とある真夜中の森林、一人の鬼殺隊と一体の鬼が距離取って睨み合っていた。
大分離れている。大体五十mといったところか。
背中に鯉を描いた羽織を着ている、腐った目をしている鬼殺隊、比企谷八幡。
頭巾をかぶった翁の姿をしたる鬼、笛鬼。
八幡は刀を、笛鬼は笛を手に持つ。
「(バカめ、あのまま儂の首を刎ねていれば勝てたものを)」
ニヤリと、内心ほくそ笑む鬼。
彼は今、勝利を確信していた。
最初、不意打ちされた際は死を覚悟したが、失敗してくれたおかげで鬼は助かった。
奇襲の途中で、八幡は急きょ人命救助を優先してしまった。
笛鬼は別の隊士と戦っており、分身である魔犬を使って今まさにトドメを刺そうとしていたのだ。
よって八幡はターゲットを笛鬼から魔犬に急遽変更。一瞬で全ての魔犬を全て切り伏せた。
こうして、八幡は鬼との正面対決に引きずり込まれてしまったのだった。
「(……こりゃマズいな)」
八幡は倒れている隊士二人を背にして苦笑いを浮かべた。
敵を見るに、笛を媒体とした血鬼術を使う鬼。
おそらく笛を吹かれた瞬間に勝敗が決まる。
その予想は当たっていた。
鬼の血鬼術は状態異常。彼の笛の音色を聞いた途端、聴足を動かそうと思えば頭が動き、手を動かそうと思えば足が動くといった具合になる。
術によって体が上手く動かず狼狽している間に分身である犬を生み出し、噛み殺させる。そうやって彼は鬼殺隊を返り討ちにしてきた。
実に理不尽な術。人間が日々重ねてきた鍛錬して付けた剣技を、笛の音一つで無駄に出来るのだ。
だが、鬼と戦うという事はこういうものなのである。
「(死ね、鬼狩り! 儂が十二鬼月になるために死ね!)」
笛鬼が笛を吹こうとした途端……
バンバンバン!
鬼殺隊は腰のホルスターから銃を引き抜き、笛鬼に連射した。
放たれた銃弾は鬼の両手に命中。笛と両手を粉砕してみせた。
「な!?」
銃声と銃の威力に驚いて反応が遅れる笛鬼。
その隙に目の腐った隊士は刀を鞘に納め……
【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】
一気に距離を詰め、鬼の首を取った。
一体いつから、俺の武器が刀だけだと錯覚していた?
イヤ~、銃があると本当に便利だわ。
強敵相手だったり一回失敗したら使えないけど、まあまあの相手だったら初見殺しとして役に立ってくれる。
リボルバー式なので計十二発撃ったら装填しなくちゃいけないが、遠距離攻撃手段がない人間側にとってはかなり強い武器である。
今度は爆弾とかも欲しいな。甲さん作ってくれるかな?
「おいおい、もう派手に倒しちまったのか?」
茂みから音も立てずに宇随が飛び出した。
「遅いぞ宇随。何やってたんだ」
「お前が地味に速いだけだろ。鬼の匂いがするとか意味分からねえことほざきやがって」
本来、この鬼は俺たちが倒す獲物ではなかった。
他の隊士達が相手していたのだが、鬼の匂いを感知した俺が急きょ参戦。で、倒して今に当たる。
「隠の手配はしておいた。直に手当て班が来るだろう」
「そうか」
倒れている隊士達に目を向ける。
けっこうな重傷だ。
胴体や頭部は軽傷だが、手足はけっこう噛まれまくっている。
食いちぎられた箇所がないのが幸いだが、こりゃしばらくは入院だな。
「………」
「比企谷、お前は最善を尽くした。だからお前が思いつめる必要はねえ」
「いや、そういうんじゃねえよ……」
別に、俺は誰かを助けるために鬼殺隊に入ったわけじゃない。
自分の目的のためにやっているだけであって、正直言ってしまえば他人のことなんてどうでもいい。
ただ、目の前で死なれたら気分が悪いから助ける。その程度の認識だから無理して誰かを助ける気は毛頭ない。
けど、何でだろうか。もっと早く来ていればと後悔する俺がいるような気がする。
「(……いや、今は自分の任務に集中するべきか)」
下らないことを考えているウチに、俺がここで出来る手当は完了した。
普段ならもっとかかるが、宇随が手伝ったおかげで早く終わった。
「あ…りが、と……」
「……」
俺はその言葉を背にしてさっさとその場を去った。
「あの野郎、本当にひねくれてやがるな。素直にそうだって言えばいいのによ……」
とある真夜中の山道、天元は一人で歩いていた。
八幡はこの場にいない。途中ではぐれてしまった。よって、こうして八幡を置いて先に目的地へと向かっている。
