俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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ちゃうねん、わざとちゃうねん

 

 曇天の空、城の屋根の上。

 刀を構える鬼殺隊の隊士と、一匹の化物が睨み合っていた。

 敵は蜻蛉を無理やり人型に押し込めたかのような姿の鬼。

 剣士は地上から見上げ、鬼は空から見下ろしていた。

 

「ヒャハハッハハ! どうだ、空も飛べず、刀しか武器がねえお前には何も出来ねえだろ!?」

「……クソが」

 

 剣士―――珍しく隊服を着ている八幡は忌々しそうに顔を歪めて敵を見上げる。

 

 鬼の血鬼術は高速飛行。

 急加速、急停止、急転換、ホバリング等、凄まじい精度で上下左右を自在に飛ぶ。

 

 空は彼にとっての安全圏。

 いくらどんなに強い鬼や鬼狩りも空までは追えない。せいぜい地上の上を少し跳ねる程度であり、空高く舞い上がる自分には届く筈がない。

 飛んでしまえばこっちのもの。どれだけ速かろうが飛行する鳥には追い付けないのと同じように、この鬼に速度で敵わない。

 そして、そんな安全圏から一方的に攻撃する。

 これがこの鬼にとって堪らなく快感なのだ。

 

 

【血鬼術 滑空爆殺】

 

【水の呼吸 参の型 流々舞い】

 

 

 六本の足か飛ばされる無数の弾丸を、八幡は水の呼吸による歩法で避けた。

 しかしソレだけ。縦横無尽に跳んで避けるも、反撃のチャンスは一切ない。

 当然であろう、相手は空にいるせいで刀が届かないのだから。

 彼が出来る事は体力が尽きるまで避ける事のみである。

 体力が切れた瞬間、彼の敗北が決まる。

 

「クソが……!? おいよせ!」

 

 突然、八幡がしゃちほこの影に向かって叫ぶ。

 蜻蛉鬼もソレに釣られてそこに目を向けると、何かが動く気配がした。

 なるほど、そこに誰かが隠れて隙を伺っているのかと、蜻蛉鬼は内心ほくそ笑む。

 それならば、この剣士を更に絶望させるために、ソイツからやってやろうじゃないか。

 邪悪な笑みを浮かべながら影の方に向かおうとした途端……。

 

 バンバンバン!

 

「………へ?」

 

 いきなり、爆発音と共に、羽が消え去った。

 何が起きた。

 そう思った瞬間には、眼前に刃が走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーカ、こんな単純なやり方に引っかかりやがって」

 

 鬼の首を斬った俺は、しゃちほこの影に隠しておいた鯉の羽織りを回収した。

 蜻蛉鬼がもう一人隊士が居て隠れていると勘違いしたトリックのタネである。

 いや、トリックなんて大げさなものじゃないか。なにせ俺のやったことって『あ、UFOだ』って感じだからな。

 

 血鬼術を避けている際中にこの羽織を引っかけ、風が吹いて揺れるタイミングで声をかける。

 誰かいると勘違いして振り向いたら御の字、気づいても声に反応すれば隙を晒す筈。

 で、隙を突いて銃を発砲。羽を撃ち抜いて撃墜し、首を狩る。

 

「しっかしこの銃威力強いな」

 

 M29やS&WM500並にデカいリボルバー式二丁銃。

 俺の専属刀鍛冶の甲さんに無理を言って作ってもらったものだ。

 遠距離から攻撃する鬼や、姿を見せない鬼とかを牽制できれば十分なのだが、甲さんが気合を入れ過ぎてこんな風になってしまった。

 無論、銃で鬼は殺せない。どれだけ威力が高くても最後のトドメは日輪刀だ。けど、コレが有ると無いとでは任務の難易度が大きく変わる。

 やはり時代は剣よりも銃。早く日輪銃とか出ないかな……。

 

「まあいいや、早く帰ろう」

 

 さっきまでこんな目立つところで派手に暴れていたのだ。早く帰らねば見つかってしまう。

 そう思って一歩踏み出した途端……。

 

 ビシシッ!

 

「………え?」

 

 不吉な音が俺の足元からした。

 何かに亀裂が入り、一気に広がる音。

 ああ、そういやあの鬼、けっこうこの屋根を破壊していたな……。

 

「うっそおおおん!?」

 

 体重が消える感覚と共に、俺は落下した。

 

 バッシャアアアアン!

