ソロキャンプ
【螟ゥ縺ョ呼吸 髮イ縺ョ型 謨」繧企峇】
「……上手くいかねえな」
任務終わりの休日。
俺は藤の家で技の練習を行っていた。
霹靂一閃で岩に突進し、未完成の技を使うが、やはり成功しない。
衝突した勢いの何割かは分散出来たが、ダメージ全てを流すことは出来なかった。
この技は衝撃を流す技であり、全方向からの攻撃にも対応出来る……と、思う。
まだ名前も呼吸の系統も不明の技なので断言出来ないのだ。
どの系統にも属さない未知の技。
五大呼吸から派生したオリジナル呼吸を使う隊士はそれなりにいるが、この呼吸はそれとも違う。
独自の呼吸として成立させるためには何かが足りない。
その何かが分からないのだ。
おかしな話だ。この技は俺が編み出したというのに、何がダメで何が足りないのか全然分からない。
だが、これが完成すれば、俺は劇的に強くなる。ソレだけは分かっている。
銃鬼との戦いで一度だけ使ったが、あの時は技も呼吸も不完全なため中途半端な結果に終わった。
だが、その中途半端でも十分に強力であった。
この技だけではない。
攻撃技、防御技、歩法、等々。
他にも未完成の技はまだまだある。
こいつ等を完成させ、組み合わせる事が出来たら俺はどれだけ強く成れるか……。
「鍛錬中に悪いが任務だ八幡」
「あ?もうかよ」
折角珍しく時間が空いたから練習してたのに。
那田蜘蛛山。
一見すれば普通の山と変わりない。
しかし、ここ最近はとある事件のせいで忌避されていた。
惨殺事件。
野犬か盗賊の仕業か。
むごい死体が出たせいで近隣の住民はおろか、狩りのシーズンであるというのに猟師すら山に近寄らない。
そんなやまに今、一人の人間が日中とはいえ入ろうとしていた。
「へー、ここがそうか」
比企谷八幡。
この山の調査を命じられた鬼殺隊員である。
今夜、彼は他の隊士達と合同任務でこの山に入る予定だったのだが……。
「おい八幡、今回の任務は今夜なのに何一人で勝手に山へ入っている?」
「うっせえ。八雲、こんな任務を素直に聞けるか?」
こういう事である。
八幡は合同任務の際、よく独断行動を取る。
合同任務の相手が自分の実力と合ってない。
そもそも、任務の前提条件が気にくわない。
独断行動を取る理由は大体この二つである。
「誰がこんな指令聞くか。無視だ無視」
今回は任務の内容が気に入らなかったらしい。
では、何がそんなに気にくわないのか。それは……。
「ゾロゾロ大人数で鬼のテリトリー内、しかも鬼の時間に入るかよ。そんなの向こうから餌にしてくださいって言ってるようなモンだぞ」
こういうことである。
まだ入隊したての頃、鬼殺隊の合同任務がどんな有り様なのかを知らず真面目に受けた際、彼はひどい目に遭った。
鬼の正確な潜伏先も調査済みだというのに、バカ正直に夜中になって突入し、バカ正直に真正面で戦って負傷した。
隊列も作戦もクソもない。ただ闇雲に突撃するだけ。
これでは何のための合同任務か分かったものではない。
おかげで部隊は大ダメージ。大半の者たちが病院送りになった。
まあ、八幡は下がって様子を伺い、隙を見て首を取ったので、コレといったダメージは受けなかっが。
しかし、それでも。もしその部隊なしに八幡だけで任務を行っても、まず失敗することはなかった。
というか、あの任務で八幡がいなければ、部隊は全滅していた。
あの任務を通じて八幡はこう思った。『俺はもうこいつ等と合同任務しねえ』と。
「折角敵の潜伏先が分かってるんだ。日中に忍び込んで先手を取る。山の中なら隠れ場所も多い。じっくりやってやるさ」
八幡は山の半ばまで登ると、木に飛び移り、その場で息を潜める。
