俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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姉妹ケンカ

 

「なんで分かってくれないの!?」

「ソレはこっちの台詞よ!」

 

 病院の廊下を渡っていると、突然怒声が聞こえた。

 聞こえた先は俺の通りたい通路であり、しかも片方は知り合い声だ。

 さて、どうしたものか……。

 

「(よし、行くか)」

 

 俺は無視して通り過ぎることにした。

 気配を消すのは得意だ。たとえ同じ鬼殺隊でも、上級隊士以上でもない限り誤魔化せる。

 

「(あ、胡蝶姉妹だ)」

 

 ケンカしているのは胡蝶カナエと胡蝶しのぶだった。

 カナエの方は義勇や錆兎と同期なので顔見知りだが、妹の方はあまり話したことない。

 そんな俺が割って入って仲裁するなど烏滸がましい。ここは見なかったことにしてさっさと去ろう。

 

「うるさい!」

 

 しのぶの怒鳴り声が廊下に響き渡った。

 悲観と怒りが籠った声。

 驚き呆然とするカナエ。

 しのぶは気にせず更に喚き散らかす。 

 

「どうして姉さんも認めてくれないの!? 他の皆もそう、鬼を殺せる毒を作ったのに、首を斬った方が早いって笑っている!姉さんも、同じなんでしょ!?」

「ち、違うわしのぶ! 私はそんなこと…」

「うるさい!! お前には鬼の頸は斬れないって言われた私の気持ちが姉さんには分からないの!! やっと、やっと手に入れたのに……!!」

「しのぶ!?」

 

 カナエを振り払い、しのぶは一目散に走り去った。

 一筋の涙が廊下の床に零れ落ち、その場を静寂が支配する。

 

「……どう、して?」

 

 追いかけようとするカナエだが、その脚は動かなかった。

 力が抜けたようにその場にへたり込む。

 どうやら、相当に堪えたようだ。

 

「追いかけないのか?」

「!?」

 

 俺が声をかけた途端、カナエは驚いた様子で振り返った。

 まあ、気配消してたから当然の反応か。

 

「ひ、比企谷…さん?」

「俺はしのぶを追うが、お前はどうする?」

「そ、それは……」

 

 カナエが行くべきであることは彼女自身理解している筈だ。

 だが、さっきまで喧嘩していたのだ。追いかけても聞く耳を持たないだろう。

 

「カナエ、今のしのぶと話すのが怖いのなら、お前は隠れて居ろ」

「比企谷さん……」

 

 カナエは数秒程悩んでを数秒して決断した。

 

「分かったわ。けど、少しだけしのぶと話してもらっていいかな?話を聞くだけでもいいから」

「……期待はするな」

 

 大の苦手分野に俺は顔を顰める。

 クソ、厄介なことを押し付けられたな。

 

 

 しのぶはすぐに見つかった。

 どうやらあの後、我に返ったのだろう。

 屋敷を出て少し離れた道路の脇で、膝を抱えて座り込んでいた。

 

 忍を見つけたと同時、俺はカナエに目線で下がるよう伝える。

 敢えて気配を普段より出して近寄り、しのぶに声をかける。

 

「……なんですか? 比企谷さん」

「お前、鬼殺す毒作ったんだけど効果あんまりないんだってな?」

「あ”!?」

 

 俺は敢えてしのぶを挑発した。

 目論見通りしのぶは怒りをみせ、俺に詰め寄る。

 

「どうした怒ったか?ならかかってこいよ」

 

 しのぶの憎しみを解消する手段の一つとして、時間をかけて話すより手っ取り早い方法を取ることにした。

 

「このっ!」

 

 しのぶが俺にビンタする。

 俺はそれを避けずに受け止めた。

 ぶっちゃけ痛くない。威力を反射的に流したせいだ。

 

 俺が避けずに受けたことで、しのぶが少し動揺した。

 

「どうした?もっとやってもいいんだぜ?それとも、お前の怒りと屈辱はその程度か?」

「!? バカにするな!!」

 

 一瞬困惑した様子を見せるも、怒りがそれを上回ったようだ。

 次は拳を打ってきた。それも避けずに受け、威力だけ流す。

 

 俺がビクともしないのを見て、次は腹に蹴りをやってきた。だが、それがどうしたという態度を貫き通す。

 そのまま次々と殴る蹴るをするが、全てをこの身一つで受け入れる。流石に全てを流し切れず若干ダメージを受ける。

 人間の攻撃を受け流せないなんて、俺もまだまだのようだ。そういう点ではこのやり方はいい練習になるかもしれない。

 

 俺の取った手段はしのぶを好き勝手に暴れさせることだった。

 怒ってる時に正論で説得した所で怒りは静まらない。むしろ火に油を注ぐケースにもなる。

 手っ取り早く落ち着かせるには、思う存分に暴れさせ、スッキリさせると同時に疲れさせてやるのが一番だ。

 そのまま何度も攻撃を受ける。俺の方もしのぶの攻撃に適応していき、遂に全てを流せるようになった。流石は俺だな。

 

 そうやってしのぶの怒りをしばらく受け入れていくと、突然しのぶの攻撃が止まった。どうやら疲れたようだ。

 

「満足したか?」

「………」

 

 しのぶはどう答えたらいいか困ったように身じろいている。

 

 よし、コレでしのぶは大分すっきりしたはずだ。

 無論、根柢の憎しみは完全に消えていないだろうが、暴れるだけ暴れた今、先程までの怒りは大分薄れてきている筈。

 まあ、少なくとも、カナエが来てもまた喧嘩するようなパワーはないだろう。

 

「今からカナエが来る。……会えるか?」

 

 さて、どうする? と、声をかける。

 しのぶは考えていた。じっくり考えていた。考えた結果、ゆっくりと頷いた。戻る事を選んでくれたようだ。

 

「それじゃあ戻る……!!?」

 

 ピクリと、俺の鼻が反応する。

 ああクソ。なんでこうもイヤなタイミングで来るのか……。

 

「比企谷さん」

「ああ、カナエか。お前も気づいてるみたいだな」

 

 日中だが今は曇り。

 太陽の光が届かないなら、そりゃ動けるか。 

 

「鬼がいる。構えるぞ」

 

 とはいっても、俺はカナエに任せるつもりである。

 謹慎を食らってる今、俺は日輪刀を持ってない。

 戦えるのは刀を持ってるカナエだけである。

 

「そ、それが……今ね、日輪刀、ないの。置いて、ちゃった……」

「………マジ?」

 

 てへっと、可愛らしい仕草をするが、全然誤魔化しきれてないぞ。

 




八幡は胡蝶姉妹を下の名前で呼びます。
というのも、本人たちから苗字ではどっちか分からないと言われて渋々呼ぶようになりました。
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