 

 着水。

 どうやら下はお湯だったらしい。

 咄嗟に受け身を取り、水の抵抗を利用して落下の勢いを逃がす。

 こちとら呼吸の剣士である。たとえ水が張ってなくても落下の衝撃は受け身だけで相殺出来た。

 と、ソコまで考えて俺は違和感に気づく。

 なんでお湯が張ってあるのかと。

 

「ここってもしかして……」

 

 現状を把握しかけていると、また別のことに気づいた。

 俺が落ちた天井から、破片が落ちてきている。

 ソレを合図に今度は塊が少女の頭に……。

 

「(まずい!)」

 

 反射的に俺の身体が動く。

 雷の呼吸で加速し、少女を抱えて離脱。

 背後から落下して粉々になる瓦の音をBGMにして、ゆっくりと少女を降ろした。

 

「怪我は……!!?」

 

 そして、俺はここで気づいた。気づいてしまった……。

 

「あ…あう………」

 

 その少女が裸だったと……この場が風呂だったことに。

 

「「「きゃあああああああああああ!!?」」」

 

 無数の甲高い声が、浴場内に反響した。

 風呂桶や椅子がほぼ同時に投げられる。

 

「クソが!」

 

 俺は慌てて浴場を飛び出し、脱衣場を通り抜ける。

 その道中、脱ぎ掛けの女性とか、全裸の女性とかいた気がするが、気のせいだぜ!

 

「誰か捕まえて!」

「逃がしちゃだめよ!」

「警察よ!あと警備さんも!」

 

 抜けだした俺をまだ服を着ていた女性たちが追いかけるが、俺に全く追いつかない。

 こちとら全集中の呼吸を、しかもその中でも最速の雷の呼吸を習得しているのだ。手弱女を振り切るなんて造作もない。

 

「いたぞ! 覗き魔だ!」

 

 警備員が刺股らしきものを持って向かってきた。

 おいおい、準備いいじゃねえか。それとも、そんなものを普段から持ってるのか?

 

「「「な!?」」」

 

 俺はその集団を飛び越えた。

 途中、壁を蹴って更に飛距離を稼ぎ、スタッと着地。呆けてこちらを見ている警備員たちを無視して窓から飛び降りる……と見せかけて下の階に入った。

 窓にある雨よけを掴み、身体を撓らせて偶然開いていた窓から入る。まあ、開いて無くても割って入ってたが。

 

「きゃあああああああああああ!!?」

 

 今度は、更衣室だった。

 

「クソが!どうなってんだよ!?」

 

 俺は叫びながらその場を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハッハッハッハ! 今回も派手に事件起こしやがったな!」

 

 任務を終えて藤の家に向かうと、宇随の野郎が早速馬鹿笑いして俺を莫迦にしてきた。

 

「……テメエ、他人事だと思って楽しんでるだろ?」

「悪い悪い。けどこんな愉快な話、なかなかねえだろ?」

 

 宇随は投げられた新聞の内容を見て俺は顔を顰めた。

 

「……神出鬼没・忍のごとき変態、か」

 

 俺の事らしいが、弁明させていただきたい。アレは事故だと。

 

「風呂と更衣を覗いて公然わいせつ。しかもどさくさに紛れて逃亡中にわいせつ行為を繰り返した。……貴様、女の敵だな」

「全部事故だ!」

 

 イヤ、本当に勘弁してほしい。

 俺は別に悪気があってやったわけではない。

 全ては事故。事故によってToloveるってしまっただけなのだ。

 俺もビックリである。漫画やラノベでラッキースケベを見る度に『いや、そうはならんやろ』って思ったのが現実に起きるなんて。

 

「嘘つけ。腹立たしいが、貴様は俺と同等以上の忍力が派手にあるんだ。そんな失敗するわけがないだろうが」

「何を根拠に言ってんだ。俺はうだつがあがらない一般隊士だぞ」

 

 ていうか忍力って何だよ。新しい言葉を作るな。

 

「根拠ならあるぞ。貴様と何度共同任務を地味にしていと思っている? 力量は十分分かっているさ。後、金がないのはお前が何やら神隠しについて調べているからだろ」

「……知ってたのかよ」

 

 言った覚えはないんだけど、なんで知ってるんだ?

 

「もういいだろ。明日の任務に備えて寝るぞ」

「あ、地味に逃げやがったな」

 





はい、今回は珍しく八幡が失敗した話です。
彼も人間なのですから華々しく活躍するだけでなく、こういった間抜けなエピソードも必要かと思いまして。
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