俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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鬼殺隊に入って数年、鬼を狩る事で八幡は大きく変化しました。
大正時代で鬼なんて化け物と毎日戦ってたらそりゃそうなりますわ。


まだ戻れる

 

「(早く……早く見つけないと!)」

 

 日没後の那田蜘蛛山。

 開けた場にある岩の上で、女性の姿をした鬼が指を忙しなく動かしていた。

 指の先からは糸が伸びており、木々を抜けて彼方へと繋がっている。

 

 操り糸の血鬼術。

 糸の先は小さな蜘蛛と繋がっており、この糸に対象を繋げる事でその対象を操り人形のように支配する血鬼術である。

 また、操る対象や小さな蜘蛛と術者は感覚が繋がっており、今回は鹿や猪などの動物を使って侵入した敵を探索している。

 

「(早く見つけて殺さないと……また累に虐められる!)」

 

 彼女はひどく焦燥していた。

 失敗した際の、累からの制裁を恐れて。

 

 この鬼は役を上手く演じられずにいた。

 累の要望に応じきれないことが多く、失敗する度に累から制裁を受けている。

 よって家族の中で一番知っているのだ、累の恐ろしさを。だから誰よりも必死になって探している。

 

 必死だった。

 彼女は必死に侵入者を探した。

 鹿を走らせ、猿に木を登らせ、猪に人間の匂いを追わせて。

 しかしそれでも見つからない。

 

「何で見つからないのよこの役立たず」

 

 

 

【風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風】

 

 

 突如、振り落とされた斬撃によって、彼女の指から伸びる糸が全て切断された。

 

「………え?」

 

 頭では何が起きたか理解出来なかった。

 しかし、身体はすぐに気づいた。

 これは鬼狩りの仕業であると。

 

「!!?」

 

 反射的に見上げる。

 そこには、満月の光をスポットライトのように浴びている剣士の姿があった。

 

「(こ、殺される! 首を斬られる!?)」

 

 咄嗟に人形たちを呼び寄せようとするが、そのため糸は既に切られている。

 剣士に糸を結ぼうかと考えたが、一瞬で糸を全て切られたのだ。同じ結果になるのは目に見えている。

 将棋で言う詰みの状態。もう打つ手はない。出来ることはただ一つである。

 

 

「(でも、死ねば……解放される……楽に成れる)」

 

 自分から首を差し出す事。

 せめて相手に楽に死なせてもらえるよう、懇願する事である。

 

 

【水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨】

 

 

 その願いは聞き届けられた。

 パサリと布を顔に掛けられ、その上から首を斬る。

 

 優しい雨のような斬撃。

 その一撃は僅かな苦痛も相手に与えない。

 これこそ水の呼吸唯一である慈悲の一撃、干天の慈雨である。

 

 

「(あたたかい……。こんな穏やかな死があるなんて……)」

 

「(それといい匂い……。まるで、お菓子みたいに甘くていい匂い……。ああ。まるで、お母さんがくれたお菓子みたい)」

 

 

 死の今際、彼女は誰かを思い出す。

 鬼に成って忘れてしまった大事な人。

 己を縛る呪縛から解放された証拠だ。

 

「十二鬼月がいるわ。気を付けて」

 

 消える直前、彼女は呪縛の糸を断ち切ってくれた剣士に忠告する。

 

「安心しな。俺は下弦を討った実績がある」

 

 ソレを聞いた彼女は、鯉の羽織りを着る剣士を笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 那田蜘蛛山の麓。

 そこに一匹の鬼が罠を仕掛けていた。

 老婆のような上半身に巨大な蜘蛛のような下半身。

 彼女も累の家族(おもちゃ)の一人。祖母の役割を与えられた鬼である。

 代償に与えられた血鬼術は糸。粘着く糸やロープのような糸を張る血鬼術である。

 

 彼女は血鬼術によって罠を張っている。

 この辺り一帯の森に粘糸を張り、鬼狩りが引っかかるのを待っていた。

 万遍なく糸を張る事で逃げ道を防ぎ、自分に近づけば近づく程に糸が複雑に張り巡らされていた。

 この包囲網を突破して自分の首を取ることは不可能。これで自分の安全は保障されたも同然である。

 

「(……別に、鬼狩りが来なくてもいいんじゃがの)」

 

