俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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やっぱ性に合わねえ

 

「う、うぅ……」

 

 真夜中、とある森林。

 鬼殺隊の隊員が地面に蹲っていた。

 ソレを一体の鬼が顔を顰めて見下す。

 

「情けないでありますな。この程度の鬼狩りを殺しても何の証明にもなりはせん」

 

 鬼は軍人のような恰好をしていた。

 ガッチリとした体格に大柄な肉体。

 丸坊主の頭に帽子を被り、陸軍の制服を着こなしている。

 

「こんな雑魚を狩った程度では、あの方に満足してもらえぬ。もっと強い鬼狩りはどこでありますか」

 

 右手のライフル銃を肩に担ぎながら、鬼は……銃鬼は舌打ちした。

 

 銃鬼の目的は鬼殺隊員の首。

 敵を倒す事で自分の力を証明し、十二鬼月への挑戦権を手に入れる事。

 今倒れている隊士達は不運なことにそのターゲットにされてしまった。

 しかし、どうやらハズレらしい。鬼殺隊は気配で鬼の強さが分かるが、通常のはそういった真似が出来ないのだ。

 何処かにいないか。この雑魚共みたいに弱い剣士ではなく、かといって柱のように強すぎない獲物は……。

 

 

【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】

 

 

「ッ!?」

 

 突如、茂みから何者かが飛び出した。

 鎹烏の八雲によって無理やり連れてこられた……いや、応援に来た八幡である。

 

 繰り出される居合。

 雷のように速く鋭い一撃。

 突然の襲撃に一瞬焦るも、銃鬼の身体は即座に最適解を出した。

 

「ッグ!」

 

 銃を楯にして首を守る。

 身代わりとして斬られる銃器。

 そのおかげで刃の勢いは弱まり、銃鬼の右腕を斬り落とし、首の半分程を斬る程度で収まった。

 

 手足が切られようが、得物が無くなろうが問題ない。 

 鬼は人間と違って首さえ切られなければ勝ちなのだ。

 危なくなったら兎に角首を守れ。鬼殺隊との戦いの鉄則である。

 そのためなら得物や手足を失ってもいい。なにせ直ぐに再生するのだから。

 

「(死ね、鬼狩りめ!)」

 

 今度は銃鬼の番。

 彼は後ろに跳びながら、左手に己の血肉で生成した拳銃を、突然現れた八幡に向ける。

 

 

【雷の呼吸 肆ノ型 遠雷】

 

 

 しかし、引き金を引こうとした瞬間、一瞬で八幡は間合いを詰めた。

 返しの刃で繰り出された斬撃は、今まさに撃とうとした銃鬼の腕を斬り落とす。

 続けて刀を翻し、銃鬼の首を斬り落とそうとした瞬間……。

 

 

【血鬼術 血弾】

 

 

 銃鬼が口から赤い弾丸を吐き出した。

 しかし八幡は焦らない。

 首を斬り落とそうとした刀を横に振るい、弾丸を側面から斬り落とした。

 

 

【血鬼術 血弾】

 

 

 今度は右手から。

 再生された腕には拳銃が握られており、銃口から弾丸が飛び出す。

 八幡はソレを横に軽く跳んで回避。最低限の動作で避けた。

 そのまま銃鬼に切り掛かろうとした途端……。

 

 

【血鬼術 飛血弾】

 

 

 次は左手から血鬼術が繰り出された。

 再生されたその手にはライフルが握られており、銃口から赤い散弾がまき散らされる。

 流石に散弾は先程のように避けきれないと判断し、横に転がるように回避。

 身体を小さく丸める事で被弾率を下げ、転がる事で移動距離を稼ぐ。

 こうして八幡は散弾を食らうことなく全て避けた。

 

「(なんて早さと鋭さの斬撃でありますか!? 全く見えなかったであります! 反射的に首を守りましたが、当たってよかった! もし一瞬でも遅ければ今頃は……!)」

「(タイミングは完璧。角度も万全。いい感じに不意を突いた筈だ。なのにアイツは防ぎやがった! 強いて言うなら少し距離が遠くて減速した程度だってのに……!)」

 

「(死角から銃を取り出したにも関わらず、あの剣士は対処した。追撃の手を急きょ中断して、小生の腕を斬った! なんて対応力でありますか!?)」

「(奇襲にも動じることなく反撃の手を打とうとした。しかもソレを潰されても動揺することなく次の手を打ち、逃げに徹した。なんつー胆力だ!?)」

 

「「………」」

 

 互いに己の得物を一層強く握りしめ、敵を見据える。

 

 

【血鬼術 飛血弾】

 

 

 先に動いたのは銃鬼。

 ライフルから散弾が吐き出される。

 

「(奴の攻撃速度は小生の反応速度より速い! よってここは動きを止めるべし!)」

 

 銃鬼の狙いは八幡をこの場に縫い留める事。

 雷の呼吸の速度は凄まじく、とても撃ち落とす自信がない。

 先ずは散弾で牽制して動きを止め、次の手で確実にトドメを刺す。

 

