢には時間の概念がないらしい。
長い間剣士に色々と教わったが、時間が過ぎた感覚がない。
まあ、そのおかげで大分色んなことを教えてもらえたんだが。
「ッシュ!」
抜刀。
目の前の丸太を切り裂いた。
うん、いい感じに切れた。最初は刀が減り込むだけで止まったり、刀が折れたりしたが、ちゃんと抵抗なくバターのように切断出来た。
師匠も納得なのか、目を閉じてゆっくりと頷く。途端、その姿が光へと戻って行った。
ああ残念だ、まだまだ教えてもらいたいことは沢山あったのに。
結局、俺の剣技は師匠の足元にすら及ばなかった。
あの御業を俺は一度しか行使出来ない。あの御業の源である呼吸を俺は数分しか使えない。
その上、使ったとしても俺のは師匠に比べたら弱くて遅くて拙い。まだまだ先は長そうだ。
俺は刀を鞘に収める。
すると睡魔が急に襲いかかってきた。それに抗うことができずに瞼をおろす。俺の意識は、そのまま落ちていった――――。
「ッ痛!」
突然、痛みで俺は起こされた。
上体を起こして痛みを感じている箇所に手を伸ばす。
うわ、血が出てるじゃん。一体何で切ったんだ?……ああ、この草で切ったのか。
……って、なんで俺は野宿なんてしてんだ。
「ああ、そうだった。……俺、今絶賛神隠し中だったんだ」
思い出した。
俺は橋を渡ってから別の世界に跳んでしまったのだ。
いや、マジで自分でもおかしいと思う。まさかこの年でまた中二に戻ったのかって。けどそれしか考えられない。
最初は白昼夢を疑ったが、一時間以上彷徨っても夢が醒める気配がしない。
しかも辿り着いたのは時代劇で見た事のあるような村々。映画村か何かのセットでもない限り、そんなものはお目に掛かれない。
ソレでも諦めずに野原の上で一度寝たが、こうやって目覚めてもさっきの光景と同じまま。
ここまできたら認めるしかない、俺が異世界に迷い込んだと。
「……どうすんだよ」
絶望のあまり項垂れる。
本当にどうしたらいいんだ。
身寄りも金もない。何もかもがない俺はどうやったら生きたらいい?
あるものはこの刀だけ。出来る事といえばこの刀で誰かを脅してカツアゲするぐらいだ。
そんな真似なんてしたくもないし、してもこの時代の警察に捕まる。大体、刀を握ったことのない俺が刀を使える筈が……。
「……あれ? 軽い?」
あんなに重かった筈の刀が、今は羽毛のように軽い。
もしかしてさっき寝てた間に盗まれたのか?
勘弁してくれ、唯一の持ち物がコレだけなんだ。本物の刀なら売れば何日か生きる金が手に入るんだ。なのにこれもなくなったら……。
「あれ?抜けた?」
本物かどうか確かめるために刀を抜くと、あっさり鞘から引き抜けた。
どういうことだ?あの時はあんなに強く引っ張っても抜けなかったのに……。
まあいいや、とりあえず本物かどうか確認するか。
「ッフ!」
試しにその辺に生えていた背の高い植物を斬る。
俺の肩まで伸びた名前も知らない植物の束。
刀はソレを容易く切り裂いてみせた。
おお、どうやら本物みたいだな……。
「って、なんで俺は刀を使えてるんだ?」
そこで俺は可笑しいことに気づいた。
刀の振り方があまりにもスムーズ過ぎる。まるで長年振り続けたかのように……。
「(いや、今は考える暇はないか)」
今は生きることが先決だ。余計なことを考える暇はない。
とりあえず、刀を金に換えるなり何なりして何とかして食い扶持を探そう……。
「こっからいい臭いがするなぁ」
「!!?」
突然、嫌な気配を感じた。
俺自身よく分からない感覚。
何か自分のテリトリーによく分からないものが入り込んで来たかのようだ。
「お前、稀血だな? 美味そうな臭いがするぜ」
底冷えするねちっこい声。
俺は震える身体を抑えながら声の主に目を向けた。
そこにいたのは化物だった。
死体のように青白い肌、猫のように鋭い瞳。
額から歪な角を生やし、右手が鋏の形になっている。
だが、それ以上に……。
「(く、…臭い!何だこの匂いは!?)」
ソイツの存在を察知した途端、凄まじい悪臭が俺の鼻を突いた。
何だコレは、さっきまで何も臭わなかったのに!?
「稀血なんて俺初めてだぜぇ! どんな味すんのかなぁ?」
ソレに何だこの声は!?
聞くものをイラつかせるような声色に嫌悪感を刺激するような喋り方。
雰囲気も陰鬱で卑屈、しかし他者を見下すような感じが声からする。
なんだよ、前の俺は声だけでこんなに分析出来たっけ?
さっきから稀血だの何だの意味分かんねえ事言ってるけど、コレで本当に分析出来るのか?
「(な…なんだコイツは?人のこといえねえがなんて陰鬱な匂いをしやがる……?)」
俺は鬼の陰鬱な雰囲気に若干引いた。
自身がネガティブで陰気だという自覚はあるしその性質を好きだと豪語しているが、アイツは俺のを凌駕している。
まるでジメジメした洞窟を覗いていうような、にじみ出る鬱鬱たる雰囲気。
むしろそんな異常な空気を纏っている現状が似合うような、不気味な存在感。
その全てが無視できない吐き気を催す。
人間の姿をしている現状が不自然だ。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない
「(アイツ…俺を喰おうとしている!)」
あの飢えた視線、ダラダラと垂れ流す涎、さっきの会話の内容、そして血の匂い。
ここまで揃えば分かる。アイツは俺の血肉を狙っていると。
「クソが喰われて堪るか!」
俺は踵を翻して逃げた。
クソ、なんでこうも現実離れした事が連続で起こるんだよ!?