「不意打ち、でありますか」
「………ッチ」
鬼―――銃鬼に刀を向けた八幡は不意打ちが失敗したことに舌打ちした。
銃鬼は武器である銃を楯にして防がれたのだ。
そのせいで銃は壊れたが、おかげで首の皮壱枚繋がった。
ソレに、銃は一つではない。いくらでもある。
【血鬼術 散射】
懐から拳銃を取り出し、八幡目掛けて発砲した。
視覚外からの、完全に不意を突いた一撃。
通常なら対応不可能。そう、普通なら。
【風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹】
咄嗟に八幡は迎撃行動へと移った。
周囲、特に自身の眼前を暴風の如く激しく連続で刀を振るう。
剣筋は壁となって八幡をまき散らされる銃弾の脅威を吹き飛ばした。
「(奇襲への対応が早い! これは風の呼吸でありますか だが……!)」
ニタリと、銃鬼が笑う。
次の瞬間、吹き飛ばした筈の銃弾が爆発。
爆風と土煙によって砂塵の煙幕が発生し、二人の姿を隠した。
「(クソ、銃弾に爆発機能付いたのか。……こりゃ前回よりも強くなってるな)」
爆発の中、八幡は冷静に相手を分析した。
眼前の鬼は明らかに以前よりも力を上げている。
銃の生成速度に血鬼術の発動速度、血鬼術の威力と規模、そして爆発機能といった新しい能力。
腕を上げたのは自分だけではなく、この鬼も同様……いや、鬼の方がよほどレベルアップしている。
「こりゃ今日は無傷じゃ済まさそう……!!?」
【血鬼術 乱射】
土埃が晴れかけた瞬間、八幡がいるであろう箇所に血鬼術が乱射された。
何も正確に八幡を狙う必要はない。
大まかに撃ってどれか一つでも当たれば爆破して勝ちなのだから。
【水の呼吸 参ノ型 流流舞い】
八幡は独特の歩法でそれらを回避した。
水流の如く流れるような足運びを駆使。
敵の攻撃を躱し、爆破の範囲から逃れ、翻弄させながら、敵の隙を狙う。
「(なに!? 真(間)を置かずに呼吸を変えた!? どうやら強くなったのは向こうも同じようでありますな。だが、所詮は人間!)」
【雷の呼吸 肆ノ型 遠雷】
【血鬼術 貫弾】
同時。
刀と弾がぶつかり、互いに弾き合う。
結果、八幡は空中で体勢を崩し、隙を晒す事になった。
「(ヤバッ!?)」
「遅い!貰ったであります!」
隙だらけになった八幡に銃口を向け……。
【螟ゥ縺ョ呼吸 髮イ縺ョ型 謨」繧企峇】
発砲した瞬間、八幡は未知の呼吸を使って回避してみせた。
弾丸を刀で受け流し、その分の勢いを利用。
更に、爆発の勢いに乗って接近した。
「(な!?)」
八幡の行動に驚愕し、動きを止める銃鬼。
その隙に八幡は刀を掲げて……。
【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】
鬼の首を刎ねた。
「(吾輩は…死ぬので、ありますか……)」
首だけで夜空を舞いながら、銃鬼は己の死を実感していた。
死。
生物なら当然に忌避するもの。
しかし何故だろうか。
死を突き付けられても銃鬼は恐怖を感じなかった。
むしろその逆。何処か安らかさを感じる。
「(ああ、吾輩は……コレを求めて、いたのか……)」
ぽつぽつと、過去の記憶が浮かんでくる。
思い出した。自分は偶々出会ったあの男によって死を奪われたという事に。
『ほう、己の手で命を断とうというのか。要らぬというのならせめて私の役に立ってもらおうか』
それから、彼は悪行を重ねて来た。
今まで背負ってきたものを忘れて、彼は再び手を汚してきた。
けど、今やっと、その呪縛からも……今までの罪からも解放される。
―――少尉、もう貴方は十分です。
―――行きましょう。皆、少尉を待っております。
今は亡き筈の戦友たちの元へ、鬼だった男は向かっていく。
そして、ここから消えて旅立つ間際に、鬼は介錯をしてくれた少年に敬礼をした。
「………」
少年もまた、男に敬礼を返していた。
「あんた、軍人だったんだな」
俺は鬼の落とした軍帽を拾う。
けっこうボロボロだが、古い匂いはしない。
おそらく、そう長く使っていたものではないのだろう。
「じゃあ、けっこう若い鬼だったんだな……」
最初に戦った鬼、あの蛇みたいな鬼は百年以上生きていたが、この銃を使う鬼は明らかにソイツより強かった。
元軍人だったから他の鬼より強かったのか、それとも元軍人だから強くなろうと努力したのか。
けど、同時に強くなるため多くの人間を殺したことになる。許すことは出来ない。
「(……許す、か。何偉そうなことを考えてるんだ俺は)」
何を許そうと言うのか。
鬼だって俺たちと同じ。
生きる為に、自分の目的のために相手の命を奪っている。
そこに何の違いがあるのか。人間が今までしていることをしているだけである。
俺は鬼を許さないとかそんな思いはない。
自分のために戦い、自分のために殺す。
誰かの為とか、そんな言い訳はしない。
だから、俺を殺したとしても、別に責めるつもりはない。
「………痛ぇ」
俺は身体中の痛みを抑えてその場に座り込む。
鬼の銃撃と爆発の威力を流し切れなかった。
こりゃ骨や内臓までダメージ行ったな。
「(普通……そうか)」
考えてみれば当然の話。
普通は銃弾や爆発とかを体術で流せるわけがない。
鬼やら血鬼術やら全集中の呼吸やらで忘れていたが、今の俺は元の世界じゃ考えられない程に強い。
家屋を楽々と飛び越え、天井や壁を自在に走り回り、バイク並みの速度で走り、岩を刀で切れる力を持っている。
ハッキリ言って化物である。
天敵である鬼と比べたら全然だが、人間から見れば俺たち鬼殺隊も化物染みた強さに変わりない。そりゃ世間に認められないわ。
ハハッ。俺、元の世界に戻ったらちゃんと人間やれるかな?
「……で、やっとお前ら来たのかよ?」
振り返ると、宇随とは別の鬼殺隊員がいた。
本来、この鬼を狩る筈だったメンバーである。
「なんだ、もう鬼は殺したのか?」
「ああ、俺がさっき倒した」
鞘を杖にして立ち上がる。
けっこう痛いが、まだマシだ。
この仕事始めてから負傷することは多々あるが、そんなものは鬼殺隊なら誰でも経験してる。
しかも俺はまだ軽い方。長期の入院をするような怪我は勿論、次の任務に支障が出るような傷すら負ったことはない。
こんなものはすぐに治る。だからさっさと藤の家に行ってダメージを回復させよう……。
「お、これって鬼の服か? なんで軍服なんだ?」
「ん? ああ、そうだ。あの鬼は元軍人で…」
俺が答える前に、その鬼殺隊は軍服を踏みやがった。
「………おい」
俺は、ソレを止めるためにソイツの肩に手を置いた。
・銃鬼
陸軍の少尉だった鬼。
元は部下想いの温厚な人物であり、自身の命令によって自軍にも相手軍にも一般人にも犠牲が出る戦場に耐えきれずptsdに陥った。
帰国後、自殺しようとしたところを無惨に出会い鬼と化す。
生前の軍人の性か、無惨の命令を任務として捉え、忠実にこなしてきた。
下弦の中位ぐらいの実力。