 彼の読みは正しい。

 しかし打った手は間違っていた。

 

 

【風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)】

 

 

 八幡は周囲を竜巻の様に激しく連続で刀を振るう事で、弾丸を全て斬り落とした。

 

「(奴の反応速度は危険だ。ここは風の呼吸で攪乱する!)」

 

 八幡の狙いは銃弾を避ける事。

 先程、銃鬼は八幡の奇襲を防ぎ、その上で反撃の手を打とうとした。

 不意打ちで防がれたのだから、正面からの攻撃なんて通らないに決まっている。

 雷の呼吸のような直線的な動きではなく、風の呼吸による変則的かつ素早い動きで攪乱する。

 

 八幡の読みは間違っている。

 銃鬼が彼の攻撃を防げたのはほぼ運のようなもので、銃鬼自身は八幡の速度に付いていけない。

 しかし、打った手は正解だった。

 

「(!? 動きが変わった!? 奴は呼吸を複数使い分けるのでありますか!? ならば……!)」

「ヒュゥゥ…」

 

 銃鬼は反対の手に新しい銃を持つ。

 ソレを目ざとく見抜いた八幡はすぐさま水の呼吸へと切り替えた。

 

 

【血鬼術 連血弾】

 

【水の呼吸 参の型 流流舞い】

 

 

 連続で吐き出される赤い弾丸。

 八幡はそれらを水の呼吸独特の動きで全て避ける。

 

 八幡は銃鬼の銃から次の攻撃を予測していた。

 トンプソン・サブマシンガン。

 当時、アメリカでよく使われていたサブマシンガンである。

 それほどミリタリーの知識があるわけではないが、とある時期ギャングについて調べていたおかげで知っていたのだ。

 中二の時期が過ぎれば無駄知識と本人は断じていたが、何処で有効出来るか分からないものである。

 

 カチリと、銃器から空砲の音が聞こえた。

 どうやら弾切れのようである。

 その隙に八幡は敵に接近し、首めがけて抜刀する。

 

 

【水の呼吸 壱の型 水面切り】

 

 

 しかし、八幡の斬撃が当たることはなかった。

 銃鬼は力ずくのバックステップでソレを回避。

 乱暴に着地すると同時に後ろへ転がりさらに距離を稼ぐ。

 その後、ジグザグに動きながら、片方の手に持つ銃で単発の射撃を行い、八幡を牽制した。

 

「シィァァァ…」

 

 八幡は弾丸を弾き、避けながら呼吸を変える。

 そのせいで動きに濁りが生じ、僅かに弾丸が頬や腕を掠るが仕方ない。

 さっさと切り替えてアイツの首を刎ねないと!

 

「(た、助かったであります! もしあの時、あの剣士が雷のような斬撃をしていれば……ん?)」

 

 牽制射撃を行いながら、銃鬼は妙な違和感に気づいた。

 何故、あの剣士はあのタイミングで雷の呼吸を使わなかったのだ。

 あれほどの実力の持ち主。使うべき技の選択を誤るなんて考えられない。ならば何故。

 

 もしかして、間違えたのではなく使えなかったのではないか。

 

 おそらく、あの剣士は別の呼吸を使うのに何かしらの制限があるのではないか。

 例えば、別の呼吸を使う際には時間が必要、或いは呼吸変える際は動きにムラが出る等の。

 そう考えたら辻褄が合う。現に、全然当たらなかった弾丸が今では掠っているではないか。

 

「(なるほど、それならやりようはあるでありますな……!)」

 

 にやりと、内心ほくそ笑む。

 これは大きな弱点だ。ココを突けば、あの剣士を倒せるかもしれない。

 もしかすれば、その首を取って手柄を立てられるかもしれない。

 

「(呼吸が切り替わる瞬間は呼吸音が変わる時! そこを突けば小生の勝利であります!)」

 

 牽制を行いながら八幡の呼吸に注意する。

 通常の人間には離れた相手の呼吸音を聞き取るなんて不可能だが、鬼の聴覚なら可能。

 焦らず、相手を誘いつつ、接近されないように。牽制を行いながらその時を待つ。

 

「シィィィ…」

「(今であります!)」

 

 呼吸が変わった音を聞いた。

 瞬間、銃鬼は八幡が通るであろう地点に“弾を置く”。

 いくら早くても何処から何時来るのか分かっていれば打ち落とす事も可能。

 ここまま小生の銃弾の餌食に成れ!

 

 

【風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ】

 

 

「………へ?」

 

 八幡は銃鬼の弾丸を斬り落とした。

 どういうことだ? 奴は確かに呼吸を切り替えた筈。なのに何故変わってない!

