まあ、その習得に時間をかけていたせいで剣技はそれほど成長してませんが。
「……」
とりあえず、事件現場に向かった。
現場は道のど真ん中。
この時代では珍しくレンガ等で整備された道路。
日が暮れたせいか、レトロな電灯がちらほらと明かりを灯し始めている。
人通りはかなり多い。
会社、或いは学校帰りか。きっちとした格好の通行人で雑多している。
他にも雑貨屋やら飲食店やら屋台やらが立ち並んでおり、買い物に来た主婦らしき女性だったり、洋食屋によるサラリーマン、後はキャバクラのような店に入るおっさんも見かける。
何なら馬車や車もある。この世界に来て……というよりも、初めて見たぞ、あんな教科書通りの馬車と大正時代の車。
この通りはかなり繁盛しているな。とても事件現場とは思えない。
「この道はこの町の経済を支えている。だから事件が起きようともこうならざるを得なかったのだろう。流石に事件当日は捜査のため閉鎖されたが、ずっとしていれば周辺の店が干上がってしまうからな」
「情報ありがとう八雲。けど話しかけるな。目立つ」
けど、ソレなら迂回ルートなり何なりあるだろ。あと、こうも人通りがあるのなら、わざわざ事件を起こそうなんて考えないと思うのだが……。
「道はこの一本だけだ。迂回は出来ない。あと夜になると町そのものが眠っているかのように人通りが嘘みたいに無くなるらしい」
「追加情報ありがとう八雲。けどもう一回言うわ。しゃべるな」
気を取り直して、俺は調査を開始。
邪魔にならないよう道の隅で建物の壁にもたれ、目を閉じる。
俺の目的は事件の現場調査ではない。ここにいる人間の声そのものだ。
五感をフル動員して周囲を観察する。
広く見渡して、耳を澄まして、深く匂いを嗅いで。
雑多な人混みの中、俺は使える感覚全てを使って探索を行った。
「………いた」
見つけた。
怪しい奴が一人いる。
集団の中に埋もれているが、若干挙動不審の男がいる。
息遣いは荒く、事件現場をキョロキョロとしており、焦っている匂いがする。
間違いない、アイツがその犯人或いはその関係者だ。
犯人は現場に戻ってくるとは言うが、まさか本当に来るとはな。
まあいい。見つけたことだし次の行動に移るか。
「……」
男が動き出したので俺も付いて行く。
人混みの中でも俺なら見逃すことなく後を付けられる。
気配や臭いを辿る必要もない。この程度の難易度なら普通のやり方でも十分だ。
折角だし匂いや気配を断たれても追跡出来るようにする練習も兼ねるか。
大通りを抜けて小道に入る。
人通りも少なくなり、人ごみに紛れての尾行は出来無くなるが問題は無い。
普通に尾行していれば先ずバレない。この程度なら現代の探偵もよくやっている。
相手の真後ろを歩くのではなく、対辺になるように。
咄嗟に隠れられるように物陰や壁沿いを伝って。
相手を凝視せず、視野内に収める程度で。
尾行の基本だ。覚えておいて損はない。
おっと、振り返ろうとする気配がした。
俺は咄嗟に周囲から怪しまれない程度のスピードで物陰に隠れる。
通常、人間はそんなに後ろを振り返ったりはしない。なのに頻繁に後ろを警戒するという事は相応のやましい思いがあるという事だ。
「(それに、微かに鬼の残り香もするしな)」
大通りにいたときは匂いが渋滞して分からなかったが、今ならそんなに匂いもないので分かる。
アイツから鬼の匂いがする。
とはいってもほんのり軽くなので、何処かで鬼と接触したという程度だろう。
だが、関係ある事に間違いはない。このまま尾行を続行する。
「(このままいけば大丈夫だろう)」
まあ、この程度なら別に変装したり、気配を消したりする必要もない。
普通に尾行を続けるか。
「………あそこか」
尾行を続けていると、一軒の屋敷に辿り着いた。
かなり立派な御家。まるで城……いや、要塞のようだ。
「それじゃ、お邪魔しま~す」
俺は壁を飛び越えて中に侵入した。
流石にひとっ跳びは無理なので、三分割にする。
一回目はその辺の棒を立てて、足場にして跳躍。
二回目は壁を蹴って更に跳躍。
三回目は軒端を掴み、身体を捻ってその反動で跳び上がる。
こうして俺は門を飛び越え、受け身を取って着地した。
ちゃんと門の向こうに誰もいないことは、事前に気配を探って確認済みだ。
それじゃあ、次は建物の中に入るか。
どの建物に忍び込むべきかはちゃんと分かっている。
鬼の匂いがする方だ。
窓や配管などを足場にして駆け上がる。
呼吸で超人的な身体能力を持つ俺らにとっては、僅かな窪みや直角の壁も足場同然だ。
両脇の建物の壁と壁を交互に蹴り、屋上へと駆け上り、そこから電線を伝って開いている窓へと侵入した。
侵入した後は、気配を探りながら、尚且つ気配を消して屋内を探索する。
流石に屋敷の中には人が廊下を渡っており、人気が一切ないルートを行くのは無理そうだ。
仕方ない、バレないよう気を付けて進むか。
気配を消し、死角に潜り、目を盗んで先を急ぐ。
こうして廊下を歩いている通行人を掻い潜って鬼の匂いがする部屋へと向かった。
「ッチ、見張りがいるのか」
曲がり角を曲がると、目的地が見えた。
しかしその部屋の前には見張りらしき人物がいる。
邪魔だな。まずはアイツをどかそう。
壁に身を隠して様子を観察しながら、俺はポケットから小さい金具を取り出し、ソレを投げた。
チャリン!
「あん?なんだ?…う!?」
監視の人間が金具を投げた方へと視線を外す。
その隙に俺はソイツの背後に回り、首を絞めて気絶させた。
気を失う前に抵抗しようとはしたが、呼吸の剣士とそうでない人間とでは大金身体能力の差がある。
俺は見張りを難なく気絶させ、序でにポケットから鍵を拝借し、部屋のドアノブを回した。
「あ? 鍵かかってるのかよ」
部屋の中から気配はしないというのに面倒な事をする。
俺は早速盗んだ鍵を使って中に入った。
結構いい部屋だ。
豪華な家具と調度品に彩られている。
良く言えば華やか、悪く言えば成金っぽい。
ただ、鬼の匂いがするのでマイナスポイントの方がデカいけど。
「お、ここ隠れられそうじゃん」
部屋の中で別の扉を見つけた。
クローゼットか物入か何かだろうか。
まあいい、ちょうど身を隠すのに良さそうなので中に入るか。
「ッチ、鍵がかかってやがる」
盗んだ鍵を使ったがダメだ。全部ハズレ。
仕方ない、ここは自分で開けるか。
俺は専用のピッキング道具を出して鍵開けを行った。
この時代の鍵は単純だ。ちょっと勉強したらすぐにマスターできたぜ。
「(……開いた)」
カチッと、鍵を開けた感触が指から伝わる。
ソレを確認した俺は早速中に入り、身を小さくして隠れた。
後は鬼が来るのを待つだけ。
この部屋に入って隙を晒したら直ぐに首を斬って帰ってやる。
実際に鬼殺隊がいるなら、剣技よりもこういった潜入するための技術や鬼の不意を突くための技術などの、暗殺に傾倒したスキルの方が重要な気がする。