 もし仮に、鬼殺隊がここに来ず別ルートへ回っても問題はない。

 その時はの家族が鬼狩りを倒せばいいのだから。

 

 そもそも、祖母の役をしている自分が働くのがおかしいのだ。

 働くのは若い者であるべき。年寄りは労わるべきなのだ

 目上の者を敬うのは当然の事。率先して鬼狩りと戦え。

 若い者が年寄りを守れ。先に死ね。儂はここで安全に……。

 

 

【風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風】

 

 

「……へ?」

 

 突如、木の上から、肉食獣の爪を彷彿させる斬撃が降り注いだ。

 瞬く間に切り裂かれる鬼の肉体。バラバラにされる中、宙を舞う彼女の首が、捕食者の顔を捉えた。

 

「キヒッ……!」

 

 その顔は、狩りを楽しんでいるネコ科動物のような顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで三匹目。どんだけいるんだよこの山には」

 

 刀を鞘に納めて周囲を見渡す。

 辺り一帯糸だらけの森。

 粘着くわ臭いわで最悪の光景である。

 まあ、これだけあっても俺の進撃を止めるには足りないが。

 

 俺のしたことは簡単。

 張り巡らされた包囲網を物理的に突破した。ただそれだけである。

 糸と糸の間を通り抜け、罠を飛び越え、木々を足場にして跳び抜けた。

 かなり複雑なせいで突破するのはそれなりに苦労したが、それがまた楽しい。

 現代で言うアスレチックで遊んでいるような感覚。おかげで退屈せずに鬼狩りが出来た。

 まあ、あんな危険で難易度ルナティックな遊具が俺のいた世界にあるとは到底思えないが。

 こんな真似が出来るのは、俺が軽業を習得している上に、全集中の呼吸・常中を使えるから。

 たとえ世界一のスタントマンでも昔の忍者でもこんな真似が出来る人間は俺の元いた世界にには居ない筈だ。

 

 あのグラマーな鬼の時も同様である。

 操られている動物たちの目を盗み、気配を消して隠れながら進み、操り人形共の捜査網を突破した。

 これもかなり楽しめた。まるでスパイ映画や怪盗モノ映画の主人公にでもなったかのような気分だ。

 まあ、現実世界でこんな漫画染みた動きが出来るような泥棒や工作員がいるとは到底思えないが。

 全集中の呼吸・常中を使える俺だからこそ、忍術を習得した俺だから出来た動きである。

 

 とまあ、俺はこの世界で、元の世界にいた頃とは比べものにならない程に強くなっている。

 これからも、もっと技を習得し、もっと技を磨き、もっと強くなる。

 そうやって俺はもっと強い鬼を狩っていく。

 

 ただ、首を斬った後味の悪さ。

 アレだけはどうしても慣れない。

 

 元がクソな鬼はどうでもいい。

 いくら殺そうが心なんて痛まないし、何なら肉を食ってる方がよっぽど罪悪感がある。

 だが、無惨によって無理やり変えられた鬼共。特に、死に際の悲しい匂いは心に来るものがある。

 別に、世のため人のために命張って戦うつもりなんてないが、あんな最期を見てしまったら何かしてやりたいって思ってしまう。

 だから、俺はあのグラマーな鬼には干天の慈雨で首を斬った後に俺の稀血をくれてやったのに対し、あの婆はそのままバラバラにしてやった。

 

 完全に俺のエゴだ。

 だがソレが何だという?

 誰に俺を咎める権利なんてない。

 

 俺は俺の好きなようにする。

 ムカつく鬼はそのまま殺すし、何かしてやりたいと思ったらしてやる。

 ソレでいいじゃないか。シンプルイズベスト。余計なことは考えず、やりたいようにやってやる。

 

 

 けど、ソレで元の世界に戻れるのか?

 

 鬼を殺すための手段を憶え、鬼を殺す事に適応し、その力を楽しめる人間が、本当に元の生活に戻れるのか?

 

 

「(いや、今は余計なことを考えるべきじゃないな)」

 

 俺は無駄な思考を振り払って俺は任務に意識を集中させる。

 そうだ、今は任務中。しかも、敵陣の真っただ中だ。

 余計なことを考える暇なんてない。

 

「ん? これもしかして使えるか?」

 

 ふと、俺は垂れている糸の利用策を思いついた。

 

 

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