 

 八幡は銃鬼の作戦に気づいていた。

 真だけでなく耳と鼻も使って注意深く観察し、銃鬼が八幡の弱点に気づいた事に気づいたのだ。

 自分の弱点がバレた事に気づかなければ圧倒的に不利だが、気づいたのならやりようはある。

 弱点を突こうとする瞬間を逆に利用すればいいのだ。

 いくら相手がこちらに有効な作戦を立てようとも、何処から何時来るのか分かっていれば対処は可能。

 むしろ逆にこちらの作戦に嵌める事だって出来る。

 罠に嵌めようと誘っていたのは銃鬼だけではない。八幡も同じだったのだ。

 

「ッグ!」

 

 銃を咄嗟に向ける銃鬼。

 しかしもう遅い。八幡は既に刀が届く距離まで接近し、今まさに首を斬ろうとしている。

 

 

【風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風】

 

 縦方向に鋭利な爪を思わせる4つの斬撃が同時に振り下ろされる。

 銃鬼は咄嗟に避けようとするが、そのうち半分が命中。両腕を斬り落とした。

 これで銃を握る邪魔な腕は両方とも無くなった。

 

 続けて横一閃。

 銃鬼は咄嗟に首を引っ込めるも、完全には避けきれず、顔面を削がれてしまった。 

 舌打ちしながら八幡は刀を翻し、再び首を刎ねようとする。

 

 

【血鬼術 血弾】

 

 

 血だらけの顔面の口から、一発の弾丸が吐き出される。

 たった一発なら避けるのは容易。

 八幡は軽く横に跳んで避ける…。

 

「ッ!? まずい!」

 

 避けるのを急きょ中断して銃弾を刀で弾いた。

 八幡の背後には隊士が倒れており、避ければ流れ弾に当たる可能性がある。よって動くわけにはいかなくなった。

 

 弾く弾く弾き飛ばす。

 次々と迫りくる銃弾を切り飛ばし、背後の隊士を守る。

 その間、銃鬼はどんどん背後へジグザグに跳び、八幡から距離を取っていた。

 

「(クソ、アイツはまさかここまで計算していたのかよ!?)」

 

 偶然である。

 とっさに迎え撃とうと悪あがきをした途端、倒れている隊士が目に入っからしただけである。

 

「フハハハハ! 動けない兵士など見捨てればいいものを! ソレが貴様らの限界である!」

「……んなこと、知ってるっつーの!」

 

 気が付けば、銃鬼との距離がだいぶ空いている。

 まずい、このままでは遠方から一方的に攻撃される。

 早くなんとかして距離を詰めなくては、人質ごと撃ち殺される!

 

「今日はこの辺にしておくであります!次に貴様を狩るときまで、首を洗っておくでありますな!」

「………な!? くそ、ふざけんな待ちやがれ!」

 

 追おうとするもすでに遅い。

 銃弾が止む頃には既に鬼の姿はなかった。

 

「………逃げられたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしろ、怪我は深いが死ぬほどじゃねえ」

 

 鬼を取り逃した後、俺は先輩隊士の治療にあたった。

 結構な重症だが、呼吸で出血を和らげている。

 これなら簡単な応急処置でも大丈夫だろう。

 

「な、にを…している?」

 

 倒れている先輩隊士が俺に話しかけた。

 気が付かなかったが、どうやら既に意識を取り戻していたらしい。

 

「しゃべるな。傷に障るぞ」

「そんな、ことは…どうでも、いい…! それよりも…鬼を……!」

「だから安静にしてろって」

 

 立ち上がろうとする先輩隊士を止める。

 

「何故…俺を助ける!?」

「は? んなの当たり前………」

「何故鬼を優先しないんだ!」

 

 

「俺たちは鬼殺隊だ! 鬼を殺す隊だ! 鬼を殺す事が俺たちの存在意義なんだよ!」

 

「そのためなら何だってやる! 俺の命も、他の隊員も、他人も犠牲にしてでもな!」

 

「俺なんて気にせず鬼を殺せばよかったんだ! 俺もそうする! そうするべきだ! 鬼殺隊ならな!」

 

 

「………あっそう」

 

 俺は負傷している先輩隊士から手を離し、背を向けた。

 

「おいお前! まだ話は……う!?」

 

 傷を押さえて踞る先輩隊士。

 大方、傷が開いたのだろう。大怪我してるのに大声で叫ぶからだ。

 けどまあ、あれだけ元気なら、もう大丈夫だろう。後は隠の人に任せるか。

 

「(しっかしやっぱ性に合わねえわ)」

 

 ああいった極端な奴は少数だがいる。

 そもそも鬼殺隊という組織に入る大半の理由は復讐だ。

 家族や恋人などの大事な人を鬼に殺され、仇を討つために鬼殺隊の門を叩いた。

 だから鬼に対して容赦はしない。文字通り死に物狂いで鬼を狩る。

 まあ、理解は出来るわ。俺も小町を目の前で殺されたら正気を保てる自信はない。

 けどなあ……。

 

 

『死ぬまで、一匹でも多くの鬼を殺せ。そのためにお前を鍛えたんだからなぁ』

 

 俺には、ああいった奴の方が鬼に視えちまう。

 

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