鬼に気づかれる事無く山に入り、隠れ場所も確保出来た。
鬼の正確な居場所は把握出来なかったがもう十分。
下手にうろうろして跡を残すより断然マシである。
「夜になったら動く。それまでここで待機だ」
目を瞑って意識を集中させる。
狩人の夜はこれからだ。
「誰か入って来た」
山の中にある廃屋。
障子はボロボロ、壁も穴が空いて夜風が入り放題。
最早家として機能してないような場所に、九体の鬼が崩れそうな床の上に座っていた。
「また鬼狩りか。……性懲りもなく鬱陶しいよ」
九体の鬼の内の一体。中央に座っている幼い外見の鬼。
彼の名は累。この鬼達の中で最も強い鬼である。
塁はため息を付きながら周囲の鬼に視線をやる。
「ちょっとみんな、見てきてよ」
「え、でも……」
グラマラスな女性の姿をした鬼が反論した途端、その首がゴトリと落ちた。
「僕が見てきてって言ってるのに、歯向かうかな? 母親ならちゃんと僕と家族を心配してよ」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
母親は切り落とされた首を抱えてしの場を飛び出した。
「……何見てるの? 皆も行くんだよ」
日が沈んだ那田蜘蛛山。
獣道ですらない場を一体の鬼が歩いていた。
一見すれば可憐な少女の姿。
しかし、その異様に青白い顔と纏う雰囲気が鬼であると物語っている。
鬼は苛立っていた。
鬼狩りではなく累に対して。
下らない家族ごっこに興じているアイツに対して。
何故、自分があんなガキに顎で使わらなくてはならない。
普通は逆だ。強いアイツが侵入した鬼狩りを倒すべきだ。
しかし、そのことを口だけでなく態度にも出す事はなかった。
今まで累の家族ごっこを演じさせられてきた鬼の中で、命令に従わない者や役を演じられない者は累の手で処分されてきた。
切り刻まれたり、知性を奪われたり、日光で焼き殺されるなどして。
この山では累が支配者。家族とは下僕であり玩具のようなもの。
ここに居続ける限り、累の支配からは逃れられない。
では、外に出るか。ソレもあり得ない。
逃げた先に何がある。
仮に、脱走に成功したところで、今度は鬼殺隊に命を狙われるだけである。
並の隊士ならいくら集まっても返り討ちに出来るが、上級の隊士や柱が来れば一溜まりもない。
ソレに、累は鬼の始祖である鬼舞辻無惨のお気に入り。つまり他の鬼達、特に十二鬼月達までも敵に回す事になる。
逃げきれるわけがない。累の
ならば、玩具なら玩具なりに、大事な玩具になるしかない。
累の機嫌を損ねず、上手く役を演じる。
代価として与えられた力と能力で人間を喰らい続け、力を増す。
そうすれば何時かはアイツを超えるかもしれない。そうればアイツ以上のお気に入りにしてもらえるかもしれない。
その時こそ自由を得る瞬間……。
【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】
「え?」
彼女が目に映したのは、首のない自分の肉体であった。
「そ、そんな……嫌だ!」
首だけのまま宙を舞う事数秒後、やっと彼女は首を斬られた事に気付いた。
「嫌だ……嫌だ! 今まで頑張ってきたのに!」
沢山の人間を食らって強くなった。
与えられた役を上手く演じてきた。
密告などで家族を蹴落としてきた。
そのツケを精算する日が遂に来てしまった。
「嫌だ…死にたくない……!」
彼女の声を聞くものはいない。
首を切った鬼狩りは既に別の鬼を探しに向かっている。
家族たちも鬼狩りを探すため散り散りに行動している。
彼女を助ける者も見送る者もこの場に存在しなかった。
今回、那田蜘蛛山に行ってますが、本編とは時系列がずれてます。