とあるヤクザの事務所が火事になった。
放火である。
犯人は二人の男。突然、戸を蹴破って侵入し、中にいたヤクザ者を一人残らず殴り飛ばしたのだ。
いわゆるカチコミというものであろう。
たった二人で百を超えるやくざ者と殴り合い、ソレに勝ったのだ。
まさしく一騎当千の強者。
時代が時代なら武功で名を上げていたであろう。
そんな強者たちは今、やくざ者たちのアジトが燃える様を少し離れた場所から見ていた。
「って、やりすぎだバカがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
天元は火を付けた張本人、八幡の頭を鞘で殴った。
「痛いじゃねえか」
「んなモンどうでもいいわ! ソレよりなんだアレは!? 何でヤクザの事務所燃えてんだ!?」
「俺が燃やしたから」
「そんなこと聞いてんじゃねえよ! 脳みそ爆発してんのか!?」
天元は八幡の胸倉を掴もうとするが、八幡はソレをスルッと回避。
ソレを追う形で天元が手を伸ばし、更に八幡が逃げ、ソレを何度も繰り返す。
完全にどこからどう見ても追いかけっこして遊ぶ二人組の構図である。
「待て待て落ち着け。何も俺は意味もなく犯罪行為をしてるんじゃない。ちゃんと訳があるんだ」
「……一応聞いておく」
一旦追いかけっこを辞めて聞く態勢に入る天元。
「俺が火を付けた理由は簡単だ。鬼をおびき寄せる。あれだけ暴れて火までつけたら、鬼も怒って出て来るだろ? 」
「そりゃ分かるが暴れるだけで良くねえか?火までつけるのは地味にやり過ぎだ」
「いや、これが一番確実なんだ。俺はこのやり方で鬼を効率よく炙り出してきた」
「その結果が問題児扱い何だろうが!!」
天元は頭を押さえた。
この男、大人しそうに見えて結構過激だと。
「もし仮にただのヤクザものだったらどうすんだ!? そうなったらお前はただの放火魔になってたぞ!!」
「いや、ソレは絶対にない。あの屋敷からは鬼の匂いがした。堂々と人前で食事をした匂いがな」
「……まさか、お前は鼻もいいのか?」
天元は再び八幡への評価を上げた。
彼の前職には似たような能力を持つ人間が何人かいた。
もしかしたらコイツもその一人かもしれない。なら、鬼がいたと確信しても何ら不思議ではない……。
「それに、実際にこうしておびき寄せたんだから結果オーライだろ」
「あん?何言って……!!?」
咄嗟に天元は背の日輪刀を引き抜いた。
鬼の気配がする。
いつの間にと思考が反応する前に、天元の身体が反射的に動い……。
「待て。ここじゃ目立つ。一度逃げるぞ」
動く前に、八幡が天元の手を引いてソレを止めた。
「(な!? コイツまた俺に気づかせなかっただっと!? しかも今回は直接触ってるってつうのに!?)」
また接近に気づかなかった。
今度は存在に最初から気づいていたというのに、触されるまで近づいたことに気付かなかったのだ。
この男、やはり只者じゃないと、天元は再び八幡の評価を上げた。
「それじゃあ逃げるぞ。付いて行けるか?」
「あ?何ナマ言ってやがる? 言っとくが俺の足は誰よりも早いぜ?」
「そうか、じゃあ行くぞ」
八幡と天元は同時に駆け出した。
どちらも同じ雷の呼吸による歩法。
両者共に凄まじい速度で町を突っ走る。
「お前、なかなか早いな!」
「お前もな」
天元は足が速い。
彼と並ぶスピードの隊士は今までいなかった。
ソレはこれからもである。そう遠くない未来、柱になってからも天元に並ぶ男は現れない。
只一人、八幡を除いて。
「(この男、派手に面白いな!)」
ニヤリと天元は笑いながら後ろを振り返る。
「待て! 待ちやがれ人間共!」
後ろから鬼が追いかけている。
百足やゲジゲジのように無数の足を生やした異形の鬼。
脚がたくさんあるおかげか、なかなかに速い。
しかし、相手が悪かった。
この二人相手には、どれだけ足を増やしても追いつけない。
「宇随、次の曲がり角で動くぞ」
「おうよ!」
曲がり角を曲がる二人。
壁を蹴って方向転換して、速度を落とすことなく曲がる。
「な!?待ちやがれ!」
【血鬼術―――】
鬼もまた血鬼術によって速度を緩める事なく曲がろうとした瞬間……。
【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】
【音の呼吸 壱の型 轟】
急に方向転換して攻撃してきた二人によって、鬼は首を斬られた。
結局、鬼は走る事以外何もさせてもらえず退場となった。