モンスターや現地の人間を殺し、異能や魔法で敵を殺し、闘争と殺しを憶え、殺す事に適応した転移者。
そんな人間が元の世界でちゃんと元の生活に戻れるんですかね。
「ああクソ。かなり油断した……」
分身共を出し抜いた後、俺は木から木へと飛び移って移動していた。
俺なら音を立てるどころか、振動すら発生させずに飛び移れる。
「(しかし思っていた以上に多く分身体を作れるようだな。おかげで手間取ったぜ)」
本音を言えば最初から抜け出したかったのだが、流石にあの数相手に死角を取るのは難しい。だから、数を減らして自分から敵の死角を拡げる必要があった。
けっこう手間取った。こりゃもうしばらく続きそうだな。
だが、おかげで収穫もあった。
俺の識別能力が上がったのだ。
分身共と戦っていくうちに、分身の中でも強さや気配の違いに気づき、理解出来るようになったのだ。
おかげで本体の位置も分かった。今は本体の元へ向かっている。
こういったことは何度かあった。
鬼との戦闘を通して何かを掴み、何かが成長してきた。
コレがけっこう楽しいのだ。
相変わらずこの仕事はブラックだ。
給料は良いが傷は絶えないし、休みは全然だし、いつ死ぬか分からない。
だけど、その中で一つ楽しみを見出した。
出来ることが多く成る事と強く成る事だ。
この仕事を通して出来ることは多くあった。
剣術、潜入、変装、パルクール、銃の扱い、枚挙に暇はない。
中学の頃は憧れていても出来なかった数々の技術が、今では息をするかのように出来るのだ。
楽しくないはずが無い。
俺自身の強さだってそうだ。
全集中の呼吸という、俺の居た世界にはない技術。
この力で様々な鬼と戦い、様々な血鬼術を撃ち破ってきた。
その度に、漫画やラノベの主人公にでもなったかのような気分になった。
全集中という特別な力、鬼という特別な存在を打ち倒す力。
漫画やラノベの主人公にでもなったかのような気分だった。
鬼を殺す事に罪悪感や後味の悪さを感じる事はある。
けど、ソレとは別に沸き立つ何かがあるのは事実だ。
様々な技を習得し、任務を通して技術を磨く度に。
鍛錬を積み重ね、鬼との戦闘を通して強くなる度に。
俺は達成感のようなもを感じるようになった。
「……いや、今はそんな事を考えるべきじゃないか」
頭を振り払って余計な考えを吹っ飛ばす。
溺れるな。
この世界じゃ、憎しみや快楽に支配された者が先に死んで逝く。
俺はまだ死ぬわけにはいかない。
帰って小町に会うんだろ。
目的と手段をはき違えるんじゃない。
「……アイツか」
そんなことを考えてると、目標の気配がしてきた。
それじゃあ、仕事するか。
真夜中のとある谷とその上の森。
そこで鬼と八幡が激戦を繰り広げていた。
鬼の名は蟻鬼。
上半身は老年の女性と蟻を無理やり融合させたような姿で、下半身は巨大な岩のようになっている。
岩のような腹からは蟻と人間を無理やり融合させたような姿の分身が産み出され、八幡に向かっている。
【水の呼吸 参ノ型 流流舞い】
谷の壁を利用して飛び回り、敵を翻弄させる。
すれ違いざまに、敵の死角に潜り込んで次々と切り裂いていった。
【風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪】
木の幹や枝などに鎖を撒きつけてワイヤーアクション。
三次元的な動きをしながら広範囲を回転して斬り付ける。
【雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃】
凄まじい速度で女王蟻鬼の下半身を駆け上がる。
その道中、次々と邪魔な分身体を切り捨てていった。
ハッキリ言って、この鬼は相手にならなかった。
どれだけ数を揃えようと、八幡を倒すには足りない。
いや、数でどうこう出来る問題ではなかった。
この戦いを通して、八幡が複数での戦いと、鎖の扱いに慣れてしまった。
蟻鬼との戦闘を通して、八幡は最善の戦い方を編み出してしまったのだ。
最初はぎこちなさがあったのだが、ソレが今ではなくなっている。
大勢敵がいる中、八幡はスムーズに大立ち回りしていた。
まるで、最初から脚本で決まっているかのように。
「こんな小童に……負け…」
【螟ゥ縺ョ呼吸 ⚡型】
スパン!
八幡が女王蟻鬼の首を斬り落とす。
「キヒッ……!」
獰猛な笑みを浮かべながら……。
今回の任務や銃鬼の任務で使った文字化けの技。
その正体は後程に出します。
あと、皆さん気づいてると思いますが、今の八幡の精神状態はけっこうヤバいです。
そりゃ鬼狩りなんて異常な職場にいたら、狂人か強靭な心の人間しか正気を保ってられません。
八幡が狂人になるのか、それとも強靭な精神を得るのか、それともどちらでもないか。
それは後のお楽しみに。