天元から見て八幡は有能な鬼殺隊員だった。
他の隊士と比べて士気は低いが、剣の腕と戦いの技術は十分にある。
剣技だけでなく、潜入や尾行や変装、更には鍵開け等の任務に必要或いは優位に進める技術を持っている。
特に気配の消し方や逃げ方が上手い。たとえ騒ぎを起こしても捕まることなく逃げ、任務を遂行している。
難易度の高い任務でも達成して生還し、無茶だと分かれば情報だけ持ち帰って撤退。また次の任務へと向かう。
組織としてはこれ以上にない逸材である。
たとえ鬼を殺せたとしても、怪我すればしばらく任務は出来ない。その分の空きを他の隊士が埋めざるを得ない。
たとえ鬼を殺せたとしても、警察や一般人にやくざ者や犯罪者と疑われて捕まってしまえば任務を遂行できない。
たとえ鬼を殺せたとしても、死んでしまえばもう終わり。ただでさえ少ない戦力が無くなり、その鬼の情報もないまま別の隊士を派遣しなくてはならない。
その点、八幡は問題ない。
怪我をしないから毎日働ける、上手く堅気に溶け込んで怪しまれない、騒ぎを起こしても独力で逃げれる、無茶をせず情報を持ってきて応援を要請する。
鬼に対して憎しみを抱いてないせいで士気こそ低いが、そのおかげで必要以上に鬼狩りに拘ることが少ない。そのせいで他の隊士と反りが合わない事もあるが。
とまあ、これが天元から見た隊士としての八幡である。
では、人間としてどうなのかと、一言で言うなら捻くれたガキである。
今回だってそうである。倒れた隊士が心配ならそう言えばいいのに、さも自分が何も思ってないかのような態度を取る。
こういった事は今回だけじゃない。別の任務でも鬼に食われて手遅れになった犠牲者を見ても『人が獣を食うように鬼もそうしているから仕方ない』といった態度を取る。
確かに言っていることは正しいのだが、そうじゃないだろうと天元はいつも思っていた。
「(何時に成ったら心の鎖国を解くんだ)……!!?」
突如、天元は考え事を中断して横に跳んだ。
その時だった……。
【血鬼術 遠射】
突如、天元の脳天目掛け飛んできた弾丸。
天元は咄嗟に身体を捻って回避。
意識したわけではない。条件反射のようなものである。
死角から放たれた弾丸は、天元の左肩付近を視認不可能な速度で突き抜けた。
「(クソ! 鬼の血鬼術か!?)」
日輪刀を背中から引き抜き、弾丸が飛んできた方角に目を向ける。
鬼の気配がする。
遠くて視認こそ出来ないが、鬼の存在を感じ取る事は出来た。
【血鬼術 散射】
次の血鬼術が放たれた。
弾丸は真っすぐ天元に向かうかと思いきや、突如爆散。無数の散弾をばら撒いた。
「(これは響斬無間でも無理だ!)」
天元の反応は速い。
刀を斜めに構えて弾丸をやり過ごしながら、射程内から逃げ去る。
【血鬼術 貫射・三連】
正確に発射される銃弾。
一発目は横へ跳んで回避。弾丸は後ろの地面を穿ちながら土煙をまき散らした。
二発目は体を無理やり捻って避ける。弾が天元の肩を掠め、ジュッと焼いた。
三発目は自身の技を使って受け止める。
【音の呼吸 壱ノ型 轟】
同時にぶつかる互いの攻撃。
爆発によって威力を増した剣戟は、巨大な銃弾を弾き飛ばす。
だが、そのせいで天元は足を止めてしまい、大きな隙を晒してしまった。
「(!? マズい!)」
一瞬焦るも天元の行動は速い。
空中でありながらすぐさま迎撃行動の体勢を取る。
【血鬼術 連射】
【音の呼吸 肆ノ型 響斬無間】
鎖を使って二刀を高速で振り回し、前方に壁の如く斬撃と爆発を発生させる。
踏ん張りが効かず、威力は半減された状態でありながら天元は全ての弾丸を……。
「ぐあッ!?」
防げなかった。
弾丸がいくらか掠る。
脇腹、太もも、両肩。
直撃は避けたものの、ダメージは負った。
「(ちくしょうが! こんな時にあのバカは何処だ!?)」
天元はこの場にいない八幡を心の中で怒鳴りながら、傷を庇って茂みの中に飛び入る。
その瞬間であった……。
【雷の呼吸 壱の型・崩し 轟雷】
落雷のような音が、弾丸が発せられた音から響いた。
この八幡は早撃ちが得意です。
鬼狩りをスムーズに行うために覚えました。
相手が血鬼術を使う前に牽制し、隙を作って霹靂一閃します。
鬼に対して少しでもアドバンテージを手に入れる為、外にも色々央覚えてます。